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32話 『隠された意図』……趣はありますが、やはり言葉にしなければ伝わりません

「くぁ〜……」


 差し込んだ朝の陽射しに瞼を開く。五回くらいかゆい目を擦り……そして俺は気付いた。いつものベッドより狭いような、何かに腕が当たっているような感触。


「……箱だ」


 縦長の白い箱。それを見た瞬間俺の心の中に12月25日の朝の感情が蘇った。朝起きたら何やらプレゼントが置いてあり、それを開ける前のあの高揚感に似たもので満ち溢れている。


「……イヤホン?」


 口に出してからすぐに気付いた。

 薪ちゃんだ。そしてこれは恐らく『霊聴イヤホン』なるもの。


 ……説明書だろうか。中に入っている紙を開く。


『新たな仲間の加入、おめでとうございます。この調子で頑張ってください』


「……というか、君は俺の事をどこから見てたんだよ」


 全く気配は感じなかったし、秋土からも何も聞いていない。未来のアイテムで透明になれるものとかあったりするのだろうか。


 そんな夢のある想像に耽った瞬間、俺は手紙の続きを認識した。


『来るべき時は近い。気を付けて』


 ……なんも分からねえよ、これじゃ。でも未来人の薪ちゃんが言う事だ。多分だけど言い過ぎても良い結果にはならないと考えたのだろう。


「来るべき時、ね」


 ひとまず今は……急いで着替えないと遅刻してしまう時間だ。この事を教えてくれたって事なのか?と一瞬だけ思い、すぐに棄却した。
























 ー ー ー ー ー ー ー















 通学路にて。少年は虚空を見ていた。


「……」


 訝しむように、覗くように。


「どうかしたか?宇宙人殿」


「いえ、なんでもありません」


 確かに感じる気配。自分のそばに……『何か』がいる。日が経つにつれてその意識は強まる。

 彼の……宇宙生命体としての学習能力が、霊能力に対して無意識に働いているのだ。


 だが────────生命体はそれを知らない。


『それ』が何か、まだ分からない。


 その体の本来の持ち主の目の不調なんじゃないかと悩み始めたところで、彼はポニーテールの少女の背中を追った。














「よう渉!」


 少し体型が横に広い少年が、背筋をピンと伸ばして机に座る『榊渉』に声をかけた。威圧的な笑みを浮かべ、右手を渉の机につく。


「おはよう、横道(よこみち)君」


「お前今日の宿題やってきたかよ?あの英語のヤツだよ」


 ニヤリと怪しげな笑みを浮かべて記憶の中で横道と呼ばれていた少年は言った。


「うん、もちろん」


「……そ、そうかよ。なら良かった」


 気まずそうな顔をして、少年は彼の解答済みの英語の問題集を背中に隠す。


「……やっぱお前、最近おかしいぜ」


「え。僕が?」


「いつものお前なら『あ!忘れちゃった!』とか言って俺に答えをせびってくるのによ。まぁやってくるようになったんならいいんだけど」


「そうだよ。それが正しい形だから」


 記憶の中の榊渉を完璧に再現したその笑顔を貼り付ける。


「ま、なんか悩みあんなら言えよな!あ……もしかして遂にあの御愁さんに告白する気になったか!?」


「……?いや、そういうわけじゃ」


「やっぱ告白っつーのは男から行かなきゃだぜ」


「そうなんだ」


 横道と呼ばれた少年はその太めの手で渉の肩をバンと叩く。


「例え幼馴染でも相手があの御愁さんじゃあ中々勝負に出にくいよなぁ……どうだ?週末思い切って出かけたり」


「なるほど。良いね。あの子は常に気を張っているようなふるまいをするし、息抜きに誘ってみようかな」


「おぉ!?ついにやる気になったか!応援してるぜ!」


 朝のチャイムが鳴り、榊渉の友人は自分の席へと戻っていく。渉の記憶を探る限り、彼は良い友達のようだった。

 だからこそ生まれる疑問。御愁繋儀から語られた『榊渉』の人生。彼という人間がなぜ友達を作れたのか、普通に生活を出来ていたのか。


 生命体にはまだ難し過ぎた。


























 珍しく午前で授業が終わった樹愁高校の校門で、車椅子の少女と無職の少女は前回会った時同様に色恋沙汰の話に花を咲かせていた。


「でさ、やばいのがあたし行人クンのお母さんにも会っちゃったんだよ」


「マジすか!?じゃあ公認っすね!」


「そうそう。巡ちゃんも───────」


 言いかけて、留まる。誰にも当たり前に両親がいるわけではない。親関連の事を言われて、渋々『うち親いないから』と返した時の気まずい空気は秋土はよく知っていた。今、到着を待っている行人も父親を亡くしている。朝空蓮も例外ではないかもしれない。


(……行人クンの家にずっと寄生してんのに、一度も朝空クンの親御さんの姿を見た事ないしね)


