24
ゆっくりと目を覚ます。
真っ白な天井。
身体は浮遊感に包まれ、不思議な感覚が漂う。
「どこだ・・・ここ」
起き上がり、周りを見ると真っ白な空間。
距離感はわからず、どこまでも長く、広く続いているような感じがした。
ゆっくりと立ち上がり、歩き始める。
どの方角に歩いているかすらわからず、どれほど歩いたのか、そもそも進んでいるのかすら曖昧だ。
「なんなんだここ」
瞬間、自分のではない足音が反響する。
リズムよく軽快に鳴る音がなるが、距離感が掴めない上に広いからか何処から音がなっているか特定が出来ない。
「あぁ、いたいた! おーい!」
どこからか声がする。
俺はキョロキョロと視線を動かしながら探る。
「おーい!おー、お。あ、違う違うこっち! こっちだって!」
背後から忙しなく声をかけられ、やっと正体を視界に捉える。
俺はソイツと合流する。
「いや、え、何?耳腐ってんの?」
「会ってそうそう失礼な奴だな」
と言った風に一言めから失言を吐き出したのは彼女だ。
太ももくらいまではあるだろう赤髪のツインテールにキリッと釣り上がった目。 赤い瞳が俺を見つめ、ニヤリと笑った時は八重歯が顔を覗かせる。
身長は俺より少し小さいくらいだろうか、だが、胸は大きく、異常なまでに露出が多い。
太ももは全て見えてしまっているし、両肩も露出している。
短めのズボンを履いていて、その下は下着だろうか。
紐が腰まで伸びている。
なんだこの服装。怖いな
「お?なになに? やっぱり人間っておっぱい好きなの?」
「いや、そんなことは・・・」
ドストレートな質問に焦りながらも、彼女が放った言葉に違和感を覚える。
人間って・・・?
「お前・・・人間じゃないのか?」
「そりゃね。あーし神様だしぃ」
「・・・神?」
「そーそー。冥府の神ぃ 名前はアルゴ。 よろピコ!」
そう言ってアルゴと名乗った彼女は舌を出した。
「ねぇーこの服装どうよ?イケてるっしょ?」
「イケ・・・?よくわからんが、目のやり場に困る」
そういうと、アルゴは唇を尖らせながら指をパチンと鳴らす。
瞬間、服装が一瞬で代わり、髪型も変わる。
髪が解かれ、ロングのストレートに変わる。
服も白いドレスのような感じで、藁?のようなもので編まれた帽子をかぶっている。
「どう似合う?」
「ん・・・あー。うん。似合ってる似合ってる」
適当な返事をしたことが気に食わなかったのか、アルゴが唇を尖らせる。
「そんな男はモテないわぁ」
そう言いながら再度指をパチンと鳴らす。
直後に変わった見た目の風景に変わる。
酒場?ではないな。
こじんまりとしていて、落ち着く雰囲気だ。
木造建築で、カウンターの前には椅子がいくつか並べられている。
アルゴはその椅子に座る。
「さぁさぁ、座りたまえよ少年」
アルゴの指示に従い、椅子に座る。
するとアルゴはキメ顔で誰もいない所に話を始める。
「マスター・・・コーヒーを2杯お願い」
こーひーとはなんだろう。聞いたことのない単語だ。
アルゴは椅子から飛び降りてカウンターの向こうに行く。
「いや、お前がするのかよ」
「あたりまえっしょ。 冥府は誰もいない。いつもあーし1人だよ」
そう言いながら妙な小物に黒い粒をいれ、ガリガリと削っている。
「・・・ここは?」
少し寂しそうな声を出したアルゴを見つめ、空気を変えようと話を続ける。
「さぁ? 死者の記憶にあったカフェ?だっけなぁ・・・まぁそれを再現したのよ。あれ・・・喫茶店・・・だっけな。 うーん?」
「死者の記憶?」
そういうと、よくわからない装置に粉を入れ、お湯を回し掛けながらアルゴは話を進める。
「そう。あーしは特に何もしないからねぇ。 生きてる間に叶えられなかった願いを、夢のように見せてあげて、それと引き換えに記憶を貰う」
「・・・記憶をもらってどうするんだ?」
そう聞くと、アルゴはグラスに黒い液体を注ぎ、俺に差し出してきた。
「飲んでみて」
「飲み物・・・なのか?」
俺が不安なことを察したのか、先に黒い液体を飲み干す。
「うへぇ・・・苦い・・・。ほら、飲みなって」
「いただきます・・・」
俺はグラスを傾け、黒い液体を口に入れる。
苦味が舌を刺し、喉を通る時に苦味が残る。
「うわっ! すごい顔してるー ウケるわぁ!!」
嫌いではないが・・・好んで飲んだりはしないだろう。
「美味しくないでしょ?」
ニヤニヤと八重歯を覗かせながらアルゴは俺を見つめる。
「それが記憶を貰う理由だよ」
そう言われ、黒い液体を見つめる。
この、コーヒー?と呼ばれる液体が理由?
「これが?」
「そう。君たちがどんな経験をしてきたのか、何を思って生きてきたのか、記憶としての物量、質量、感じ方は人によって違いがあるからね。今君が飲んでるそれも、記憶を元に再現してるだけだよ。 それと引き換えに1番叶えたかった何かを叶えてあげる」
俺は・・・記憶にそこまで価値があるとは思えない。
「記憶だけでいいのか?」
「記憶だけ?・・・わかってないなぁ。 記憶ってのはね、死んだ後も誰も奪うことが出来ない最高級の財産だよ。数年、数十年。 人生を捧げてまで手に入れられなかった願いを、絶対に誰にも奪われない財産と交換する。 そうして、気持ちよく逝かせてあげるんだよ」
そう言うアルゴを見ながら俺はコーヒーを飲み干す。
「で、俺からも記憶を奪うわけか?」
「奪ってないし! ちゃんと合意の上でやってますぅぅぅ! それに、君まだ死んでないし」
え? じゃあなんで俺はここにいるんだ。
「まだ死んでない?」
「そう。死なせるわけないよ。まだ仕事があるみたいだし、まあ・・・」
アルゴはそう言いながら俺を見つめる瞳を細くする。
「闇が少ないかなぁ。 もう少し人生刻んできな」
「偉そうだな」
そういうとアルゴは笑う。
「はいはい、もう時間だよ。 また会おうね、ガキたち」
「あ、そうだ。クロークスってのが弟にいる女性を知らないか?」
そう問うとアルゴは少し考える。
「いや、記憶にそんなのはないっポイかも。 まだ来てないんじゃない? 探してみな?」
「わかった、ありがとう。じゃあな、アルゴ」
俺の言葉にアルゴは寂しそうに頷いた。
「またね、他の子供達にもよろしく言っといて」
「子供? なんだそれ、いつから子ども・・・」
瞬間、壁が剥がれるように取り払われ、体の浮遊感が消える。
「リア・・・ダリア! これ死んでんじゃねの⁉︎」
「変なこと言わないでよ!」
クロークスとフィーニスの声が響く。
ゆっくりと目を開くと太陽が視界にはいり、濡れたクロークスやフィーニスの姿も確認する。
「生きてる⁉︎」
「グラウンドワールは?」
フィーニスの顔を見ながら問いかける。
「私たちの勝ち! 上手く行ったわ!」
「良かった」
結局倒せたらしいが・・・
やはり、俺は必要だったのか?




