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何かに体を揺さぶられ、ゆっくりと目を覚ます。
俺の体を揺さぶっていたのは、フィーニスだった。
ふわふわとした毛が血でかたまり、動きが鈍くなっているのがわかる。
「・・・フィーニス」
「大丈夫?」
俺は痛む体を起こし、ゆっくりと立ち上がる。
周りは静かだ。
戦いは・・・終わったのだろうか?
「そうだ・・・クロークスは⁉︎」
俺の質問に、フィーニスは獣の頭を振る。
「私も目を覚ましたばかりで、わからないの。でも、見える範囲にはいないみたい」
「・・・そうか。 探そう・・・」
そう言って俺たちは歩き出した。
コツコツと足音が響く。
チューニングに集中しているのか、アルゴは話さない。
いや、すでに終わっているのだとしたら、早く・・・
「クロークス!」
「クロークスー!」
俺とフィーニスは彼の名を呼ぶが、返事はない。
瞬間、バチャリっと黒い液体を踏んでしまう。
「・・・レイドがここで死んだのか・・・」
水溜りのようになったレイドを踏んでしまった。
確かに、数十体分の水溜りがあちこちに確認できる。
「アイツ・・・全部殺したのか」
水溜りの量が次第に増える。
それと同時に赤い血の跡も少しずつ増えていく。
風が吹き、周りは静かだ。
戦闘が終わって・・・どれくらいたった・・・
「クロークス!」
「どこなの⁉︎クロークス!!」
響くのは足音だけ・・・
血痕が地面にどんどん増えていく。
瞬間、正面に銀髪の青年の背中が見える。
座り込んでしまって、休んでいたのか。
「見つけた・・・」
俺は足を少し早める。
「クロークス! 俺たちが気絶してた場所からかなり離れた所にいたんだな・・・探したぞ!」
俺はそう言った。
彼の背中は動かなかった。
「あれだけの量を全部やったの?・・・凄いじゃない! 見直したわ!」
フィーニスのその言葉にも、クロークスは反応を示さない。
「帰ろう、クロークス。帰って治療して、また旅をしよう。やることは沢山ある。 お姉さんの分も生きよう。クロークス・・・」
風が吹き、彼の髪や服が緩やかに揺れる。
「そ、そうだよ。 クロークス・・・」
フィーニスの声が次第に震え始める。
「ほら、立てよ! 俺たち2人もボロボロだ・・・クロークス1人を支えることは出来ない! 笑っちゃうだろ?」
どんな声にも、彼は、彼の背中は反応をしない。
もう・・・わかっている。
心の中の欠けた部分が俺に状況を突き付ける・・・
もう・・・わかっている。
身体から力が抜け、ドサッと膝をついてしまう。
銀髪の青年・・・クロークスの背中を見つめ・・・俺はゆっくりと口を開く。
「・・・クロークス・・・」
瞬間、視界は外界に飛ばされた。
場所が移ったのだ。
視界に映る場所は機械の女と戦った場所だ。
まだ、戦った後が残っている。
「フィーニス・・・寒いな」
「・・・そうね」
場所が寒いのか、心が寒いのかは言わなかった。
きっと、彼女も気づいているから。
すると、視界に白い靴が入る。
顔をあげると、機械の女がこちらを見ていた。
「・・・おかえりなさいませ」
彼女はそう言って、俺の顔に手を近づける。
「・・・どこか、故障してしまいましたか?」
その意味はわからなかったが、数秒・・・止まらない涙をみて彼女はその質問をしたのだと、理解した。
「大丈夫ですか?」
彼女のその言葉が静かに響く。
ポツリと雨が一滴地面に当たる。
次第に勢いが強くなり、服が濡れてきた。
「雨・・・ここでも降るのか」
俺は小さくそう呟く。
すると、機会の彼女はしゃがみ、俺の顔をのぞいた。
「痛いですか? 故障しましたか?」
何度もそう聞いてくるのだ。
俺は自身の服をグッと掴む。
