12
火花が激しく散る。
ローザの猛攻を黒いダリアが捌いているからだ。
ローザはふくよかな身体をもち、その巨体からは想像のできない速度で武器を振るう。
それを捌くのは至難の業だろう。
彼が強いのはきっと、俺が弱いからだ。
だから何も守れなかった。 受付の娘サディアも、ローザも、ギラも守れなかった。
俺は短剣を構えている。
構えて立っている。
だが、立っているだけだ・・・
こんな傷だらけの体で、なんの役に立つ?
気づいたら俺は地面を見ていた。
こんな土壇場で、みんなが必死に戦ってる最中に下を向く人間が魔王? 笑える。
「俺には無理だ・・・弱過ぎる」
俺は、気づいたらそう呟いていた。
諦めるための理由を探す。
簡単だ。
弱いから諦める。
別に普通の理由だ、おかしくない。
「君なら出来るんだ!絶対!」
黒ダリアがそう言った。
力強く、確かにそう言った。
まるで最初から最後まで信じ切って見せると、そんな力強さが言葉には溢れていた。
「どうしてそんなことが言える⁉︎ 何も知らないだろ!」
「知ってる! 全部知ってるんだ!僕たちは!」
その声に俺はゆっくりと顔を上げた。
視界には綺麗な火花が映り、色鮮やかに散る。
「僕たちは君たちが忘れようとした闇から生まれる!弱者は不満が、不安が多い! 未来に対して、今に対して、過去に対して! それから生まれた!僕は、君の闇を知ってる!」
瞬間、ローザの武器が黒ダリアの体を横殴りにする。
ズドンッと低くこもった音が耳を刺し、彼の体は激しく弾き飛ばされる。
地面に体を強打しながら転がり、やがて壁にぶち当たる。
「があっ・・・! 知ってる・・・! 全部!・・・短剣を握って顔をあげろよ片割れ! お前の闇は、深いぞ・・・ダリアァァァァァ!」
黒いダリア。俺の片割れはそう叫んだ。
瞬間、ドクンッと心臓が激しく鼓動する。
失われていた恩恵の感覚が戻り、全身に血液がめぐる。
勝てないなら戦わなければいい。
俺の最終目標は封印。
これが、『君主』だ。
君主。俺が与えられた恩恵。
仲間がいないと何もできない、弱者の証。
この恩恵は・・・
『仲間』が傷つき、死に近づくほど自身の身体能力が上がる。
「仲間を傷つけたんだ。 やられる覚悟、出来てるだろうな? 俺がこのフィールドの王だ」
瞬間、ローザの大槌が視界に入る。
まるで世界がスローになったようだ。
頭が冴えてる。
この恩恵は役に立つことは少なかった。
なぜか?
それは我々が冒険者だからだ。
攻撃の多くは致命傷。即死。
頑丈な仲間はいなかった。
仲間が死ねば恩恵の効果は抹消される。
でも、フィーニスとクロークス、片割れならその心配はない。
「遅い」
短剣を握り、大槌を受け止める。
ガチンッと重い金属音と共に身体に鈍痛がひびき、骨が軋む。
身体がフワッと浮き、そのまま弾き飛ばされるが、威力は十分に殺してある。
距離もさほど離れていないし・・・
「おい、もう首つながってないぜ、ローズ」
「は?」
瞬間、ふくよかな身体に乗った頭部がズリュッと滑り、地面に音を立てて落ちた。
赤い液体が地面に滴り、次第にローズの体は黒く変色して液体となり地面に崩れ水溜りを作る。
「忘れたか?俺の属性はスカウト・・・手先の器用さには自信がある」
俺がそう呟いた直後、爆音と共に片割れの黒いダリアが姿を表す。
「さすがダリア」
「お前もダリアだけどな」
黒いダリアが言った言葉に、俺は少し笑いながら話す。
「さて」
「共闘か?」
「そうしたいんだけど・・・ティタ?の方が忙しそうだから加勢してくるかな・・・ダリアと仲間がいたらそこの2体は楽でしょ。じゃあねー」
そう言って黒いダリアはクロークスのお姉さん。ティタの加勢に向かう。
「じゃあ、俺はこいつら2体の相手をしますかね・・・」
「・・・舐められたものですねぇ・・」
ギラがそう呟く。
瞬間、彼らは動き出す。
目にも留まらぬスピードとはこう言うのだろう。
だが、今の俺に彼女達が勝てるはずはなく、次の瞬間には彼女たちは死んでいた。
「・・・ダリア?」
フィーニスはひどく驚いた声をもらす。
「フィーニス、俺は大・・・」
大丈夫。
そう言おうとした瞬間、黒い何かが俺の前を横切り、壁に当たった。
「・・・なんだ?」
俺は正体を確かめるために、そちらに視線を向ける。
「ぐあぁぁぁ。 これは、ハードかも・・・」
倒れていたのは黒ダリアだ。
それに、左腕が無い。
「ふむふむ。 やはり、私が一番か?」
その時、鮮明なサディアの声が深く響いた。




