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34話 戦であっても、民を動かすのは『王』……ただ一人です

「よし、包囲網が張られた。まずは探知機を起動!」


 夜公の声で、隊員たちは一斉にその液晶に光を灯す。

 樹愁町全域のマップに、人型煉魔が点として表示される装置。本作戦のために用意された優れモノだ。


 しかし蓮のみは、起動スイッチを恐る恐る指で突いた。


(夜公隊長は俺はここに表示されないって言ったけど、本当なのか……?)


 どういう理屈で蓮以外の人型煉魔を見分けているのか想像も付かなかったため、夜公の言葉を信じ切れていなかった。


「今回は煉魔の身体をベースにした新兵器を持ってきていて、それが探知機に反応してしまう。だから私達のところにある一つの点は気にしないでくれ」


 夜公は棺桶のような巨大な箱をポンと叩いた。隊員たちはその言葉を聞き、しっかりと探知機に表示された『11個』の点を見た。自分たちがいる場所に表示される一点と────────


 超高速でこちらに向かってきている、別の一点。


「っ!?律、これは────────」


 奥院世鶴が振り向き、同時に隊員たちは不測の事態への隊長の支持を求めた。全員が夜公へと視線を向けた瞬間──────『それ』は現れる。


「ぐっ……!?」


『それ』はその大きな翼を広げ、夜公ただ一人に激突する。


 闇夜に紛れる黒く、美しい羽毛。カラスのような獰猛さを併せ持つ眼光…………されど、翼以外は人の形を持っている。


「律っ!」


 そして……『それ』は獲物を見事に奪って見せた。夜公律はその人型煉魔の手によって、遥か上空へと連れ去られた。


 瞬く間にそれは決行された。唖然と口を開ける隊員達の目には小さな点で、夜の闇に混ざって見えなくなってしまうほどにその煉魔の飛行速度は凄まじく速い。


『落ち着くんだ、皆』


 しかし、探知機のマイクからは冷静な声が。


『この煉魔は私が対処する。各班はそれぞれの役割を全うするんだ』


 世鶴さえも、ここまで自信満々に一方的に言われてしまえば何も言えなかった。


「……信じるよ、律」


『任せて。まずはしっかりと空中飛行を楽しむから』


 通話は切れ、その場の権限は副隊長である彼女に委ねられる。


「────総員、聞いて」


 呼吸を合わせたように、仮面の集団は夜の街を暗躍し始めた。


「私はここに向かう。住宅街にいる一体」


 探知機に指さし、世鶴は無表情で言う。


「4班と6班は──────予定通り、複数体まとまって行動している人型煉魔を任せる」


「二体の点があるところですね?」


「そう」


「……行くわよ、二人とも」


 手に持った鎌を握りしめ、涼花の覚悟が決まりきった顔が月光に照らされる。


「はい!」


「了解っす!」


 光る剣と、車いすが彼女について行く。この場に生半可な覚悟の者はいなかった。


「じゃ、皆。行きましょう」


 妹に負けじと華邑愛歌は班員を引き連れ、探知機が示す場所へと向かう。


「その他の班は予定通り各エリアにいる人型煉魔を殲滅」


「「「了解!」」」


 各班が去り、残りは世鶴と彼女が引き連れる予定の隊員のみとなった。


「あなた達は6班について」


 奥院世鶴は自分について来ようとした─────最も、そうする予定だったため当たり前なのだが、部下たちにそれを覆す命令を下した。

 作戦の一番最初から隊長が攫われるというトラブルが起きているため、この程度の変更については申し立てる異議は無かった。


「分かりました……しかし、なぜ?」


「……この点、私達が担当するこの場所は──────私が今住んでいる家」


「え……!?」


「ほら、速く行って」


「り、了解!」


 誰もいなくなった暗闇の中。彼女は1人、走り始めた。




























「…………何をしているのだ?宇宙人殿」


「通れません」


「…………」


 御愁繋儀は心の底から頭を抱えていた。父も母は出かけており、榊渉さえ避難できれば安心というこの状況で、その生命体は壁に阻まれた。


「何を言っている!ほら……普通に通れるだろう!」


 水色の障壁に自らの右腕を出し入れした後、繋儀は渉の手を強引に握り、包囲網に押し付ける────が、結果は生命体の言った通りとなってしまった。


「馬鹿な……」


