8
ゆっくりと目を覚ます。
視界に映ったのは青空だった。
「いって・・・」
ゆっくりと体を起こし、周りを見る。
白い装束を着た連中が怪我人の手当てをしていた。
俺の体にも包帯が巻かれ、血を吸いとる。
「目が覚めたんですね?」
赤い髪を揺らしながら神官の一人が声をかけてくる。
「体の調子はどうですか?」
「・・・大丈夫です。 どのくらい眠ってました?」
俺がそう言うと、彼女は水に浸した布を絞りながら話す。
「5日ほどですかね。もう魂はアルゴ様のとこに行ったのかと思いましたよー」
神官の彼女は笑いながらそう言った。
アルゴ? 誰だ。そいつは。
「皇都の方はどうなりましたか?」
俺がそう言うと、彼女は少し考えて話し始める。
「ボロボロでしたよー? まぁもう治りかけてますけどね・・・」
「治りかけてる?」
そう言うと、彼女は服の袖を少し捲ると、赤色の腕輪が見えた。
「赤等級の神官?」
俺が驚いているとニヤリと彼女は笑う。
「そうですよ?私達は帝都から派遣された神官です。街を修復しているのも金等級から赤等級の魔術師の皆さんです」
そう言って、彼女は手を叩く。
「はい!終わり終わり! これからの事はしっかり考えてくださいね」
俺は首を傾げる。
それに彼女は顔を少し伏せ、目が濁る。
「今回の襲撃で死んだ人数は分かりません。ここ皇都を襲ったのは一人の黒き騎士。 私たちが来た時はグチャグチャでしたよ。 まるで隕石でも落ちたかの様に無惨な姿でした。 赤等級の戦士が一瞬でやられたらしいじゃないですか。 そんな相手に戦えるわけがありません。 冒険者・・・と言う職業を引退するのも考えた方がいいかもしれません」
彼女は確かにそう言った。
実際、世界からどのくらいの冒険者が減ったのかはわからない。
だが、この皇都だけで数千はいたはずだ。
赤等級が一瞬でやられたことを考えると、生き残れてる方が奇跡だ。
今の俺は、奇跡だ。
手も足も出ないどころか、攻撃を視認するのも厳しかった。
あれが世界に溢れると考えると、命が惜しい奴は引退するしかないのだろう。
「他の街は大丈夫なんですか?」
俺は疑問に思い問いかける。
神官は首を振り、ため息を漏らした。
「いや、どこもぐちゃぐちゃになってますよ」
「なら、これから忙しいですね」
その答えに、神官はさらに首を振る。
「いや、私たちが派遣されたのは皇都だけです」
俺は首を傾げる。
街や村、大型の都市はいくつも存在する。
かなり距離が離れている場所もあるが、貿易などの観点から見ると、助けるのは帝都側としても都合が良いはずだ、
「助けないんですか?」
「はい。依頼は受けてないので。 帝都からしたら皇都は必要だけど、他の場所はあまり必要じゃないと判断したのかもしれません。 この話は内緒ですよ」
そう言いながら彼女の目は濁っていく。
その時、建物内に怒鳴り声が響く。
「俺は引退する!」
「ちょ・・・おい!待てって!」
冒険者の言い争いか。
今回のことで引退を決めた冒険者と、それを止めようとするパーティ。
男は去っていき、それをパーティが追いかける。
「引退・・・懸命な判断です」
「そうですか」
彼女と話しながら俺は立ち上がる。
「そういえば、俺を運んだ女性はどこですか?」
「あぁ、それならギルドの方に行ってると思いますよ。お気をつけて」
彼女にそう言われ、俺は頷く。
ギルドの方か・・・
資料でも拾いに行ったか・・・
俺も合流しよう、ここまで運んでもらった恩もある。
足音を立てながら、ギルドへの道を歩く。
見えて来たのは、もう8割ほどは修復済みのギルドだった。
その前に受付の娘は立っている。
俺は彼女に近づき声をかけようとすると、先に向こうが気づいた。
「ダリアさん!」
彼女が走ってこちらに近づいてくる。
「回復したんですね⁉︎」
「はい、神官達がうまくやってくれたみたいです」
肩を動かしながら答える。
彼女はギルドに視線を送り、見上げる。
「どうしました?」
「私、受付辞めようかと思って」
その発言は意外だった。
俺がお世話になった期間はたった数ヶ月だが、彼女は数年間受付の仕事をしている。
少なくとも、俺の瞳には楽しそうに仕事をする姿が映っていた。
「またどうして?」
「どうして? 5日前のあの騒動で、私には無理だと判断しました」
彼女はそう言って目を伏せる。
「でも、魔物の依頼は増えるんじゃないですか? 活性化しているのは続くでしょう」
「はい、ですが。それは他の方でもできますから。もう荷物はまとめてあります」
彼女はそう言った。
「もう決めたんですね」
「はい、明日の朝には出る予定です」
そう言って彼女は優しく笑った。
ガタガタと治っていくギルドを見つめ、考える。
俺は・・・どうすればいいのだろう。