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ShadowSraid  作者: 鬼子
死者の楽園編
59/98

9

 まるで亀裂を押し広げるかのようにレイドが何十体も姿を表す。


 空はまばらに黒色が散りばめられ、ことの異常さを認識するまでには時間はかからなかった。


 液体が落ちるように、ボチャっと鈍く籠った音を鳴らしながらレイドが落ちてくる。

 地面と接触した瞬間弾け、散らばった水滴が一点に集中しと人の形を成す。


「クロークス!目を覚ませ!」


 その呼びかけにクロークスは埋まっていた顔面を地面から引き抜く。


「レイドだって⁉︎」


 話を聞いていたなら早い。

 数が多すぎる影の集団に、勝ち目はないと一瞬で察知する。


「アルゴ! 俺たちをこの世界から弾き出せ!」


「無理だ! 生者の魂はこちらにくると不安定になる!チューニングには時間がかかる! 世界の理を破ってこちらに来てるんだ、すぐには無理!」


 増えて行くレイドにアルゴさえも急を見せる。

 アルゴは生命にはダメージを与えられない。


 この状況を俺たちだけで抜け出すしかないのだ。


 彼らは立ち上がり、こちらを見る。

 その中に、見覚えのある人物が一体見えた。


「ふむ。少年、どこかで見覚えがあるな」


 彼女はそう話した。


「・・・なんだよ。その姿。なんなんだお前、なんなんだお前らぁぁぁ!」


 影の中に混じるのは色のある人物。

 そして、それはよく知っている人物だった。


 背丈も声も同じ、見た目も変わらない。

 話し方は少し違うが間違うはずがない。


 あの時、故郷に帰ると言って殺された受付嬢、サディアの姿だった。


「サディアァァァァァァァ!!」


 俺は怒りに身を任せるように飛び出し、短剣を構える。

 地面を蹴り、自身の限界のスピードでサディアに突っ込む。

 彼女はまだ槍を構えていない。

 このまま喉を切り裂き、頭を切り落としてやる。


 彼女の顔が近づくと、瓜二つな受付嬢の顔に一瞬の躊躇が生まれる。


「ふむ。あの時の少年か」


 瞬間、パァンと音が響き、身体に衝撃が走る。

 鈍痛と共に身体が舞い、地面を滑り、いくつもの岩を破壊する。


「ぐっぁ」


 咳と同時に、赤い液体が口から溢れる。


「馬鹿! 生命にダメージを与えられないのはあーしだけだよ!」


 アルゴが瞬間的に移動をしてきて、俺の身体を支えながらそう話す。


「あいつは殺す」


「馬鹿言わないで!たった一撃でボロボロじゃない! チューニングする! 時間を稼ぎなさい!」


 そう言ってアルゴは立ち上がる。

 息を大きく吸い、叫び始めた。


「クロークス!レティシア! 時間を稼ぐんだ!私はチューニングをする!」


 アルゴの声を聞いた瞬間、クロークスは雷を纏い、フィーニスは獣化する。

 

 だが、いくら彼らが強くても数で押し切られてしまう。

 俺を含めて3人と、数十人の部隊だ。


「チューニングの時間稼ぎすら難しいかもしれないぞ」


 俺がそう呟くと、アルゴはニヤリと笑い口を開く。


「大丈夫。あーしは生命にダメージを与えられない。『あーし』はね。 頼んだよ」


 瞬間、アルゴが倒れ、数秒経ってから目を覚ます。


「アルゴ?大丈夫か?」


 声をかけても特に返事はなく、周りをキョロキョロと見る。

 状況の把握を最優先にしているようだ。


「あぁ・・・これは時間稼ぎをしろって事かな?神から半神になるほどかなりやばい自体って事かぁ・・・」


 そう言いながらアルゴは背筋を伸ばした。

 いや、アルゴ・・・なのだろうか。


 見た目はそのままだが、口調や仕草も変わってしまっている。

 アルゴの姿だが、中身はアルゴではないのだろう。


「・・・アンタ。アルゴじゃ・・・ないのか?」


 恐る恐る問う。

 その問いに彼女は頷いた。


「アルゴは今チューニングしてるから、すぐにここから出してあげる。 大丈夫。お姉ちゃんが必ず出してあげる」


 そう言って彼女は優しく笑った。


 彼女は周りをキョロキョロと見て、レイドと対峙するクロークスとフィーニスを見つける。


「なるほどね・・・引退しちゃったけど、世界の理から外れたここなら、昔の力も使えるかなぁ」


 そう呟いて、彼女は俺を担ぎ、クロークス立ちの方に歩きながら手を振る。


「君たちぃ!! お姉ちゃんが手伝ってあげよう!アルゴがチューニングするまでの時間稼ぎ、私も頑張っちゃうよ!」


 と、ニコニコしながら手を振る彼女を見たクロークスは驚いた顔をし、フィーニスは怪訝そうな顔で首を傾げた。


 そして、サディアは口を開く。


「ほう。憑依、いや、協調か? アルゴ!神を捨てると言う事は貴様も死ぬと言う事だろう? いいのか?こんな場所で死んで」


 サディアがそう話すと、世界そのものからアルゴの声が響く。


「全然構わない。あーしは冥府の神。死んだ生物を弔うけど、この世界では死なせないよ。 それに、最初から負けるつもりで戦わないわ。お前ら全員潰して、このクソガキ達を外に出す」


 アルゴの声はそう話した。

 それを聞いてサディアは少し笑い、槍を構える。


「アルゴ、貴様が元より神だったら、勝機はあったかもしれんな。 案外、命というのは脆いぞ、元人間」


 槍を構えたサディアがそう言いながら戦闘態勢に移行すると、周囲のレイドたちも武器を顕現させる。


「命は5つ。半神となれば、貴様も、協調している魂すらも消滅する。それに、男が二つに女が一つ。これほど良い収穫はない。 全員・・・かかれ!」


 サディアの号令と共にレイドの群れが動き出す。

 短剣を構え、迫る闇を見つめた。


 その時、アルゴの姿をした彼女が数歩前に出て、レイドに手のひらを見せる。

 捻り潰すように、広げた手を捻りながら握った。


 瞬間、レイドの半数がまるで紙を丸めるみたいに小さく潰れる。


「甘いんだなぁ。これが」


 彼女はニコニコしながらそう呟いた。

 それに続くようにアルゴの声が世界に響き渡る。


「そう。甘々だねぇ。 今あーしと合わさってるのさは史上最強の魔術師とも言われた人間・・・正真正銘の黒等級。 重力を操る災禍の魔女。ティタだよ。 本当・・・人間の味方で良かった」


 アルゴの声は確かにそう話した。


 その言葉にクロークスはアルゴの身体をもつ誰かを見つめる。

 

 そして小さく呟いたのだ。


「・・・姉貴」


 その声は進軍を続けるレイドの足音にかき消された。 


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