新世代の若者達
クレストルの続編です。興味を持たれた方は、拙作『クレストル王立軍学校第38期』をご覧いただくと物語の背景や登場人物の関係などがより理解できますので是非検索してみてください。
クレストル王立第一軍学校、デミルズ地方を支配するクレストル王国が良質な士官を育成するために設立した全寮制の学校である。第一とある様に軍学校はクレストル領内に六つあり、ここ王都にあるのはそのうちの第一軍学校である。
以前は王侯貴族の学ぶ上級士官学校と庶民の学ぶ軍学校は分かれていたのだが、三十年ほど前に両者は統一され、王侯貴族と庶民がともに学ぶ軍学校となった。
学校と云いつつも実際には軍の下部組織であり、入学と同時に予備役兵として軍籍に登録され、三年後の卒業時には軍への入隊が求められる。従って在学中にも軍に非常招集される事もあり、さらには災害などが起こった時には被災地に派遣される事などもある。
軍学校の入学の日に校門の前に三人の少年少女が立っていた。少年一人と少女二人の三人組だ。
少年は長身で、筋肉質な体つきが服の上からでも見て取れる。
少年の名前はライデン・パーヒュル・サーガ、クレストル王国の先々代女王ミアナ・ポンフォス・サーガとクレストル王国軍元帥リキ・サーガの長男である。
少女の一人は細身のすらりとした体形だが、手足は引き締まっており、一見して何か武術をやっていると察せられる。
少女の名前はリンネ・ペアリー・サーガ、同じくミアナとリキの娘で次女、ライデンとは双子の妹に当たる。
もう一人の少女はフェリシア・ペスカニ、他の二人からは”シア”と呼ばれていて、クレストル王国軍将軍シャクリーン・ペスカニの娘である。
三人は同じ年に生まれ、親同士が親しい事から幼いころから幼馴染として育ち、今年揃って軍学校入学を決めたのである。
かつてこのデミルズの地では多くの国が乱立し鎬を削ってきたが、およそ三十年前に大デミルズ島中央部を領有していた中堅国家クレストル王国に突如として『至高王』ミアナ・ポンフォス・クレストル、『大英雄』リキ・サーガ、『天才』カーラ・ボルデンハイム、『怪物』シャクリーン・ペスカニなど若き才能があふれ出し、十年ほどでデミルズ地方の統一を成し遂げた。
その後『至高王』ミアナ・ポンフォス・クレストルは王位を兄の子に引き渡すために王位を退き、弟を経てミアナの兄ルーミガ・パレッカ・クレストルの子、現王ヤモンド・パーライズ・クレストルが即位した。
平和になった現在では軍制も変更されており、かつて兵士は志願制だったが、今は志願制は停止されている。軍を志望する者の内士官を目指す者は試験を受け、軍学校で三年間学ぶ事が必要であり、一般兵を望む者は一年間の育成コースで軍事訓練所に入らなければならない。
軍学校は現在第一から第六まであり、第六軍学校のみが海軍学校である。
「ここで三年間暮らす事になるのかぁ!」
少年は両手いっぱいに荷物を抱え、背中には大太刀と思われる刀を背負っていた。
「ライデン、ありがとう、ここまででいいよ。これからは何でも自分でやらなきゃいけないんだから」
フェリシアはライデンから荷物を受け取り、肩から提げる様にして持った。
「シア、部屋まで運ばせればいいのよ。どうせライデンは力が有り余ってるんだから」
リンネがそう言うと、
「おいリンネ、これはほとんどお前の荷物なんだぞ。それとたとえ兄妹と言えど男は許可なしに女子寮には入れねえよ、自分の荷物は自分で持て」
ライデンがリンネの荷物を突き出して引き取りを要求する。
「ええぇ!じゃあ寮の前まで持ってってよ、ここの校庭野外演習場になってるから寮までまだ遠いじゃない」
リンネが文句を言うとシアが、
「もう!リンネ、半分私が持ってあげるから。これからは全部自分でやらなきゃいけないんだよ?」
と窘める。
「は~い」
不満げながらもライデンから荷物を受け取ろうとすると、
「いいよ!シアに持たせるくらいなら俺が持つから」
ライデンは荷物を背負い直した。
「ライデンはいっつもシアには甘いわよねぇ」
リンネは含みのある笑みと共に横目でシアに目を向ける。
「リンネ!ライデンは誰にでも優しいでしょう!?今だってライデンが持ってるのはほとんどリンネの荷物じゃない!これから寮生活になるのに何でこんなに荷物があるの!?ミアナ様もリキ様も言っていたでしょう!?自分の事は自分でするようにって!今日からはメイドさんもイスティさんもいないのよ!?」
