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草原の間を通る長い道を歩き、村が見えてきた。
夕日が赤く世界を照らし、影を伸ばす。
「目的地の村はここか・・・ここから東に小さな洞窟・・・あっちか」
地図を開き方角を確かめる。
夕方ならスライム動かないだろう。
夜行性の個体も確認されているが、そのスライムがいたら銅級じゃ手に負えない。
「お兄ちゃん誰?」
背後から声をかけられ振り返ると、少女が立っていた。
村自体もあまり大きくないため、食料が少ないのだろうか。
身体は細く、栄養が足りていないように見える。
「冒険者だ、村長はいるか?」
俺がそういうと、元気に「うん!」と頷き、少女は案内を始める。
ついてこい。そういうことだろう。
少女の後を歩いていくと、何やら大きな建物が先に見える。
周囲の家屋とは明らかに別格。
やけに綺麗で手入れされている印象だ。
少女が扉を叩くと、中から男性の声が漏れる。
「はい?」
「冒険者だ。依頼を受けてスライムの討伐にきた」
俺がそう言うと村長と思わしき男性が扉を開けた。
かなり若く見える。
肉付きがよく、肌や髪にツヤもある。
身につけている服も綺麗にされている。
「冒険者さん・・・ですか?」
男は俺の姿を頭から足まで見る。
確かに、俺はかけ出しと言うこともあり、冒険者と呼ぶには汚く、装備もしっかりとしていない。
イメージと違う。なんてことは多々あることだ。
「そうだ」
左手首につけた腕輪を男に見せると、表情を変えて中に招き入れてくれた。
応接室のような場所に案内され、椅子に座る。
天井から下がる灯りは綺麗で、机や椅子もしっかりとしている。
綺麗な刺繍が施された花瓶なんかも目につく。
ーーかなり、村の連中と生活の質が違うな。
扉が開き、60代くらいの男性が入ってくる。
「冒険者・・・さんですかい?」
「そうだ」
足が悪いのか、右手に持った杖に体重をかけ、危なげに移動する老人。
服は多少汚く、この家に相応しいとはお世辞にもいえない。
「スライムの依頼を受けてきた。詳細を聞きたい。明日の朝には向かう」
俺がそう言うと、老人は椅子をゆっくりと引き座る。
一つ一つの所作が遅く。 時間を喰う。
すると、扉が開き、先ほどの若い男がティーカップを二つ持って部屋に入る。
老人と、俺の前にゆっくりと置いて退出した。
「スライムが現れたのはいつ頃だ?」
「おそらく、3日ほど前かと・・・」
俺の質問に曖昧に返す。
おそらく? 時期を把握していないのか。
「子供でも襲われたか?」
俺がそう言うと、老人はゆっくりと頷いた。
老人はティーカップを持ち、紅茶を啜る。
そうだ・・・
紅茶はかなり高価な嗜好品だ。
村の連中は裕福ではない。必要最低限の暮らしを強いられている。
「どうしてスライムの動向に気づいた?」
俺がそう問うと、老人はティーカップを起き、話始める。
「2日ほど前の朝。突然村のものが戸を叩き、スライムが出た。子供が襲われたと報告があったんです」
「なぜすぐにギルドに依頼を出さなかった?」
老人は少し考え、口を開く。
「子供の手当が優先です。ギルドへの依頼はその後に・・・」
「子供の容態は?」
俺の質問に老人は顔を苦く、眉間に皺を寄せた。
あまり良くないのか。
「左腕が腐っております。 助けに行った大人も軽症ではありますが怪我を・・・」
アシッドスライムか。ギリギリ銅級の範囲と言うことか・・・
生半可な武器や防具じゃ太刀打ちできない。
知識がない村人がどうこう出来る相手じゃない。
「アンタはスライムを直接見たのか?」
老人は首を振る。
確認はしていないか、まぁその足じゃ難しいな。
