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31話 『気まずい』……その状況を打開出来る者こそ、友人に持つべきでしょう

「……次が最後だ」


 じゃんけんだってそう…………三回勝負の三回目はいつだって心臓がうるさくなる。

 燃えるものだ。


「どーでもいいから早くしてくんね?あたし暇なだけなんだけど」


「ほらぁ、だから言ったじゃん!今日はピクファイやるからピクファイ持ってない秋土はうちに来てもつまんないよって!」


「あー、親にゲーム買ってもらえない子がいつもみたいに友達の家で一緒にゲームしようとしたら皆対戦型ゲームにハマってて一人寂しく途中で帰る奴ね。あたしモロにそれの被害者だから過去のキズ抉んなよ」


 勝手に傷ついてる仲間外れを放っておいて、俺はキャラクター選択画面と睨めっこする。……一体どのキャラを選ぶべきか。


 ──────その時、コンクリートから伝わって尻に振動が。どこからか多くの足音が迫っているような、そんな小刻みの振動。


「む……チンピラ共が来てしまったか?」


「……人払いは句川に頼んでおいたはずだ」


 もしかして句川に何かあったのか……?

 そんな懸念も空しく。立ち上がって奥院さんと一緒に見つめていた足音の方向からやってきたのは、ここら一帯を見張っていた句川を先頭とする集団だった。


「「「…………」」」


 全員して黙りこくっているその奇妙な絵面が数秒続いたのち、句川が大きな口を開けてその静寂を破った。


「霧間くん、ファイトォーーーーッ!!」


 ──────直後に、後ろの面々が一斉に息を吸うのが聞こえた。


「頑張r「負けん「誰ええええ」なあああ」えええええ「ファイトオ「ウワアアアアアア」オオオオオ」


「すごい、全然息合ってないぞ!」


 一斉にファイトーーーとか言われるだろうと身構えていたら何を言っているのか分からないぐちゃぐちゃな叫びが向かってきた。


「あはは、何あれ!行人クンめちゃくちゃ応援されてんじゃん!人望あんねぇ!」


「あぁ、あれは俺というより遠也の──────」


 ふと句川達を見ると、笑いながら指を刺してきた秋土に対して震えているようだった。…………屋上での句川の表情は迫真そのもの。年上だろうと関係なく幾度も人と殴り合ってきただろう彼らをあそこまで怯えさせてしまうのも、秋土なら理解出来る。

 …………遠也の人望が招いたものとはいえ、そんなにも怯えながらここに来てくれた。応援に来てくれたのだ。わざわざ。


 ゲームの事でここまでされると少し恥ずかしいけど。


「ハッハハハハ!いいじゃないか、ギャラリーは多い方が良い!さぁ霧間!三試合目を……熱き戦いをしようじゃないか」


「……あぁ!」


「だからそういう会話はゲーム以外でしろって」


 と言いつつ、秋土の顔は俺の右肩に乗り、目線はしっかりとゲーム画面を向いている。


「こいつで行く」


 俺がそのピクトグラムを選択すると、「「「おおおおおお!!」」」と周囲の男どもが考えなしの雄たけびを上げた。


「いや、君たちなんも分かってないでしょ!」


「すいませんでした…………」


「あたしも分かってないけどさぁ……って、え?そんな落ち込まなくても……」


「サーセン……マジで……」


 ステージ選択画面を天運に託し、ロード画面に移行する。

 …………移ったのは、俺の顔を中心に覗き込んでいる秋土や、句川や名前の知らない厳ついお友達。懐かしいものだ。小さい頃はこうして、友達、友達じゃない、知り合い、知り合いじゃないに関わらず。楽しいものがあればみんなでそれを共有していた。


 ────────今、この空間にはその時の『熱』がある。


「……最後はここか」


 偶然にも、最後のステージに選ばれたのは特にギミックも足場も両端の崖以外の穴もない、シンプルなステージ。紫色をベースに幻想的な背景が広がるその場所で、二体のピクトグラムは戦う。一対一で実力をはっきりさせるのに適した、一番遊んだステージだ。