イスティとは父リキ・サーガ元帥の秘書で、ライデンとリンネの乳母を務めた女性の事だ。
「わかってるわよぅ・・・。私だってちゃんと覚悟してきているんだから・・・」
「どうだか・・・」
リンネとシアのやり取りを聞いていたライデンが、
「シア、言うだけ無駄だぞ?リンネは昔っからこうなんだから。俺やシアが甘やかすからこいつはこうなったんだ。これからは自分の事は自分でやらせればいい、リンネはもう少し自立すべきだ。人見知りを直して対人スキルを身に付けないとな」
「そうね、私が世話を焼くのもいけないのよね。いい機会だからリンネも積極性を身に付けましょう」
「ええええ!」
リンネ・ペアリー・サーガ、現在王位継承権第四位のお姫様なのだが、人見知りの引っ込み思案、内弁慶で少々残念な少女(14)だった。
「見て!私達一斑で同じ班だよ!良かった、シアと離ればなれだったらどうしようかと思ったわ!」
女子寮の部屋割りを記した掲示板の前で喜ぶリンネの側でライデンは対照的に渋い顔だ。
「どうしたの?」
シアがライデンの表情に気付いて尋ねると、
「うーん、忖度されたのかなって。もしそうならあんまりいい事じゃないよな、これじゃあ何のために母上が士官学校と統一したのかわからない」
「ああ・・・」
「そんなことないよ!」
ライデンとシアの後ろから軍学校の教官が声をかけてきた。
「ゴンさん!?」
教官の名前はゴン、ライデンやリンネの両親とシアの母と軍学校時代の同期だった男で、在学中に怪我を負った為軍には入らず、今は軍学校の教官をしている男だ。ライデン達にとっては赤ん坊の頃から可愛がってくれた両親の友人である。
「ライデン、今日から僕は君達の教官だからね、公私を分ける為にも教官と呼ぶように。それと君達に忖度はしていないよ、女子は志願者が少ないから一緒になったのは只の偶然だ。忖度なんかしたらリキやミアナに怒られちゃうからね。今年は特に女子の志願者が少なくて三班しか出来なかったんだ」
「そうだったんですか・・・」
「そうなんだ。それよりもライデン、君も早く男子寮に行きなさい。入学早々男子が女子寮の前をウロウロするものではないよ」
「えっ!?あっ!?」
ライデンが周りを見渡すと、周りにいる女子新入生の視線が集まっているのに気づいた。
「王子様・・・」
「ライデン王子」
「リンネ様も・・・」
「じゃあ、あちらはシャクリーン将軍の・・・」
皆ひそひそと三人を見ながら小声で噂している。
「し、失礼しました!」
ライデンは自分の荷物を手に取ると、逃げる様にその場を立ち去った。
「さあ、リンネもフェリシアも自室を確認したら寮に入りなさい。予定は班長に聞くように」
「はい、どうかよろしくお願いします!」
「お願いしま~す」
リンネとシアも自分の荷物を持って部屋へと向かった。
ちなみにシアの荷物は大きなカバン一つと背中に背負った長い袋包み、それに対してリンネの荷物は大きなカバンが四つと武器を入れた木箱を入れた袋が一つと大荷物だった。
リンネは手伝って欲しそうな目をシアに向けたが、シアは敢えて無視した。すると、
「シア~・・・」
リンネは情けない声でシアにすがる。
「もう!持てないなら持ってこないの!しょうがないんだから」
ぶつくさ言いながらもシアはリンネのカバンを二つ持ってやった。
「うふっ♪大好き、シア!」
リンネとシアは周りの注目を集めながら部屋へと向かった。
男子寮へと向かったライデンは寮の前に張り出されていた部屋割りを確認し、
「俺も一斑か。今年は十二班まである、例年よりはちょっと多めかな」
クレストル王国によってこのデミルズ地方が統一されてからは大規模な戦闘はなくなり、軍自体も縮小傾向にある。軍学校入学者も例年は50~60人と言ったところなのだが、今年は男女合わせて十五班あるという事は、一斑六人としても80人程になる計算だ。
「ライデン様!」
背後からライデンに声をかけてきたのはダニエル・ワイズ、ピアース・ワイズ子爵の次男だ。ライデンの両親、特に父リキとダニエルの叔父ショーンが親友であった(ショーンはデミルズ統一戦争の時に戦死している)事から幼い頃から面識がある。
「ダニー!久しぶり!何班だ?俺は一班なんだけど・・・」
「俺は三班ですね。あとバーノウの名前が四班にありますよ。バーノウは第一軍学校にしたんですね、まあ寮生活だからどこの軍学校でも同じなんでしょうけど。リンネ様とフェリシアも一緒だったんですか?」
