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56話 その『仮面』……いつか剥がれ落ちるのでしょうか

「ねぇ、今日元気無いよね?」


「え」


 誤魔化すようにきゅうりの漬物を口に運ぶ。母さんの瞳は変わらずボクの顔を写したままだ。


「そうなの?かいくん元気無い?」


「体調悪いの?頭痛なら薬飲みなさいよ。ちょっと待っててね……」


「あぁ違う!大丈夫、体調は全然大丈夫だから……」


 父さんは相変わらず喋らずに黙々と食事を続けるが、母さんと妹……つぼみは心配そうに眉を曲げながら顔を覗く。


「体調は?体調以外はどうなのよ」


「あーその!あれだよあれ……恋の悩みっていうか、ははは」


 間違っても、事実を話したくはなかった。自分の息子が男に襲われかけただなんて聞きたくないはずだ。中途半端に学校側が対応せざるを得なくなって、男子たちから報復を受けたりしないという確証はないし、心配して転校することになったら華邑と会えなくなるし。何より、恥ずかしい。情けない息子でごめんなさいとかいうつもりはないし母さんたちもそんな言葉は望んでない。でも罪悪感で心を埋め尽くさないと、行き場を失った怒りと苦痛が『なんでこんな見た目で産んだんだ』という無意味な八つ当たりになって顔を出しかねない。


「うえー!?かいくん恋してるの!?恋愛!?」


「あら。そういうことなら早く言いなさいよっ」


「どんな子!?どんな子!?」


「教えないよ!ご馳走様」


 逃げるように食器を片付け、洗面所へ向かった。

 歯ブラシを手にしようとした時、鏡の中にいるボクが目に入る。


 ……目が合う。


「何が恋愛だよ」


 もういっそ、男が好きだったら良かったんじゃないか。とか言ったら本当にそのことで苦しんでいる人に何か言われそうだが、今は相互理解がしたい訳でもないし、そういう人もいない。ただボクの独白。善悪を問う必要性のない、ボクのための悩み。

 でも冷静になって一つ思うのは、男が好きだったのならそれはそれで苦しむこともあるということが容易に想像出来る。


「────花威」


「っ!?」


 鏡を通して見たのは、ボクの後ろにいつの間にか立っていた父さんだった。


「あぁ、ごめん、今どくから……」


「いや、そうじゃない」


「……?」


「その、なんだ」


 気難しげに頭をかきながら、しかし父さんはボクの目をまっすぐと見ていた。


「男同士じゃないと言いにくいこともあるだろ」


「……どゆこと?」


「……母さんとつぼみに言えないなら、まずは父さんを頼れってことだ」


 ボクの家庭の話だが……父親というのは仕事という都合上、母親より子供と関わる時間は少ないと思う。でも、それでも辛いであろう仕事をするのはボクたち家族のためで、その上で休日とかはボクたちのために時間を作ってくれる。分かってはいたけど────いざ、その優しさを真正面から受けると涙を抑えるのは難しかった。


「……大丈夫だ。俺達はお前の話を聞くし、お前の悩みに対する提案もするけど絶対に無理強いはしない。最終的に決めるのは花威だ」


 父さんの胸元を涙で濡らしながら頑張って声を殺そうとした。でもなぜか、感情が昂って泣いた時に限って自制が出来ない。


「……っ、その……」


「ゆっくりでいい」


「男同士って……言うけどさぁ。ボク、男に見えるかなぁ……っ」


「……そんなの、当たり前だろ」


 顔を上げると、父さんの大きな手がボクの髪をぐしゃぐしゃと乱した。


「チ●コついてりゃ、それはもう男だ」


「……」


 絶対に求めている言葉ではなかったけど、時代錯誤な価値観丸出しで、変わりつつありはするものの不変の側面を持つその言葉が───────


「あは、ははははは!確かにっ、ボク付いてる……あははは!」


「ママー?パパがかいくんを泣かせて笑わせてるしちんちんとか言ってるー」


「ちょっ、つぼみ、そうなんだけどそうじゃないぞ……!」


 そんな言葉が、結局ボクの固まっていた心を溶かして、ボクに打ち明けさせることになった。『居場所』は……かけがえのない居場所は、ずっとボクのそばにあった。





 あった。














(せーーーのッ!!)


