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シャルム  作者: エイエンノ・チュウニビョウ
第一章 
12/13

目覚め

「……ん?」

 ヘラクレスは目を覚ますと宿の天井を見ていた。

「なんで俺は天井を……」

 そう呟くと記憶が蘇る。ジョンがニヤリと笑っている顔が。

「ジョォォォォン、どこにいる⁉俺はまだ負けていないぞォォォォ!」

 ヘラクレスは大声で叫んだ。そして勢い良くベットから降りるが力が入らず地面に落ちる。それでもヘラクレスは止まらなかった。

せっかくの仇が現れたというのに、ジョンを取り逃がしたという現実を未だに認められない。

 椅子に座って寝ていたヘレナはヘラクレスの叫び声で目を覚ました。そしてヘラクレスが正気ではないのを見ると肩を掴んで制止しようとした。

「ヘラクレスッ、落ち着いて!ここは宿よ、とりあえず一旦落ち着いて⁈」

 隣で寝ていたエレナもヘラクレスの叫び声で目を覚ましてただ事じゃないと思いヘレナの部屋に入った。

「ヘレナ⁈どうしたの?」

 エレナはヘレナに問いかけた。

「エレナッ、ヘラクレスが取り乱して。きゃっ⁈」

 説明しようとしたヘレナをヘラクレスが突き飛ばした。そして突き飛ばされたヘレナは壁に背中を打ち付ける。

「ジョン、まちやがれ!まだ終わっちゃいない‼」

 今のヘラクレスは正気じゃないと知ったエレナはどうすればいいのかと悩んでいるとグレンが部屋に入ってきた。

「何事だ?」

 グレンはそう聞くとエレナは知ってることを簡潔に話した。

 事情を聞いたグレンはヘラクレスに再び視線をむける。ヘラクレスは明らかに自分を制御できていない。彼の目は野生的な狂気に満ち、ジョンの名を呼びながら部屋中を這い回っていた。

「ヘラクレス、落ち着け!」とグレンは大声で叫んだが、ヘラクレスは彼の声に耳を貸さない。それどころか、彼の動きはさらに激しさを増し、部屋の中で荒れ狂っていた。

エレナは心配そうにヘレナを助け起こし、グレンに向かって「グレン、なんとかしないと!」と叫んだ。

グレンは一瞬の躊躇もなく、ヘラクレスに近づいた。彼はヘラクレスの背後からそっと近づき、大きな腕で彼の両肩を掴んだ。「ヘラクレス、目を覚ませ!ここは安全だ!」と力強く言った。

しかし、ヘラクレスは彼の掴みを振り解こうとし、暴れる。グレンは彼をしっかりと抑え、落ち着かせるために力を込めた。ヘラクレスは抵抗を続けたが次第に冷静さを取り戻した。

先程暴れてたのがまるで噓みたいに、ヘラクレスは体から力が抜けていき崩れ落ちる。それをグレンが支えた。そしてヘラクレスをベットに寝かせたグレンは聞く。

「どうしたんだヘラクレス、あんなお前の姿は初めて見たぞ」

 そう言われて動かない首のかわりに視線だけ動かして周りをみるとヘレナとエレナが怯えている。自分のした過ちに気づいた。

「ごめん……二人とも……」

 いつものような優しい口調に戻ったヘラクレスを見てヘレナとエレナはやっと安心して聞いた。

「ほんとよ、あんなに大怪我してたのにあんな暴れるなんて。結構しぶといのねあんた」

 エレナは相変わらずの憎まれ口をたたいた。それに対してヘラクレスは「アハハ……」と申し訳なく笑った。

「でも、本当によかった。いつものヘラクレスに戻って」

 ヘレナはそう言って微笑んだ。

 そしてグレンが質問する。

「しかし、どうやら大怪我してたようだが何があったんだ?」

ヘラクレスは言うかどうか悩んでいる。ヘラクレスは自身が背負ってるカルマに仲間を巻き込みたくないと思う一心、だれかに苦しみを打ち明けたいと同時に思った。そんなヘラクレスを見かねたヘレナがヘラクレスの右手を優しく握った。

