15
先を歩くクロークスの背中を見つめる。
俺より若く見えるが、かなりガッチリとした体型だ。
並々ならぬ努力を積み重ねて、上手く作り上げたのだろう。
「なぁ、クロークス」
「なんだ?」
彼の名を呼ぶと、こちらには視線を向けずに返事をする。
「どうしてこんなに協力してくれる? 俺はお前に話を聞いて、帰れれば良かったんだ」
「恩を売ってる」
「どう言うことだ?」
そういうと、クロークスは俺を見た。
「お前らを手伝うから、俺の事も助けて欲しい」
そういうことか、恩を売る意味がわかった。
「赤等級なら基本的には大丈夫だろ」
「そうだな・・・でもな、等級が関係ない場合は案外難しかったりするんだ。 人探しとかな」
クロークスの顔は見えないが、寂しそうな声がした。
「人探し?」
「そうだ。 俺が冒険者になった理由でもある。 俺は冒険者になって、数年。 ずっと姉貴を探してる」
・・・姉貴?
クロークスの言葉は強かった。
「ダリア、フィーニスちゃん。 アルゴ様って知ってるか?」
「いや、知らない・・・」
「知ってるわ」
クロークスの問いにフィーニスだけが知っていると答えた。
アルゴ・・・最近耳にする単語だが、様って事は人物の名前なのか
すると、眉を歪めている俺を見てフィーニスが話し始める。
「アルゴ、冥府の管理者ね。 死んだら冥府、つまりあの世に行くんだけど、そこの管理をしているのがアルゴ。 でも、お伽話よ」
フィーニスがそこまで言った時、クロークスは振り返った。
「じゃあ、冥府につながる門があるってのは知ってる?」
そのクロークスの問いにはフィーニスは首を振る。
「霧に包まれた街があるらしいんだ。 名前はドールミスト。 そこ冥府に繋がる門があるらしい。 俺はそこに行きたい。 だが、オアシスグレイスには魔物が多すぎる。 討伐してからじゃないとみんなが心配だ」
「なるほど、だから俺たちに討伐を手伝ってもらって、クロークスも都を出るわけか。 だが数年前なんだろ? 何があったか知らないが、姉貴は手遅れなんじゃ・・・」
そういうとクロークスは頷いた。
「そうだな。 でも、死んでいるならそれでいいんだ。生きてるなら助けたい。死んでるならそのまま、現状じゃ姉貴の生死さえ把握できてないんだ。だから・・・」
瞬間、クロークスが姿勢を低くした。
「クロークス?」
「静かに・・・」
瞬間、奥の闇の中から叫び声がする。
「ぐっぁぁぁぁぁ! 早く、早く剥がしてくれ!」
「待ってろ! 今・・・クソっ、あぁぁぁ!」
「おい、お前ら! マジかよ・・・や、やめっ・・・!」
グチャっと音がして無音になる。
先程の叫び声は一体なんなのだろう。
「・・・ファントムだ」
クロークスが静かにそう呟いた。
指を差し、前を見るように促してくる。
それを確認して、目を凝らすと青白いふわふわとした浮遊物が漂い、彷徨っている。
「あれか?」
「そう、依頼対象」
静かな闇の中に浮かぶそれは、スケルトンとは別格のオーラがある。
ふわふわと埃のように舞う青白い半透明の塊は、この世のものと呼ぶには抵抗がある。
それほど不気味で、異質なのだ。
「物理完全無効だっけか?」
そういうと、クロークスは小さく頷きながら拳に雷を纏う。
「まぁ、俺は雷があるから殴れるけど。 気をつけなよ?等級がわからない」
「ん?それってどういう・・・」
瞬間、ファントムの姿が霧のように消える。
「あれ・・・消えた? 逃げたのか?」
「違う! 逆だ、気づかれた!!」
瞬間、周囲の冒険者の死体が起き上がる。
「アンデッド・・・掴まれるなよ! こいつらは総じて怪力だ!」
クロークスの叫び声を掻き消すように背後から金属音が響いた。
岩を叩き、ガチャガチャと重量のある音が迷宮内を反響する。
音に惹かれ、俺はゆっくりと振り返る。
見開いた瞳が写したのは歩く甲冑だ。
「・・・リビング・・・アーマー・・・!」
「クソッタレ!数が多すぎる!」
クロークスの声が反響し、全身にビリビリと響く。
瞬間だ、全身に悪寒が走り、毛が逆立つ。
「なんだ・・・異質すぎる・・・」
「なんだ・・・あれ?・・・違う。この迷宮で産まれるはずない・・・なんでいるんだ⁉︎」
カラカラと音を立て、一体のスケルトンが姿を表す。
そのスケルトンはゴミでも払うように、握った大剣でアンデッドをズタズタに切り裂いていく。
直後、リビングアーマーの目が光り輝き、意思を持つようにスケルトンに向かっていく。
火花が散り、ダメージを受けながらもリビングアーマーを叩き斬り、潰す様はまるで英雄だった。
ガジャンと大きな音を立て、リビングアーマーの兜が落ち、足に当たる。
魔物同士で争い?
