表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5


「とんでもねえ罰当たりだな、俺が女神様の代わりに殺しといてやろうか?」


男がわざとらしくナタを揺らして、私を脅す。


「やってみていいよ。私も私にまだ女神の加護が残っているのか、確かめてみたい」


本心だった。

私は破門され、今にも壊れそうな馬車に乗せられ、魔物だらけの荒野を突っ切った。

にもかかわらず、まだ生きている。

これは彼女の加護なのか、それともただの偶然なのか。

あるいは今、目の前の男に嬲られるためだけに生かされたのか。


全身痛いし装備は質素なワンピースのみ。

抵抗しようにも、手段がない。

今ここで走って逃げてみたところで、飲まず食わず疲労困憊の私に、一体何ができるだろうか?


男は苛立たしげ顔を歪め、明確な殺気を放つ。


「上等だ、俺がお前にバチを当ててやるよ」


膝を緩く曲げ、男がこっちに駆け出してくる。

あと三歩、二歩、一歩。

ナタが振り上げられた。

私の首に向かって、それが向かってくる。

これが女神かのじょの意志なら、まあいいか。

最後に一呼吸、それから男の顔を見つめる。

瞬間、男が真横に吹っ飛んでいった。


「ちょっとちょっと!!何してんの、馬鹿!!」


いきなり彼に体当たりを喰らわせたのは、男と同じ髪色のふくよかな少女。

なんとなく、血縁関係にあるのだろうと直感した。


荒れた地面に、男が無様に転がっている。

痛みのあまりうめき声を上げる彼に、仁王立ちで少女が言葉を続けた。


「ねえ、今人殺そうとしてたよね、しんっじらんない!もうしないって言ってたじゃん!」


くりくりのくせっ毛が、彼女の言葉と共にぴょんぴょん跳ねる。


「聖女見習いだったくせに、聖石を盗んだやつだぞ。こんなやつ死んだ方が、世の中のためだろうが」


体を起こしながら、男が不満げに答えた。

実際問題、私が(元)聖職者でなければ、死罪で当然の行いだ。


「あんただって、みやこじゃ死刑でしょ!この人にもきっと、何か事情があったんだよ!…ねぇ!」


彼女が私の方向を振り返る。

澄んだブルーグレーの瞳に見つめられて、思わず我が身を素直に顧みてしまう。

私に事情が——あっただろうか?他者に胸を張って説明できるだけの、事情が?


「あの…ちょっと、聖石の構造が気になって……」


「大した理由だなぁおい!」


男が嬉しそうに叫んだ。

少女が、呆気に取られた顔で私を見る。

善良な彼女の期待に応えられなかったことに、さすがの私も心が痛んだ。


——でも、だって、本当に、気になったんだもん。


そう言い募るもの悪手な気がして、言い訳は口の中で溶けて消えた。


喉が乾く。

お腹が空いた。

全身が痛い。

疲労している。

そしてこの、気まずい空気。


困り果てて、女神のおわす天を見上げ——そのまま目眩に襲われて——私は背中から思い切り倒れ込んで、気絶した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