ダニエルが言ったバーノウとはバーノウ・ファンといい、キィル・ファン男爵の長男だ。キィル・ファンもライデンの父リキの友人でライデンとバーノウも何度も顔を合わせた事のある知り合いだ。キィルは現在クウリュウ将軍の参謀として北ドガ軍区に赴任していたので、バーノウはハクケイにある第三軍学校に入学するものとダニエルは思っていたのである。
「ああ、さっき女子寮まで送っていったよ。それとダニー、ライデンでいいよ。今日から軍学校68期の同期生だ、他人行儀なのはなしにしよう」
「しかしそれは・・・」
ダニエルは躊躇した。それはそうだライデンは王位継承権第三位の歴とした王子なのだから。
ここで少し王位継承権について説明しておくと、クレストル王国では現王ヤモンド・パーライズ・クレストルには子供がいない。もう28歳になり、側室も何人か迎えているのだが思わしくない様だ。王室典範によれば次の王は皇太子になるのだが、その指名は行われていない。もしヤモンドに子供が出来ればその子に後を継がせねばならなくなり、皇太子の廃立を行わなければならなくなるからだ。そこで皇太子は立てず、もしもの時は王室典範の規定によって王位継承権第一位のライデン達の母ミアナ・ポンフォス・サーガが女王として復帰する事にしている。ライデンは現王ヤモンドの叔母にして先々代の女王でもあり、ライデン達の母でもあるミアナと姉リィナ・パルディオス・サーガに次いで王位継承権第三位とされているのだ。
「俺の父上もシアダド将軍やイスティさんから”リキ”と呼び捨てにされているんだ、気にせずそう呼んで欲しい」
重ねて求めるライデンにダニエルは、
「わかりました、ご厚意に甘えさせていただきます。ではよろしくお願いします、ライデン」
「敬語は抜けないか・・・、まあここら辺が落としどころかな?」
「ですね。さあ、部屋へ行きましょう。結構遅くなっていますよ?」
「だな、リンネの荷物持ちをさせられていたおかげで遅くなっちまったよ」
「ははは、ライデンはリンネ様に甘いですからね」
二人は男子寮に入って行き、
「じゃあダニー、俺はこっちだから」
と言って各々の部屋に分かれて行った。
ノックして扉を開けると部屋には既にライデン以外の五人が来ていた。
中でライデンほどではないがそれなりに体格の良い少年が、
「俺はデルニオ、この一斑の班長です。あなたがライデン王子か?」
と何ともちぐはぐな敬語?で話しかけてきた。
「ああ、ライデン・パーヒュル・サーガだ。第一軍学校第68期一斑に配属になった。俺の事はライデンでいい、軍学校の同期として壁を作らずに付き合ってくれると嬉しい。よろしく頼む」
「そう言ってもらえると助かる。正直田舎者なので王侯貴族と話すのは初めてなんだ」
デルニオはほっとした表情を見せて右手を差し出して握手を求めてきた。
ライデンがその手を掴むと見た目通りがっしりした手で拳に硬いタコが出来ている。
「?デルニオは無手の武術の使い手なのか?」
手のタコを見たライデンがデルニオに尋ねる。
「さすがは武術に精通しているというライデン王子だな、そうなんだ。村に無手の武術を教えてくれる人がいてな、その人に習った」
「ふむ・・・」
ライデンはデルニオの堂々たる立ち姿を見て、
(相当な使い手だな・・・。リンネはともかく俺でも苦戦しそうだ・・・)
と見て取った。
「じゃあみんな自己紹介しようか、あ、そうそうライデンの場所は入口のそこしか開いてないんでそこに荷物を置いてくれ。悪いが早い者勝ちだ、ベッドについている6というのが一斑の中でのライデンの番号だ。点呼の時に”番号!”と言われたらライデンは六番目に返事をすることになる」
「ああ分かった」
「じゃあ改めて一番の俺から。デルニオだ、バンドウ地方の農村の出身で14歳、今言った通り徒手空拳を使う。一応この一斑の班長を任されている。よろしく」
二番のベッドに居たのは小柄で童顔な少年だった。
「僕の名前はウィルです。王都出身の14歳です。得意な事もない平凡な人間ですがよろしくお願いします」
三番の少年は身なりが良く、一目見て貴族の子弟だとわかる。
「私の名前はノヴァルド・ガウス。ガウス男爵家の長男だ。ライデン様がああ仰っているからには私の事もノヴァルドでいい、武器は槍を使う、14歳だ」
四番の少年は見るからに穏やかそうで、人懐こい印象を与える。
