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ShadowSraid  作者: 鬼子
厄災の帰還編
1/98

1

 バシャっと水溜りを踏む音が響き、暗い洞窟内を音が駆け巡る。


「・・・・・・・!!」


 音としても聞き取れない魔物の声が背後から響く。

 続くように幾つも足音が響く。

 確実についてきている。

 ゴブリン退治は一人でやるようなもんじゃないな。

 とは言っても、冒険者になりたての俺にはパーティを組める人間なんかいない。それに、誰が初心者と組みたがるだろうか。


 暗い洞窟内では自身の手すら視認するのが難しい。

 安く脆い短剣と、薄い革鎧じゃ上手く戦えないのなんてわかっていたはずだ。


 ゴブリンどもの死角になるような岩に隠れ、足音が過ぎ去るのを待つ。


 冒険者。と言うものを始めて1ヶ月・・・いやもう少したっただろうか。

 始めたての時は知識も経験もない。そのため死にやすい。

 かなり生き残っている方だろうか?


 同じ日に冒険者になった奴らは生きているのだろうか。

 左手首つけられた銅色の腕輪をみる。


 冒険者の中では最低ランク。

 銅色の腕輪はこの期間ではあがりすらしなかった。

 もう少し、簡単だと思っていたんだがな。


 その時、パシャリと水を踏む音が響く。

 ゴブリンか?

