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8話 『表の視点』……タイトルのセンスが無い?またまた御冗談を

「あのさ、遠くからその……『幽体融合』?出来るならさっき俺に触れる必要無かっただろ」


「ほんと冷める事言うの得意だねー行人クン」


 秋土は振り返らないまま低い声で言った。


 …………『幽体融合』という、秋土の謎の術にかけられて一分経過したくらいだろうか。

 説明によると、肉体を魂と融合させ、一時的に霊体に変換させる技術なんだとか。この言い方だと一切理解できなかったのだが、分かりやすく言うと『他人から見えなくなって霊を見れたり霊と話せたり出来るようになる』というものらしい。

 使いすぎると普通に元に戻れなくなって死ぬらしいから今すぐやめたい。


 しかも…………周囲が霊で埋め尽くされているのが気になってしょうがない。大量のグロテスクな亡骸達が数メートルほど距離を取って俺を見つめているのが気色悪すぎる。『生命エネルギーが強いから近寄られてないんだよ。よかったねー』との事なのでやはりイケメンに生まれて良かった。


(……流石に、いないか)


 俺の周囲に霊がいる、という事を意識すると、どうしてもしてしまう。

 既に死んだ奴を探してしまう。


 案の定、ここにはいなかった。成仏してくれたのか、俺の近くにいないだけかは分からないが。


(あ"…………)


「…………」


 下方から聞こえてきた声に一瞬驚くが……すぐに知らない振りをする。

 ……秋土の妹の姿はまだ見えない。普通に怖いし見えないのならその方が良いのだが、『恥ずかしいから行人クンには見られたくないんだって』という言い分は理解しきれない。そんな簡単に可視と不可視を操れるものなのか?


「一体どのようにして飛行しているのですか!?地球にはそのような透明な機械などに到達していないはずでしたが。そしてこの大量の、死骸、死体は一体?彼らも当たり前のように浮遊しています」


 片手に学校指定のカバンを持ちながら、嬉々としてこちらにゆっくり水平移動してくる少年。やけにボロボロな学ランと作り物のような笑顔がなんとも不気味だった。


「この子機械じゃないのよ。あとキミ、榊クンで合ってるかな?」


「はい!」


「キミさ、双子の兄弟とかいる?」


「いません!」


「……なんだ、もしかして知り合いに似てる子がいるのか?」


「いや?いないけど」


「じゃあなんでそんな質問したんだよ」


 榊渉は咳払いを何回かした後、さらに近寄ってきて言う。


「もしかしてあなた達は『僕』の知り合いでしょうか?記憶があいまいな状態なんです」


「そうじゃないよ。ただ……キミが榊クンなら、教えてもらいたい事がある」


 秋土はそう言った後、小声で呟き始める。


「二葉ちゃん、アイツを手で覆っておいて。逃げられないように」


 秋土の意図が榊渉に悟られないよう、誤魔化すように俺は喋り始める。


「ここへ何しに来た?……俺達に危害を加えるつもりか?」


「いえ。そのつもりはありません」


 あっけらかんと少年は答える。


「朝空蓮に何かする気は?」


「朝空蓮?あぁ、現在のこの星の主人公、と聞いていますが」


 顎に手を当てて少し考えた後、榊渉は拳で手のひらを叩いた。


「そういう事でしたか!それを知っているという事は、あなた達はこの争奪戦の参加者と言う事ですね」


「え……分かってなかったのか?」


 普通、空飛んでる奴と出くわしたら参加者を疑うだろ。自分以外も空飛びまくってる環境に身を置いてたのか?