 単に転勤やら仕事の事情かもしれないが、本人はもちろん過剰に仲が良い行人にも、聞くのは憚られる。


「……バイトが一段落したら、その流れでお家に乗り込んじゃえば」


「流石にハードル高いっす……」


 校門から姿を現した三人を横目に、彼女達は会話を続けた。



























 ー ー ー ー ー ー ー




















「という訳で、今日は修行編だぜ」


 どういう訳なのか全く分からない俺を置いて、ソファにふんぞり返りながら秋土は言った。そしてそれを聞いている俺はなぜか床に正座させられている状況だ。俺の家だというのに。


「奥院さんを仲間に出来たのはいいけど、肝心な行人クン自身は1ミリも強くなってない。もしあたしが守れない状況になったらイチコロのクソ雑魚」


「仕方ないだろ」


 逆にお前らみたいな化け物と一緒にしないでほしい。


「だからなんとか、敵から逃げられるくらいには強くなってほしいので……はい、これ」


 秋土が俺に突き出したのは、木箱。直方体の形で、風化していたり黒ずんでいたりと随分年季が入ったもののようだ。


「開けてみてー」


「…………」


 なぜだろう。今朝のイヤホンと違って全くワクワクしない。

 恐る恐る、俺はその封を解いた。


「……なんじゃこりゃ」


 入っていたのは……木でできた少し平たい円柱型の何か。よく見ると2つのパーツに分かれているようで、俺は手に取って分離させてみる。

 ……予想通り、短刀だった。と言っても錆つき過ぎて刃と言える鋭さは全く無い。


「超超超超超曰くつきの激ヤバアイテム。秋土家が『あの子』の霊力に襲撃されても尚、その力を失わなかった正真正銘の爆弾。わざわざ掘り出してきたよ」


「本当にやめてくれそういうの!!」


 俺は正座したまま、納刀して体から遠ざけた。今すぐぶん投げたいところだけど乱暴に扱ったら余計ダメな気がする。


「そいつを使って行人クンにあたしが連れてきた適当な悪霊を倒してもらう。簡単なお仕事よ~」













 裏庭を使うのは約1年ぶりだ。毎年線香花火をやるときぐらいしか、このスペースを活かすような事は中々しないのだが、今年は早めにそれがやってきてしまった。


「幽体融合出来てる?」


「あぁ……見えるよ」


 悍ましい怪物たちが俺と距離を取って俺を見ている。

 わざわざ幽体融合しなくても霊視眼鏡を使えば見れるようになるのだが、一応言わないでおいた。


 正直なところ、俺は完全に秋土を信用してしまっている。『信用しきってはいけない』と自分に言い聞かせているだけで……実際はこいつに頼りっぱなしだ。でも、俺が強くなるために一番速いのは多分秋土を頼ることで、奥院さんに頼んでもただキツイだけのトレーニングを延々とやらされそうだ。

 だから、薪ちゃんとの会話も隠しておく必要はないのだが────────


(……)


 俺に微笑みかける二葉ちゃんを見て、思いとどまった。実の妹である彼女が隠しているのに、俺が言うのもおかしいし……何か考えがあるのかもしれない。


「っつか、二葉ちゃん。なんで人の姿なんだよ。うちの彼氏に色目使わないでくれる?」


「お前の彼氏ネタもう飽きたよ」


 俺の前で言うのは良いが(良くはない)、俺のいないところでもこのノリをやってたりしたら…………滅茶苦茶にだるい。流石にないか、人として。


「じゃあこいつ!あたしが今持ってるこの霊いるじゃん?」


(アアアアアア……ァァアァ)


「あ、あぁ」


『持ってる』としか表現できない。その霊の首元を強引に掴んで、秋土は俺に近づく。血まみれだが、悍ましい顔をしていてかなり怖い。そんな奴が女の子に掴まれてうめいてるのがなんとも奇妙だ。


「こいつを一対一で倒してほしい!まぁ行けるっしょ!」


「は!?」


 そう言った秋土は────────非常に信じられない事なのだが、その霊を俺の方向へ投げ飛ばしたのだ。

 霊の迫真の顔が迫る。飛んでくる。鬼の形相……なんの関係も無い人物である俺に向かってする表情じゃない。今まさに殺されそうな危険すら感じる。

 そんなやつが飛んできたのだ。


「うぉ……っ!」


 俺は手に持った短刀を抜く……なんてことは出来ず、両手で防御姿勢を取った。仕方なくね?怖いもん。


 だが────────これまた非常に信じられない事なのだが。


(アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!??)