 暗い視界じゃ何も見えない。


 匂いを嗅ぐように何かを細かく吸い込む音が響く。

 瞬間、隠れていた岩を飛び越えゴブリンが現れる。


「クソ!」


 俺は右手に持っていた短剣を握り込み、駆け出す。

 高さはわかる。


 喉に一撃。


「・・・・・ッ!」


 ゴブリンの喉からドロリと血が溢れ、短剣を握る手を滑らせる。

 それに気づいたのか、背後から複数の足音が響く。


 数は3体。

 暗殺や隠密に向いたスカウトの属性を持つ俺は、音で感知し数を把握する。


 風を切る音が聞こえ、頭を下げる。

 瞬間、棍棒が死体となったゴブリンの顔面を振り抜き、骨が砕ける音が洞窟内に響く。


「これで2体目!」


 喉に刺さった短剣を抜き、顎の下から脳を貫くように振り上げる。

 バグンッと低く鈍い音が響き、右手に暖かい鮮血が流れる。


 あと2体。

 俺は腰から投げナイフを取り出し、真っ暗な闇に投擲する。


「・・・・・・!!」


「!・・・・・!」


 上手く攻撃として当たったのか、ゴブリンの話し声が聞こえる。

 だが、ゴブリンが扱う言語は俺たち人間にはわからない。


 闇の中を一気駆け出し、短剣を突き刺す。

 重い感覚を引きずり、洞窟の壁に当たったところで短剣を抜く。

 ヌルリと短剣が右手から滑り、地面に落下する。


「はぁ・・・ダメか」


 瞬時にゴブリンが持っていた手斧を拾い上げ、最後の一体にトドメを刺す。

 脳天に斧を振り下ろすと、骨が砕け肉を潰す音と共に体は倒れた。


 小さな巣穴のゴブリン退治完了。

 ゴブリンの耳を剥ぎ取り、討伐証明として持ち帰るために袋に詰め込む。


「帰るか・・・」


 洞窟の中を歩き、外に出る。

 朝に侵入したが、もうすでに夕日が出ている。

 緩やかな風が頬を撫で、黒い髪を揺らした。


「よし、戻ろう」


 一流の冒険者は馬車などを使うらしいが、生憎そんなに裕福出来るほど金は持ち合わせていない。


 冒険者はゴブリン退治だけでもかなり稼げる。

 だが、稼げる分、出費も多い。

 ポーションや武器、防具だ。

 それに自身が扱う属性により、小物も増える。

 俺の場合はスカウトの属性を扱うから、投げナイフや毒とかだ。


 長く続く道を歩き、陽が沈む頃。俺は街の門をくぐる。


 〜皇都 アイヴェール〜


 石畳の道を靴を鳴らしながら歩き、冒険者ギルドの戸をあける。

 一際明るく、さまざまな声が飛び交うギルドは、交流の場でもあった。


「あ! ダリアさん!」


 そう言って俺の名前を呼ぶのは受付嬢の娘だ。


「戻りました」


「はい、確認しますね・・・えっと」


 資料をペラペラとめくり、娘は目を通す。

 カウンターに耳を起き、中身を確認してもらったら依頼が完了だ。


「では、こちらの耳は預からせていただきますね。横の換金所でお待ちください!」


 そう言って換金所に促される。

 ゴブリンの耳を持ち帰ったのには理由がある。

 もちろん、依頼の証明もあるが、依頼料とは別に追加報酬が出るのだ。


「次!!」


 換金所から声がかかり、顔の見えない壁の向こうから乱暴に報酬金がトレイに乗って出される。


「相変わらず乱暴だな・・・」


 金貨が1枚と銀貨が3枚・・・まずまずの報酬だな。

 正直、金貨の価値は相当高い。

 金貨1枚あれば、宿を5日は借りられる。


 この報酬なら、1週間は働かずに食っていけそうだ。


「ダリアさん」


 報酬金を袋に詰めていると、視界の外から声がかかる。

 見てみると、受付の娘が立っていた。


「どうしました?」


「少し飲みに行きませんか?私は仕事が終わったんで」


 そう誘われた。

 まぁ報酬金が入ったばかりだ、多少豪遊しても痛手にすらならない。

 どこかでポーションを仕入れても・・・うん。余裕だ。


「いいですよ。 なら近くのレストランにでも行きますか」


 俺はそう言って彼女と共にギルドを出て、夜の街を歩く。

 

「最近調子はどうですか?」


「まぁ、ぼちぼちです」


 彼女がここまで俺を気にかけるのは、昔からの知り合いだからだ。

 特に特別な関係ではない。 幼馴染・・・と言うには距離が遠い・・・知人と言うには距離が近い。 そんな微妙な距離感だ。


 だから、互いに気を遣いつつも、こうして話したり、たまには飲みに行ったりもする。


「今日は、やけに街が明るいですね」


 キラキラと光る街並みを眺め、違和感を覚える。

 いつも華やかな皇都だが、今日は一段と明るく、キラキラしている印象だ。


 そんな話をしながら店の戸を開け、席に着く。


「それはそうですよ。 今日・・・魔王が倒されたんですよ。英雄たちによって!」


「魔王が?」


 なるほど。それでか。

 彼女が大きな胸を弾ませながら嬉しそうに言う。

 魔王が倒された。


 世界を脅かしていた魔王が倒されたのなら、魔物たちもおとなしくなるだろう。

 仕事が減るかもしれない。 今後は節約も考えつつ、依頼をこなして金を作らなければ・・・


 度数の高い酒が入ったグラスを傾け、口で転がす。

 ふわりと酒の香りが鼻から抜け、クラっと視界が少し揺れる。


 瞬間、扉を蹴破って店の中に入ってきたパーティがいた。

 視線を向けると、金髪にガッチリとした体格。甲冑は光り輝き、腰には太い銀色の剣を携えている。

 左手首に嵌められた腕は、深く濃い赤色をしている。


「魔王討伐ご苦労さん!」

 

 男は乱暴に椅子に座り、店員に注文をする。

 属性は戦士か? いや、魔王を殺せるくらいなら聖騎士か?


 男に付き合うように女が一人、男が二人ついている。

 四人のパーティか?


 女は服装的に属性は格闘家タイプだろう。

 オドオドした小柄な男は魔術師だろうか?

