10
ゆっくりと転がるローザの頭。
映し出された顔は、恐怖より驚きの方が強いような、そんな感じだった。
巨体の影はローザの頭を持ち、眺める。
「・・・・・・、・・・・・・・?」
何かを呟き、こちらを見つめる。
「お前ら・・・一体なんなんだ⁉︎」
俺が影に叫ぶと、影は少し考え口を開く。
「わ、・・・わした・・・いや、違う。私たちは魂を集めている」
やはり俺たちの言語を理解できているのか?
影はしっかりと会話をすることができる。
「この・・・女の名前は?」
影がローザの頭を凝視しながらそう呟いた。
「教える義理があるか?」
怒りを抑え・・・ゆっくりと呼吸をしながら会話を続ける。
「これが私の・・・魂か? 私に似ず綺麗な顔だ」
そう呟いた影をにらみ、疑問が生まれる。
私に似ず? そもそも、体型や声も全てが違うだろう。
何を言っているんだ。
「ダリ・・・ア・・・」
ガサガサと背後から血塗れのクロークスが現れる。
あの一撃で身体のほとんどを故障させたか。
だが、目の前に広がる惨劇を見てクロークスの目が開く。
「・・・ローザちゃん!」
クロークスがローザの名前を呼ぶと影はローザの頭地面に放り投げて、足で簡単に潰した。
「何してんだ・・・おまえ・・・」
クロークスが低く、ゆっくりと呟いた。
影はこちらを見て、ニヤリと笑う。
「やはり・・・私の目的の魂・・・だ」
話慣れていないのか、頭を描きながら少しずつ話す。
だが、影はため息をつき、元の話し方に戻した。
「・・・・・・・。・・・・・。・・・・・・!」
どこの言葉かわからない言語を口走り、森の中に姿を消す。
目的の魂を入手したからか、もう俺たちに用はないのだろう。
「待てよ!」
クロークスが叫ぶが、すでに姿は見えなくなっていた。
日が登り朝日が差し込む。
視界に飛び込んできたのは、赤く染まった地面だった。
「クロークス・・・一度戻るか・・・?」
俺は赤く染まった地面を見つめながら言った。
村に行く依頼が達成出来ない・・・
俺たちは寄り道しなくてもいいわけだ。
だから、クロークスが大丈夫と言うのならこのまま進みたい・・・
「俺は大丈夫だ・・・でも」
クロークスはそう言いながら血の中をバチャバチャと歩き、原型のないローザの前で座り込み、服を漁る。
「・・・何してる・・・?」
俺がそういうと、少し離れたところからフィーニスが歩いてきた。
心配そうにクロークスを見つめている。
「あぁ、あった」
クロークスがそう言って持ち上げたのは、血に塗れた紙だった。
「それは?」
「村までの地図だ。 ・・・ウィングロストの方向も描いてある。 多分、依頼が完了次第渡すつもりだったんだ。 報酬としてな」
クロークスがため息を漏らしながら言った。
「そんなバカな・・・」
依頼を受ける前のローザの態度はそんな感じではなかった。
ありえない。
「馬鹿もなにも・・・ほら」
そう言ってもう一つ出したのは、地図だ。
地図が2枚。
それも、この森とウィングロストが記載されている。
片方を報酬に、片方は自分用にするためか。
「なぁ、ダリア。残った食料だけでも担いで村にいかねぇか」
クロークスはそう呟いた。
「言うと思った・・・そうか」
馬車ではなく担ぎながら・・・
体力は消費するが、馬車よりは早い・・・
残された地図を頼りに走ればいいだろうか。
クロークスの背中は、まるで子供のように小さく見えた。
「分かった。行こう。だが今すぐだ。 クロークス、体が痛いとか騒ぐなよ」
俺がそういうと、クロークスは勢いよく立ち上がった。
まだ塞ぎ切ってない傷口から雫が流れ、地面に落ちる。
「任せろい!」
そう言って動きだす。
馬車に戻り、水や食料を担ぎ出す。
たった3人だからか、あまり量は運び出せなかった。
「走るぞ」
「分かったわ」
「あいあいさー」
俺の一言に全員が頷き、走り出す。
早朝から動き出し、村についたのは太陽が真上になる頃だった。
「よし・・・ここが村・・・か。ついたぁ」
重い荷物を持ちながら6時間ほど走ったか、もう少しだろうか。
足が痛み、震える。
村の前で座り込んでいると、子供がこちらを見ているのに気づいた。
俺は何も言わずに手を振る。
直後、大人が何人か現れた。
「おや、冒険者さんではないですか。こんなとこまで、何かありましたか」
若い女性がはじめに話し始めた。
「はぁ・・・物資を届けにきた。 カバンに入ってる。悪いが、これで全部だ」
俺は息を整えながらそういうと、村の住人は顔を合わせた。
「まぁ、そんな・・・ありがとうございます! 最近は村の周りに魔物が多くて・・・」
そう言いながらワイワイと話す。
だが、突然少年が呟いた。
「今日は髪がキンキンのお姉ちゃんじゃないの?」
その瞬間、空気が凍りつく。
誰のことだろう。
その言葉を聞いた女性が話し出した。
「すいません・・・いつもならローザさんという方が物資を届けてくださるんです」
子供が放った言葉をフォローするように女性は苦笑しながら言った。
「いつも?」
「はい、もう何ヶ月もです」
アイツ・・・
そんなこと言わなかっただろう。
誰もいない。
私しかいないって言ってたじゃんか。
「次に会う時はお泊まりして遊んでくれるって言ってたよ?」
「そうだねー。忙しいのかもしれないねー」
少年の何気ない呟きが刺さる。
そんなことは気にせずに女性は会話を繋げていた。
聞いてないぞ、ローザ。
周りの音が遠くなりめまいがする。
あぁクソ。
ローザ・・・・
そしてまた一つ。
自身の奥深くに黒い魂がゆらりと生まれた気がした。




