4
俺たちは歩き出し、道を通る。
オアシスグレイスに行くとき同様、筒状の道を通り、領内に入るのだ。
「長いな」
「まぁウィングロストが長いみたいだし、それのせいじゃない?」
俺の何気ない一言に、フィーニスはそう答えた。
そうか・・・
それから無言の間が十数分続き、やっと道に出ると、緑が生い茂る自然溢れる光景が目の前に広がる。
フィーニスが空気をゆっくりと、深く吸う。
「はぁ・・・気持ちいいー」
そう言って体を伸ばした。
獣人と言うのは、どちらかと言うと野生のコミュニティの方が生きやすかったりするんだろうか。
「お、お願いします!」
フィーニスを眺めていると、突然別の場所から声が響いた。
視線を向けると、他の冒険者に女性が何やら頭を下げている。
「なんだろう?」
フィーニスがその光景を眺めるが、俺たちも目的がある。
構っている暇はない。
「フィーニス、行くぞ」
そう言って俺は歩き出した。
だが、一歩踏み出す前に、気になって彼女の方を見てしまったのが間違い。
目があった瞬間に彼女は小走りでこちらに来たのだ。
「冒険者様! 待ってください!」
背後からかけられた声に、溜息を漏らしながら振り向く。
「なんだ」
悪態をつくように言ってしまったからか、彼女は少し強張った顔をする。
「あ、あの・・・」
萎縮し、オドオドとする彼女にクロークスは声をかけた。
「だぁいじょうぶ!大丈夫!! 俺たちのリーダーは目が細いから目つきが悪くて怒っているように見えるけど、ぜぇーんぜん怒ってないからさ! ささ、言っちゃて言っちゃてぇ!!」
クロークスはニコニコと明るい声でそう話す。
だが、彼女はクロークスの腕輪を見逃さなかった。
「赤等級・・・」
小さくそう呟いて、フィーニス、俺と腕輪を見ていくが、俺の時だけ明らかに表情が変わる。
「銅等級・・・がリーダー?」
その一言がクロークスの地雷を踏んだ。
ニコニコとした表情が一瞬で消え去り、小さくため息を漏らす。
「・・・あのさぁ」
「クロークス」
雰囲気が変わったクロークスに気づき、俺は声をかける。
こちらに視線を向けたクロークスに小さく首を振る。
すると、フィーニスが俺の手を握ってきた。
「私は信じてる」
「わかってる」
静寂が少し流れる。
その静寂を切ったのはフィーニスだった。
「で、冒険者に何かあるんじゃないの?私達は急いでるの、何か言うなら早くして」
先程までは心配そうに見ていたフィーニスは嘘だったのかと思うくらいに、冷たい視線、声をしていた。
すると、彼女は思い出したように話し始める。
「そうでした、護衛をお願いしたいのですが」
「護衛?」
彼女の言葉にクロークスが眉を歪める。
そう言う彼女の後ろには、馬車があった。
「積荷を運ぶのに護衛が必要で、最近は魔物の動きも活発化しているので・・・」
確かに、魔王が倒されてからか、魔物の動きが活発になっている。
オアシスグレイスのグラウンドワールや、地下迷宮に現れたスケルトンパラディンが良い例だろう。
「場所は?」
クロークスがさらに質問を続ける。
「普通の小さな村です。 その村周辺に魔物が現れたようで、村の人たちのみでの自給自足が難しくなってしまっているみたいです」
彼女はクロークスを見つめながらそう言った。
「村か・・・ダリア。どうする?」
「・・・うーん。 ウィングロストに行かなくちゃいけない。 距離も考えると、依頼を受けている場合じゃない気がするな」
ルーカスの情報を信じるなら、早めに移動して、陽が沈む前になるべく早く距離を稼ぎたいのが本音だ。
「ウィングロストには行かないけど、そこに続く道よ。 村に行ければ一日泊まらせて貰えば良いわ」
彼女はそう言った。
明らかに等級で人を選び、態度を変える彼女の様子に、クロークスとフィーニスは少しイライラしてしまっている。
「そうか。で、俺たちに対してのメリットは?」
