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闇は冷たく広がる。
「ダリア、フィーニスちゃん。腰にランタンを、君たちの分も俺が持ってきたから」
そう言ってクロークスは小さなランタンを俺たちに手渡す。
「松明じゃ駄目なのか?」
「松明が駄目な訳じゃない、ただ・・・松明を持つと生存率が下がる。 片手が塞がった状態で戦えるほど、この迷宮は甘くないよ」
ランタンに火打石で火をつけ、腰に巻きつける。
「ダリア・・・」
フィーニスは巻き付け方を知らないらしい。
「ちょいと貸してみ」
フィーニスからランタンを受け取り、腰に巻きつける。
「ファントムはどのあたりにいる?」
「かなり奥! ファントムはあまり手前には出てこないんだ」
俺の問いにクロークスが答える。
テンションは先程とあまり変わらないが、声は抑え気味だ。
「奥?直線か?」
「いや、この迷宮は俺たちがいるところを中心に円形に広がる。 多少の高低差と入り組んだ地形は迷いやすいから注意してくれ。 ファントムは霊体なんだけど・・・半分は魔力の身体だ。奥は魔力の瘴気で満ちてる」
「なるほどな」
そう言って歩こうとするが、線を越える前でクロークスに止められる。
「なんだ、早く行かないと」
「武器を抜いてから侵入するんだよ。奇襲があるかもしれない」
・・・魔物が奇襲?ありえない。
「はぁ、わかったよ」
俺はありえないと思いつつも短剣を握り、鞘から引き抜く。
「行くか」
俺が線を越えた瞬間、視界の外から凄まじい勢いで何かが飛んでくる。
音に惹かれ視線を向けた瞬間、尖ったものが視界に一瞬映り、頬を掠める。
切れた皮膚から血が溢れ、赤い雫が頬を伝い、顎から落ちる。
「ダリア!」
クロークスとフィーニスが叫ぶ。
俺は闇から視線を逸らさない。
カラカラと音が鳴り、骨の身体が闇から姿を現す。
紫色に瞬く瞳が俺を睨み、捉えた。
「・・・銀等級・・・スケルトンアサシンか⁉︎」
俺が叫ぶと、クロークスが雷を纏い始める。
「スケルトンアサシン⁉︎ こんなに浅いとこまで来てるのか⁉︎」
クロークスはそう叫び構えた。
スケルトンアサシンは姿勢を低くし、走り出す。
アサシンと言われるだけあり、スピードもそこそこ、かなりアクロバティックな身体捌きで距離を詰めてくる。
壁を蹴り、短剣を抜き、切り裂く。
「案外早い!」
短剣で小さな攻撃を受けとり、衝撃をうまく流す。
瞬間、クロークスの拳がスケルトンアサシンを貫いた。
粉砕され、飛び散る。
だが、クロークスは攻撃の手をやめなかった。
「クロークス⁉︎もう倒したんじゃないのか⁉︎」
「まだだ、コイツらはそんなすぐに死なない! アサシンがいるならきっとアイツもいる!」
アイツとはなんのことだろうか。
スケルトンアサシンも情報だけしか知らず、本物を見たのはこれが初めてだ。
「だ、ダリア! 奥、もっと奥!」
フィーニスが闇に指を刺し何かを警告する。
瞬間、風を切るような音と共に、闇の中に薄緑色の光が発生する。
「な・・・なんだあれ・・・」
その直後、クロークスが粉砕したスケルトンアサシンが再生を始め復活する。
それに加え、闇の中からさらにスケルトンが生まれる音が響いた。
「もう来たのか⁉︎」
クロークスが歯を食いしばり、闇を見つめる。
そして口を開いた。
「・・・スケルトンプリースト・・・」
スケルトンプリーストだと?
クロークスが漏らしたその言葉には聞き覚えがなかった。
「クロークス!なんなんだあれ⁉︎」
「スケルトンプリーストだ、奴を最優先で叩けぇ!」
そう叫びながらクロークスは地面を叩く。
ひび割れた地面から雷が伝わり、前方に広がる。
「オラオラオラァァァァァ!」
雄叫びを上げながら地をかけ、壁すらも道として扱う戦い方は赤等級にふさわしかった。
だがスケルトンの数が多すぎる。
プリーストに近づくまでに破壊されたスケルトンは再生を完了して壁となる。
糸口を見つけなくてはスタミナ勝負で不利だ。
今回はあいにく粉はない。
粉塵爆発は出来ないだろう。
それに、出来たとしてもクロークスやフィーニスを巻き込む可能性がある。
仲間を危険に晒すリスクがあるなら避けるべきだろう。
こうして考えている間にも戦況は変わり続ける。
「ダリア! あの冒険者を組み伏せた動き、あれ出来ないのか⁉︎」
出来ない。
まだ言っていない条件がある。
俺は小さく首を振り、視線を巡らせる。
「フィーニス! 時間稼げるか⁉︎」
俺が叫ぶと、フィーニスは頷く。
「何するつもり⁉︎」
「今考え中!」
そう言うと、フィーニスは頷き、深呼吸をする。
「時間稼ぎね・・・了解!!」
そう言ったフィーニスは姿勢を屈め、地面に手をつく。
瞬間、両手両足の一部だけが獣化を始める。
腕は手を含め肘ほどまで、足は膝より少し上あたりまではフサフサで柔らかそうな毛が生えてきた。
「部分変化もできるのか⁉︎」
「まぁ・・・・ねっ!!」
直後、フィーニスの姿が消え、スケルトンが宙を舞う。
フィーニスの戦い方は、女の子にしては猛々しく、無骨だった。
獣化に伴い変化した鉤爪でスケルトンを切り裂くが、やはりプリーストの治癒に勝ることは出来ない。
「でも、処理能力は増えた。1秒でも治癒を止めれば俺らの勝ち」
俺は石を拾う。
拳ほどしかない石だが、投擲には十分だろう。
右腕を引き、構える。
「よいしょ!」
その掛け声と同時に石を思い切り投げる。
投げられた石は凄まじい・・・訳でもない普通の速度でスケルトンに直撃する。
理想は、スケルトンに直撃した瞬間、ガシャンと音を立てて崩れる事だが、石を当てられたスケルトンプリーストは首を傾げながら石が当たった頭部を掻いている。
まさかのノーダメージ。
少しくらい痛がれ。
だが、治癒を中断するほどの気は引けた。
「クロークス!フィーニス!今だっ!」
瞬間、バラバラとスケルトンの群れを砕いていく。
プリーストの治癒が消えてからは、数十秒で片付いた。
「ダリア、すごいな」
クロークスが笑いながら俺に話す。
「あぁ、いいコントロールだろ? 石投げたのにアイツノーダメージだったけどな」
そう言うと、クロークスの顔が赤くなる。
さらに激しく笑いそうなのを抑えているのだろう。
腹を抱え、堪え、クロークスは前を歩く。
その後ろにフィーニスが。
2人の背中を見つめ、俺はため息を漏らす。
「俺いるか?」
そう愚痴を漏らしながらも、歩き出した。




