12
オアシスグレイスにもギルドはある。
帝都や皇都と比べるとかなり小さいが、それでもしっかりとしたギルドだ。
ギルドの扉を開け中に入ると、銀から金の腕輪をつけた冒険者が視界に入る。
受付を見つけ、受付嬢に声をかける。
「すまない、冒険者登録をしたい」
「冒険者登録ですね! えっと、登録される方はどなたですか?」
受付嬢にそう言われ、フィーニスを見る。
その視線に釣られたのか彼女もフィーニスを見つめ、首をかしげる。
「・・・奴隷ですか?」
「問題ないはずだ」
そう言うと、受付嬢は俺たちとフィーニスを交互に見つめ、何かを言おうとする。
それは多分、俺も、クロークスも、フィーニスも聴きたくない言葉だ。
「仲間だ。 冒険者登録を頼む」
俺の表情を少しみた後、受付嬢はため息を漏らし書類をいくつか出す。
「でしたら、この書類にサインをお願いします」
そう言いながら紙とペンをフィーニスに渡す。
だが、ペンを受け取ったフィーニスの手が止まった。
「・・・フィーニス?」
「ダリア、文字書けない」
これは誤算だった。
読めるし、会話ができるからてっきり読める物だと思っていた。
「すまん、俺が書いてもいいか?」
そう受付嬢に問うと、彼女はにっこりと笑って許可を出してくれた。
ササッと紙にサインをし、受付嬢に渡す。
じっくりと目を通す。
よし、と小さく呟いてこちらをみた。
「では、少しお待ちください。 腕輪を取ってきます」
そう言って受付嬢は姿を消す。
「・・・長くなるかな?」
「わからないわね」
そんな話をしていると、周囲からヒソヒソと話す声が耳につく。
「奴隷なら肉壁にするのが常識じゃないのか?」
「アイツら、奴隷を冒険者にしてるぞ」
はぁ・・・奴隷関係の話は帝都だけじゃないのか。
すると、背後から重厚感のある足音が響く。
「おいおい、奴隷を冒険者にすんのか? 冒険者にしなくても奴隷は迷宮に連れて行けるって知らないのかよ? それとも何か? 奴隷も仲間だとか言っちゃう? 奴隷がすることなんか、俺らの肉壁か、下についてる穴で気持ちよくすることだけだろう⁉︎」
なぁ!と言いたげな表情で男の冒険者は他の冒険者に同調を求める。
俺はゆっくりと振り返ると、俺より少し背が高く、やけに光る鎧に身を包んだポニーテールの男が立っていた。
等級は金。ピアス、指輪、ネックレスなどアクセサリー類を多くつけ、よく遊んでいる印象を受けた。
「おい、聞いてるのかよ兄ちゃん!」
そう言って、俺の頭に手を触れようとしたとこで、クロークスががっしりと相手の腕を掴む。
「やめてもらえないかな?」
「あぁ? ずいぶん若く見えるが・・・赤等級? 赤等級なんかが銅級と奴隷とつるんでるのかよ!」
周囲の冒険者が笑う。
俺はふつふつと怒りが腹の底から湧き上がる。
体が熱くなり、ゆっくりと手を短剣にかける。
よく見ると、クロークスの右手は強く握られ、プルプルと震えていた。
怒りを抑えているのだろうか。
「ダリア、クロークス。私は大丈夫だ。 あまり怒るな」
「フィーニスちゃん・・・それは出来ない、互いに心配し、支え合うから仲間なんだ、今怒らないと仲間じゃないんだよ」
フィーニスとクロークスが小さな声で話し合う。
すると、視界の外から声が響く。
「おい! 黒髪の兄ちゃん! その穴使い終わったら俺らにも使わせてくれよ! やっぱり使ってやらねぇと可哀想だからよぉ〜!」
「かはっ! そりゃいい・・・」
プチッと何かが切れ、俺は動き出す。
ポニーテールの冒険者を組み伏せ、ナイフを首に当てる。
「な・・・み・・・見えな」
「話すな」
首に当てたナイフが皮膚を切ったのか、少量の赤い雫が流れ出す。
「動いたら殺す。 話しても殺す。 口を開くな」
その言葉に男がピタリと動きを止める。
「お前らも!!」
俺は叫び、ギャラリーを睨む。
「俺たちがギルドにいる間は口を開くな。 わかるだろ」
そう言うと、騒いでいた奴らは席についた。
それを確認して俺はナイフを腰に仕舞う。
組み伏せた男の肩を叩き、立ち上がる。
「ダリア、もう十分伝わった。フィーニスちゃんも怖がってる」
クロークスにそう言われフィーニスを見ると、耳がペタンと倒れている。
心なしかクロークスの顔も引き攣っている。
その時、受付嬢が走って戻ってきた。
やけに静かになったギルドの様子を見て、首をかしげる。
だが、すぐに表情戻して説明に入る。
「では、フィーニスさん。利き手を教えてください」
「あ、はい。 左手です」
「では、右手首に腕輪をつけますね! すでに身体強化付与があります。 装着して数分後に恩恵が付与それます。 その恩恵は人によって違く、似ている恩恵があっても同じ効果の恩恵は存在しません。また、第三者に知られることはありません。 情報は武器になります。恩恵の効果を共有するのは自由ですが、人を選ぶように」
そう言われて、フィーニスは自分の右手首につけられた腕輪を見る。
「では、試験の内容を説明しますね」
「わかった」
フィーニスの顔が真剣なものに変化する。
「今回の試験はオアシスグレイスの地下迷宮で行います。 魔物の強さは最低でも銀からとなりますのでご注意を。 お二人もサポート、共闘していただいて構いません」
それを聴き、俺とクロークスは頷く。
「今回倒してもらうのは、ファントムです。 ファントムには物理攻撃は不可能。 エンチャントをした武器でのアタックか、憑依中の場合のみ、憑依体の破壊などで討伐が完了です」
「憑依体の破壊?」
俺の質問に、受付嬢はさらに話す。
「はい、地下は死亡率が高いため死者の遺体や武具がそのままです。 アンデット、スケルトン、リビングアーマーなど、個々でも存在しますが、ファントムが憑依した個体は強化されます。 その個体を討伐すると、なんとも言葉では言い表しにくい結晶をドロップします。 それを討伐証明として5つ、ギルドに納品してください。 以上です」
これが終われば、フィーニスは冒険者になる。
上手くいくといいが・・・




