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ShadowSraid  作者: 鬼子
異端の強者編
88/98

7

 槍を構え、ジェイルは私たちの前に立つ。


「ダリア!」


 開いた穴はどこまでも深く、深さを測ることはできない。

 返事も返っては来なかった。


「クソ、ダリアの回収なんて、出来るの⁉︎」


 そう言いながら私は目の前の兵士を見つめる。

 数がわからない。数十はいるはずだ。


 瞬間、足音が響く。

 ジェイルは気づいていない、横にいるレメディさえも気づかない。


 耳がいい獣人の私だけが聞き取れている。


「ジェイル!レメディ!兵士の向こうから何かくる!もっと向こう!」


 瞬間、響く足音がタンッと高く強くなる。

 だが、次に足音が聞こえたのは正面ではなく背後だった。


「後ろもらいっ!」


 獣の耳は、それを聞き逃さなかった。

 よくやった、私の耳。


 短剣が風を切り裂く音が耳にはいり、私の体は半自動的に頭を下げた。


 短くも銀色に輝く切先が頭上を通り、月明かりに照らされた通路には正体の影が映る。


 人間、男。身長は160弱じゃないだろうか。


 影が消え、兵士たちの前に現れる。


「誰なの!」


 私は反射的にそう問う。

 男はニヤリと笑いながら、私たちを睨む。

 その目は細く、獲物を狩ろうと覚悟を決めた鋭い眼光だった。


「あぁー、俺は、日本人だよ。異世界の住人ってやつだ。名前は・・・カズマ。能力は『万能跳躍(ハイテレポーター)回数制限なし、視界に入る場所なら自由自在に瞬間移動が出来る能力。強いだろ?」


 カズマと名乗った日本人はニヤリと笑いながら靴を鳴らす。

 姿が見えなくなり、視界を巡らせる。


「瞬間移動⁉︎高難度魔術? わからない!見えない!」


 瞬間、頭上で服の擦れる音がなる。


「フィーニス様!上です!」


 レメディの声に耳がぴくりと反応し、体をのけぞらせて床を転がる。


「外したかっ!」


 カズマはそう言い放ち、体くるりと柔らかく翻しながらナイフをこちらに投げた。


 ナイフは私の顔をしっかりと捉え、綺麗な線を描きながら飛んでくる。

 だが、立ち上がったばかりでしっかりと体制を立て直せていない私はそれを避ける余裕がない。


 だからこそ、一瞬の判断が必要になる。


「んっ!!」


 ナイフの切先を歯で噛みとる。

 だが、それを読んでいたように、カズマの姿が私の前に現れた。


「あの速度のナイフを咥えるとか、イカれてんのか!」


 彼はそう話しながらナイフの柄を掴み、押し込んだ。


 まずい・・・死ぬ!


 私はそう感じ、頭を少し右にずらす。

 押し込まれたナイフは唾液で滑り、左頬を貫通した。


 顎に力をこめ、ナイフを噛み、折る。


「まじか・・・バケモンかよ!」


 痛む頬から鮮血が溢れ出ていた。

 口の中に広がる鉄の香りと、生暖かい血の味。


 私は口を開き、指を入れてナイフを引き抜いた。


「いった・・・いわね」


 ナイフを床に投げると、カランッと金属音が響いた。


 私は髪を掻き上げカズマと名乗った男を見つめる。


「マジでムカつくわ・・・ぜってぇぶっ殺す」


「口が汚い女だな」


「黙りなさいよ」


 私はそう言い放ち、獣化を開始する。

 毛は逆立ち、全身の毛穴が広がり、体毛が生まれる。

 歯は鋭く、嗅覚は敏感に、音はさらに聞き取れるように。鉤爪が生まれ、視界が数メートル高くなる。


「覚悟はできてる?人間」


「獣風情が、人間とやり合うつもりか?」


「まぁね」


 人間に使ったことはない。

 私の恩恵・・・効くかわからない・・・でも、やるしかない。


 私は覚悟を決め、高く吠える。

 数多の兵士がいる中、何人かが意識がなくなったように倒れた。


「殺し合え」


 私は低い声でそう呟き、彼らを操る。


「おい・・・なんだ。剣をこっちに向けるな!」


「クソったれが!」


 兵士が漏らす苦痛の声は、私の耳にはかなり響く。心が腐って行くような気さえしてしまう。


 でも、ご主人を、仲間を傷つけた代償は支払ってもらうべきだ。


「なんだ・・・その姿! 獣になるなんて聴いてないぞ!ふざけんな!それに、赤等級なんて!」


 


 カズマはそう話しながらナイフを構える。

 そのナイフには赤く光る何かが映っていた。

 

 その言葉に私は首を傾げ、ナイフをよく観察する。

 どこにでもある普通のナイフ。


 反射しているのだ。

 何かが・・・


 私は視線を下に下ろす。

 視界に入ったのはナイフに移り、反射していたもの。


「・・・フィーニス様・・・」


 レメディが私の名前をつぶやく。


 私だ。私の腕輪だ・・・いつだろう。タイミングはなんだろう。


「・・・赤等級・・・」


 私の呟きは兵士との剣戟にかき消された。

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