 合図はその場にいる全員の脳内に響き渡り、それぞれが手に持った武器を握りしめる。

 彼の場合は、自分自身の体が武器だった。


「まずはボク」


 少しの責任感を感じながら、冷静に巨人の頭部を見据える。数回の深呼吸の後はすぐ、翼をはためかせながら花威は右足の形状を変化させる。鋭く、細い針のような形へ。


「巨人とはいえど、お前は人間を模倣しようとした煉魔なんだろ?同類だから分かる」


 空を蹴り、勢いをつけて右足を頭に打ち込む。


「人間を最も殺してる生物は『蚊』らしいよ」


 そして─────頭の中に埋まった、針だった足を変化させる。……あらゆる生物が、他者を殺す時に用いる部位に。


 バリン……というガラスが割れるような、夜公曰く『煉魔の王』と呼ばれた彼のみが行える他の煉魔への強制破壊を表す振動が響く。


 巨人の頭があった場所には、細い足の先端から巨大な爪、牙を栗のように生えさせている異形が佇んでいた。


 この頭部の破壊が他の四人の攻撃が始まる瞬間。


「はぁっ……!!」


 剣の煉器は青く発光し、火花が飛び散るような音を鳴らしながら出力を上げる。巨人の左足を薙ぎ払う一閃は、今度こそ蓮に手応えを感じさせるモノだった。


「涼花さん!行けますか─────」


「舐めんじゃないわよっ!」


 彼女の身長の三倍を超えるほどの大きさへと変貌した鎌を振る。振る。振る─────重量を感じさせないその連撃は再生し続ける巨人の右足をサンドバッグ代わりに裂き続ける。


「こちとら復讐横取りされてイライラしてんのよ!一年以上燻ってきたこの怒り、全部ぶつけてやるっ!!」



 同時に、刀を持った武者が巨大な怪物の上に立つ。

 それを確認したのだろうか、巨人はその怪物よりもさらに巨大な腕で武者を薙ぎ払おうとする。


 が、その腕は透明な壁に阻まれる。


(防御は私がやっておくので。あなたはさっさと斬っちゃって)


(お義兄ちゃんの生命エネルギー下だと長い時間はこの姿維持できないから、私も速くしてほしいー)


「……頼みます、零助さん」


(分かっている)


 どこか満足げな背中だと、行人は感じた。その刹那─────月明かりに照らされた剣筋が夜に刻まれる。一度ではない、無数の斬撃が閃光となって巨人の腕を切り伏せる。



「で、オレはどうやって腕を吹っ飛ばすか。実はもうクソ良い案を思いついちまっている」


 彼の目はどの距離であろうと見通す。彼の不可視の腕はどんな物であろうと宙に浮かばせ、操作できる。


「ここでオレは『拡張せよ、人の意(ティターンズシャイ)』を発動〜ッ!」


 巨人を操るために行使したわけではない。彼は近くにあったとある武器を手に入れるために念動力を発動させた。


「ちょうど良いところにィ!『鉄の剣』があったとはなァ!つくづく幸運で困っちまうぜェ〜」


 ニヤけながら、血の匂いが強く漂ってくる2本の剣を空中で自由自在に振り回し……巨人型煉魔の腕を切断する。物を動かすだけでなく、動かす速度も彼は操ることができる。


「合わせろ霧間ァ!胴体をぶった切るッ!」


「だそうです、零助さん!」


 他人任せ過ぎて自分で言ってて恥はないのか、とため息をつきそうになるが、行人は武者の刀から目を離さなかった。


(霧間君、頼みがある)


「……はい、俺に出来ることなら」


(生前の技を使いたい。出来るだけ肉体を人間の頃に近い状態に戻さなければならない)


 刀を振る腕はそのまま、目線を行人に向けた武者が呟く。


(君の生命エネルギーを利用したい。この霊体に触れてくれるか)


