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静寂の中、アルゴが構える。
黒雷を纏ったクロークスはこちらをアルゴを見つめた。
「ちっ! 経験の浅いクソガキはすぐに取り憑かれる」
一度そう愚痴を漏らしたアルゴだが、首を傾げた。
「取り憑かれる? まさか・・・自分の意思だよ。まぁ多少混ぜたけどな・・・さぁ・・・やり合おうかぁぁぁぁ! 力づくなら、姉貴に会うのも問題ないだろう⁉︎」
クロークスが叫んだ瞬間、彼の姿が消えた。
景色が変わったステージ、砂や山、岩が散乱する場所での戦い。
クロークスの姿は一切見えない。
だが、通った場所の地表が抉れ、融解する。
「見えない!」
俺は身を乗り出し、戦闘を見守る。
アルゴは立ち尽くしたまま、視線を動かさない。
「はぁ・・・ガキが・・・早くて見えなければ攻撃が当たらないっていう思考が幼稚ってわかんないかなぁ!」
その瞬間、アルゴの全身から黒い触手が溢れ出す。
その触手はありとあらゆるところまで伸び、1人の青年を強く捉える。
「クソっ!」
触手の山の中からクロークスが顔を出す。
「離せ!」
「離すやつがいるか! 冥府で暴れるんじゃない?なんて罰当たりなガキなんだ」
クロークスが歯を食いしばり、振り解こうとするが、触手は強く簡単に抜け出せない。
「なんだこの触手・・・全部筋肉で出来てんのかよ⁉︎」
ギチギチと音が鳴り、骨の軋む音がする。
「こんなもの!」
そう言ってクロークスは腕を捻る。
すると、案外スルッと簡単に脱出出来たのだ。
触手といえど、最初に絡みついた場所に力を入れる事で縛りつける。
なら、腕の向きや角度を変えて隙間を作り、抜け出せばいいこと。
俺やフィーニスは多分出来ない。
雷、光と同程度の速度をもったクロークスならではの技と言えるだろう。
「抜けた!」
俺は驚き、無意識にそう叫んでいた。
「チッ!抜けれるとか聞いてないんだけど⁉︎」
アルゴも目を見開き、心底驚いている様子だ。
「なら!」
アルゴがそう叫んだ瞬間、地面から大量の触手が姿を表す。
その触手は、クロークスを地面に叩きつけた。
地面が抉れ、彼の身体がボールのようにバウンドする。
「そんなにしたらクロークスが死ぬぞ⁉︎」
「安心して! 私の攻撃は生命にダメージを与えられない! せいぜいすごく疲れる程度よ!」
アルゴがそう叫んだ。
なんだろう、その説明を受けた瞬間、この戦いがすごく軽く感じる。
まるで、大人と子供が遊んでいるようにも見えなくはない。
先程までは、想像もつかないくらいの爆音と、骨の軋む音が鳴り響いていたが、今はペチペチ。ポヨポヨと気の抜けた効果音に変わっているような気さえする。
心なしかクロークスも楽しそうだ。
触手同士で行われるキャッチボール。
その中で青年は完全にボールと化していた。
「あれ、人権とかどうなるんだろ」
俺は呟く。
ボールにされている人間がかわいそうに見えたからだ。
「知らない。でも、不名誉なことは間違いないわね」
フィーニスも笑いながらそう言っていた。
「お、あれ見ろよ。 クロークスの表情がなんかすごいことになってる」
ぽよぽよとボールにされているのに気づいたのだろう。
客観的に見て自分が情けない状況だと言うのがわかってきたらしい。
心の内側から少しずつ怒りが漏れ出している、そんな表情だ。
「このクソババア!!」
クロークスが叫んだ。
瞬間、轟音と共に目にも止まらぬ速度でクロークスの体が弾かれる。
先程まではボールのように扱われていた体が、今は弾丸のように打ち出された。
いくつもの岩と壁を破壊し、クロークスは意識を失う。
「・・・あれ?ダメージないんじゃないのか⁉︎」
「あぁ。それは、クロークスの本能がやばいと思って意識を切断したんだ。いわゆる気絶だよ、少し時間が経てば目を覚ます!」
俺の問いにアルゴはそう叫んだ。
「とはいえ・・・ちょっとやりすぎじゃないか?」
俺はそう言いながら、クロークスが飛んで行った道を見る。
100メートル以上は飛んでるぞ。
「メンゴメンゴ。ババアって言われたからついね」
ウインクをしながらアルゴはそう話した。
少し時間がたち、クロークスが目を覚ます。
「お、おはようさん」
「っ・・・テメェ!!」
クロークスがすぐ戦闘態勢に移行するのを、アルゴは額を弾いて阻止した。
「悪かったって! でも、お姉さんも傷ついたよ?ババアはダメだよ。ババアは」
「じゃあ多年増」
瞬間、パァンと音が響き、クロークスの頭が地面に埋まる。
「失礼しちゃうわ!」
「懲りないな。クロークス」
俺はしゃがみ、クロークスにそう言った。
このやりとりは見ていて面白い。
案外このノリも嫌いではないのかもしれないな。
「ところでガキ達ぃ。何人で来たの?」
「え?3人・・・あ。外には1人。仲間かよく分からない機械の女がいるけど・・・」
上を見ながら話すアルゴの質問に答えると、アルゴは上を指差す。
「じゃあ、あれは知り合いじゃないのね?」
そう言ったアルゴ。
視線を動かし、上を見ると、世界に亀裂が入っている。
中から黒く細い手が伸び、亀裂を広げながら現れた。
「レイド⁉︎」
「なぁんかおかしいと思ったんだよねぇ。 あれ、生者じゃないんだぁ。 でも命はある。・・・気持ち悪い感じ」
アルゴはそう言っておちゃらけて見せるが、亀裂の数は数十を超える。
その光景を見て、彼女はため息を漏らす。
「ちょーっと。あーしも働かなきゃかなぁ・・・」
アルゴはそう呟いた。




