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俺はすぐに酒場を出て、ある場所に歩く。
帝都に向かうためだ。
今回は都合がいいことに、最初の目的地は帝都だ。
皇都は帝都の直接の傘下にある。それに加えて、帝都と皇都間での取り引きなどを円滑に進めるために毎日何百と馬車が動く。
しかも無料だ。
タダよりいい響きはない。
稼ぎが少ない我々銅級冒険者は助かる。
馬車乗り場に行き、帝都に向かう。
道中はしっかりと守られ、魔物の群れに襲われることはない。
1日もすれば帝都に着く。
馬車に乗り、座る。
馬車が動き出し、車体が揺れる。
だが、やはり馬車の性能か、素材が違うのかクッション性があり、安い馬車とは揺れ方がかなり変わる。
落ち着く揺れに眠気に襲われ、瞼を閉じる。
向かう先は帝都だ。
ゆっくりと目を覚ます。
こんなにしっかりと休んだのはいつぶりだろう。
小さなカーテンを開け、窓の外を見ると暗い夜空の奥が青白く光る。
「夜明けか・・・」
かなり眠ってしまっていた。
短剣を取り出し、汚れを拭く。
ポーチの中身を整理し、金銭を数えて、また背もたれに全ての体重を預ける。
「オアシスグレイス・・・どんなとこだ」
歴史の上では壊滅した都・・・と言われている。
数百年・・・いや、もっと前だっただろうか。
何かに巻き込まれ都は崩壊、壊滅した。
魔物の活性化がなくとも過酷な環境が続く地域なゆえに復興が間に合わずに当時の姿が残っていると言われる。
問題は『何か』とは何なのか。
文献はなく、言伝の情報も皆無。
壊滅した理由はいまだにわかっていない。
つまり、現在生きている人間は、全員真実を知らないままでいる。
「・・・ふぅ」
思考を巡らせ、少しだけ脳が疲れたのか、無意識の内にため息を漏らす。
窓の外に目を向けると、要塞の様に大きな都市、帝都を朝日が映し出していた。
「帝都・・・」
帝都にくるのは初めてだ。
皇都とはかなり違う。
外から見ただけでも、サイズ感などが比にならない。
デカすぎる。
朝日に照らされた帝都は黒くシルエットを浮かべる。
「そういえば・・・仲間を見つけてパーティを組めって言ってたよな・・・」
帝都に入ってから最初にすることは仲間探しだろうか。
かなり骨が折れそうだ。
スカウト・・・銅級と組み死地に足を踏み入れる輩はいるだろうか。 否だ。
いるわけがない。
もしそんな奴がいたらヤバいやつに違いない。
こっちから願い下げだ。
巨人でも通るのかと勘違いするほど大きい正門をくぐり、馬車が止まる。
馬車の扉を開け、降りると賑やかな声が広がる。
早朝のはずだが、騒がしく、お祭りでもしているのかと思ってしまう。
〜帝都 ホロウヴェール〜
俺がキョロキョロと周りを見ていると、妖艶な女性に声をかけられる。
「お兄さん、観光かい?」
金髪で巨乳。
スタイルはよく、谷間が露出していて少しずれたら先端まで見えてしまいそうだ。
ーー早朝からなんつー格好してんだ・・・
プルンと揺れるたわわな胸から目を逸らし顔を見る。
化粧は濃いが顔は整っている。
化粧をしていなくても綺麗な人なんだと、一目でわかった。
「いや、観光じゃないんだ。 オアシスグレイスに行きたいんだが、なんせ初めて帝都に来たから方向が・・・」
そういうと、女は俺の体をジロリと見つめる。
舐め回す様にじっとりとした視線に鳥肌が立つ。
「銅級・・・?悪いことは言わないから、オアシスグレイスはやめておきな。 それとも・・・自殺志願者かい?」
女は冷たくそう言った。
「自殺志願者じゃない。 依頼だ」
「ふーん・・・銅級に依頼を・・・それもオアシスグレイスに? その依頼者は相当イカれてるね」
女は手をヒラヒラとさせながら冷たく言い放つ。
「まぁいい、ここであったのも何かの縁だ。 ついてきな。案内くらいはしてあげるよ」
そう言って先に歩く女についていく。
道中、女は数多くの男に声をかけられる。
「有名なんだな」
「そりゃあね、みんな私の客だもの」
女はそう言った。
「客? 店でもしてるのか?」
「えぇ、やってるわよ? この身体を使って男を気持ちよくする仕事・・・疲れたらあなたも私の店に来なさい。 沢山気持ちよくさせてあげる。指名・・・待ってるわ」
女は自身の胸を掴み、乱暴に揉みながら見せつける様に言った。
「そうか。 世話になる時があったら頼む」
俺は視線を逸らし、そう呟く。
「ふん・・・釣れない男」
そんな話をしているとある場所で女が立ち止まる。
「何だ?」
「ここがオアシスグレイスに繋がる道。 衛兵の許可を得て、初めて入ることができるわ。 審査は難しくないし、数分で終わる。 その先の命の保証はしないけどね」
目の前にはトンネルの様な長い通路。
「ここを通ればオアシスグレイスか?」
「正確には違うわ。 ここを通れば砂漠に出る。あとはオアシスグレイスを探すだけ。 言っとくけど、自殺行為。 一直線にオアシスグレイスを目指しても3日はかかると言われてる。 方角もわからない砂漠に放り出されて、3日で済むはずがない」
女はそう言った。
確かにそうだ。
北とは言われたが、こんな感じなのは予想してなかった。
騙されたのか・・・いや、言っていることは間違ってなかったか。
俺は長い通路の先を見つめながら溜息を漏らした。




