43話 まるで『ジャミング』……されたかのような砂嵐です
「当たらないなぁ~ッ」
無数の光の弾丸を全て躱しきるのは、『超能力者』こと彼誰時霙。
「『躍動する幻影』がある限り──────そんな真っ直ぐな方法じゃオレは殺せないぜェ?」
側溝の上。道の真ん中。塀を登った先。屋根の端……あらゆる場所へ、一瞬にして移動する彼を捉えるのは例え銃であっても困難だった。
「……」
現れて消えてを繰り返す霙を睨み、薪は無言で引き金を引いた。
向かってくる弾丸達。ため息とともに霙は彼女の背後へと『躍動する幻影』を発動させる。芸の無い戦いに時間を割くつもりはなかった。
…………が、弾丸は軌道を変える。
「……なるほどォ、そういうタイプかァ!」
振り向いた薪はさらに数弾発射し、躱す為にもう一度『躍動する幻影』を発動した霙を追う光弾の数は十を超えた。
(『拡張せよ、人の意』……は、なぜか使えない)
光弾を操り軌道を変えようとしたが、彼の能力は適用されなかった。慈門薪自体にも同様に。
(『潜在せし監視者』で見た霊能力者と未来人の戦いでは、霊体化した部位にも攻撃が命中していた。つまり『幽玄なる幽境』ですり抜けさせるのは不可能)
瞬間移動を繰り返して逃げながら、霙は思考を続ける。
(『炎神の戯れ』ではそもそも燃やせないっぽいな。…………だからと言って『凍結の審判』を使うのは負けた気がする)
「考え事ですか?」
「ッ!!」
背後に感じた殺気。咄嗟に能力を行使し、瞬間的にその場所から離れる。
「……さっきからずっと逃げっぱなしですが、大丈夫ですか?」
脚部から炎を噴き出させ、空中に浮遊している薪が剣形態となった白い武器を握っていた。
「気になりますか?『宇宙人』の技術を模倣し未来で作られたこの装置。それとも───────気付きましたか?」
「…………」
「あなたはこの追尾弾への対抗策を持っていない。あなたはこの戦いにおいて、常に追尾弾から逃げながら私に勝利しなければならない事に」
「ハハッ、面白ェ……!」
光弾に能力が効かない事については、霙は大方予想がついていた。似たような力を感じた、千里眼で見たマゼンタの兵器。それは煉魔に対する特攻を持ち、『宇宙人』の使用する人間の動きを阻害する電波すらも防御していた。
分からない事があるとすれば、なぜ『自分を含むこの戦いの参加者達が煉魔であると判断されているのか』が一向に不明のままだった。
彼は超能力者ではあるが、両親は人間だ。それは他の『イケメン』も『霊能力者』も『殺人鬼』も同じはずだ。煉魔であるはずがない。
「…………ってのはひとまず置いといて、『拡張せよ、人の意』ッ!!」
飛び回った先にあった公園の、またがる遊具を浮遊させる。それを光弾が通るであろう軌道─────自らを守るように、盾のように配置する。
「無駄ですよ、その程度の壁など」
言葉通り光弾は遊具を貫き、すぐに霙にその姿を見せた。
…………が、それを見た霙の顔は笑顔で歪む。
「ンじゃァ……この程度の壁も駄目なんですかねェ~ッ!」
懐から取り出した『それ』を手から離し、浮遊させ、壁代わりにする。小さく平べったいその物体は先ほどの遊具よりも早く穴をあけられてしまう。薪がそう考えた瞬間、彼女はその物体の正体に気付いた。
そして、霙を追う全ての光弾が物体に防御される瞬間を見届けた。
「まさか……!」
「……ッハハハ!本当に上手く行くとはなァ~!?まァなんてッたッて……『神の遣いだから何しても壊れない』……『本』、だもんなァ!?」
くるくると回転しながら浮遊する『焦げ茶色の本』を見せびらかすように霙は手に取った。
『…………主人公争奪戦始まって以来の大活躍ですよね、私』
「なるほど。その戦法については確かに、感服したと言わざるを得ません」
微笑みながら薪は銃弾を放った。
────────否、放ち続けた。
「しかしその本、面積が小さくありませんか?」
彼女がそう話しているこの瞬間も、薪は常に引き金を押しっぱなしにしている。光弾は水道水のように、まるで一本の紐に見えてしまうかのような数が霙に向かって飛んでいく。
「…………ゴリ押しが過ぎねェか?」
「しかしこの物量を躱しきるのが困難な事は揺るぎない事実でしょう」
光の線は霙まで近づくと一斉に分裂し、弾一つ一つが異なる方向から霙めがけて向かう。念動力で高速で動かしたとしても、その焦げ茶色の盾は小さすぎた。
瞬間移動を繰り返すが、状況に変化はない。追尾光弾はそれぞれが意志を持っているかのような動きをし、霙が別の場所へ移動した場合は大量の光弾が一直線に追跡するのではなく、全て違う軌道でバラけながら追ってくる。まとまった所を本で一斉に消滅させる事は不可能だった。
「では、私からも逃げてみてください」
「ッ!」
再び斬撃で霙を断たんとする薪が飛行してくる。薪へドアを開けたかのように光弾はスペースを開け、薪と共に霙を覆いつくす。
「──────なるほどなァ、見破ったぜ」
