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59話 『告白』……された側の気持ちというのもあります

 翼を生やした異形が空を駆ける。その瞳にはもはや一人の女しか写っていない……と書くと聞こえはいいが、彼にあるのは憎しみという感情のみだ。


「殺してやるっ!ボクが!この手でっ!!」


 爪は獣が如く。鋭利な光を放ち、血を纏おうと目の前の女性に向かって自然に手が伸びる。


(────マズイ。防ガレルゾ)


 感応現象によって脳内の指令と化した彼の獣的本能を無視し、黒翼の上の女に爪を突き立てる──────事は、叶わなかった。


「……久しぶり、昼咲花威君」


「夜公、律……ッ!」


 彼女を殺す。ただそれだけのために爪を振るうが……やはり届かない。見えない障壁が隔てているような感覚。全力を込めても何度でも防がれる。


「残念だ。私の魔法の残り使用回数はあと三回。もう少し……もう少しだったね」


 だがそれもイレギュラーたる奥院仙次の功績によるもので、初めから夜公は花威を脅威として認識していない。

 彼女が『巨大な眼球』の眼前に辿り着くのは決定事項だった。


「待て、クソ……何をするつもりだっ!」


「『神の力』を吸収する」


「……あ?」


「特等席で見届けるといい。我が魔王の再来を」


 黒翼の男はその言葉の後に加速する。花威はもはや巨大な眼球に向かっていく夜公達を見つめることしかできない。



「──────さて、始めよう」


 女は黒き異形の上に立ち、腰の刀に手をかける。


「ようやくこの時が来た」


 目の前の眼球は依然として地上を見つめたまま。近づけば近づくほどその巨大さを理解していく。彼女が召喚した巨人型煉魔の数倍の規模の球体を……切断すべく、抜刀する。


「煉器は生成した人間によって性能が左右される。奥院仙次は恐らく、『頭が悪い』という煉魔としての自分を改善したかったから、あの眼鏡の煉器を発現させた。対して私は───────」


 青い刀身が晒された。


「『神を殺す』という願いが具現化された。言わば煉器ではなく────『神器』」


 両手を強く握り、小さく魔法を詠唱する。


「『アクセルマジック』『ブースト』『エンチャント』『グラトニー・スタンス』『アブソーブ』『キングオーダー』……」


 非力な彼女自身と、手に持った得物を強化、強化、強化。そして最後に加えるのは─────蓄積した殺意。


「魔王の一撃を喰らえ──────そんでリソース全部寄越せッ!偽神がァッ!!」


 斬撃。一閃。その太刀筋は達人の洗練された動きではなかったが……彼女の溢れ出る感情と、積み上げてきた努力、準備、執念が──────神の身体の一部を破壊することに成功した。






 直後、樹愁町全域を眩い光が覆う。























 ー ー ー ー ー ー ー



















「ああああああああ眩しすぎいいいいいいいい……い?」


 突如上空のクソデカ眼球が崩れ始めたと思えばメチャクチャに強い光が襲ってきて何が起きたのかさっぱり分からなかった霧間行人ですが、なんとか生きてるみたいだ。


「あんな強い光浴びた割には目が焼けてない。景色もはっきりと見える。見えるんだけど……」


 そう。健康的に何ら問題はないのだが。

 ──────見えているものに問題がある。


「……夜が、終わってる」


 眼球でも月でもなく、今度は太陽が大地を見下していた。空気はまだ涼しい……ちょうど朝頃だろうか、時間帯的には。少し温まったアスファルトにあぐら座りしながら顎に手を当てる。

 ……そう、俺は巨人型煉魔を倒してから呑気に朝まで寝ていた……ということになるのか?


 いや、正確には……『俺達は』、か。


「で、あんたらはどう思う?この状況」


 俺と同じように……地面に座っている『3人』に声をかけた。


「とんでもなく『まずい』と思うぜェ!?あの『魔王』が来たのが見えた。だというのに数時間経って今は朝って、腑に落ちねェ!」


 金髪の髪をくしゃくしゃにしながら、珍しく焦ったような表情を見せた彼誰時霙。


「僕は『良い』と思ってるよ?何せあの夜は吸血鬼の女の子にボコボコにされて死にかけだったからね!でも今はなぜか無傷。朝まで寝たくらいで治るものなのかな……?」


 明るい笑みを浮かべる少年は……榊渉だ。前に会った時とは比べ物にならないくらい表情が豊かで、トレードマークだった学ランではなくすごしやすそうなスウェットを着ているため、気づくのに少し遅れた。


