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狼に跨ったゴブリン達が数体現れる。
「ゴブリンライダー・・・」
「ゴブリンライダー? ただのゴブリンじゃないのか?」
俺の呟きに、クロークスが質問を返してくる。
そう。
正解だ、ただのゴブリンで、ただの狼だ。
コイツらは個体でも銅級で、ライダーになっても銅級。
正直弱くて脅威にもならない。
報酬は安く、駆け出しなら必ず通る道だ。
だが、問題はそこじゃない。
「あぁ、ただのゴブリンだよ。でもな・・・問題はそこじゃない。 ゴブリンだけじゃ狼を使役できない。 手引きしたやつが必ずいる。」
俺はそう呟いた。
でも、別にこれも普通なのだ。
勉強をすれば扱いが上手くなる。
学習したゴブリンは他のゴブリンに知識を伝え、簡単に伝染していく。
だから、普通のことでありえない話じゃない。
そこまでは。
「なら普通じゃん」
クロークスは雷を纏いながら軽く呟いた。
「あぁ、ゴブリンがライダーになるのは当たり前だが、ここまで徒党を組めるのはありえないんだよ!」
俺がそう言った瞬間、ゴブリンたちの背後から大きな影がゆっくりと現れる。
体は大きく、2メートル弱だろうか。
茶色い毛並みで、筋肉質の大きな体に、口から溢れてしまうほどの唾液が地面に滴る。
「・・・オーガ・・・」
オーガはフィーニスを視界に入れた瞬間、激しく興奮して地面の草を掴み腰を振り始める。
だが、腰を振りながらもローザを視界に入れる。
女が2人。
大好物の獲物を見つけ、軽くステップを踏みながら地面を叩く。
手だけでも130センチほどはあるだろうか、握力が強く人間くらいなら片手でミンチにできるのだ。
「オーガ・・・銀等級だぞ・・・」
俺のその呟きにクロークスはニヤリと笑う。
「ダリア、お忘れかな?俺は赤等級だぜ? 任せなって」
自信満々にいうが、オーガは特殊な等級の持ち主なのだ。
「一撃で殺せるか?」
クロークスに問う。
「え?一撃?」
「あぁ、真剣な話だ」
オーガを睨みながら、クロークスに投げかけた。
「・・・いや、一撃って言われると・・・」
「なら無理な可能性がある。 あいつは珍しい変級型でな。怒り状態に入ると、皮膚が赤く変色する。
筋力が上がり、皮膚はあらゆる武器を弾くようになる・・・その状態のオーガは赤等級に相当するらしい」
できる事なら逃げたい・・・
だが、フィーニスとローザがいる。
特にローザ・・・冒険者のように素早く走り、身を隠す術は持ち合わせていないだろう。
「・・・フィーニスとローザを逃がしたい」
「オーガは俺たちで?ゴブリンライダーはどうする?」
俺の提案にクロークスが小さく話す。
「ゴブリンライダー数体ならフィーニス1人でもローザを守り切れる。 オーガは俺たちで止める。 できるなら、彼女達が逃げ次第俺たちも撤退だ」
その提案に、クロークスはゆっくりと頷き、足から徐々に雷を纏う。
バチバチと音を立て、徐々に出力をあげているのか、綺麗な白髪がふわふわと浮き出した。
赤等級と聞いて、最初から練り上げてるのか
俺もゆっくりと短剣を抜き、構える。
クロークスと目を合わせ、ゆっくりと頷く。
瞬間、アオーンと狼の声が戦闘の合図のように夜空に響いた。
「フィーニス! ローザを連れて出来るだけ離れろ!」
「・・・わかった!」
フィーニスは戸惑いながらも承諾し、ローザを連れて走り出す。
「積荷が!」
「積荷と命、どっちが大事⁉︎」
彼女たちの姿が暗い森の中に消える頃、オーガは怒りで興奮し、外皮が徐々に赤く光り始める。
「女が逃げただけでブチギレかよ・・・短気すぎんだろ・・・」
クロークスがそう呟きながらオーガを見つめた。
外皮が赤くなり、体表に現れていた汗などが一瞬で蒸発したのか、多量の煙がオーガから溢れる。
地面を強く叩き、よだれをたらし、こちらを睨む。
「逃げれると思うか? クロークス」
「・・・いや、あの顔は逃してくれないっしょ・・・」
瞬間、オーガが腕を振り、木を破壊する。
破壊された数本の木がそのままの勢いで射出された。
「回避!」
俺の合図と共に回避するが、瓦礫でオーガの姿が見えない。
デカい図体の割に素早く重い一撃は、赤等級にふさわしい。
視界に赤く光る拳が見える。
足が地面から離れている俺は回避が間に合わない、振り抜かれる大きな拳に手を触れ、衝撃を体に移すように回避する。
だが、俺を空振った拳はクロークスに直撃した。
オーガは確実に俺を狙っていた。
だが、回避された瞬間にターゲットを変更したのだろう、確実に知能があることの現しだった。
重い音を立てながらクロークスの身体が浮き、弾き飛ばされる。
数メートル、木を破壊しながら森の中を飛んだ。
物体は普通、何かに当たればそれだけ勢いが弱くなるが、それでも数メートル・・・
「・・・大丈夫かクロークス!」
瞬間、視界にパチパチと雷が入る。
それは線のようになり、オーガの顎蹴り上げた。
「あいよ、大丈夫ぅ!!」
「良かった!」
流石に光の速度にはついてこれないか!
頭を蹴り上げ、攻撃を躱しながらもクロークスは技を叩き込んでいく。
ドムドムと、まるでゴムを叩くような音が響いていた。
生物の体から出るような音じゃない。
なんなんだこいつ。
数発、数十発は確実に叩き込んでる。
「マジかよこいつ・・・」
息を荒げたクロークスが攻撃をやめ、呼吸を整えながら呟いた。
「・・・無傷か?」
無傷。あれだけの猛攻をしっかりと受け切ったのだ。
打撃に強いのか?
「クソッタレ!」
俺はそう叫びながらナイフを素早く投げる。
オーガの方に当たったナイフはカキンッと音を立てて地面に落ちる。
オーガは地面に落ちたナイフを踏みつけにして、粉々に砕いた。
直後、俺たちを静かに睨み、ニヤリと笑って見せたのだ。