「……霧間」


 1。


「なんです?」


 2。


「恨みっこなしだぞ」


 3。


「……こっちの台詞ですよ」


 ────────火蓋は、切って落とされた。


(……さて、攻めるぞ)


 俺はスタートした瞬間に奥院さんの方へとダッシュをし、一気に距離を詰める。対する奥院さんも……ダッシュ。

 正面からのぶつかり合いだ。


 奥院さんは迎撃としてパンチを置く。俺はそれをガード出来たが─────ここで選択肢だ。次に相手がする行動を読み、それに伴った行動を俺がする。


(──────ジャンプ読みだ)


「!」


「当たった!」


 読みは当たり、ジャンプした奥院さんに俺は空中で共通モーションのパンチをする。その後は追わない。角度的にコンボが決まりにくい上に、まだ正体を明かすには速すぎるからだ。だが数パーセントのアドは大きい。俺はいったん距離を取り、奥院さんの出方を窺う。


「舐めるなよ、霧間。俺はそんなに悠長じゃない…………」


「っ!」


 奥院さんのピクトグラムが──────ステージに沈んだ。


「一気に攻めるぞッ!!」


 半身を残したまま、ピクトグラムは俺の方へと進んでいく。…………間違いない。


「こいつは──────『水泳』ッ!」


『水泳』。このキャラ固有の『スタミナ』のようなゲージが存在し、それを消費することで地中に潜り……泳ぐ事が出来る。泳いでいる時はステージに埋まり身長が縮まるため、攻撃が当たりにくくなる上、強力な攻撃が可能になる。


 一瞬にして俺の足元へ近づいた水泳は、俺のピクトグラムに向かって両手を突き出して地中から飛び上がる。とっさに回避をするが──────命中。


「クソッ、判定広すぎるし持続長すぎだろ!!」


「『ドルフィンテール』──────壊れ技の一つだッ!」


 まずい。ダメージを喰らってしまった。ここから水泳特有のクロールコンボに繋がれるか…………?


 が、奥院さんのピクトグラムは空中で共通モーションを少し行った後、コンボを終えた。


(……ドルフィンテールのダメージ、こんなもんだったっけ?)


 コンボ全てを含めて約26パーセント。いくら短いコンボとはいえ、もう少し行っても良いような気が──────


「まだまだ行くぞっ!」


「っ!」


 再び水泳は潜り込み、空いてしまった俺との距離を縮めてくる。


(崖際に追い込まれたか。普通はジャンプして上に逃げる所だが──────)


 ドルフィンテールのほかに、『ドルフィンジャンプ』という技がある。ダメージは低くなるものの跳躍力が上がり、水中に潜ってから相手の動きで判断し、技を使い分けて追いつめる事が可能になっている。

 ……今思えばさっきのダメージが低かったドルフィンテールはドルフィンジャンプと見間違えたのか。


(小ジャンプからの空中回避でやりすごす!かわした後は俺のターンだ)


 ジャンプの動作を見せてドルフィンジャンプを誘う。そして上昇をキャンセルし、俺は回避を入力した。


「よしっ!」


 案の定、高く飛翔し攻撃してきた水泳。華麗に回避を決めた上に、距離を取れたおかげで水泳の技では追撃がすぐに飛んでこない。


 だが───────奥院さんの笑い声が聞こえた瞬間、その安堵は崩れ落ちた。


「まんまとかかったなッ!霧間!!」


「な……っ!?」


 俺のピクトグラムは──────『自転車』に、吹き飛ばされていた。ドルフィンジャンプの後隙をキャンセルし……そのピクトグラムは纏った水飛沫を払い自転車に乗っていた。


「ま、まさか…………嘘だろ、アンタ!」


「フハハハハハ……霧間。その顔……『持っていない』な?このキャラを!!」


 水泳。自転車。そしてもう一つを操る隠しキャラ。


「『トライアスロン』……だったのかッ!」


「そうだ!トライアスロンの三種目のキャラクターでストーリーモードのベリーハードをそれぞれ百回クリアすると手に入る隠しキャラだッ!!」


「くっ……俺も蓮も遠也もだるすぎて手に入れていなかったトライアスロンを、持っているのかアンタは!」


 ……となると、まずい。俺はオンライン対戦で稀に当たった時でしかトライアスロンというキャラに触れていない。元になった各三種目の性能から考察していくしかない……!