「冒険者さんは・・・仲間は?」
「いない。ソロだ。何か問題が?」
確かに、依頼の達成難易度は変わるが、別にソロだから問題があるわけではない。 話を続けよう。
「なら、子供の容態は自分の目で確かめたのか?」
老人はその質問に対しても首を振る。
やっぱり・・・今この村を仕切ってるのはコイツじゃない。
「アンタ、ティーカップを持ってきた男は息子か?」
その質問には、ハッキリと頷く。
「どんな理由があるかはわからないが、アイツに村を仕切らせるのはやめておけ。 言ってる意味がわからないなら、その足で無理してでも外に行って現状を把握しろ」
俺はそう言って席を立つ。
ティーカップに入った紅茶を一気に飲み干すが、あまり美味しいとは感じなかった。
「襲われた子供の家はどこだ」
「この家を出て、右側。手間から三番目と聞いています」
聞いています。 確実に操られている証拠だ。
「そうか」
応接室を出て、玄関に向かう。
先ほどは気づかなかったが、窓には全てカーテンがかかっていた。外が見えないようにだろう。
現状を把握していないと、解消は難しいな。
まぁ、忠告はした。
言われた家の前に行き、扉を叩く。
扉がすぐに開き、赤髪の綺麗な女性が出てきた。
「どちら様ですか?」
「冒険者だ。子供の容態を見にきた」
腕輪を見せながら話すと、彼女は慌てて扉を開けた。
案内されて行った部屋にはベッドに男の子が寝転んでいる。
父親と思わしき男性がそばでタオルを水に浸していた。
「あなた・・・」
彼女が呼ぶと、男性は振り返る。
「その方は?」
「冒険者さんが来てくれたわ」
男性は安心したような顔をして、俺を見る。
「あなたたちは、この子の両親か?」
俺の質問に両者とも深く頷いた。
「少し傷を見るぞ」
俺はベッドに横たわる男に近づき、横に膝をつく。
布団を剥ぎ、左腕を見ると、見るには堪えるほどドロリと皮膚が溶けていた。
アシッドスライムは触れたものを腐らせる。
身体は紫色で、かなりわかりやすいと思うが。教えてなかったのか。
「・・・だれ?」
男の子が目を覚まし、話す。
「冒険者だ」
「僕死ぬの?」
そう言った男の子の声には力強さはなかった。
「死なない。すぐによくなる」
ポーチからポーションを取り出し、男の子に飲ませる。
ゆっくりと目を閉じ、再度眠りにつく。
「もう大丈夫なんですか?」
父親がそう話す。
俺は首をふり、新たなポーションを2つ手渡した。
「いや、まだ。だが、ポーション一つで1日侵蝕を遅らせることは出来る。 すぐにギルドに指示を送るか、馬車を雇って皇都に向かえ、このくらいの傷なら銅級の神官でも簡単に治せる。 そのポーションは明日、明後日と飲ませろ。時間稼ぎにはなる」
「ですがこんな高価なもの⁉︎」
受け取ったポーションを返そうとする父親を止める。
「確かに高価ではあるが、また補充が出来る。 子供は死んだら補充できないぞ。 受け取っておけ。 見返りは求めない」
そういうと、父親は頭を下げた。
母親も頭を下げ、何かを思い出したかのように姿を消す。
数分後、母親は息を切らしながら帰ってきた。
「あ、あの! これ・・・」
そう言って母親が手渡してきたのは一つの鍵だった。
「これは?」
「私たちは夫婦で小さな宿を営んでいます。一部屋空きがありますので、ご自由にお使いください」
なるほど、これはラッキーだ。
「助かる。明日の朝には討伐に出る。 明日からは安全だ」
俺はそう言って玄関の扉を開ける。
両親は最後まで頭を下げ続けていた。
早めに解決してやらないとな。
指定された宿にはいり、鍵を開ける。
冒険者用の宿というだけあって、ベッドもかなり上質なものだ。
すぐに横になり、一眠りする。
目が覚めたら、すでに日が登っていた。