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5話 『次の標的』……というと悪役っぽいでしょうか

「こういうのってさ……」


「あん?」


「起きてきたら朝ごはん準備してくれるパターンじゃないのか……?」


 リビングのソファにだらしなく寝っ転がったままの秋土を見ながら、俺は寝ぐせを手でほぐした。


「せっかく一人暮らしなんだから泊まり込みさせろよ!いつ誰が襲ってくるか分からないんだからさぁ」とか言うので、それもその通りだと思って泊めてみたが……。


「二葉ちゃんおはよ。よく眠れた?よかったねー」


「お前、いつもそんな感じで霊と会話してんのか?俺から見るとただの頭おかしい奴にしか見えないぞ」


「いやいや、いつも……っていうか、今まではそんな話してなかったよ。行人クンのおかげ」


 秋土は立ち上がり、下の辺りを撫でるような手の動きをした。子供の頭を撫でるような、そんな動き。


「キミが妹をメスにしてくれた」


「お前は何を言っているんだ????」


「妹はね、悪霊みたいな感じだったんだ」


「……悪霊」


 急に重い話になって温度差で体調を崩しそうだったが、秋土の次の言葉を俺は待った。


「まだ幼くて、やりたいこともいっぱいあっただろうに死んじゃって。あたしの言う事は聞いてくれるけど、本当はかなりヤバめの悪霊だったんだよね。でも、キミの生命力にあてられちゃったみたいで……こうして昔みたいに話せるようになった」


「……」


「本当にありがとう。行人クン」


「じゃあ朝飯作れよ」


「それとこれとは別でーす」


「じゃあせめて自分の分は自分で作れ」


「冷蔵庫の中使っていいの?行人クンは優しいーねぇ二葉ちゃん」


「やっぱ使うな。コンビニでなんか買ってこい。俺の分もな!」


「ハァ?作るんじゃないのかよ!料理できる系男子はモテるぞ?」


「俺はそんな事しなくてもモテる」


「おま、そんな発言……ほら二葉ちゃんがちょっとショック受けたみたいな顔してるじゃん!!テメェッ!!」


 秋土は何も見えない場所を指さしながら、俺の胸倉を掴んできた。


「知るか!なんで俺が気を遣わなきゃいけない!」


 先に手を出してきたのはあっちなので、俺も胸倉を掴む。


「ちょっ……セクハラやめてくれません!?これだから顔だけでモテてきた奴はデリカシーが──────」


「行人ー?土曜の朝から騒がしいけどどうしたん、だ…………」



 部屋着ジャージのままの俺。俺が貸したパジャマ姿の秋土。玄関のドアを開けた寝巻のままの蓮。

 底辺が2センチくらいの二等辺三角形が、構築された。


「あっ、あっ…………すいまっせーーん…………」


「ち、違う!!待ってくれ蓮!!」


 すんでのところで閉まりそうなドアを食い止める。


「まさか……行人がまた彼女を作るなんて……。ついにその性格を受け入れてくれる人が出来たんだな……俺は嬉しいよ」


「違う!全然彼女なんかじゃないんだ!信じてくれ!」


「必死過ぎでしょ……浮気とかした訳でもあるまいし」


 余計な事を言わないでほしい。


「じゃあどういう事だよ。同年代?の女と一つ屋根の下住んでるのに彼女じゃないなら、俺はもうこの世界が分からねえよ」


「あいつは……その……なんていうか」


 俺が秋土との関係性をどういい現わせばいいのか悩んでいると、秋土が俺の肩から顔を出して言った。


「あーあれ!そう、拾ってもらったって感じ?」


「ペット……ってコト!?」


「おい悪化してるぞ」


「……まぁ、そこまで言うんなら信じるけど。だったらお邪魔していいって事だよな?」


 蓮はドアを閉めると、靴を脱いでテレビの前に座り込んだ。


「……え、なにこれ。なぜ当たり前のように家に入ってきて座ってるの……?」


「家が近いからな。互いの家が互いの家みたいな?」


「……なるほどね。そんだけ仲良けりゃ命もかけるわけだ」


 テレビとゲーム機を起動させた蓮を後ろから見つめながら、秋土はソファの上でふんぞり返った。


「土曜だし、あたしはもうちょっと寝ちゃおうかな」


「ふざけるな。居候の分際で俺のソファを何時間占領するつもりだ」


「疲れてるんですー」


 ……よく見てみると、秋土の目の下にはクマがあった。

 ソファとはいえ、一晩休めば疲れは取れるものじゃないのか?