「お願いヘラクレス、教えて。私たちは仲間、でしょ?」

 続くようにエレナも言う。

「そうよ、私たちに迷惑をかけたんだから。私たちには知る権利があるわっ」

 そういってエレナはビシッとヘラクレスを指さす。

「ガハハハ、おうとも!」

 グレンがいつもの調子で賛同した。

「わかった。じゃあ話すね。始まりは十年前、僕がまだ七歳で農村にいた頃の話……」


***


「はぁっ⁉はぁっ⁉はぁっ……」

 ヘラクレスは言葉を続けられなかった。過去の話をしてジョンがジェシカを殺したのを目撃したところまで話した時からヘラクレス一気に様子がおかしくなる。

 大量の冷や汗を流すヘラクレスを見たグレンはヘラクレスに声を掛けた。

「もういい‼これ以上は、思い出すなッ」

 ヘラクレスの話を聞いたヘレナとエレナは口を抑えて涙していた。

「そんなッ、なんでジョンはそんなことを⁈」

彼の話を聞いたエレナは、信じられないといった表情で呆然とした。彼女は膝を地面に付け、深く息を吸い込んだ。

その横で、ヘレナは涙をこらえながらヘラクレスの肩を優しく抱きしめた。

一方でグレンはあまり動じなかった。

しかし密かに拳を強く握りしめた。ヘラクレスにトラウマを植え付けただけでなく、こんな大怪我を負わせてエレナとヘレナを悲しませたジョンへの怒りを密かに表した。

「そうか、大変だったなヘラクレス。それで俺たちが先に帰った後、そのジョンが現れてお前はそいつと戦ったんだな?」

 グレンがそう聞くとヘラクレスは頷いた。するとグレンは手をヘラクレスの肩に置いて誓う。

「話してくれてありがとな、ヘラクレス。安心しろ、お前の業は俺も背負ってやる」

 ヘラクレスはそう言われて、嬉しそうな顔をして「ありがとう……」と言った。

 さっきまで壮絶なヘラクレスの過去を聞いて気分が悪くなって嘔吐してたヘレナは涙を目尻に残しながらも強い意志をした目でヘラクレスに誓う。

「あなたのそのカルマ、私にも背負わせてヘラクレス」

「ヘレナ……」ヘラクレスの声は震えていた。

 立ち直ったエレナも誓う。

「あなたにそんな辛いがあったなんて知らなかったわ……ごめんなさい今まできつく当たって。もし許してもらえるのなら、私にもあなたの過去を背負う手伝いをさせて」

 そこにはいつもの憎まれ口を叩くエレナはいなかった。

「ありがとうッ……みんな……本当にありがとうッ」

 仲間のやさしさに感動したヘラクレスは感謝の言葉を繰り返した。

 部屋の外の扉にはヒューイが地面に座り込んで震えている姿があった。

「ヘラクレス……」と呟き、自分の肩を強く抱き寄せた。

 その声には憐れみがあった。

翌日――

 

 ヘラクレスは目を覚ました。

 まだ痛みは残っていたが、身体は普通に動かせた。ゆっくりと身体を起こしたヘラクレスは下半身に何か載っている重みを感じた。その正体を確かめようとして首を下に向けるとそこにはヘレナが上半身だけをベットの横から乗っけて静かな寝息を立てて寝ていた。

 昨晩、トラウマで精神的に不安定なヘラクレスを心配してヘレナは介護してくれたのだろうか。思い出してみると誰かに子供をあやかすように頭を撫でられて、その心地よさに気づいたらいつの間にか寝ていたような気もする。