少し大人気ないが・・・
その態度なら俺もそれなりの態度を取る。
俺は自分が誰かより偉いとは思っていない。
もちろん、技能や等級によって立場は変わるだろう。
受ける仕事の責任が重くなり、一つ一つが大事になる。
だが、我々は同じ人間だ。
これは大前提。
そして、その優秀な誰かも、他の誰かがいなければ何かをすることは難しい。
冒険者1人では、依頼は受けられないし、食料は買えない。 武器や防具の調達。素材の調合など、黒等級でも難しい。
だからこそ、他者を見下し蔑ろにする奴を許せないのだ。
だが、人間は態度を変える。
これは別に自然だ、当たり前。
俺だってそうする。
でもな、人に優しくして、好きな人にはもっと優しくする。 これなら問題ないはずだ。
だが、誰かに優しくしたから、誰かに冷たく接しても良い理由にはならない、
愛を過剰に与えることはあっても、誰かにあげたからって誰かに与えなくて良いわけじゃないんだよ。
仲間として生き残るには、それが大事だ。
裏切りもあるかもしれないしな。
「メリット?」
「あぁ、メリットだよ。正直、アンタを護衛しない方が先に村に着くし、村を通ってさらに先に進める。 アンタを護衛する事で俺たちは時間を浪費し本来出来た事が出来なくなるって言うデメリットがある」
「だから?」
「報酬は?アンタが俺たちに差し出せるものはなんだ」
そう言った瞬間、彼女は不満そうに声を荒げた。
「何言ってるの⁉︎ 大勢の人間が困っているの! 報酬とか、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
「なら、アンタも無償で運ぶんだな? アンタはこれから、自分の善意だけで村に物資を運ぶんだな?その物資はギルドからの支給ではなく、自腹で買った物資なんだな?」
そういうと、彼女の目が泳ぐ。
「教えてやるよアマチュア。 別に意地悪しようってんじゃない。 俺たちは冒険者で、アンタは運搬屋。 責任やタイプは違えど、仕事で、命の危険が伴う。 それに対しての対価を払って言ってるんだ」
「それはわかるけど・・・ついでに護衛してくれたって良いじゃない・・・」
彼女は不服そうに口を尖らせながら言った。
「なら聞くが、アンタが酒場をやっているとして、夕飯を作る時間、または作っている最中に客がきた。その客が、「夕飯を作るついでに俺らにも食い物をくれ、夕飯のついでなんだから料金はいらないよな?」って言ったらどうだ」
そういうと、彼女の表情が暗くなる。
「そう。無理だろ。 材料を買うのも金がいる。コックが身につけたスキルも、金を払い、膨大な時間をかけて身につけたものだ、だから・・・」
「わかった! わかったよ!払えば良いんでしょ⁉︎」
そこまで言うと、彼女は俺の言葉を遮り口を開いた。
最後まで言いたかったのに。
「でも・・・報酬・・・」
彼女はオドオドとする。
最初から報酬を払うつもりはなかったわけか。
「物資はどのくらいある?」
「え? 村を一つ分だから・・・でも少し余分にあるから、かなりあるわ」
彼女はそう話す。
「なら、それで良い」
そういうと、彼女は驚いていた。
金を要求されると思ったのだろう。
だが、足止めを喰らう前提で準備をしていない俺たちは余分に食料を持ち合わせていない。
「食料で良いの?」
「まぁな。俺たちも枯渇するかもしれない、その場合は少し分けてくれ」
そういうと、彼女は頷いた。
「俺はダリア。 こっちが、クロークスとフィーニスだ」
そう言いながら手を出す。
彼女はゆっくりと手を出しながら、俺の手を握り握手を交わした。
「私はローザ。 よろしく。ダリア」
そうして、護衛任務が始まった。
さっきはデメリットの事でグチグチ言ったが、村がある存在や、道などはわからない。
初めから、この依頼にはメリットがあったことは、黙っておこう。




