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錬金術。
それはすっかりと失われた、古の秘術…そう聖都では言われていたのだが。
ゲラルト曰く、案外聖都以外では結構長いこと残ってたらしい。
この辺りでは魔術があまりメジャーな技術ではないので、その代わりだったのだ。
魔石の一大生産地ではあるのだが、ここには教会がない。
教会がなければ、魔石は加工できない。
おかげで魔石はただ教会に売るためだけの、人体に害がある素材でしかないそうな。
埃まみれのソファに座って、錬金術の本をペラペラとめくって読む。
初級だけあって、難しいことはさほど書いてない。
いくつかの薬草を混ぜて初級ポーションを作るとか、解毒薬を作るとか。
優先して作って欲しいらしい物のページには、付箋がついている。
たいていは回復薬で、ここでの暮らしの厳しさが窺える。
魔石は魔物から採れる石なんかはもちろん、魔物と戦わなければ手に入らない。
日々発生する怪我人のことを思えば、ポーションはいくらあっても足りないんだろう。
「ええと、緑の薬草と蒸留水を6:4の比率で調合…?」
なんだ、これなら簡単そうだ。
本から目を離して、部屋の中を見る。
……材料がある気配がないな。
「もしかして、もしかして、探し物?」
「うわびっくりした」
喋る犬、再び。
どこからやってきたのか、私が本に集中してる間に足元でくつろいでいたらしい。
私の考えを読んだかのような問いかけに、ややたじろいでしまう。
「……ここにある緑の薬草が欲しいんだけど、どこで手に入るかな」
「わかった」
喋る犬はひとつ頷いて、尻尾をふりふりしながら外に出ていってしまった。
この家、よくみたら人間用のドアにペット用のドアがついているな。
喋る犬が何をわかったのかは分からないが、もう夜だ。
この土地の勝手がわかってない私が出ていくには遅すぎるし、荒れ果てた新居を掃除することにした。