「僕はシナック。王都南の農村の出身で仕事を求めて軍学校に入る事にしました。よろしくお願いします」
五番の少年は大柄だ。ライデンよりは若干背が低く、体格が良い。
「俺はベナレス、シュンカ出身だ。見ての通りガタイがいいのと腕力が自慢だ。俺も14歳だ」
最後にもう一度ライデンに回ってきた。
「ではもう一度。俺はライデン・パーヒュル・サーガ、一応王族だ。知っていると思うが母はミアナ・ポンフォス・サーガ、父はリキ・サーガ元帥だ。さっきも言ったが王族だからと言って遠慮せず同期の仲間として付き合ってくれると嬉しい。俺の事はライデンと呼んでくれ、俺もみんなと同じ14歳だ」
一通り自己紹介が終わるとデルニオから今日の予定についての話があった。
「今日はこれから事務局に行って軍の認識票と軍学校の学生証を受け取る事になる。俺達の指導を担当してくれる先輩が呼びに来るのでそれまでは自由時間だ。と言ってもいつ呼び出しがあるかわからないから一応この部屋で待機していてくれ。今日やるのはそれだけだ、明日にはガイダンスや実戦テストなど色々あるが、今日の所は班内での親交を深めろって事だろう」
「なるほど。それじゃあお呼びがかかるまではこの部屋で雑談でもしてるか!?」
ライデンが提案するとデルニオが、
「っていうか、みんなライデンの事が知りたいだろう。ライデンは有名人だし、ノヴァルド以外にとっては雲の上の人みたいなものなんだから」
と言った。するとノヴァルドが、
「ちょっと待ってくれ!ライデン様は私にとっても雲の上の御人だ。私の家は新興の男爵家だし、本来ならお会いできる様な身分ではない!」
といって大きく手と首を振った。それを聞いたライデンは、
「ノヴァルド、さっきも言ったように俺の事はライデンでいいよ。今日から第一軍学校68期の同期だ、身分を気にせず付き合って欲しい」
と頼んだ。
「しかし・・・」
「俺の母上も王族だったが軍学校で父上やゴン教官、グリ准将などと交流を深めたという。ゴンさんやグリさんは今でも母上の事を”ミアナ”と呼び捨てにしているよ。出来る事なら俺もそういう生涯の友をこの軍学校で作りたいと思っている。だからさ、そういう事で頼むよ」
ライデンの真剣な要請にノヴァルドも、
「わかりました・・・。これからよろしくお願いします、ライデン」
遂に折れた。
「やっぱり敬語は抜けないのか・・・」
その後はやはりライデンの話が中心になって自然と会話は和気藹々と進んでいった。
突然扉がノックされ開かれた。
「68期1班整列!番号!」
一人の少年が入ってきてライデン達に呼びかけた。
「一!」
「二!」
「三!」
「四!」
「五!」
「六!」
ライデン達はすぐに整列し、呼びかけに応えた。
「良し!私は67期のヨハン・ボーデンハウス、お前達68期1班の指導上級生だ。わからない事があったらいつでもこの建物の二階の67期1班の部屋を訪ねてこい。私は聞いての通りボーデンハウス侯爵家の人間だが、軍学校ではそんなものは一切関係がない。気軽に何でも尋ねてくれ。そこのライデン達にもかしこまる必要はないぞ、王族と言えどもこの軍学校内では一介の軍学生に過ぎん。ライデン、わかっているとは思うが特別扱いはなしだ」
この男はヨハン・ボーデンハウス、クレストル王国の貴族界の頂点に立つ四大侯爵家のひとつ、ボーデンハウス家の長男だ。父は国の宰相ゲルト・ボーデンハウス、ライデン達とは家同士の付き合いもあり、幼い頃からの知り合いだ。
「わかっていますよヨハンさん。父からも母からも、姉からも念を押されました。俺としてはリンネの方が心配ですけどね」
ライデンは笑って答えた。
「確かにな。でもまあフェリシアが一緒にいるんだから大丈夫だろう」
そう言って肩をすくめるヨハンに対してライデンは、
「はぁ・・・。結局俺とシアが苦労するんですね・・・」
とため息をついた。
ヨハンは全員の方に向き直り、
「それでは事務局へ向かう。全員入校許可証を持ってついてこい。入学願書と引き換えに受け取ったやつだ。それと引き換えに認識票と学生証を受け取る事になる。準備はしてあるか?」
と聞いた。
「「「はい!!!」」」
「良し、なら一列に並んでついてこい」
ヨハンを先頭に男子寮を出て学舎へ向かい事務局に入る。いくつかの班がライデン達の様に認識票と学生証の受け取りに来ている。中には随分深刻な顔をしている者もいる様だ、何があったのだろう?
