12
薄暗い通路の階段をゆっくりと一段一段降りていく。
「外の世界はどうなっているんだ?」
「レイドが暴れて、めちゃくちゃだ。皇帝は異世界の人間をこっちに転移させたらしい」
そう話すとカジートは高らかに笑う。
「そうか。今回も皇帝が賭けに勝ったか・・・」
だが、高らかな笑いとは裏腹に、その言葉にはどこか寂しさが混じっている気がした。
「賭け?」
「あぁ。昔からそうさ。 皇帝は何かを手に入れるために、レイドを扱う。レイドも皇帝と何かしらの取り引きをしているんだ」
そう話すカジートの背中を見つめながら、俺は首を傾げる。
「何かとは?」
「さぁな。大切な物は人と時代によって変化する。『何か』が何なのかはわかんねぇ」
それからしばらく歩き、バカでかい空間に出る。
溶鉱炉のような物もあり、熱気が溢れていた。
「ここがワシの鍛冶場さ」
鍛冶場・・・上はただの店だったのか。
武器や防具を鍛造するのはこの場所か。
「お前らの武具を打ってやる。要望は?魔王候補」
そう言いながらニヤリと笑い、牙を見せたカジートの目は、鋭く恐怖を覚えるほどだった。
「俺は短剣を」
「私は必要ありません」
「私は獣化した時ように大剣を一本」
俺たちがそういうと、カジートは目をキョトンとさせ、ため息を漏らす。
「最近の若いもんは遠慮をしらねぇなぁ」
「使えるもんはガラクタでも使う。違うか?」
カジートの言葉にそう返答すると、彼は笑って見せた。
近くにあった鎚を掴み、俺たちをみる。
「武器を打ちながら話してやるよ。世界の仕組みを」
ガチンッ! と鎚の音が響いた。
「ある日、影の魔物が現れた。ワシが産まれるずっとずっと前だ。 もちろんこの頃の皇帝はまともな人間だ」
火花が散り、キラキラと光る。
「影は闇。 誰の心にも闇はあり、それが顕現した魔物なのだと。だが、それは半分正解、半分間違いだった」
「どう言うことだ?」
カジートは話を続ける。
「正解な部分は、自身の闇だと言うこと。間違えた部分は誰に向けられた闇なのか。 影の魔物として顕現する本体は、自身に向けられた自身の闇だ。 憎しみを持つなら、憎しみを持ってしまった自分に対する嫌悪感。とかだな」
そう話し、カジートは俺たちを見つめる。
「そして、その時の皇帝は『魔王』と言う最強で最悪な化け物を作り出し、人々の関心をそちらに向けることで、内側の闇から目を逸らすようにした」
「その魔王ってのは?」
俺は問う。
「あぁ。初代皇帝が、最初の魔王だ」
「最初の魔王。 魔王って存在は、実在しなかったのか・・・」
ニヤリとカジートは笑い、話を続けた。
「だが、問題が発生した」
「問題?」
「あぁ、人々は魔王に恐怖し、意識をそちらに向けた・・・が。恐怖から解放されるために、ある人物を作り上げた。それが・・・」
「勇者・・・英雄か」
カジートはゆっくりと笑う。
「影の軍団は魔王が封印しているわけじゃない。意識が闇から逸れたおかげで、必然的に消失しただけだ。魔王が殺されれば、安堵と共に闇がくる。それから何年もしないうちに、魔王が殺されたと、知らせが来たらしい」
金床を打つ金属音が響いているはずなのに、彼の声はしっかりと聞こえている。
「そして影が現れた。その時だろう。多分、影の方から皇帝に取引きを持ち出した。 当初の皇帝は焦っただろうな。 人々を恐怖から解放しようと勇者を作り上げ魔王を討伐したら、魔王なんか比にならないほどの厄災が産まれたんだから」
「どうなった」
「取り引きを受けただろう。 富か、名声か、家族の命か、虚構の玉座か。何を出して、何を手に入れたのかはそいつらじゃないとわからん。 影が闇から産まれると言うのなら、昔の影は寿命で死んじまってる。 それからの皇帝は、皆躍起になって魔王を討伐するようになった」
カジートはそこで腕を止めてしまう。
「どうした?」
「お前なら、この戦いを終わらせてくれるか?」
「なに?」
震えた声で俺を睨む。
「お前が魔王になったとして、今後死なずに戦い続けてくれるか?」
「カジート・・・どうした・・・」
するとカジートは涙を拭き、鎚を振るう。
「ついこの間殺された魔王の武具はワシが打った!最高の武具だった! だが、魔王は死んだ・・・」
その言葉になにも返せない。
「神は現状を理解し、それでもなお人間の味方をする。 恩恵や寵愛などがあるから!」
「まて、恩恵は最初からあった物じゃないのか?」
「違う、影が生まれ、勇者が生まれたことに対し、神が便乗して全ての人間に寵愛を授ける。同時に生まれた職業が冒険者だ。神が先だ」
そのカジートの言葉に何も言えなくなる。
神が・・・敵かもしれない?
なんなら、ギルドもそのことを知っていた可能性も・・・
冒険者そのものが、この事態を招く元凶?
「俺たちは・・・一体・・・」
冒険者は魔王を倒すためにいるのだと、そう信じていた。
人々を守り、世界を守り均衡を保つと信じ、教えられ、そう教えていた。
だが、その前提を覆す言葉がカジートから溢れていた。
「なぁ・・・魔王候補・・・皇帝を殺して、影を封じて、世界を保ってくれよ・・・もう。人が死ぬのは見たくねぇ・・・」
カジートのその言葉は深く刺さり、金床の音は鋭く耳を貫いた。