「さーて、行人。まずはいつも通り『アイテム爆弾のみ制限時間無限ストック1切り札あり』のルールで……」


 蓮が差し出したコントローラーを受け取ろうとした時、蓮のポケットから大音量が流れる。蓮に見ろ、と言われて二話で飽きたアニメのオープニングだと遅れて気付く。


「はい。朝空です。あー……はい。大丈夫です、分かりました。はい。じゃあ……はい、失礼します」


 げんなりとした表情で、コントローラーを置いた蓮はスマホをポケットにしまう。


「また出勤か」


「また出勤だ」


 ため息を吐きながら蓮は靴を履く。


「多分すぐ戻ってくるわ」


「分かった」


 ガタン、と扉の閉まる音。

 ここまで、いつもと変わらない日常だ。


「……バイトじゃないよね」


「マゼンタがバイトならそれで合ってるだろ」


 そんな訳ないけどな、と付け加える。


「まだ高校生なのに大変だねぇ。強制出勤なんて。あ、そうだ」


 せっかく二人きりになったんだから、と秋土は起き上がる。


「情報の共有をしておこうぜ」


 そう言いながら秋土が床にばらまいたのは──────数枚の紙。


「……これは」


「一晩かけて、街中の参加者らしき人物をまとめた」


 一枚を手に取ってみる。

 推定の名前、能力、居場所、似顔絵……この一枚でもかなりの作業量。


「なるほど、疲れてるのも納得……って、どんな方法を使ったんだ?」


「そりゃ、霊を使ってやったに決まってるでしょ」


「……便利すぎないか?霊ってそんなに自由に扱えるのか」


「あたしの言う事なら聞いてくれるよ。霊能力者ですしー」


 ……再認識した。

 俺は霊能力者(こいつ)を仲間に出来ていなかったら、今にはもう死体となってハエが集っていたかもしれない。


「行人クンが今持ってるのが、一番情報が正確そうなやつだね。霊から伝言で書いたものだから、よく分かってない情報も多いんだ」


 書いてあった内容は、目を疑う物だった。


 ・名前

 からまちゆう(漢字不明)

 ・性別

 女

 ・題名

 吸血鬼

 ・居場所

 第三中学校の裏のデカい屋敷。一人で住んでるらしい


「吸、血鬼…………って…………」


 あまりにも馬鹿げている文字列を、受け入れたくなかった。


「三中の裏の屋敷って……あんなデカい家に一人とは」


 似顔絵を見てみると……黒髪ロングの身長高めの女性、としか分からなかった。秋土の画力は平均か少し高いくらいで、文字で補正はしてあるもののそれ以上の特徴は分からなかった。


「なんかそれも吸血鬼っぽいよね~」


「冗談じゃない。……ついこの間まであそこに通ってたんだぞ」


「大丈夫、あたしも……えー、今が高2の春だから、うん。一年ちょっと前まで通ってたから分かるよ」


「え。……先輩かよ」


「いらないよ敬語は」


「言われなくてもするつもりはない」


 この辺に住んでるのなら大体三中に行くことになるから、別に不自然ではない。それに……今目の前にある情報の海に比べれば、気に留める価値は無い。






「────────つまり」


 床に並んだ紙を眺めて、俺は順番に指を折っていった。


 途中に目についたのは、題名が書いてあるところに『顔が良いだけ(笑)』とか『霊能力者←最強!』とか書いてある、もはや落書きと呼んでいいほどの紙切れだ。


「……顔が良いだけは置いといて、これで12人」


「え、それスルーしないでよ」


 俺はほぼ白紙の二枚の紙を指さしながら言う。


「これはサボりか?」


「なわけあるかい。何も情報がつかめなかった奴。どの霊も残り二人の情報は持ってこなかった。と言うより─────ふわぁー……」


 あくびを挟んで、秋土は言った。


「──────その霊達は何らかの方法で消された、という可能性の方が高いと思うよ」


「要注意人物、だな」


「うん。吸血鬼とか大層な題名の奴よりも、多分霊能力者でもないのに除霊まがいの事ができるやつの方がヤバい」


「……この二人は?」


 俺は題名の一部しか分かっていない二枚の紙を指さす。


「霊が理解できなかったか、理解することを拒んだ文字が題名に書いてあったのかな。それか、何らかの霊を退ける力を持っていて情報を掴み切れなかったか」


「……なるほど」


 何文字かが分かっているのなら頑張れば推測できそうな気もしなくはないが、会ってみるまでは謎だ。


「……で?誰から行く?」


 天井を見つめながら秋土は言う。


 この戦いは先手に回らなければいけない、と考え始めたのは昨日ベッドに入ってから。夜の暗さと言うのは人の不安を増長させ、思考を迷路と変化させる。

 他の参加者が参加者を殺す前に、俺は本にチェックを入れなければいけない。

『参加者が存在している限り、いくら離れようとしても私達は自動的に参加者を追跡しますよ』と本は語っていた。なら逆に、死んでしまえば本の行方が分からなくなってしまう可能性もある。


「まずはこいつだ」


「だろうね!」


 俺が指さしたのは──────『未来人』。


 題名から攻撃性が感じられなかった唯一の人物。名前は不明、性別は女、居場所…………住宅地。

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