あり得るのか? いや、生存競争ならそうか。
だが
ーーあのスケルトンはなんだ?
瞳に映すスケルトンはカタカタと歯を慣らしながらこちらを見る。
通常のスケルトンより一回りくらい大きい。
さらに異常な点は・・・装備がしっかりしすぎている。
まるで、騎士だ。
「クロークス!これと戦うのか⁉︎」
スケルトンを見つめながら叫ぶと、クロークスは首を振る。
「ダメだ!撤退だ! また日を改めよう! 勝てる相手じゃない!」
瞬間、スケルトンの姿が消え、一瞬で前に現れた。
下から振り上げられる大剣を回避し、一歩下がるが、拳が胴体を貫き、衝撃を生む
「ガァっ・・・・・」
鈍痛がひびき、肋骨が折れる。
足が地面から離れ、壁に身体が打ち付けられる。
呼吸が出来ない・・・
口が血が溢れてるのか? 額が割れたか?
霞む視界は地面を見つめ、上手く状況が把握出来ない。
「フィーニスちゃん!ダリアを連れて逃げろ!」
クロークスの声が小さく響く。
「クロークス!あなたは⁉︎ それに、赤なら勝てるんじゃないの⁉︎」
極限の焦りがこもった言葉をフィーニスはクロークスに投げかける。
赤等級は冒険者の憧れのような存在だ。だから・・・
「悪いがそれは出来そうにない! あのスケルトンが身につけてる鎧! 魔法攻撃に耐性がある! いくら殴っても俺じゃ・・・」
瞬間、スケルトンが大剣を投げクロークスの脇腹をえぐる。
「ぐぁぁぁぁぁぁ!」
血が溢れて、クロークスは倒れた。
うずくまり、痛みに耐える。
傷口を強く抑え、止血に集中する為に呼吸を浅くした。
スケルトンは大剣を拾わず、フィーニスに近づく。
「・・・クソっ!」
カツンっと乾いた音が反響した。
フィーニスが握った拳が放たれ、スケルトンの鎧を殴ったのだろう。
だが、それは兵器に石ころをぶつけるようなものだ。 子供でも、無意味だと理解ができる。
やられた事を真似るように、スケルトンが拳を握る。
甲冑が擦れ、金属音が響く。
瞬間、目にも止まらぬ速さで拳が打たれ、鈍い音と共にフィーニスは気絶した。
霞む視界で俺はそれを見ていた。
スケルトンの赤く光る瞳が俺を一瞥する。
大剣を拾い上げ、どこかに去っていった。
「なんだ・・・アイツ・・・。 クロークス・・・フィーニス・・・」
俺は壁に寄りかかるように座っていたが、座っているのもキツくなり倒れてしまう。
「クソッタレ・・・」
そしてゆっくりと意識を手放した。