「それだけでいいんですか?もちろん、いくらでも」


 行人はそっと零助の肩に手を置き、彼の顔をのぞいた。装着している頬骨のせいで表情は見えなかったが、武者の小さな頷きに行人は巨人型煉魔に目線を移す。


「行くぞォ!!せ〜のッ……!!」


 霙の大声と共に、武者の刀が月光にさらされる。


(……『新月』)


 刀が、行人の視界から消失した。かと思えば、零助の前の空間に黒く丸い空洞ができているかのようにも見える。


(衰えてはいないな)


「……へ?」


 隣で見ている行人にも状況は理解できなかった。黒い空洞は前進していき、やがて巨人の胴体すら飲み込んでしまうのではないかという勢いで巨人の腕を消失させているのだ。その正体は霊力をまとった斬撃。

 秋土の一族が得意とする『霊力を操作した攻撃』。一族の中で一鳴だけはその才能がなかったため、行人がその技術を目の当たりにするのはこれが初めてだった。


「え、あ、ん?なんで消えて……」


(否。斬っているだけだ)


「そ、そっすか……」



 そして反対側から、パイロキネシスを用いて鉄の剣に炎を纏わせた霙が何も持っていない両手をぐるぐると回しながら現れる。……宙に浮き乱舞するその剣の様子はさながら、『本来の所有者』の戦闘技巧と酷似していたが、彼女のように冷静で高潔な振る舞いとは程遠い暴れっぷりだった。


「ハッハハァ!よく切れるなァこの剣!鉄製かな?銀かな?ミスリル?それとも『血』だったり?まさかそんなわけないかァ〜ッ!」


 おちゃらけた様子を周囲に見せながらも、霙は目線で『決め手』を追っていた。


 胴体は二つの斬撃によって再生を繰り返す。コアの残る移動先はその下部。


「かましてやれェ、ヒーロー」


 正義の味方というよりは悪役、怪人と言ったほうが相応しい見た目の彼に対して、霙はあえてそのセリフを送った。


「─────任せろ、周りに合わせるのは慣れてる」


『化け物』は上空に高く飛び上がっていた。攻撃のための助走……勢いをつける落下距離は稼いだ。


「あれがコアか」


 上からの視点ではすでにその赤い球体が露出していた。上下左右不安定に動くその『弱点』は他の部位が再生するたびにそこへ向かおうとしているのだろうが、すぐに攻撃されるため股間部分で震えるだけとなっている。


「デカいだけのお前には一撃で十分。間違ってないだろ?」


 花威が選択した攻撃方法は、右足による落下攻撃。シンプルなキックだった。意外なのは……彼がその右足を『人間の右足』に戻したことだ。

 理由は二つ──────彼の中にあった『強力な一撃』のイメージが、人間の肉体による攻撃だったからだ。少し前、花威がまだ自我を取り戻していない時、彼は出会っていた。生身で兵器級の攻撃を可能とする男────奥院仙次に。

 花威は無自覚で彼を真似しようとしていた。そして花威の身体は応える。『感応』していく。感応現象によって読み取った奥院仙次の肉体に近いものへと変貌し、足を形作る。


 もう一つの理由は……彼が、憧れていたからだ。テレビの中の『ヒーロー』に。今こそ怪人のような姿をしているが、かっこよくて男児達の羨望の対象であるヒーローに、外見にコンプレックスを感じる花威は人一倍憧れを抱いていた。


 今なら、それを実現できる力がある。


 そして────放つ。


「らああああっ!!」


 パキン、と繊細な音が全員の耳に届く。二度目の死を恐れる巨人型煉魔のコアは無慈悲にも、さらに上位の煉魔の拳によって……粉砕された。


 勢い余って化け物が地面にぶつかる音、土煙が彼の視界を隠している間に……巨人の肉体は灰のように細かく、風に流されて消えた。




ふと気になったので、読者様が思うこの作品の現時点での『好きなキャラ』が知りたいです。よければ感想に書いてってください

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