17
〜帝都 ホロウヴェール 図書館〜
分厚い本のページをめくり、びっしりと書かれた文字列を見つめる。
「ふぅ・・・なくねぇ?」
転移の魔術についての記載は見当たらない。
「ダリアー!」
そう唸りながらドンと机の上に勢いよく本の塔を置く。
その後ろからひょっこりと顔を出したのはフィーニスだった。
綺麗な茶色の髪が本の隙間に挟まり、痛みに顔を歪めながら本を持ってきた。
「なんだ、この量」
「魔界の本」
「全部?」
俺の質問にフィーニスは頷く。
「こんなにあっても読めないぞ」
「読まないならみんな死ぬわね」
フィーニスは冷たく吐き捨て、上から本を数冊取り読み始める。
「その数を読めたらすごいよ」
「なら読んであげる」
「無理はすんなよ」
そう言いながら、俺は机に肘をつきながらフィーニスを見つめる。
目が動く速度が早く、しっかり読んでいるのかさえ少し怪しい気がした。
「それ読めてる?」
「うるさい。集中してるの、話しかけないで」
そう突き放されてしまった。
少し居心地が悪いような気がする。
騒がしいところは好きでは無いが、静かな場所は何より慣れない。
冒険者のギルドはいつもワイワイと騒がしかったからな。そちらの方が慣れているのは必然だろう。
「ダリア様」
そう呟いた声が聞こえたのは背後だった。
俺は座ったまま背もたれに体重を預け、首だけ放り出す。
逆さまになったレメディが視界に飛び込んできた。
「逆さまだ」
「逆さまではありません。そんなに首を投げ出してしまっては、筋を痛めてしまいますよ」
レメディが俺の瞳を覗き込むようにそう話す。
「何か収穫が?」
俺がレメディにそういうと、彼女はゆっくりと頷いた。
「はい。一冊だけですが、転移の魔術についての本を」
そう言ってレメディが手に持った漆黒の本を俺に手渡す。
「これか?」
「はい。間違いありません」
そう言われて、取り敢えず本を開いてみる。
本・・・というか、童話だろうか。
英雄譚というか・・・
「なんだこれ、文字もグチャグチャ、描かれてる絵は絵と呼ぶにはなんか・・・」
「大切なのはそこではありません。本ですが、本ではありません」
俺の言葉に彼女はそう話した。
「中身は大事じゃないのか?」
「はい、表紙を撫でてください」
レメディにそう言われ、表紙を撫でてみる。
ゴツゴツとした表紙に、以前触ったことがあるような感覚だ。
「なんだ、これ」
「魔術書です」
俺はその言葉に驚き、机にすぐに置く。
「な、なんでそんなものがここに!」
「おかしな話ではありません。精巧な作り故、上級魔術師でも見分けがつかない場合もあります。 色々な審査を通り抜け、流通してしまったのでしょう」
レメディは淡々とつぶやいた。
「そんなことあるのか?」
「はい。あります。そもそも、現物を見たことのある人間は少ないはずです。気づかずに出してしまう。現に、ダリア様も言われるまで気づかなかったでは無いですか。 そういうことです」
なるほどな。
本物を知らないから偽物を見つけられないのか。
「盗み出しますか?」
「いや、犯罪を犯しにきたわけじゃ無いから」
「ですが、希少な物とわかった以上持ち出すのは危険です。ハルト様との約束を果たすなら、盗み出す必要があります」
そう言われて少し考える。
「それに・・・魔王になるダリア様が盗みの一つすら怖気付いて出来ないようではダメです」
「いや、魔王全員が悪いわけじゃないから、失礼だよ、あなた」
そういうと、レメディはムゥーと口を膨らませる。
だが、本当に魔術書なら、使い所は必ずある。
だが、転移のこれは・・・世界を跨ぐのだろうか。
場所を移動するだけなら有用とは言えない
「出来るのか?」
「はい、私なら完璧に。お任せください」
レメディは自信満々にそう言った。