ヨハンが事務局から一斑の認識票と学生証を受け取り戻って来る。
「まずは入校許可証を回収する、名前を呼ばれたものは許可証を持ってこい」
一人ひとりの名前が呼ばれ入校許可証と引き換えに学生証を受け取る。
「その学生証はなくすなよ!事あるごとに提示を求められる。軍学校の施設を使う時には学生証がないと食堂にも入れないぞ。次に認識票を支給する、デルニオ!」
また一人ひとりの名前が呼ばれ、ペンダント状の鎖に二枚の金属の板が通されたものが渡された。
「認識票をよく確認しろ。自分の名前と八桁の数字が刻印されているはずだ。名前が違っている者はいないな?その八桁の数字はお前達の軍における認識番号だ。認識番号は軍内での手続きでちょくちょく必要になる。確認して間違いなかったら認識票はペンダントになっているのでそのままつけろ。それはクレストル王国軍人の証だ、一度付けたら決して外すな!寝る時も風呂の時もだ!それを外すのは軍を辞める時か・・・死んだときだけだ」
”死”という言葉が出て一同が緊張する。
そんな中ウィルが、
「認識票は二枚あるのですがいいのですか?」
と尋ねた。
なるほど確かに鎖には全く同じ認識票二枚ついている。
「やはりその質問をする奴がいたな。認識票は二枚なければならないのだ」
ヨハンは真剣な顔つきで話始める。
「今後お前達が戦場に出て、戦死するようなことがあった時に戦友がお前の認識票を一枚だけ切り取って部隊にお前の戦死を報告するんだ。切り取る為の小型のニッパーも支給される、なるべくそれを使う様な事態にならなければ良いのだがな・・・。そして残されたもう一枚が遺体判別用だ。お前達は予備役扱いとはいえ既に軍人だ。そのような事態はあり得ない事ではない。幸いにも今現在デミルズ地方は統一されており平和だがな、とは言え最近妙な輩が増えてきてるが・・・」
約二十年ほど前にライデンやリンネの両親であるミアナやリキの活躍によってデミルズ地方は統一され今は平和が保たれているが、近年反政府運動のようなものが地方で散見されている。と言っても、ごくほんの一部の人間によるもので圧倒的大多数の国民は王家を支持しているのだが。
「今日の所はこれで終わりだ、飯食って、風呂入って寝ろ。食堂と大浴場の場所は班長に教えてもらえ、デルニオ、頼んだぞ」
「了解しました!」
「良し!それでは解散!」
「「「ありがとうございました!!!」」」
残された六人の内のライデンを除く五人は暗く沈んでいた。
それはそうだろう、昨日まで”死”など意識することなく暮らしていた若者が突然己の”死”というものを突き付けられたのだから。
ただ、ライデンには覚悟があった。ライデンとリンネは幼い頃から父リキ・サーガ元帥から刀術の手ほどきを受けており、軍人としての心構えも教え込まれていた。サーガ家では姉のリィナも含めて三人の子供すべてを軍学校に入学させるという方針であり、”死”についても当然意識させられていた。
「ま、急に言われても戸惑うよな。これからゆっくり自覚していけばいいさ」
ライデンが五人に声をかける。
するとシナックが、
「ライデンは覚悟が出来ているの?」
と尋ねた。
「俺の父は知っての通り軍の元帥だ。俺も子供の頃から軍人になるべく鍛錬を続けてきた。”サーガ家の人間は有事に際して国民の先頭に立って戦わなければならない。それがサーガ家の国民に対する義務だ”って叩き込まれてきたからな」
ライデンが答える。
「怖くはないの?」
「怖いさ、実際に一度だけ鍛錬中に”死”を意識した事もある」
「どうやって克服したんだ?」
今度の質問はベナレスからだ。
「義務感・・・かな?克服したというのとは少し違うのかもしれないけど、普段王侯貴族なんてのは国民に寄っかかって生活してるようなものだ。有事には国民を護る、その約束があるからこそ国民は王家を支持してくれるんだ。俺は王族であり貴族なんだから命を懸けるのは当然だと思っているだけだよ」
平然とそう言い放つライデンを見てデルニオは、
「へぇ、貴族なんてもっとお気楽に暮らしているもんだと思ってたよ。ライデンみたいなのもいるんだな」
と感心したように言った。
すると今度はノヴァルドが、
「お恥ずかしい・・・。私にはライデンの様な覚悟がなかった・・・」
と己を恥じた。
「気にするなよノヴァルド、家はちょっと特殊だからな。家は王族で公爵家で侯爵家だ。課される義務も大きいさ」
ライデンとリンネの母ミアナ・ポンフォス・サーガは元女王の王族であり公爵の位を持ち、父のリキ・サーガは侯爵の位を持っている。そして二人とも王であるヤモンド・パーライズ・クレストルに比べて圧倒的に国民の支持、人気が高い。
クレストル王国の貴族界は一公四侯制といって公爵一人と四人の侯爵がその頂点に立っている。つまりライデンとリンネの家はそのうちの二人を擁しているのだ。おまけに王位継承権第一位から四位までがサーガ家の人間で占められている。実質的にサーガ家の権力は王をも凌ぐ程に大きい。