「胸の奥が故障したかもしれない・・・すごく痛いんだ・・・」
俺がそう言うと、彼女は俺の手に自身の手を重ねた。
瞬間、緑色の光がフワッと溢れ出す。
治癒魔術・・・この子は治癒魔術が使えたのか・・・
「今・・・治します。動かないでください・・・」
彼女は真剣な表情でそう言った。
心は戻らないのを・・・知らないのだろう。
それなのに、その行動は人間的だ。
「痛みは・・・消えましたか?」
そう言って彼女はこちらを見る。
「ありがとう・・・」
瞬間、ドサッと音がして、横を見る。
「・・・フィーニス?」
そこには、獣化が解かれた裸のフィーニスが倒れ込む。
「お、おい。 大丈夫か⁉︎」
俺はフィーニスの体に触れる。
冷たい・・・
「分析します。 体温の低下を確認。一般治癒魔術で治療できる範囲を大幅に外れています。金等級以上の神官の力が必要と推測・・・失礼します」
早口で彼女はそう言って、フィーニスを持ち上げる。
「何して・・・」
すると彼女は俺の服も掴み、持ち上げた。
「目的地は帝都ホロウヴェール・・・到着推定時刻は・・・16時間後・・・なるべく飛ばします」
瞬間・・・バンっと音を立てて彼女は走り出した。
雨が降る中を最速で駆け抜けていく。
濡れた服が体に張り付き、俺も体温を奪われたのか瞼が重くなる。
そのまま眠りについてしまった。
次に目を覚ましたのは、知らない場所だ。
「知らない・・・天井だ・・・」
「あれ、目開いとるやん! 生きとったんか!いやぁ焦ったでぇ! えらい傷多くてなぁ! もう死ぬんやないかぁ!ってウチがいて良かったな!」
知らない言語だ。
というか語尾だ。最近流行っているのだろうか。
「えっと・・・あなたは・・・」
「あ、ウチ? アリマシグレっちゅうねん!よろしくな?あ、漢字?えーとなぁ・・・」
そう言って青みがかった髪を持つ彼女は髪に何かを走り書きして、俺に見せた。
そこには有馬時雨と書いてある・・・
だが、読めない。知らない文字なのだ。
「えっと・・・この文字は・・・?」
「だよねぇ・・・やっぱり漢字読めへんかぁ・・・じゃあなんで言葉通じんねん・・・アニメや漫画じゃあるまいし」
彼女は顎に手を当てて何やらブツブツと話す。
「な、なぁ・・・シグレ・・・だっけか? よくわからない・・・」
俺がそういうと彼女はこちらを見て驚いた顔をする。
「・・・いきなり下の名前から呼ぶんか⁉︎ 文化の違いを再認識したわぁ・・・外人はやっぱりそうなんかぁ?」
そう話す時雨の背後から、フィーニスが現れる。
「ダリア・・・大丈夫?」
「フィー・・・ニス! 良かった無事だったのか!?」
俺は身を乗り出しそう話すと、フィーニスはなきだしそうになる。
その時、シグレが話し始めた。
「あんな? 少しええか? ウチらはこの世界の者ちゃうねん・・・いわゆる転生者っちゅう奴や・・・あ、転移だったかな・・・。 それでな?魔王崇拝者って連中を倒さなあかんねん。何か心当たりあったら教えて欲しいなぁ・・・」
「待ってくれ・・・話が飛躍しすぎてる。言ってる意味がわからない・・・」
転生?転移? なんの話だ。
「この世界じゃないって・・・意味が・・・」
「あぁ・・・ウチらはな日本って島国から来とんねん。 家族も心配しとるやろうし、はよ帰りたい。 でもな、皇帝の野郎が、私の安全が保証されるまでは帰さへん言うんや。 だから早く帰るためにも、情報があったら言って欲しい・・・」
日本? 聞いたことのない名前だ。島国・・・国なのか?
そこである言葉が頭をよぎる。
異国からの・・・来訪者・・・。
「別に、今やなくても全然ええよ。 何か思い出したり、わかったらでええから、教えてくれや」
彼女はそう言って、にっこりと満面の笑顔を見せた。