「良いだって?ふざけるな、『最悪』だ!あのクソ女をもう少しで殺せたのに、後少しで……クソ、クソがっ!」


 顔を赤くしながら地面を叩く少女……いや少年?見覚えのない顔だった。病院の患者が着るような質素な薄い服を着ていて、中性的な外見がとても珍しい。


「えーと……ひとまず協力関係を結ばないか?状況判断は大事だし……」


「くくく、そうだよなァ、『イケメン』なだけのお前はそう頼むしか無いよなァ」


 不敵に笑う霙だったが、すぐに俺と肩を組むように腕を回してきた。


「オレは手を貸すぜ、霧間。お前らも……『殺人鬼』も『化け物』も!霧間を殺すならオレが相手になるって事だ、嫌だろ?『仲良く』しようぜここはァ」


「……ちょっと待て、今榊君に『殺人鬼』、この子に『化け物』って指さしたのか!?」


 まさかそんなわけが無いだろう……という俺の抗議とは異なり、指を刺された二人はむしろ俺の方を不思議そうに見ていた。が、ひとまずいきなり襲ってくる様子ではなさそうだ。


「まァ……一旦落ち着いて自己紹介と行くか」




 よく周囲を見渡してみると、ここは巨人型煉魔と戦っていた場所だということが分かる。夜と朝とだとこうも印象が変わるのかと思ったが、ついでに気になったのは人気が無いこと。まぁ廃ビルの周辺だし、朝っぱらだし……むしろ、こうして落ち着いて話すにはありがたい。


「まずはオレから」


 金髪の男が胸を叩く。


「題名は『人智を超越せし者』、彼誰時霙だ!周りからは『超能力者』と言われてる。気軽にミゾレちゃんとでも呼んでくれ」


「最初から超能力者って言えよ」


「ンな事言うなよォ!次、霧間よろ」


「あぁ……」


『化け物』と『殺人鬼』が俺の方を向いた。


「霧間行人。題名は『イケメン』です。主人公になろうとしてる訳じゃないから、この戦いを無効化させたい。だから……よろしく」


「ブレないねェ〜霧間ァ。次は榊渉ゥ、頼むぜ」


「おっけ!」


 何を考えているのか一切分からない虚な瞳が俺たちを見回す。


「榊渉です。題名は『殺人鬼』です。好きなものは幼馴染の女の子で、趣味はゲームです。よろしく!」


「ふ、普通だ……!」


 題名以外。


「質問いいか?前に君と会った時、君の『本』には『宇宙人』って書かれてた気がしたんだけど……」


「あぁ、あの時ね。それは僕の『相棒』の本で、実はかくかくしかじか────」


 榊君の口から語られたのは、彼が戦いに参加し、自殺し、宇宙人に身体を乗っ取られていたが最終的には身体の主導権を取り戻し仲良く共生しているという……めちゃくちゃにヘビーな内容だった。

 ……秋土と話した予想は的中していたみたいだ。


「じゃあ、君は本当に『殺人鬼』……なのか」


「あはは、安心してよ。僕は確かに殺人鬼だけど気に入った人は殺すのを我慢してるから!霧間さんはなんか、頑張ってるから応援したくなるんだよねー」


「そ、そうか……?」


「分かるぜェ、参加者の中でも圧倒的弱者だもんなァ」


 霙と榊君が談笑を始めかけたその時。

 恐らく少年と呼ぶのが相応しいであろう『化け物』がスッと立った。


「くだらない。どうせ殺し合う事になる相手と馴れ合いをして何になる」


「ちょっと、待って……!」


 せっかくのチャンスだった。相手はまだ話が通じる、狂っていない相手。薪ちゃんに言われた通り、血を流さないで仲間になってくれるかもしれないのなら……ここは引き止めるべきだ。

 俺は立ち上がり、その少年の腕を掴もうとする─────が、痛みとも言える圧迫感が腕に。


 虎のような、獣の手が俺の腕を握っていた。


「……そうだな。お前には聞きたいことがある。そこだけハッキリさせておこう」


 ……本当に化け物、あの時の異形の怪物だったのだと実感する。女性的な顔立ちだというのにこれほどまで凶暴な力を持っている歪さ。人と人外が混ざり合っている姿が、なんとも不安感を煽る。


「聞きたいこと?俺に?」


「……ボクは煉魔だ。感応現象を様々な動物や煉魔と起こしている。それ故の本能のような、センサーが備わっている」


 感応現象、か。当たり前のように言うが、この子は自分が煉魔であるという事を受け入れているのか。


「だから、お前の身体の中にボクの友達の気配を感じたのが不思議でたまらない」


「───────え」


 全身から冷や汗が吹き出る。


 あり得ない話ではない。秋土もこの子も俺達も同じ『参加者』、つまり異常者。主人公の周囲を彩る存在。

 異常者同士の繋がりが争奪戦以前にあったとしてもおかしくない。むしろ自然だ。


「答えろ。秋土一鳴とどういう関係だ?秋土一鳴に何をした?」


「……」


 ……そうだ。俺は答えなくてはならない。この質問に答える義務がある。そして─────罰を受ける義務も、また。


「おい、質問に──────」


「俺が殺した」


「……は?」


 眉を曲げて俺を睨んでいた顔が一気に白くなる。同時に俺の心臓は……キュッと悲鳴を上げる。


「短刀で。心臓を刺した」


「ヒュ〜!」と榊君の茶化す声の直後。

 蜂の針のような形に変貌した化け物の腕が俺の眼前に迫り───────。

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