ちなみに残りの侯爵家の二家はタヌルバルド家とボルデンハイム家と言って、各々軍参謀部議長アンヌ・タヌルバルドと同副議長カーラ・ボルデンハイムを輩出している。
ライデン達は先輩たちが先に風呂に入る事が多いと聞いていたので、先に夕食を済ませる事にした。
学生証を提示し食堂に入ると、いるのはほとんどが一年生だった。
そしてその一角から言い争いの声が聞こえてくる。
「そう言うお前らだって俺達が創りあげた平和の中で暮らしているだろう!?」
「その平和はあなたたちがつくりあげたものではないわ!庶民の尊い血の上に成立したものじゃない!平和が貴族のおかげだなんて酷い思い上がりだわ!第一!その平和な暮らしとやらだって押し付けられたものじゃない!」
「なんだと!?」
言い争っているのは男女、話の内容を聞いていると男の方は貴族で女の方は庶民の様だ。
ライデンは男の方に見覚えがあった。確か名前はホラージョ・ケイネス、ケイネス伯爵の三男だ。何度か話した事もあるが気位の高そうな面倒くさいヤツ、というイメージが残っている。
正直ライデンは厄介ごとに巻き込まれたくはないなあと思いつつも、放っておく訳にもいかないので他の五人に断って声をかけた。
「何を言い争っているんだ?議論ならもう少し声のトーンを落とせよ、周りが驚いているじゃないか」
声をかけられた二人はライデンの方を振り向くと、急にしおれて小さくなった。
「ライデン様・・・。申し訳ありません、この者があまりにも益体もない事を言うものですから・・・」
ホラージョが伏し目がちに言い訳をする。
女子学生の方は、
「・・・ライデン・パーヒュル・サーガ・・・」
とつぶやいてライデンと目を合わそうとしなかった。
「一体何が原因なんだ?」
ライデンが尋ねるとホラージョが話し出した。
「この女が王族や貴族はこの国から一掃しなければならない、政府なんてものは必要ないというものですから・・・」
「ふむ、それで?」
「今の平和はライデン様の御父上であるリキ様達が懸命に作り上げたものだと、平和は政府によって維持されているのだと教え諭していたのです」
「う~ん・・・今の所ホラージョの言い分におかしな所はないと思うんだが・・・君の考えではどうなっているんだ?」
ライデンは女子学生に尋ねた。
「貴族たちが平和を作り上げたなんて考えは傲慢だわ。戦争で犠牲になるのはいつも庶民、平和は兵達の命の上に成り立っているというべきだわ。王侯貴族は税を取り、戦争を起こし、いつも庶民を虐げる。庶民にとっては貴族も政府もない世の中こそが理想の社会というべきだわ」
女子学生は俯いてライデンと目を合わせようとせずに言った。
「なるほど、君、名前は?」
ライデンが尋ねる。
「ラセーナ・・・あなたと同じ一年よ・・・」
女子学生、ラセーナはやはりライデンと目を合わせようとしない。
「う~ん・・・君の言っている事も半分は正しいと思うな。平和を作ったのは俺の父たちだけじゃない。多くの兵達の犠牲の上に成り立っている。だから平和を作り上げたのはクレストル国民達というべきだ、軍人だけではなくね。でも俺は王族だからね、王侯貴族がいらないってのには賛同できないかな、政府も現在を維持するためには必要だと思っている。ラセーナ、君は非政府主義なのかい?」
非政府主義、近年大デミルズ島西部の旧カルード地域で広がっている思想で、貴族も政府もなく自分達で作り、自分達で消費する小さな社会を標榜するという考えだ。原始的むら社会の様なものを志向している。一部の過激派は反政府運動を繰り広げており、問題になってきている。
「いえ・・別に・・・私は非政府主義者という訳では・・・」
ラセーナは目に見えて動揺している。
「別に非政府主義者でも構わないだろ?」
ライデンの言葉にホラージョが強く反応した。
「ライデン様!!非政府主義者達は市民を扇動して反政府運動を展開している者達ですよ!?そのような過激思想を認めるべきではありません!!市民は弱く、愚かな者達です、しっかりとした教育を受けた貴族が教え導くべきなのです!!!」
「ホラージョ、俺の事はライデンでいい。軍学校の同期だ。それでなあホラージョ、非政府主義者でもいいんだよ、内心でどのような主義主張を持とうともそれは個人の自由だ。それを法を犯すという形で表に出した時に問題になるんだ。非政府主義だろうが反王制主義だろうが思想・言論の自由は認められる、貴族主義でもな。それが我が国の方針だ。それと俺は市民を弱いとも愚かとも思わない、俺の父は行商の息子の庶民の出だからな」
「い、いえっ!!私はそういうつもりでは・・・」
ライデンはラセーナに向き直って、
「という訳で君がどのような主義主張を持とうとも一向に構わないし、議論する事も大いに結構だ。軍学校の同期なんだしな。ただ、周りの目は気にしよう、けんか腰では周りの奴らが心配する」
と語り掛けた。
そこに、
「ほら見てシア、早速ライデンが女の子に粉掛けてるわよ?本当人たらしなんだから!」
