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目をキラキラと光らせながら服を選ぶフィーニスを見つめる。
「なによ、気持ち悪い眼差しを向けないで・・・」
すると、その視線に気づいたのか、フィーニスが「うわぁ」と言った表情で俺を冷たく見る。
「あぁ、いや、すまん。 なんか、そんな風にも笑うのかと思って」
そういうと、フィーニスは少し寂しそうな顔をした。
鮮やかな色をした服を手に取り、鏡の前で自分の体に当てながら話す。
「私の家は貧乏だったから、綺麗な服なんて着れなかったの。 もちろん、『生きていく』だけに生活するなら別に普通の家庭だったわ。 でも、服とか、嗜好品、趣味にお金を回そうものならすぐに底を尽きてしまう。 そんなギリギリの生活よ」
「そうだったのか・・・」
「まぁ、生きているだけいいと思え、生活出来てるだけで幸せだ。 そういう人もいるけど、やっぱり贅沢をするのって一つの夢だったのよ。 冒険者が何となく服を1着買う。 そんな行動が私たちには数年に一度あれば、天地がひっくり返るんじゃないかと思うくらい贅沢なことだったの」
そう言いながらフィーニスは色々な服を見ていく。
確かに、かなり長い時間吟味しているようだ。
好きなものを好きなだけではなく。本当にほしい物を一つだけ。 それが彼女の生き方なのだろう。
「好きに選べ、大丈夫だ」
「本当に? 本当に大丈夫?」
俺の言葉にフィーニスは何度も聞き返す。
「あぁ、大丈夫だ」
そう言うと、フィーニスの顔が明るくなる。
クルクルと回ったフィーニスの体に違和感を覚える。
「待て、フィーニス。 お前、服の中、尻の部分に何隠してるんだ?」
「え? 何も隠してないけど」
明らかに何かが動いている。
動物か? また別の・・・毒とか虫とか・・・
「ちょっと見せてみろ」
「うぇ⁉︎ いやいや、ご主人でも急にはダメじゃない⁉︎ ちょちょちょ」
服を少し捲り上げると、少し短めのふわふわとした毛が顔にあたる。
「・・・尻尾?お前、尻尾あったのかよ」
「恥ずかしいから早く服離して、それに獣化の時もあったじゃん!」
言われてみればそうだ。
確かに・・・
少し短めだから服に隠れて見えなかったのか。
服を自由に選べると言う嬉しさから尻尾を振ってしまい、それが服の中で揺れてたのか。
「すまんすまん。 心配したんだよ」
「・・・そう言うことにしといてあげる」
冷たい目で俺を睨む。
ーーそんな目で見ないでくれ。
瞬間、背後から肩を叩かれる。
「見つけた」
振り返ると白髪の青年、クロークスが立っていた。
「クロークス? 飯は食ったのか?」
「あぁ、ちょろっとだけなぁ。 そんなのは今はいいんだよ!」
声は明るいが、目は笑っていなかった。
「ダリア、そっちの人は?」
「あぁ、クロークスだ、俺たちを助けてくれた命の恩人」
フィーニスにそう言うと、彼女は少し頭を下げ、会釈した。
「ダリア、少し話せるか?」
クロークスがそう言って俺を見つめる。
フィーニスに視線を送ると、少し不安そうな顔を浮かべる。
「場所移した方がいいか?」
俺がそう言うと、クロークスは頷く。
俺はポーチに手を入れ、財布を取り出す。
その財布をフィーニスに投げ渡す。
「ダリア?」
「少し離してくる。好きな物を買っていいぞ」
そう言うと、フィーニスは財布に目を落とし、少し考える。
「持って逃げるかもよ?」
「それならそれで良い。 でも、しないって信じてる。 ほしい物を支払ったら店の前にいてくれ、すぐにいく」
そう言って俺はクロークスと店を出る。
少し離れた路地にはいり、話を始める。
「で、何があった?」
「ダリア達はこの後どうするんだ?」
クロークスにそう言われ、少し考える。
「まぁ、影を撃退した奴がクロークスって知れたし、一度帝都に戻るかな」
「だよな、その事で話がある」
そう言ったクロークスの言葉に俺は眉を歪める。
「しばらくはオアシスグレイスの領地から出られないかもしれない」
そう言われて、俺の眉はさらに複雑な形を極める。
「どう言う事だ?」
「ダリア達、オアシスグレイスに来る時サンドワールの群れに遭遇しただろ? その中に一際デカいのがいなかったか?」
たしかに、サンドワールと比べて遥かにデカい個体が居たのを思い出す。
「居たわ、居た居た」
「そいつ、グラウンドワールって言ってサンドワールを統率してる個体なんだが、最近そいつの動きがさらに激しくなってる。 オアシスグレイス周辺を旋回するように回って、他の魔物も食い漁っている状態だ」
「それのどこが問題なんだ?」
俺がそう言うと、背後から足音と共に少女の声が響く。
「逃げられないわね」
「フィーニス・・・?」
純白のワンピースに身を包んだフィーニスが現れた。
「グラウンドワールのトップスピードには、私達は敵わない。いくら頑張っても餌になるのが目に見えてるわ。 それに、サンドワールは金等級に近い銀等級。 その魔物をあれだけの量統率するなら・・・最低でも赤等級並みか・・・最悪は黒・・・」
話しながらフィーニスの顔が険しくなる。
「倒せるのか?」
「生きてる以上倒せはするが・・・術がないんだ」
俺の問いにクロークスが唇を噛む。
「でも、倒さないとオアシスグレイスもやばいだろ」
そう言うとクロークスは頷いた。
そしてクロークスはフィーニスを見つめる。
「それに、フィーニスちゃんは冒険者じゃない。早めに冒険者登録をしないと・・・んん・・・言い方は悪いがすぐに死ぬぞ。 オアシスグレイスの地下に迷宮がある。 強敵ばかりで試験には向かないが・・・力を示すには十分だ。 冒険者は銅級から開始するもんだが、上手くいけば銀・・・金級からぶちこめるかもしれない」
「なら、フィーニスを冒険者にして・・・時間はあるのか?」
フィーニスを冒険者にする提案は否定しない、だが、それまでの時間があるかわからない。
「大丈夫だ、街を襲うのもそんなに早い話じゃない。問題は、『出れない』って事だ。 次を目指すなら、何か他にしたいことがあるなら早めに行動を起こした方がいい」
そう言われ少し考える。
「もし、もしだ。 フィーニスが冒険者になったとして、勝ち目は? 俺は銅級だ。 クロークスは赤だが、黒等級格の化け物の戦って勝てるって自信はあるのか?」
「銅級?知ってるよ。 でも、何か裏があるんだろう?冒険者でもない少女と、銅級の冒険者がサンドワールの群れに遭遇して生きてるのはおかしい。 何か隠してるだろ?」
クロークスは目を細くしながら俺を睨む。
俺はため息を漏らし、フィーニスとクロークスを交互に見つめる。
「はぁ・・・わかったよ。やってみよう。 最初は・・・フィーニスを冒険者にするところからだ」
「任せなさい」
フィーニスは腰に手を当て、フフンと自慢げに胸を張る。
クロークスは拳を打ち、ニヤリと笑った。