まさに絶体絶命。そんな状況こそが彼の大好物であり、嘲笑うかのように霙は指をクイっと上げた。
「何を…………っ!?」
突如、薪の真下から突き上げるかのように飛んできた『何か』。咄嗟に回避した直後、霙は『躍動する幻影』を発動した。
「まだまだ、だぜェ」
指で銃を作り、その先を薪へ向ける。下方から飛んできた『何か』───────大量の『熱湯』が矢のように薪の『目』を目掛けて突き進む。
「『炎神の戯れ』と『拡張せよ、人の意』の応用だ。『お前に』俺の能力を使う事が出来ねえンなら、間接的にブチのめしゃ良いッ!」
公園の水道は破壊されていた。霙は落ちていった遊具を操作し、違和感のない範囲で勝算の一手を吹き出させていたのだ。
「くっ………!」
薪が最も厄介だと感じたのは、執拗に『目』を狙ってくる事。薪のスーツや武器は万能であり、もちろん耐熱性能も高い。少しの火傷など、今ここで霧間行人を彼誰時霙に奪われる事と比べれば大した被害ではない。だが……『目』となると話は違う。確実に守らなければならない。
「しかし、甘く見ない事です……」
薪は武器を腰にひっかけ、左腕で目を守りながら右手で耳に装着したデバイスを触る。瞬間的にバイザーが薪の眼前に展開され、目を狙った攻撃は有効打を与える事が出来なくなってしまった。
────────だが、その刹那の動作。その時間さえあれば、霙は十分だった。
薪が武器から手を離した瞬間、再度『躍動する幻影』を発動。追尾光弾は離れた霙を追いかけるが──────その姿は一直線の光の線となっていた。
「やっぱりなァ!追尾の軌道だけはお前が制御していたッ!そうなんだろ未来人ッ!」
薪の武器の剣形態時はトリガーを引く事で刀身に光を纏わせて拡張する事が出来たりするのは既に見抜いていた。追尾光弾は既に十分な量が放たれたはずで、攻撃していない時はトリガーを引いたりする必要は無いはずだった。しかし霙が瞬間移動した瞬間に薪が手を動かしていた事……それに気付いた。
「『潜在せし監視者』で拡大して視りゃァ、割とバレバレだったぜェ!?」
高笑いと共に霙は本を突き出す。自分を貫かんとする光の線を正面から……打ち消した。
『全く、本の用途をご存じないのです?』
「オレも本は好きだからなァ、割と不本意ではあるぜ」
霙は薪へと視線を戻す。得たチャンスを無駄にしないため、彼は即座に『拡張せよ、人の意』を発動する。周囲のあらゆるもの…………大木、石、遊具、鉄くず──────武器になりそうなもの、殺傷能力のあるもの全て。いくら光弾に撃ち抜かれようと未来人を貫くために。
そのために周囲を見渡した。上空に立ち止まりながら。樹愁町の風景が飛び込んでくる。
霙も人だ。このような至って普通で、懐かしくて、見慣れていて…………具体的に言うなら、彼が昔住んでいた家があって。そんな風景こそ感傷に浸ってしまうものがある。だとしても一瞬だ。一瞬だけ全てがどうでもよくなったり、自分が今ここにいる理由を考えてしまう。
『ふと我に返る』と言う現象。
そう、彼は我に返った。
(──────待て。オレはなんでそこまでして霧間行人を連れて行きたいんだ?)
ノイズがかかった思考。
(確かに奴には興味がある。奴の『能力』……『イケメン』なだけじゃなく『何』なのか。それは警戒すべきで、興味があって、面白そうで───────)
しかし霙は行人が一鳴を死なせた時点で、彼は基本的には戦闘能力など皆無に等しく、この戦いを生き残る事は出来ないだろうと判断した。その判断が、一度彼の顔を見ただけで覆るものだろうか?なぜ自分は行人への興味が復活したのだろうか?
(……落ち着いてきた。『オレが霧間行人を連れて行こうとしている』事自体が……というか、今はこんな事をしている場合じゃない)
「……?」
薪は突然地面に落下した木や石達を見下ろし、霙の様子を伺った。
(まず間違いなく……『あの女』が『イケメン』を守りに来る。今のままではオレはそこで死ぬ……その後だ。未来人とイケメンが離れたその瞬間を待つ。……さっきまでその事を考えてたはずなのにな)
千里眼で周りを見渡し─────普段しないようなバツの悪い苦笑いをする。
「ほら、やっぱりなァ」
直後、彼誰時霙はその場から消失。空中には脚部の装置を弱めながら降下していく薪がポツンと佇んでいた。
「……何のつもりかは分かりませんが、逃げてくれたのなら良かったです」
地上に降り、薪はため息をついた。
「と、言えたら良かったのですが」
耳元のデバイスが鳴り響く。バイザーには簡易的な周囲の地図と、一つの点。
『警告。高速飛行物体が接近中。警告。高速飛行物体が──────』
頭上を見上げ、『それ』を睨む。やがて地上に轟音を立てて着陸したその存在は、倒れ込んでいる行人と薪の間に悠然と腕を組んだ。
コウモリのような翼をしまった黒髪の少女は、美しく可憐なその佇まいに似合わない、不気味さを孕む笑みを浮かべた。
「初めまして、こんばんは……『吸血鬼』」
「寝坊したところなのだ。気遣っておはようと言え小娘!」




