12
あれから歩き続け視界が闇に染まる頃のことだ。
足音と息遣いだけがひびき、歩みを止めずに進める。
そんな小さな静寂の中に声と呼ばれる音を混ぜたのはクロークスだった。
「ダリア。説明が欲しい。フィーニスちゃんが聞かなくても俺は聞くぞ」
俺は歩みを止めずにクロークスの言葉を聞く。
「ダリア、お前、あいつらの仲間なのか?」
「違う」
クロークスの質問に俺は静かに答える。
「ならなんでアイツは仲間に話すように会話をしたんだ。なんで攻撃をしてこなかった?」
「知らん」
クロークスの声が低くなり、敵意が少しずつ溢れ出す。
「なんで・・・アイツはダリアと同じ名前なんだ」
「たまたま同名なだけだろ」
大気に微弱な電気が流れ、パチパチと音がなる。
クロークスは雷を纏ったのだろう。
「ふざけんなよ。ずっと隠して手引きしてたのかよ・・・」
何言ってんだ。
俺は振り返り、クロークスを見つめる。
「違う。言ったろ、俺の旅は復讐の旅だ。影を皆殺しにするって」
「大切な人を殺されたんだろ?聞いたよ。 でも、証明は?」
クロークスの言葉に俺は首を傾げる。
証明だと?
「殺されたって言う証明は!フィーニスちゃん! 君はその誰かが殺されるのを見たのかい⁉︎」
クロークスは声を荒げ、フィーニスに問いかける。
フィーニスの体が跳ね、震えながらも首を振った。
そうだ、見てるわけがない。
フィーニスと出会ったのはその後だ。
「ダリア、どこまでが嘘だ? そもそも、本当の事を言っていたのか⁉︎全部が嘘なんじゃないのか⁉︎」
クロークスの体に纏われている雷が次第に大きくなる。
「嘘なんか言ってない!全部本当だ!」
「仲間なのに、背中を預ける存在の俺たちにすら恩恵を隠してるお前の、何を信じればいい!」
クロークスは牙を剥き出し、俺を見つめる。
影との戦闘で出来た傷口が開きドロリと血が溢れ出す。
クロークスはそれを見つめ、口を開いた。
「俺は赤等級。お前は銅等級。 手足の一本二本なくても殺せるぞ」
「おい、まっ・・・」
低く鋭い声を出した後、クロークスの姿は消えた。
パチッと音がなり、周りを見る。
「ダリア! 後ろ!」
フィーニスの言葉に反応し、背後に視線を向ける。
視界に映ったのはクロークスの姿だった。
俺は瞬時に短剣を抜く。
自分を守るためだ、多少の傷は仕方ないだろ!
瞬間、クロークスの姿が再度消え、ほぼ同時に右脇腹に重い衝撃が走り体が飛んだ。
数十メートルだろうか。
爆音と共に木を薙ぎ倒しながら地面を転がる。
呼吸が止まり、視界が霞む。
「がぁ・・・いって・・・何すんだクロー・・・」
顔を上げた瞬間に映り込んだのは踵だ。
叩き落とし、いや蹴り落としか。
ギリギリで回避し、地面に直撃。
衝撃波が発生し髪が揺れ、地面に大規模な亀裂が入る。
「あっぶね。いい加減にしろ!」
俺はゆっくりと立ち上がりながら少しイライラとしながらもクロークスを宥めようと説得する。
フィーニスが遠くから走ってきている。
「待ちなさいクロークス! ダリアはアイツらの仲間じゃない! 帝都で影を殺すのを私がしっかり見てる! やめなさい!」
クロークスはゆっくりとフィーニスを見つめる。
「それが演技じゃないと言う確証は? 実際に殺したとして、フィーニスちゃんを信じ込ませるためにした演出じゃないと断言できるのか⁉︎」
「それは・・・でも!」
その後にクロークスはゆっくりと俺を見た。
「誰も証明できないなら、敵の確率が高いよな!」
クロークスが構え、戦闘態勢に移行する。
クソッタレ。やらなきゃだめか?
クロークスが回し蹴りを放つ。
それは凄まじいスピードで、動きは見えなかった。
だが、最初に感じたのは痛みや恐怖ではなく、ふわりと柔らかく安心するようないい香りだった。
「フィーニスちゃん。邪魔」
「やらせない。奴隷の私を雇ったのはダリア。 ご主人様に尽くすのが奴隷の役目」
そう言って、フィーニスは俺を守るように前に立つ。
「恩恵を言えないのだって、何か理由があるんでしょ? 仲間になったら言わないといけないって決まりはないはず。 スケルトンパラディンの時だってダリアは私達のために戦ったじゃない!」
そう威勢をはったフィーニスの身体は震えていた。
恐怖か。
何に対しての恐怖だろうか。
「・・・フィーニス」
俺がそう呟いた瞬間、フィーニスの身体が飛んだ。
先ほどより威力は弱いものの、人体が派手に飛ぶくらいの威力だ。
ダメージはでかいはず。
「あっそ。 どうでもいいわ」
クロークスが意識の失ったフィーニスを冷たく見つめながらそう吐き捨てた。
「・・・フィーニス! クロークス、何やったかわかってんのか⁉︎仲間なんだぞ!」
「仲間だぁ? それはどっちだ、俺たち3人を仲間って言ってんのか、それとも、影と手を組んで仲良しごっこの騙し合いが仲間か⁉︎」
俺はクロークスに叫ぶが、怒鳴り声が返ってくる。
フィーニスは蹴られた衝撃で頬の肉が抉れたのか、出血が止まらない。
死ぬほどの傷ではないが、早くしないと傷が残る。
「フィーニス、今すぐに治療してやる!」
だが、その前に現れたのはクロークスだ。
「クロークス。邪魔だ」
「手当しに行ったらあの子も敵としてみなす。 無駄な殺生はしたくない。 ダリア、頼む」
そう言うクロークスの肩を掴み、押し退ける。
すでに俺も頭に血が登り、冷静さを維持するのも難しい。
恩恵が体の底から溢れてくる感覚がする。
「邪魔だ!」
「そうか。・・・やっぱり敵か⁉︎」
そう言ってクロークスは拳を突き出す、俺はその腕を絡め取り、彼の体を地面に強く叩きつけた。
「動くな。恩恵が溢れた。 殺しかねない」
「やってみろ、裏切り者」
クロークスは怒りの目で俺を睨み、そう言った。
俺は拳を引き絞り腹に一撃放つ。
地面が砕かれ、クロークスの口から血が溢れる。
「やっぱり・・・銅級なんか嘘っぱちじゃねぇか・・・」
そう言ってクロークスは意識を手放した。
ぐったりと横たわるクロークスを掴み、フィーニスの側まで引きずる。
フィーニスの頬と、クロークスの傷を軽く手当てして、暗い空を見上げる。
今日は昨日ほど星が出ていないらしい。
漆黒の空。まるで影のようだ。




