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明るい声が飛び交う村の中、俺はただ地面を見つめながらローザのことを思い出していた。
ローザはこの村に何回も何回も、名前も顔も覚えられるくらいには足を運んでいた。
あいつ、なんで言わなかったんだ。
「冒険者さんたちはこれからどうするんですか?」
女性がそう呟いた。
すぐにでも竜人と会いたい。
急ぎではないが、早いに越したことはないのだ。
「すぐに村を出て進む。 目的の場所があるからな」
俺がそういうと、村の住人は残念そうな顔をした。
まだ明るい内に移動したほうが良さそうだ。
「じゃあ・・・フィーニス。クロークス。いくぞ」
踵を返し歩き出そうとした瞬間、遠くから少女が走ってくる。
森の中から出てきたのか?良く生きてたな。
すれ違う瞬間の事だ。
「また森に行ったの⁉︎危ないからやめなさいって何度も言ってるでしょ⁉︎」
「ごめんなさい・・・でも黒い人が守ってくれたよ! 大きな剣を持ってるの!」
俺は振り返り、少女を見つめる。
黒い人。聞き間違いか?
黒い装備をした人間か?
俺は少女に近づく。
「君、黒い人はどんな学校だった?」
「んー?真っ黒ー! 黒くて影みたいだった!」
その言葉を聞き、クロークスとフィーニスに目を合わせる。
2人とも首を振った。
「場所はわかるか?」
「あそこから入って、真っ直ぐ! 近くまで送ってくれたから、まだいなくなってないと思う!」
少女が指差した方向を見る。
すでに黒い人とやらは見えない。
「クロークス!フィーニス!」
彼らに合図を送った。
俺は先に走り出し、森の中を駆ける。
「黒い人・・・影か?」
魔力の感知はない。
気配もない。
見渡してもいない。
ふざけんな。
村の近くまできて何もしないはずがない。
そしていずれ、広い場所にでた。
真ん中には池があり、傍らには身体の大きい屈強な影が座っている。
近くの木には自身の身長と同じくらいはあるだろう大剣が立てかけられるように置かれていた。
「・・・影・・・⁉︎」
影は眠っているのか、頭に小鳥が止まっている。
ゆっくり近づくと、影が動き出す。
「クソっ!」
俺はすぐに短剣を抜き斬りかかるが、まるで空気を斬るかのようにスルリと交わされてしまう。
「・・・・・・。・・・・・」
長身の影は俺たちに向かって何かを話した。
「何言ってるかわかんねぇよ・・・」
俺たちが首を傾げているのを見て困った様子だ。
影はため息を漏らし、話し方を変える。
「君たちもわからないのか・・・話せる奴少ないね」
その声は高く、屈強な身体から出される音ではなかった。
まるで若い少年のような声だ。
「なんでこんなとこにいるんだ」
「それ必要?話をしようよ。 協力者なんでしょ?」
影は何やら勘違いをしたまま話を進める。
「仲間が死ぬのは見てられない。でも、僕には止める術がないから、君たちに協力を仰ぎにきた。魔王崇拝者が人間にもいてくれて助かった」
明るく、敵意のない話し方をする影に違和感を覚える。
「待て・・・なんの話をして・・・」
「まずは人間の中から闇を抱えてるやつを選別してきてよ。話はそれからね。 長居しすぎちゃった。仲間にバレる前に戻らなきゃ。 そうだ。村には近づいちゃダメだよ。あそこは強い影で溢れてる」
そう言って俺の話は一言も聞かずに影は歩き出す。
「待てよ!」
俺の叫びに影が振り返る。
表情はわからない。
「何?まだ何かある?」
まるで子供に問いかけるように、影は優しくそう言った。
「お前・・・何者で、何をしようとしてる・・・」
俺の質問に返ってきた言葉は、全てをひっくり返してしまうほどの奇妙な答えだった。
「僕の名前はダリア。 僕たちを封印してくれる人間を探してる。 これでいいかな。そろそろ戻らなきゃやばそうだ」
ダリアと名乗った影はそう言って姿を消した。
「・・・おい、ダリア。何がどうなってる?」
クロークスが声を震わせながら俺に問う。
「わかんねぇよ」
日が差す森に静寂が流れる。
池の魚がピチャリと音を立て、泳ぐ姿が目に映る。
似たような模様をして、泳ぎ方まで同じだ。
当たり前。
「あいつ。何者なんだ」
心に引っかかりと、謎を残したまま、俺たちはウィングロストを目指して歩き出した。




