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ShadowSraid  作者: 鬼子
厄災の帰還編
6/98

6

 放出された槍は冒険者の鎧を簡単に貫き、あたりを赤く染める。

 俺は立ち上がり、距離を取る。

 動きは早くない。

 でも、目がいくつもあるのか、はたまた感知能力が鋭いのか、どの角度から攻めようと貫かれる。


 物理に強いといえ、重みや点の攻撃には弱いはずだ。

 何かで押し潰すか、1箇所に穴を作れれば、内側からの破壊ができるかもしれない。

 

 まぁそれが難しいけどな。

 何かで押し潰すにも、物体がない。

 スライム退治の時のように洞窟を破壊・・・ダメだ。洞窟が近くにないし、あったとしてもコイツを押し込めるだけの拾い穴がない。


 なら点の攻撃、杭などで小さな穴を開ける・・・

 無理だ。そんなに丈夫な武器はこの場にない。

 あったとしても、テクニックがいる。

 経験がある金級以上じゃないと不可能だろう。


 他の冒険者もたった2撃で格の違いを思い知った。

 距離を取り、様子を伺う。

 俺を討伐隊に誘った男は・・・姿が見えない。

 すでに死んでいるかもしれない。


 距離を取れば攻撃は来ない。

 瞬間、視界の外から叫び声がした。


「や、やめ・・・!」


 叫ぶ男の足には黒い槍が突き刺さり、それはフックのように形状を変えた。

 まるで人間で釣りをするように、ファランクスが動いたのだ。


 男は身体を引かれ、地面に身体を打ち付けながらファランクスの元に引きずられる。

 攻撃範囲に入ったら最後、複数の槍で何度も体を貫かれていた。


「全員動き続けろ!」


 俺が叫ぶと、全員が走り出す。

 動きを止めれば先ほどのように人間釣りが始まる。

 観察しながら戦わなくては。


「お、俺は抜けさせてもらう! 勝ち目がねぇよ!」


 すると冒険者の一人が踵を返して皇都に向かおうとするが、一直線に逃げるのはまずい。

 胸が貫かれ、瞬時に変形し引き摺られる。

 逃げることは不可能に違い。


「松明と油を使って炎上を誘え!」


「無理だ! 近づくことさえ難しい!」


 俺の提案に反発が起こる。


「魔術師はいないのか⁉︎」


「詠唱中に死んじまう!」


 クソ・・・

 勝つためのプランが見えない。

 

「速度があればどうですか⁉︎」


 その時若い女の声が耳に入る。


「速度か⁉︎」


「はい! 油壺や松明を持って回避しながらなら! 私の恩恵は『瞬足』十分に戦えるはずです!」


 失敗したら確実に死ぬ。

 だが、何もしないよりかはいいか?


「頼む! 魔術師は彼女が気を引いている間に詠唱! スライム形状なら炎に弱いはずだ!」


 瞬間、魔術師は詠唱をはじめ、彼女は預かった荷物を背負い走り出す準備を整える。


「行きます!」


 次の瞬間、彼女の姿が消え、風を切る音だけが残る。

 早い・・・これなら・・・


 油が多量にファランクスに降り注ぎ、すぐに炎上を開始した。


「魔術隊! 今!」


「・・・シュートッ!!」


 火球が放たれ、ファランクスに直撃する。

 炎はさらに拡大し、大きな体を包み込む。


 瞬間、炎の中から多量の槍が現れ、四方に放出される。


「回避!」


 地面に倒れるように伏せる。

 体を打ち付け、重い痛みが走る。


「まだ倒せないのか」


 ゆっくりと立ち上がり状況を確認する。

 徐々に小さくなっていく炎の中から現れたのは、ぼこぼこと沸騰するように体が蠢くファランクスだった。


 粘性が強くなり、チーズがとろけるように身体がただれている。


 硬い装甲が剥がれたか?

 これなら攻撃が通るかもしれない・・・


 瞬間、右肩に激痛が走り、体が飛ぶ。


 ーーっは?


