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ShadowSraid  作者: 鬼子
厄災の帰還編
8/98

8

 ゆっくりと目を覚ます。

 視界に映ったのは青空だった。


「いって・・・」


 ゆっくりと体を起こし、周りを見る。

 白い装束を着た連中が怪我人の手当てをしていた。

 俺の体にも包帯が巻かれ、血を吸いとる。


「目が覚めたんですね?」


 赤い髪を揺らしながら神官の一人が声をかけてくる。


「体の調子はどうですか?」


「・・・大丈夫です。 どのくらい眠ってました?」


 俺がそう言うと、彼女は水に浸した布を絞りながら話す。


「5日ほどですかね。もう魂はアルゴ様のとこに行ったのかと思いましたよー」


 神官の彼女は笑いながらそう言った。

 アルゴ? 誰だ。そいつは。


「皇都の方はどうなりましたか?」


 俺がそう言うと、彼女は少し考えて話し始める。


「ボロボロでしたよー? まぁもう治りかけてますけどね・・・」


「治りかけてる?」


 そう言うと、彼女は服の袖を少し捲ると、赤色の腕輪が見えた。


「赤等級の神官?」


 俺が驚いているとニヤリと彼女は笑う。


「そうですよ?私達は帝都から派遣された神官です。街を修復しているのも金等級から赤等級の魔術師の皆さんです」


 そう言って、彼女は手を叩く。


「はい!終わり終わり! これからの事はしっかり考えてくださいね」


 俺は首を傾げる。

 それに彼女は顔を少し伏せ、目が濁る。


「今回の襲撃で死んだ人数は分かりません。ここ皇都を襲ったのは一人の黒き騎士。 私たちが来た時はグチャグチャでしたよ。 まるで隕石でも落ちたかの様に無惨な姿でした。 赤等級の戦士が一瞬でやられたらしいじゃないですか。 そんな相手に戦えるわけがありません。 冒険者・・・と言う職業を引退するのも考えた方がいいかもしれません」


 彼女は確かにそう言った。

 実際、世界からどのくらいの冒険者が減ったのかはわからない。

 だが、この皇都だけで数千はいたはずだ。

 赤等級が一瞬でやられたことを考えると、生き残れてる方が奇跡だ。


 今の俺は、奇跡だ。


 手も足も出ないどころか、攻撃を視認するのも厳しかった。

 あれが世界に溢れると考えると、命が惜しい奴は引退するしかないのだろう。


「他の街は大丈夫なんですか?」


 俺は疑問に思い問いかける。

 神官は首を振り、ため息を漏らした。


「いや、どこもぐちゃぐちゃになってますよ」


「なら、これから忙しいですね」


 その答えに、神官はさらに首を振る。


「いや、私たちが派遣されたのは皇都だけです」


 俺は首を傾げる。

 街や村、大型の都市はいくつも存在する。

 かなり距離が離れている場所もあるが、貿易などの観点から見ると、助けるのは帝都側としても都合が良いはずだ、


「助けないんですか?」


「はい。依頼は受けてないので。 帝都からしたら皇都は必要だけど、他の場所はあまり必要じゃないと判断したのかもしれません。 この話は内緒ですよ」


 そう言いながら彼女の目は濁っていく。

 その時、建物内に怒鳴り声が響く。


「俺は引退する!」


「ちょ・・・おい!待てって!」


 冒険者の言い争いか。

 今回のことで引退を決めた冒険者と、それを止めようとするパーティ。


 男は去っていき、それをパーティが追いかける。

 

「引退・・・懸命な判断です」


「そうですか」


 彼女と話しながら俺は立ち上がる。


「そういえば、俺を運んだ女性はどこですか?」


「あぁ、それならギルドの方に行ってると思いますよ。お気をつけて」


 彼女にそう言われ、俺は頷く。

 ギルドの方か・・・


 資料でも拾いに行ったか・・・

 俺も合流しよう、ここまで運んでもらった恩もある。


 足音を立てながら、ギルドへの道を歩く。

 見えて来たのは、もう8割ほどは修復済みのギルドだった。


 その前に受付の娘は立っている。

 俺は彼女に近づき声をかけようとすると、先に向こうが気づいた。


「ダリアさん!」


 彼女が走ってこちらに近づいてくる。


「回復したんですね⁉︎」


「はい、神官達がうまくやってくれたみたいです」


 肩を動かしながら答える。

 彼女はギルドに視線を送り、見上げる。


「どうしました?」


「私、受付辞めようかと思って」


 その発言は意外だった。

 俺がお世話になった期間はたった数ヶ月だが、彼女は数年間受付の仕事をしている。

 少なくとも、俺の瞳には楽しそうに仕事をする姿が映っていた。


「またどうして?」


「どうして? 5日前のあの騒動で、私には無理だと判断しました」


 彼女はそう言って目を伏せる。


「でも、魔物の依頼は増えるんじゃないですか? 活性化しているのは続くでしょう」


「はい、ですが。それは他の方でもできますから。もう荷物はまとめてあります」


 彼女はそう言った。


「もう決めたんですね」


「はい、明日の朝には出る予定です」


 そう言って彼女は優しく笑った。

 ガタガタと治っていくギルドを見つめ、考える。


 俺は・・・どうすればいいのだろう。

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