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あれから数十分歩き、人が集まる場所に出る。
馬車が出るところがあれば、手綱を引くものから情報を引き出せるかもしれない。
だが、俺たちの風貌を見てコソコソと話をするやつはいても、直接話しかけてくるものはいなかった。
「感じ悪いわね」
「右腕がない、その上血塗れの3人組に近づきたいやつなんかいないだろ」
俺はため息を漏らしながらそう言った。
「それもそうね」
フィーニスもそう言いながらキョロキョロと視線をめぐらせる。
「どうした?」
「いや、見た目が悪いなら隠しましょう。近くに装備屋があったでしょ」
フィーニスはそう話しながら先を歩く。
彼女の言う通り、近くには小さな装備屋があった。
チリンと小さな鐘を鳴らしながら入店する。
「いらっしゃい、なんでも揃って・・・こりゃまたすごい客が来たもんだ」
髭の生えた店主は顎をさすりながらニヤリと笑う。
「悪い、邪魔する」
「いや、いいさ。客は選ばねぇ。ウチの店は魔族にだって装備を売るぜ、金を払えばな」
そう言う店主の後ろにかかっていたローブに目が行った。
そのローブは表面に特殊な加工が施されているのか、波打っているように見えた。
「そのローブは?」
「あぁ。これかい?物理をなんでも防ぐ魔法のローブさ。 弱い衝撃に対しては効果を発揮しないが、強い衝撃が加わった瞬間に、ローブの表面が鉱石よりも硬くなる」
店主は自信満々にそう話した。
「そのローブはいくつある?」
「シャインソフィアの工房で作られたものだ。作者は不明。世界に数枚しかないローブを作って煙のように消えちまった。 ここには4枚。値段は・・・豪邸が数個は買えるぞ?」
ニヤリと店主は笑う。
そんな金は持ち合わせていない。
「悪い、持ち合わせがない。もう少し安いのをくれ」
「ちょっと待ってな」
そう言って店主は店の後ろに行こうと、狭いカウンター内を移動する。
だが、体が大きく箱に当たり、箱が落ちて中のものがばら撒かれてしまった。
「くそ、少し待ってくれ」
「大丈夫だ急いでるわけじゃない」
そういうと、いそいそと店主は箱の中に色々と戻していく。
その中にはたくさんの写真や、手紙が見えた。
「綺麗な写真だな」
「娘が送ってくれたんだ。この間、最後の一通がきた」
店主のその言葉に俺は首を傾げた。
「最後の一通・・・」
「娘は外に出る仕事をしてた。危険な場所だが、色々なものを見れると。 だが、ちょっと意地の悪い正確でなぁ、偉そうと言うかなんと言うか・・・まぁ。もう気にすることはねぇ。 死んじまった」
店主はそう話しながら、持っていた手紙をグシャリと握る。
「生きてれば・・・どうとでもなったんだがな・・・」
そう話す店主は、少し寂しそうだった。
「最後の手紙は読んだのか?」
そう問うと、店主は首を振った。
「まだだ。読んだら、終わっちまう気がする。娘が死んだのを、受け入れなきゃいけない気がしてな・・・読めねぇんだ」
「なら、今読めよ。いい機会だ。 箱が落ちたのも、娘がアンタに読んで欲しいって、そう言ってるに違いない。 ゆっくり待ってるからよ」
そう言うと、店主はクスッと笑った。
「そんな屁理屈・・・いや、そうだな」
そう言って店主は手紙を開き、ゆっくりと目を通す。
その間、壁にかけられた武器や防具を眺めながら気長に待つ。
少し経って、鼻を啜る音が静かな店内に響く。
「なぁ。兄ちゃん」
「どうした?読み終わったか?」
店主は涙を拭きながら俺を見つめる。
「どうした?」
「兄ちゃん、名前は?」
俺は首を傾げるが、声や態度に敵意はない。
教えても問題ないことはわかっている。
「ダリア」
「目的はなんなんだ?正直、このローブは普通に冒険をするには必要ない。 だが、兄ちゃんは最初にこれに目をつけた」
そう言われた。
店主は一体、何を気にしているんだろう。
「レイド・・・影の軍団を探してる。復讐もあるが、世界を救いたい・・・と思っている」
そう話すと、店主はニヤリと笑う。
「そうか。ダリア・・・少し待ってろ」
そう言って店主は店の後ろに姿を消す。
そして数分。
出てきた店主は例のローブを3枚持っていた。
「ほれ、持ってけ」
「これは?金はないぞ」
俺のその言葉に、店主は首を振る。
「娘の手紙に、困った人がいたら助けてやれと書いてあった。手紙をやっと読めたしな、その礼と、娘からの奢りだと思ってくれ」
「・・・そうか。ありがとう」
そういうと、店主は頷いた。
「さぁ、早く行け。死ぬなよ、ダリア。 帰ってきたら話を聞かせてくれ」
「あぁ。またな」
そう言って俺は店の扉を開ける。
チリンと音が鳴りゆっくりと扉がしまって行く。
閉まる隙間から店主の小さな声が響いた。
「これでいいんだろう・・・?ローザ・・・」
そうか・・・彼は・・・
「フィーニス。レメディ、早めに聞き込みを終わらせて行くぞ」
身につけたローブを翻し歩き出す。