 地面に倒れ、右肩を確認すると槍が刺さっている。

 なんで? 常に視線は逸さなかった。

 瞬きすらしなかった。


 鎧が剥がれたことで速度が上がったのか?

 冗談だろ。


 だが、いくら早くなろうが形状がスライムな時点で動きそのものは遅いはずだ。

 強化されたのは槍の速度だけ。


 槍を抜き、立ち上がる。

 ファランクスが再度視界に映ると、槍に刺した人間を見せびらかすように天に掲げる。

 数人・・・10人弱くらいだろうか、もう動かなくなった彼らを月明かりに照らし、何かに自慢しているようだ。


「ふざけやがって・・・」


 視界に映るのは絶望。

 圧倒的な力の差に跪くことしか許されない現状。


 俺はその状況と、何も出来ない自分自身に怒りを覚える。

 

 ーー俺は物語の主人公じゃない・・・だから、あんな風に強くはない・・・でも、人並みには怒れるさ!


 現状を覆す具体的な策は存在しない・・・

 なら知恵を、環境を利用するしかない。

 

 心拍が上がり、アドレナリンが血中に溶け出す。

 世界が一瞬だけスローモーションになり、風に靡く草木や、舞う葉一枚でさえも逃さずに認識する。


 風の音、向き、僅かな空気の流れすら、全身が読み取り感じる。

 鼓動が早くなり、全身に血液を送る。

 

 ーー動け


「銅級の君たちは下がって! ここは俺が!」


 視界の外から、銀色の腕輪をした冒険者が走り出す。

 その姿をチラリと視界に捉え、俺も短剣を抜く。

 他人の遺体が持つ油壺を蹴り壊し、流れた油に刀身を浸した。


 火打石をポーチから取り出し、火花を散らす。

 刀身に炎が宿り、視界を照らす。


「俺がやる」


 そう呟き、姿勢を低く。

 全身の筋肉を柔軟に扱い、膨張させて解き放つ。


 地面を砕き、土煙を放ちながら駆け出す。

 飛び上がり、体を翻しながらファランクスの身体に短剣を刻む。

 バッサリと傷が開き、炎上をもたらす。


「やっぱり装甲は剥がれてるか⁉︎」


 地面を滑りながら2撃目の準備に入る。

 瞬間、視界に映るのは槍の切先。

 刺されば即死、顔面に穴が開く。


 頭を少し倒し、回避する。

 頬の皮が少し切れ、鮮血を散らす。


 姿勢を低くし、さらに加速。

 さっきより早く。そして深く!


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 体を裂き、地面を滑る。

 減速、突撃、斬撃、斬撃、斬撃。


 攻撃の手を緩めることなく叩き切る。

 刃が通るなら殺せる!


「アイツ・・・本当に銅級かよ? 銅級の動きじゃねぇ・・・」


 どこかからそんな声が響く。

 あぁ、銅級だよ。

 神からまだ認められてないみたいなんでね!


 ファランクスに短剣を突き刺し、そのまま切り裂く。

 黒い液体がビチャビチャと地面に溢れ、靴を濡らす。

 直後、ピタリとファランクスの動きが止まる。


「・・・倒したか?」


 猛攻の末、討伐したのだろうか。

 もう動かなくなり、溶け始めるファランクスから 短剣を引き抜く。


「うぇ・・・汚ねぇ」


 粘液が滴り、短剣の刃を光らせる。

 匂いも無いことが逆に気持ち悪かった。


「ファランクスは倒したけど・・・報告どうするんだろ」


 スライム系は基本的に部位が残らない。

 物体に似た液体・・・

 いや、絶命したらほぼ水と変わらないからだ。


 まぁ・・・これだけの人数が動いたんだ。

 報告すれば多少の報酬は得られるだろう。


「あ、まだスライムの報告してねぇ・・・」


 腰に手を当て夜空を見上げる。

 ため息を漏らし、心は憂鬱だったが星空は綺麗だった。

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