「『煉魔』が大量に現れる災害、これが『煉獄』ですか。繋儀さん、あなただけでも先に逃げた方が良いでしょう」


「……」


「私はある程度なら戦えます」


「ダメだ」


 繋儀の返答に、生命体は心の底から不思議そうな表情を作った。


「何故ですか?」


「貴方を、渉の身体を一人にはしておけない」


「では、どこか隠れる事が出来る場所へ行きましょう」


 優しい笑みを作り、生命体は歩き始めた。


「すまない。私の我が儘だ」


「気にしないでください。それに、貴方を一人にしてしまえば渉もきっと不安に思うでしょう」


「……そうかもしれないな」


 通っていた道を逆方向に歩き始める。どこか建物の中に隠れるのが一番良いと考えた二人は、繋儀の家に向かい始める。


 が───────現実は非常であり、正義は彼と彼女の味方では無かった。


「いたわ!」


 前方から声。目を凝らしてみれば、複数人の仮面を被った者が。


「……む、見ろ宇宙人殿。マゼンタが来てくれたようだ」


「おお!彼らがマゼンタ!」


 煉魔に対する有効手段を持つ組織──────生命体にとっては非常に興味深い存在。


「すみません!友人が包囲網を通れなかったのですが───────」


 手を振り、もう片方の手を渉に向けながら繋儀は世を渡る時の表情を作り、その正義の味方に訴えた。


「目標捕捉!人型煉魔、二体(・・)!」


 帰ってきたのは銃口だった。


「……え?」


「っ!!」


 咄嗟の判断で、生命体は繋儀の前に出る。勝手に体が動いたような、まるで誰かに『守れ』と命じられたような素早さがそこに在った。


「安全装置解除。『○○○』の権限においてこの惑星での使用を許可」


 生命体とて、霧間行人と出会い、別れてから何もしていない訳ではない。得体のしれない力を持つ人間達が、自分より強力な人間がいる事を知った生命体は再び自身が飛来してきた場所へ向かい、破壊されていた武装の修復を行った。


 生命体の前に障壁が展開され、繋儀を襲う光弾は届かず地へ落ちる。


「なに、言って…………私達は煉魔じゃ───────」


 事実、『御愁繋儀は焦げ茶色の本を持っていない』。しかし、その探知機のその場所には、間違いなく二つの点が記されている。


 生命体本人が受け取った本と、榊渉が所持していた本の二つだ。同一の身体を共有する彼の内ポケットには、小さな本が二冊潜んでしまっていた。


「皆、惑わされてはいけないわ!」


 銃型煉器を手に持つ少女─────華邑愛歌は声を張り、味方を鼓舞する。


「私達は隊長の信頼を貰ってるわ!だからこそ二体を相手しなければならない…………応えるわよ、信頼に!」


 その瞬間、6班の迷いは消えた。それほどに夜公律は隊員たちに信頼されており、彼女が向けた信頼ならば全力で応えようとする意志があった。だからこそ、相手が人の形をしていようと彼らは正義を振りかざす。


 そして、生命体と御愁繋儀の脳内から、マゼンタに助けてもらうという選択肢は消失した。


 目の前にいるのは、正義の味方であり、彼らの敵でしかなかった。


























 自殺者の多い森の中。夜公律と謎の飛行体はそこに辿り着く。


 漆黒の翼を持つ男は、捕まえた時とは正反対に優しく、丁重に夜公を下ろす。


「ありがとう、ルファス」


 自分を連れ去ったはずの相手の顔を、夜公は撫でた。赤子の肌を触るかのような慎重さで。


「……やめてください、いつまで子供だと思っているのですか」


「ハハハ、ごめんごめん。……久しぶり」


「……お久しぶりです、我が主」


 男は翼を閉じ、森の中に跪く。


「ずっと、お会いしたかった」


「私もだよ…………でも、再会を喜んでいる時間はない。とりあえず今はやる事をやらなくちゃ」


 そして彼女は愛おしいものを見るように、されど親の仇を睨むように、()()()()()()()()()()()()


 探知機が反応していたのは翼の男ではない。彼女自身の本だ。夜公は事前に自らの本を自らの能力で運び、ルファスに渡し、本が自動追跡を行わないギリギリの位置に待機してもらっていた。そして本の場所を表示する探知機があたかもルファスが人型煉魔かのように見せかけ、一連の芝居を行った。


「さぁ……なんてったって私は『魔王』だからね。異形を統べ、人を蹂躙しようじゃないか!」

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