リンネとシアが同じ班の女子学生を連れて食堂にやってきた。
「ふふふ♪きっとミアナ様とリキ様に似たのよ、うちのお母さんも”ミアナとリキは人たらしなのだ!”って言ってるもん」
シアが微笑んで答えた。
「あ~・・・父様と母様ね~・・・。確かに二人ともやけに人に好かれるのよねぇ」
「そういう事♪」
「シアもライデンのそういう所に惹かれたの?」
リンネが意地わるそうな笑顔でシアに尋ねる。
「ちょっ!ちょっとリンネ!!何で私の話になるの!?わ、私はその・・・あの・・・なんて言うか・・・だから・・・」
シアは困ったように上目遣いにライデンを見やる。
「シア、ほっとけ。いちいち反応するとリンネは調子に乗るぞ?それよりもリンネを黙らせるにはいい方法がある。みんな、こいつが俺の双子の妹リンネだ、仲良くしてやってくれ、よろしく頼む。ほら、リンネ、挨拶しろ」
ライデンがリンネを促すと、
「え!?あ!?あ、あの・・・リンネ・・・ペアリー・・・サーガ・・・です・・・・・・・・・」
リンネはみるみる小さくなり、シアの後ろに隠れてしまった。
「っ!」
するとラセーナが面を伏せて逃げる様に食堂を出て行った。
「ん?リンネ、シア、ラセーナと知り合いか?」
ライデンが二人に尋ねると、
「え?誰?」
「いいえ、私は知らないわ。リンネの知り合いでもないと思う」
と答えた。
「そうか?何かリンネの名前を聞いて慌てて出て行ったみたいだったから、リンネと関りがあるのかと思ったんだが・・・」
そこにデルニオが口をはさんだ。
「なあ、俺達とそちらが連れている女子たちも紹介してくれよ。お前達だけで話すなよ」
ライデンは慌てて、
「あっ!ああそうだな。済まない、ええと・・・ご一緒してもいいですか?」
リンネ達が連れてきていた女子学生たちに尋ねた。
そこでライデン達六人とリンネ達五人で食事をすることになった。女子学生の一人はレイアと言って
天涯孤独の孤児だそうだ。旅芸人に拾われ軽業師として暮らしてきたが、一座を抜けて軍人なる為に軍学校に入ったという。
もう一人面白い経歴の子がいて、名前をルシャといい、猟師の娘で弓を使うらしい。実はシアの祖父も猟師で、ルシャの祖父とは知り合いとの事だ。当人同士は初対面なのだが、ルシャは祖父からシアの母シャクリーン・ペスカニ将軍の事を良く聞いていたらしい。
互いに自己紹介をして大いに盛り上がったのだが、案の定引っ込み思案のリンネは最後までデルニオ達にはなじめていなかった。
その日の夜―――
真夜中すぎ、ライデンはベッドの上で目を開いた。
むくりと起き上がると枕元に置いておいた父リキから与えられた刀(もちろん真剣)を掴んで立ち上がった。
「気づいたか?ライデン」
声をかけてきたのはデルニオだ。デルニオは既に両手に手甲を付けている。
「ああ、これだけ気配が駄々洩れでは気づくなという方が無理だ」
ライデンが笑う。
「この距離でよく気づいたな」
デルニオの言葉に、
「デルニオこそ。見た所俺よりも先に探知したんだろ?」
とライデンが問い返した。
「お前の言う通りこうもわかりやすくてはな。狙いはお前か?」
「う~ん・・・、その可能性もあるが、ここには俺達より重要人物がいるだろう?」
「まさか!」
「まあ気づいたんだしそんなに問題はないだろ?」
「どうする?みんな起こすか?」
「いや、俺達だけでいいだろう。多分リンネももう気づいてる」
「リンネも?」
デルニオ達は夕食時にリンネから名前で呼んで良いと言われていた。
「ああ、俺達は小さい頃から父上に鍛えられていたからな。あいつは剣に関しては天才的だよ」
「お前とどっちが強い?」
「今はリンネの方が強い」
「ははっ!今は、か。自信ありげだな」
「・・・それが俺の使命だからな・・・」
「・・・行くか?」
「ああ」
ライデンとデルニオは音を立てずに部屋を抜け出し中庭へ出た。
すると侵入して来た男たちは男子寮を通り過ぎて女子寮へ向かった。
「やはり・・・」
目的はライデンではない様だ。ライデン達の予想が当たっていれば不審者たちは女子寮の三階へ向かうはずだ。
しかし、ライデン達の予想は外れ不審者たちは二手に分かれ、一方は女子寮へ。もう一方は女子寮の中庭へと向かって行った。
「おい、どうする?」
デルニオがライデンの意向を尋ねる。
「中庭へ向かったやつらを押さえよう。二手に分かれたという事は狙いは一階のリンネの可能性が高い」
「いいのか?もし奴らの狙いが三階の方だったら・・・」
「大丈夫。あの人も昔から剣をやっていたんだ。既に侵入者にも気づいてると思う」
「そうなのか?とてもそんな風に思えないが」
「本当だ。それにあの人の側には護衛の剣士もいる、心配は無用だ」
「そうか、じゃあ俺達は奴らを押さえよう」
侵入者たちは68期女子1班の部屋の外に集まった。
「ちっ!ここには腐るほど女がいるってのによ。指一本触れられねえとはな」
