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にっこりと笑った彼女を見つめる。
心配そうな顔をしているフィーニスが目に入り、俺は小さく首を振った。
「いや・・・わからない。すまん」
「えぇねん!大丈夫大丈夫! 皇帝の野郎、ウチらを呼び出したくせに、敵の見た目すらわからないって言うんよ? どないせいっちゅうねん!」
青髪の女、シグレは自身の太ももを叩きながら大声でそう言った。
「ウチら? 1人じゃないのか?」
「ん?1人じゃないよ? 10人くらいかなぁ・・・。まぁみんな出身地は違うんやけどね!ウチは大阪ぁ〜」
シグレはそう話しながら笑う。
オオサカ・・・地名かなんかか?
やはり聞いたことのない単語が飛び交う。
「傷が綺麗に治ってる・・・」
考えるように下を向くと、傷だらけだった腕が何事もなかったかのように綺麗になっている。
「そうそう。傷治したんウチやねん。綺麗なもんやろ?」
「高度な魔術か?・・・すごいな」
正直言って、そんな事が出来る風には見えない。
騒がしく、頭がさえるようには見えないからだ。
「魔術・・・多分魔術なんかなぁ? あんな?ウチの能力は『万物治癒』って言うてな?終わった物以外なら、すぐに治してしまうねん!」
「終わったもの?」
俺は首を傾げ、問いかける。
終わったものとはなんだろう。
「生き物は死んだら戻らへん。何をしても無理や、こっちがいくら頑張ろうと無理なんよ」
「・・・そうだな」
俺はふとクロークスのことを思い出してしまう。
「でも、物体だったらどうや?傷だったら? 治す治さないはともかく、やろうと思えば治せるやろ?」
「まぁ。そいつのやる気次第だな」
確かに、壺などが壊れた場合は、修復は面倒臭いが、出来ないことはない。
「ウチはそれを完璧に治す能力やねん。でもな? まだよくわかっとらんのよ・・・」
そう言って彼女は頭をワシワシと乱暴に書く。
「やから、心臓が動いていれば、心臓しかない状態からでも100%修復可能って能力や! ごっつエグいやろ?」
・・・強すぎる。
俺はコイツらを全員殺さなくちゃいけないのか?
「例えば、皇帝を襲う奴がいたらどうするんだ?」
俺はそう問いかける。
聞いた感じだと、戦闘能力自体はシグレにはない。
「まぁウチらも帰りたいし、皇帝を守らなきゃいけないって召喚されとるからなぁ・・・そりゃぁ・・・」
瞬間、シグレの雰囲気が変わる。
重く、暗くなるような・・・
そしてシグレは俺の瞳をじっと見ながら口を開く。
「殺すしかないやろ?」
その言葉が低く響いた。
「・・・まぁそうだよな」
俺はその雰囲気に呑まれ、口が開かなかった。
少し深呼吸をして、彼女を見つめる。
「治療ありがとう。俺の名前はダリア。 よろしく」
「うぃ、よろしくー」
そう言ってシグレと握手を交わす。
その手は、先程の威圧を出せた人間とは思えないほど柔らかく、華奢だった。
「すまない、俺たちは冒険者で、依頼の途中だったんだ。もう行かないと」
俺はそう言いながらベッドから出る。
「そうなんか?冒険者ってのは忙しいんやな・・・気をつけて行ってきんさい」
その言葉に小さく頷いて、フィーニスの手を掴み俺は足早にその建物を出た。
外に出ると帝都の街並みが広がっている。
「ダリア、どうしたの?・・・手・・・ちょっと痛い・・・」
「あぁ。すまん」
俺はフィーニスの手を離し、視線を合わせる。
今の彼女は薄ピンクのワンピースを来ていた。
「良い人だったね。治療してくれて」
フィーニスがニコニコしながらそう話す。
背後で揺れる尻尾がなんとも可愛いらしい。
だが、問題はそれじゃない・・・
「フィーニス・・・少し話がある。場所を変えよう」
「え、何?どうしたの・・・」
俺とフィーニスは先程の建物から離れ、小さな路地に入る。
「何? 話って」
「ダリアが言ってた。 異国の来訪者が皇帝を守るって・・・多分・・・アイツらだ」
俺はそう話す。
そう・・・黒ダリアが話してる内容は、フィーニスは聞いていない、彼女は気絶していたからな。
「どういうこと?」
「わからん。皇帝は自身を守るために別の世界から人間を召喚した。 それに、あの女・・・シグレの様子から見ると、多分・・・別の世界に行くってことは珍しくないのかもしれない・・・落ち着きすぎてる」
俺は思った事をフィーニスに告げていく。
「じゃあ・・・彼女達は敵なの?」
「まだわからないが・・・その可能性が高い・・・」
そう話すと、フィーニスは小さく何度も頷いた。
「わかった。信じる」
フィーニスがそう話した瞬間、足音がした。
俺たちはそちらを睨み、音の正体を確かめる。
「ここにいましたか。少し探しました」
立っていたのは機械の女。
ティタの作り出した彼女だった。
「あぁ。すまない。てっきり帰ったのかと思ってた」
「いいえ、待っていました。2日間」
その言葉に俺は驚く。
「2日だと? あれから2日経ってるのか?」
「はい」
機会の彼女は小さくそう頷いた。
「取り敢えず、無事で良かったです。 あなた方が生きていれば、博士も、弟様も喜ぶでしょう」
彼女は淡々と話した。
少し心に刺さる言い回しに違和感を覚えたが、今はどうでも良いと、蓋をする。
「ここまで運んでくれたのは感謝する。 だが、戻った方がいい」
俺は冷たくそう話す。
機械とはいえ、他者が愛していたものを無断で危険な場所に連れていけない。
「いえ、ご一緒します。 博士もいません。戻らなかったですから・・・もう・・・帰る場所もありません。私はそう思います」
彼女はそう話した。
「でも・・・」
「博士は、困った人を見つけたら助けるものだと、そう言っていました。それが善い人間の証だと。魂は清くあれと」
俺は首を傾げた。
「あなた達は困っている。私はそれを助けたい」
「ダメだ。返せるものがない」
彼女はそう言ったが、無償で危険地に同行させるのは気が引ける。
俺たち冒険者は危険な戦闘をするが、それは仕事だからだ。楽に稼げるならその方が良いだろう。
「返せるものはあります」
「・・・なんだ?」
そう言うと、彼女は俺の胸を指差し、次自身の胸を指差した。
「魂の理解。感情の・・・理解。 私はそれを勉強したい。教えて、いただけませんか」
その言葉に、少しため息を漏らす。
フィーニスを見ると、別に良いんじゃない。と、そう言いたげな表情だ。
「名前は?」
「私に名前はありません。 ですが、博士はよく私をレメディと呼んでいました」
「名前あるじゃん。 それは名前だ。博士からもらった名前。大事にしろよ」
そういうと、レメディはゆっくりと頷いた。
「戦えるんだよな?」
「はい。問題なく」
なら決まりか。
皇帝に近づくにも来訪者を片付ける必要がある。
当分の目標は・・・それだな。




