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ShadowSraid  作者: 鬼子
死者の楽園編
52/98

2

<<view:フィーニス>>


 私はゆっくりと目を覚ました。

 音がこもって聞こえ、体が動かない。

 私の血なのだろうか。

 暖かく、少し落ち着くような感じもする。


 空は薄紫色で、霧がかかる。


 大きな音が響いて、クロークスの身体が飛んでくる。

 私のすぐ横の瓦礫にぶつかり、口から多量の血を吐いていた。


 こもっていた耳がしっかりと役割を果たそうと徐々に音が聞こえるようになる。


 血を流したご主人。

 ダリアが私と、クロークスの名前を叫んでいた。


「フィーニス! クロークス!」


 彼女が振るう大剣を上手く捌き、私たちの心配をする。

 銅級の腕輪がキラリと光る。

 短剣捌き、筋力、耐久、どれをとっても銅級には相応しくないほど洗練されたものなのがよくわかった。


 心配ばかりかけていられない。

 大丈夫って言わなくちゃ。


 重い唇を動かし、掠れた声で彼に伝える。


「・・・・だ・・・い・・・」


 だが、それは叶わずに咳きこみ、血が口から溢れ出す。

 痛みかな。悔しいからかな。 自分の弱さを痛感したのか、涙が溢れそうになり視界がぼやけた。


 寒い・・・

 ぼーっとしてきた。

 そして、瞼が重くなり、ゆっくりと目を閉じた。


 瞬間、斬られた腹部に痛みが走り目を開く。


 正体は、瀕死のクロークスが傷口を抑えていたからだと分かった。


「・・・死なせない・・・死なせないぞ・・・!」


 歯を食いしばり、血を吐きながらも私の傷口を抑えていた。


「フィーニスちゃん!・・・死ぬな!」


 クロークスが傷口を強く抑え止血を試みる。

 痛みもあるが、それより、クロークスの悲しそうな顔が目に入った。


「クロ・・・ス」


 私は力を振り絞り、名前を呼ぶ。

 ごめんなさい。

 信じないなんて言ってごめんね。

 言葉には出来ない。声が出ない。


「・・・っ!」


 私の声を聞いた瞬間、クロークスが頭を上げ、ダリアを見つめる。


「ダリア!フィーニスちゃんまだ生きてる! まだ生きてるぞ!」


 その声にダリアの顔が明るくなる。

 だが、視線をこちらに向けたためか彼女の大剣ももろに受けてしまう。


 恐ろしいほどの速度でダリアの身体が弾かれ、地面を転がる。


「ダ・・・」


 声が出ない。

 彼の名前を呼びたいのに・・・口が動かない・・・


 大剣を自身の傍に戻した彼女がこちらを睨む。

 薄緑色の瞳が光り、ゆっくりと近づいてくる。


「パーツをください」


 そう呟いて、ゆっくりとこちらに来る。


 体の動かない私の前に立つ。

 クロークスが私を庇おうとするが、彼も傷が深く、戦えるような状態ではない・・・


 大剣が構えられ、天に向けられた切先がキラリと光る。


 ブォンと音を立てながら機械式の剣が振るわれる。

 世界がゆっくり動くように見え、自身に現実を押し付けているような気がした。


 だが、刀身が届く事はなかった。

 金属音が鳴り響き、大剣が弾かれる。


 でも、ダリアの姿は見当たらない。

 数秒後、地面に落ちてきたのは拳ほどの石だった。


「・・・?」


 私とクロークスは石を見つめ、何が起きたかを推測する。

 だが、彼女が見ているのは石ではなく、石が飛んできたであろう方向をじっと見つめている。


 私とクロークスも彼女に誘われるようにそちらを見ると、見覚えのある青年が立っている。


「・・・リア・・・」


 ダリアだ。

 この石を投げて、大剣に当てたのだろうか。

 普通は直撃と同時に石が砕けるし、そうはならなくても大剣は弾けないはず・・・


 どんな事をしたのか・・・


 彼女がそちらに体を向け、少し後ずさる。


「・・・・」


 何も話さず彼女はダリアを見つめている。


 そう、多分。

 恩恵が発動しているのか、ダリアの雰囲気が異常なのだ。


「・・・戦闘能力の急上昇を確認」


 彼女が突然機械のような音声でそう話した。


「推定等級・・・赤・・・要因の解析・・・恩恵の効果と推測。 恩恵を特定します」


 ピリリっと音がなり始め、光っていた瞳はさらに光が強くなる。


「咆哮・・・該当なし。 威圧・・・該当なし。 死廻・・・該当なし」


 彼女は小さく呟きながらいくつもの恩恵のデータと照合していく。

 確かに、現在持っている恩恵は特定はできない。


 でも、過去に誰かが手に入れて、その人が効果を開示していた場合は話が別だ。

 過去のデータから消去法的に予測する事は可能なのだろう。


「回生・・・該当なし。 降霊・・・該当なし。 暗躍・・・該当なし。 憤怒・・・該当なし」


 その時、あの言葉が飛び出た。


「激昂」


 それはダリアが言った恩恵だった。

 怒れば怒るほど身体能力が向上する恩恵・・・だが、これが嘘だった場合・・・効果すらも怪しくなる。


「該当なし」


 彼女が言った言葉はそれだった。

 該当なし。彼はやはり、私たちに嘘をついていた。

 でも、今私たちを助けようとしているのは事実。

 今は・・・今はそれだけでいい。


 この間にも彼女は該当のある恩恵を探す。


 静かな空間。

 風が柔らかく肌に張り付く。


 その静寂を一瞬で破ったのは、彼女のある言葉だった。


「該当あり」


 意識をギリギリで保っていた私は、彼女の言葉をしっかりと聞いていなかった。


「確定・・・恩恵は・・・」


 彼女が話そうとした瞬間、ダリアの姿が消える。

 私は見えなかった。 もちろんクロークスも見えなかったはずだ。


「くん・・・」


 彼女が何かを言おうとした瞬間に、ダリアの姿が現れ、彼女の頬に拳を叩き込む。


 彼女は一瞬で視界から外れ、轟音と共に瓦礫に突っ込んだ。


「恩・・・恵は・・・」


 ガタガタと故障した機械のように動く。

 もう起き上がることすらできなかった。


「・・・多大なダメージを検知。ヒールモードに移行」


 機械音声がそう響いた後、彼女の瞳の光が消え、暗くなる。


「ダ・・・ア・・・」


 私はそう呟いた。

 声が小さく届かないのだろう。


 ダリアは彼女を睨みながら、深く息を吐いた。

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