 ヘラクレスはヘレナを起こさないようにゆっくりとベットを降りて、さっきまで自分が寝ていたところにそっとヘレナを寝かせた。

 そっと優しく布団をヘレナに被せたヘラクレスは軽く額に唇をつけた。

 「ありがとう」と優しく囁いたヘラクレスはその場から立ち去ろうとした。するとヘラクレスは気づいた。

 グレンとヘレナも部屋で寝ていたことに。多分ヘレナと同じ理由で同じ部屋に残ったのだろう。

 グレンは壁に背中を預けて、両腕を組んで地面に座り込んで寝ていた。

 一方エレナは机に突っ伏して寝ていた。机には紙が散らばっていた。よく見てみると何度も書き直した依頼書だった。そこには昨夜話したジョンの特徴があり、情報を持っていたらギルドへ連絡してほしいといった内容だった。

 依頼書。それは冒険者組合の掲示板に貼られるもので、冒険者は掲示板から受けたい依頼を選び受付に特定の依頼を受けたいと申し出る。受付が許可をだすとその依頼は他の冒険者は受けれなくなるといったシステムだ。

 因みに依頼書は誰でも出せる、内容は多岐にわたり雑用や素材の採取から魔物討伐まで。ある意味冒険者とは便利屋みたいなものだ。

 再び仲間のやさしさに感動したヘラクレスはグレンとエレナにも布団をかけた。

 そして部屋から出ると扉の横にヒューイが寝ているのに気づいた。

 扉の開く音に気づいてヒューイが目を覚ました。そしてヘラクレスと目があうと気まずいそうにそらした。

 ヒューイは「お、おはよう。昨日は大変だったね」というとヘラクレスは思い出した。昨日取り乱した後エレナとヘレナが言っていたことを。大神官がくるまでヒューイはヘラクレスの延命をするためスモールヒールをかけ続けていたと。 

「おはようヒューイ、昨日はありがとうね」

 そういうとヒューイは照れくさそうに言う。

「そ、そうかなッ?でも生きていてよかったよ」

 そこでヘラクレスは質問をした。

「そういえばなんでヒューイは扉の横で寝ていたの?」

 そう聞くとヒューイは挙動不審に答えた。

「そ、それはッ。あの、だからつまり」

 慌てふためくヒューイを面白おかしそうにヘラクレスは見て笑っていた。

「あ、あの後少し、君の容態が気になったんだ。そして君の部屋を訪ねたが誰もいなくてね」

 ヒューイは説明を続ける。

「すると君が叫ぶ声が聞こえたんだ!でもさきにグレンが入ったらすぐに状況が収まったみたいでね。それで、その入るタイミングを失っていると聞こえたんだ。君の過去の話を……」

 ヒューイは慌てて否定する。

「ご、ごめんね⁉盗み聞きするつもりはなかったんだ!本当だよ⁈」

 身振り手振りで必死に悪気はないと伝えるヒューイ。

「でも、君の過去を聞いたら悲しくなってね……それで力になりたいと伝えようと思ったんだけど、部屋に入るタイミングが分からなくてね……そのまま座ってたらいつの間にか寝てたみたい……」

 それを聞いたヘラクレスはヒューイを思いっきり抱きしめた。

「ヒューイ……ありがとう、君も優しいね……」

 抱きしめられたヒューイは驚いたがヘラクレスの感謝を聞いてフッと笑った。

「何言ってるんだい?だって僕らは、仲間じゃないか」

 そういってヒューイは優しくヘラクレスを抱きかえした。

「なんだお前ら、そういう趣味だったのか……」

 ヘラクレスとヒューイが抱き合っているのを見てグレンはなんとも言えないようなひきつった表情をした。

 グレンの言葉の意味を理解した二人は否定しようとする。

「いや違うんだグレン、これには事情があって」

「そ、そうなんだグレン、聞いてくr」

 迫りくる二人に恐怖を感じたグレンは振り払うように逃げ去ろうとする。

「や、やめろお前ら!俺を巻き込むんじゃない⁉俺にそっちの趣味はないんだ⁈」

 そんな風に朝から暴れ回る三人の物音に起こされたエレナはドアを勢い良く開けて怒鳴る。

「あなた達いい加減にしなさいッ‼」


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