「王女を殺ったら速攻とんずらしなきゃならねえ、そんな暇はねえよ!女を抱きたきゃ今回の仕事の報酬で買えよ。俺達には退路の確保をせよとの命令だ」
「残念だが監獄では男女は別々だ」
不意に後ろから侵入者たちに声がかかる。
「誰だ!?」
男たちは驚いて振り返る。
「それはこっちのセリフだぜ?軍学校のそれも女子寮に忍び込むおっさんなんてろくなモンじゃないだろうけどな」
デルニオが手甲で覆われた拳をガチンと合わせる。
「なっ!?やれ!!!」
ここにいる侵入者は六人しかし既に一人ライデンに峰打ちで打ち倒されていた。
「なっ!?」
そちらに目が行った瞬間、二人がデルニオによって殴り倒された。
「わわっ!!」
また一人ライデンによって打ち倒され、さらにデルニオももう一人殴り倒した。
「人数的に最後の一人は俺かな?」
「早い者勝ちだろう?」
怯える最後の男の前でライデンとデルニオは余裕の会話を交わす。
すると、
「きゃあああああ!!!」
室内から女子学生の悲鳴が響いた。
「!!。大丈夫か!!!」
「おい!待て!!」
ライデンが止めるのも聞かずデルニオは窓を破って室内に飛び込んだ。
「「「ぎゃあああああああああああああ!!!!!!!」」」
さらに大きな悲鳴が鳴り響き、女子寮中の部屋に明かりが灯る。
「あちゃ~」
ライデンは額に手をやって天を仰いだ。
直ぐに教官たちが集まってきて、捕えた不審者たちを引き渡し事情を説明したが、騒ぎになった事とデルニオが窓を破って女子寮に侵入した事は言い訳の仕様もなく、ライデンも連帯責任として罪を問われた。
「全く入学初日に何をやっているんだライデン!!女子寮に忍び込み、あまつさえ窓を破って室内に侵入するとは!!室内が無事だったことは君ならわかっていただろう!?」
ライデンとデルニオは教官たちの前で正座をさせられ、ゴンから小言をくらっていた。
「ですからゴンさん―――」
「教官!!」
「ゴン教官、止める間も無くデルニオが飛び込んでしまって―――」
「うおいっ!!俺に押し付けるつもりか!」
実はあの時の悲鳴は、リンネが手足を斬って無力化した侵入者たちの惨状を見た女子学生の一人が挙げたもので、既に女子寮内も制圧されていたのである。
「二人でチームを組んで行動していた以上、連帯責任だ!君たちは軍人になったんだぞ!一人のミスはチームのミスだ!ライデン、デルニオ、二人には三か月間私的な外出を禁じる。さらに一か月男子寮の便所掃除もする事!」
「ま、マジか・・・」
「初日からですか・・・」
「今回は正当な理由があったからこれくらいで済んだが、そうでなかったら退学ものの事件だよ!男子はたとえ兄弟であっても、そしてたとえ王族であっても女子寮への進入は禁止だ!わかったね!!」
「「はい・・・」」
「良し。もうそろそろ夜が明ける、帰って寝れるだけ寝てきなさい。今日は色々忙しいぞ」
ゴン教官が二人に促す。
するとライデンが、
「教官、それでリンネ達の方はどうなったんですか?」
と尋ねた。
「う~ん・・・そっちも面倒な事になっているんだよね。侵入者たちは非政府主義者達だった。目的はリンネの暗殺、まあテロ行為だよね。厄介な事に学生が手引きしていた」
「まさか、ラセーナですか?」
「知っているのかい?」
「ええ、食堂でちょっと・・・」
「そのラセーナなんだけどね、土壇場でこちらに寝返った。どうも誘拐だと聞かされていたらしいんだが、暗殺と聞いて扉の前で騒いだらしく、奴らに斬られた。命は助かりそうだという事なんだけどね、リンネがかばっているんだ」
「リンネが?」
「ああ。本人曰く暗殺と聞くまで決行するつもりだったと言ってるんだが、リンネは事前に襲撃があるとラセーナから聞かされていたと。まあリンネの事だから事前に知っていようといまいと問題はなかっただろうけどね」
「ラセーナの立場に同情したんでしょうね、騙されていたと。ああ見えてリンネは優しいヤツなんですよ、甘いと言ってもいいのかもしれませんけどね」
「王女への暗殺未遂だからなあ・・・、どうしたものか。リキに相談したら・・・」
「許してやれと言うでしょうね」
「だよねえ」
「実害はなかったんだし、寝返ったのも事実ならいいんじゃないですか?」
「君らはそれで済むだろうけど・・・はあ・・・宰相殿に説明に行かなきゃならないだろうな、多分僕が・・・」
「宰相殿ってゲルトさんでしょう?別に問題ないじゃないですか」
「公私の別はつけなきゃならない。ゲルト・ボーデンハウスは友人だけど宰相殿は僕のずっと上の上司だ。まあいい、君たちはもう部屋に戻りなさい」
「はい」
「失礼します」
ライデンとデルニオが出て行った談話室でゴンをはじめとする教官たちは、
「はあ・・・ライデンの方は常識的な子だと思っていたけどやっぱりリキの子だな。やる事が突拍子もない」
「双子の方は問題児になりそうですな」
「「「はあ・・・」」」
教官たちの苦悩はまだ始まったばかりだ。
色々と事情があって執筆から離れていましたが、少しずつ書いていけたらと思っております。