「なら、頼みがある」


「はい」


 榊渉はさらに近づこうとするが……途中で停止した。さっきからぶつぶつと何かを呟いている二葉が抑え込んでいるのだろう。


「おや、何か手のようなものが阻んで」


「この殺し合いから降りてくれないか?」


 俺がそう言うと、榊はポカンとした表情になった。


「なぜですか?私、僕はこの星の指導者にならなくてはいけません。そのためにはあなた達を殺す必要がありますね。手を出すつもりが無いというのは噓になってしまいました」


「降りないというのなら、お前の『その状態』、解除しないぞ」


「するとどうなるのです?」


「死ぬ。…………らしい」


「それは興味深いですね!」


 周囲の霊を見渡すような仕草をしながら、榊渉はさらに顔を近づけてくる。


「それならば私は降りるしかありませんね。悔しいです、私はあなた達を見くびっていました。私の負けです」


「……自分の命が危うくならないと殺し合いを辞めないのか。お前、人を殺す事に躊躇いは無いのか?」


「え」


 俺の言葉に、榊は表情と動きを固めた。

 …………中学生にもなって、そんな事も分からないのか?いや、そうだとしてもそれは家庭環境のせいか……。


「人を、殺す」


「そうだよー。あたしが言うのもなんだけど、人は殺しちゃいけないと思うのよね。社会的立場も危うくなるし、責任も伴うし、あと……殺された人が可哀そう!」


「それが一番先に言うべきだろ」


 依然として、榊は固まっていたが……数秒した後、頭を抑えながら言った。


「そうでした。その通りです。僕は早まっていました。原住民に危害は加えないと固く誓っていたのに。そして渉。人を殺すというのは君が一番嫌がる事ではないですか」


「……分かってくれたなら、君の本を俺に貸してくれ」


 俺は内ポケットから焦げ茶色の本を取り出し、万年筆に触れる。


『おやおや、随分と良いペースですねぇ』


 実体化した万年筆を握る。榊の方を向くと、学校指定の鞄の中から本を取り出している所だった。

 …………実際、気味の悪いくらい良いペースだ。何か裏があるんじゃないかと疑うほど。


「どうぞ」


「あぁ」


 俺はページをめくり、三度目となるそのチェックボックスの中に記入をする。



 継続☑



「これでよし……あの、榊君。参考程度に聞きたいんだけどさ」


「はい。どうかしましたか」


 俺は震える手を抑えながら、質問した。


「───────君って、『宇宙人』なのか?」


 そんな訳が無いだろうと否定したい。だが、彼が手渡した本の題名には─────確かに宇宙人と書かれていた。俺から見れば彼は制服がボロボロな事と空を飛んでいる事以外はただの中学生。肌は灰色じゃないし、髪も生えているし、触手とかも生やしているようには見えない。


「この星から見れば、そのような呼び方になるでしょう」


「……やばいね二葉ちゃーん。マジもんの宇宙人だよ」


「擬態ってやつか……?」


 漫画とか映画とかで見た事がある。宇宙から来た生命体が人間の姿を模したり、人間に寄生したり。


「あ、そうだ。主人公になるつもりがないなら俺に協力を──────」


「申し訳ありませんが、僕は急いでいるのです!」


「お、おう」


 ぱっちりと開いた目つきは元から不気味だったが、宇宙人のものだと考えると納得は出来そうだが猶更不気味だ。


「交際している男女の人間を見ると、何やら脳が刺激されます。技術の拝見よりも恋人の方を優先すべきと言う事ですね?渉。位置は。位置は。位置は、捕捉しました」


「うわ!交際してるだって!行人クン!あたし達交際しt」


「黙れって」


 中学生が両目を指で囲って町中を見下ろしている様子は、なんとも奇怪なものだった。


「それでは失礼します。また会いましょう!」


「あ、さよなら……」


 包囲網の中では無く、外の住宅街に榊は飛んで行った。


 …………それが見えなくなるのを確認して、俺はため息をつく。


「なんか順調すぎるっていうか、上手く行きすぎてるよな。こんなあっさりチェックを入れられていいのか…………って、どうした?」


 目の前にいる、ついさっきまで戯言を吐いていたはずの秋土の肩が、少し震えているように見えた。


「おい、お前──────」


「行人クン、あの宇宙人中学生クンは引き続き要注意人物だ」


「……え」


 振り向いた秋土の顔は……かなり汗ばんでいた。


「覚えてる?榊クンは私達みたいに──────協力者がいたはず」


「……あ」


 榊渉の居場所は町の外れの森林。そしてもう一人、同じ場所にいた参加者がいたはずだったんだ。しかし、その参加者は本と題名の一部しか情報がつかめなかった。秋土の書いた紙には、『本人が見つからない』と書かれていた。

 だから榊渉を助けに来る可能性があり、警戒すべきだと思っていたんだけど……実際に空を飛んだ時に全部吹っ飛んでしまった。


「そいつも姿を見せていない。でもね、それはまだいいんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()事もまだいいんだ。一番まずいのは…………はぁ」


 汗を拭い、秋土は言った。


「───────榊クンのすぐそばに、榊クンと全く同じ姿をした霊がいたんだよ」

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