「……ん?」


 両腕の隙間から見えたのは……投げられた悪霊が、俺との距離が1メートルを切ったぐらいで……叫びながら消失したというものだ。


「あちゃー、忘れてた!行人クン生命エネルギー強いんだったねー」


「生命エネルギーでこんな簡単に霊消えんの!?儚い命すぎないか!?」


「まぁもう死んでるし」


「あぁそっか……」


「それにしてもどうしよっか。普通の霊じゃ近づいただけで除霊できちゃうんだもんな…………」


 考え込む秋土を見て、嫌な予感が加速する。


「じゃあ、強い霊を使うしかないよねぇ……」


「ん?」


「行人クンの生命エネルギー下でも問題なく人を殺せるような……」


「問題しか無くないか?」


「そういう強ーい霊が近くにいたらなぁ~……」


 秋土の目線は徐々に下の方へと向かって行く。


「っていたぁー!!」


 一緒にいれば、こいつがどういう事をしてくるか何となく察しがついてくる。


「生前は天才霊能力者とか神童とか姉が子宮に残した栄養を全て持って行ったとかもてはやされまくったくせにあっけなく死んで悪霊に堕ちちゃった秋土二葉さんがこんなちょうど良い所に!?」


「途中から卑屈になってるぞ」


 と突っ込みつつ、俺はため息をついた。


「普通、実の妹を戦わせるか?俺に小さい女の子と戦わせるか?」


「まぁまぁ。でもね、霊は行人クンの生命エネルギーに晒されたら、生きていた頃に近くなるじゃん?だから二葉ちゃんみたいに『生前の状態でも強かった』奴なら他の参加者と戦う訓練になりやすいよね。人間の状態で化け物じみた連中と戦う想定なら適任でしょ?」


「まぁ……そうなのか?」


 昨日とは違い、幼い少女の姿をした二葉ちゃん。そして、手に短刀を握る俺。事案でしかない。


(……ふふ)


 可愛らしい笑顔で二葉ちゃんは近づいてくる。


 …………無理だ。俺にはどうすることもできない。二葉ちゃんはそんな弱い存在ではないと頭が分かっていても、身体に染み付いた倫理観が鎖となって俺を引き留めている。


 ──────が、直後に俺の身体は『本能』に従って動くようになる。


「が……ッ!?」


 一瞬暗転し、揺らいだ視界。手に伝わる地面の感触。自分が倒れたという状況の把握。そして────今、浮遊している少女に腹部を殴られた事への理解。


(……ふふふ。あはははは!)


『戦わなければ死ぬ』という俺の本能が、ようやく働いた。




























 ー ー ー ー ー ー ー






















「はぁ……はぁ……!」


 地下施設の一室にて。朝空蓮の荒い呼吸の音が響く。そこは鉄格子で覆われてはいるが牢屋ではなく、そこで『何か』を戦わせる事を想定して造られたため広い。


「ほらほらどうした?作戦実行の土曜日まであと少しだぞ。君がもっと強くなって皆を守りたいって言うから特別訓練させてやってるのに」


 部屋の外から夜行律が囃し立てる。蓮はそれを睨みつつ──────まともに相手をする気力は無かった。


(……あの時)


 研究室での記憶を思い出す。そこで見た──────人間にしか見えない煉魔。


(でも……今はそうは思わない。正真正銘の……化け物だ)


 現在、蓮と相対しているその煉魔こそ、彼が研究室で見た『カイ』と呼ばれる者。


「…………」


(一言も喋らず。表情は変わらず)


 眼鏡の位置を直しながら、蓮はカイを睨む。


(人の姿こそ保ってはいるけど──────ッ!)


 カイの身体が前に傾き……蓮との距離を詰めてくる。とっさに煉器を構え、迎撃態勢を取るが──────


「ぐっ!?」


 獣の爪のような形に変形したカイの腕による攻撃を、防ぐのに精いっぱいだった。次々と振り下ろされる爪。生気の無い眼光は蓮を捉えて逃がさない。


「『感応現象』……煉魔のみが持つ性質さ。どんな原理かはまだ不明だが、興味深いだろ?煉魔同士はもちろん他の生物の特徴やらを自らの身体の形成に取り入れる」


「…………」


「君も、早くして見せろって事だよ。『感応現象』を」


「分かってますよ……!」


 だがそれは──────認めてしまう事になる。()()()()()()()()()()()と。

 既にこの世にはいない両親から生まれた存在であるはずなのに、彼は初めてその力を暴走させ、研究所に移送された時にその事を告げられた。知っているのはマゼンタの上層部と、この件を一任された夜公律と……偶然彼の暴走に居合わせた華邑涼花と火良多巡のみだ。


 じゃあ今まで人間として過ごしてきた時間はなんだったのか。そもそも煉魔とは何か。それを考えるには蓮はこの世界の事を知らな過ぎた。


『生きたいのなら──────殺すんだ。煉魔を』


 故に、夜公の言葉に従う他なかった。マゼンタに加入し、自分と同じ種族なはずの化け物達を殺戮していくしか選択肢はなかった。


(俺と同じ人型煉魔であるはずのコイツ。自我を失わせるまでしなければいけない理由とかは分からない。でも……同族でも、強くなるためなら容赦は出来ない)


 手に持った煉器はより強く光る。輝く。


「守りたい人を守るために……!」








 朝空蓮と霧間行人。親友であるはずの二人は互いを守るために、互いに知らせずにそれぞれの道を歩む。強くなろうと足掻く。


 ────────例えその先が破滅であろうと、運命と神と未来人はそれを彼らに知らせない。

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