 最後に、パーティ内で一番大柄な男は・・・ヒーラー? 僧侶か神官の類だろうか。


「飯はまだかよ! 世界を救ったグレイ様の注文だぞ! 最優先でやるだろ普通!」


 すでに酔っているのか、かなり荒れているように見える。

 俺と共にいる娘を見ると、眉を歪めかなり嫌そうな顔をしている。 出るべきか。


「店を変えましょう」


 俺は彼女の手を引き、席を立つ。

 食事代を支払い、店を後にする。


「すいません。誘った日に限ってこんな」


「いえ、そんな日もあります。店を変えれば・・・」


 すると、背後から魔法の槍が飛んでくる。

 短剣を抜き、地面に叩き落とし相手を睨む。


 すると、先程の男が立っていた。


「俺たちが店に入った瞬間に出て行くなんて、態度が悪いんじゃないか?」


 ガチャガチャと音を響かせながら近づいてくる。

 赤・・・勝ち目はない。ここはおとなしく。


「いえ、たまたまですよ。 そう見えたなら申し訳なっ・・・」


 瞬間、腹に強烈な一撃を喰らう。

 身体が勢いよく飛び、後ろにあった家屋の壁を破壊した。

 血が口から溢れる。


「ダリアさん!」


 受付の娘が俺の名前を呼ぶ。

 騒ぎになり、周囲にいた人間が散りじりに去って行く。


「お、意外といい女じゃん」


 そう言って、男は乱暴に彼女の体に手を這わせる。


「あんな奴いいから、俺たちと遊ぼうぜ?3人で相手してやるから・・・」


「や・・・やめてっ! ダリアさん!」


 瞬間、パシッと肌がぶつかる音がする。

 霞む視界で視線を向けると、彼女が頬を押さえている。


 叩かれたのか?


「いいから、言うこと聞け!」


「い、いや!」


 俺は怒りのままに立ち上がり、男を見る。


「その人の手を離せ・・・」


 そう言うと、全員の視線がこちらに集中する。

 

「ダ、ダリアさん・・・」


 英雄たちが鼻で笑い、バカにするように嘲笑した。


「ランクは銅。最下じゃないか。 赤に勝てるとでも?」


「いいから離せよ」


 血液が沸騰するような感覚に溺れそうになる。

 アドレナリンが血中に溶け出し、心拍を速くする。


「だから・・・」


『離せ』


 最後の忠告と言わんばかりに言葉をぶつけると、男は手を引いた。


「た、ただの冗談だよ。 そんなにカリカリすんなって・・・ほら、行くぞお前ら!」


 そう言って慌てたように去って行く。

 チッ・・・勘がいいな。 魔王を討伐出来るほどの実力があるなら、本能も磨かれているか・・・


「ダ、ダリアさん! 大丈夫ですか⁉︎」


 彼女が駆け寄ってきて、俺の体を支える。


「大丈夫です」


 俺はアイツらが去っていた道を見つめる。


「どうしてあの人達は逃げたんだろう?」


 彼女が独り言のように呟く。

 俺の心配をして、次にアイツらへの興味。

 自分のことはあまり頭に入っていないらしい。


「俺の恩恵です」


「え?」


 恩恵。冒険者は、冒険者になる時必ず恩恵と言われる潜在能力を一つだけ獲得する。個数に例外はない。

 これは神様からの授かりもの。として『恩恵』や『寵愛』と呼ばれることが多い、一部ではユニークスキルと呼ぶこともある。


「俺の恩恵は『威圧』相手との力量が離れていれば離れているほど、相手の本能に恐怖を刻む恩恵です」


「な、なるほど」


 そう説明しながら彼女の目を見る。


「まだ飲みに付き合ってくれますか?」


「はい、構いませんよ」


 次は俺からの誘いを彼女は快く受けてくれた。

 星空の下、石畳の上を歩く二人の足音が響く。

初めましての方は初めまして!

もうご存知の方はお世話になってます、鬼子です!


数ある作品の中から選んでいただきありがとうございます!

この作品はきっと、私の中では初めてになる長編作品となります。

至らない点もありますが、生暖かい目で見守っていただけたら嬉しいです!


頑張って!楽しく、作品に、キャラクターに命を与えたいと思います!


では! 以上!

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