「決めさせてもらう!」


 自転車にそのまま乗りながら、トライアスロンは吹き飛んだ俺を追う。次攻撃されればパーセントは50を超える。さっきの崖端から反対方向の崖まで飛ばされたが……端なら十分死ねるダメージ量。


 自転車がジャンプをし、前輪で俺に激突しようとした瞬間──────俺はそのキャラの能力を解放した。


「行けっ!」


 ピクトグラムの腕から──────長い紐のようなものが伸びる。


「!?」


 空中に身を放り投げたトライアスロンを置いて行くように、俺は紐で掴まった崖からステージに戻る。


「勝ちを確信しすぎたんじゃないか?奥院さん!」


 そして復帰を試みようとするトライアスロンにそのリボン(・・・)を伸ばした。


「『バインドウィップ』……捕まえたぞ」


「ッ、『新体操』か!」


 俺はスティックでリボンを操作し……崖の裏側に上手くトライアスロンを叩きつける。


「リボンで崖に……!?まぐれを疑う精度だぞ、霧間!」


「残念だけど、実力だ」


 叩きつけられた奥院さんは、ダメージを受ける代わりにリボンから解放される。が──────俺は再びリボンをトライアスロンに命中させる。


 この攻撃は『つかみ』判定になっていて、相手のダメージが蓄積しているほど長く掴める。反対に溜まっていなければ少しの時間しか相手を掴んでいられない。だから俺は世界一複雑なリボンの軌道をスティックで操作し、崖に叩きつけてダメージを稼いだ。この技術をモノにするのには一年はかかった。

 そして蓄積したのなら……次は長く掴める。


「バインドウィップを使用した時に操作できるリボンの範囲は狭かったはず……だが、お前は確かに崖の裏にいる俺を掴んだッ!」


「通常掴みモーションをした直後にキャンセルしてこの技を使う……そうすればリボンは蛇のようにうねる。スティックの動きを全て再現するようになるんだっ!」


「いやだからそれバグだろ」


 俺は崖に近づき、掴んだトライアスロンを出来るだけ遠くで開放する。


(元の三種目はどれも復帰が苦手だ。復帰阻止し続ければ勝てる──────)


「フハハハッ!トライアスロンをただのごちゃ混ぜキャラだと思うなッ!」


 ──────画面端。宙に投げ出されたそのピクトグラムはまず自転車に乗る。そして────サドルの上に立つと、それを足場にして跳躍したのだ。立ち幅跳びのように。


「『水泳』、『自転車』、『陸上』……三種の特性を併せ持ち、それでいて固有の長所を持ったピクトグラム。それがトライアスロンだ!」


「……なるほど、気の抜けない……!」


 だが、失っている長所もある。例えば水泳由来のドルフィンテール。恐らくあれは俺がダメージの低めのドルフィンジャンプと見間違えたのではなく、トライアスロンの技になる過程でダメージが低く設定されたのだろう。…………もしかしたら、反対に高くなっている技もあるかもしれないが。


「だが、この崖際を超えられるか!」


 俺の新体操はリボンをクルクルと回転させ、回転させ、渦を巻き────────。


「行け、『ブラックハリケーン』だッ!」


「もうそれ新体操じゃなくない?」


 黒い竜巻を放つ。後隙こそあるものの、長く広い判定を持っているその技は崖に置くとかなりの脅威となる。


 …………が、トライアスロンは崖の裏側に飛び込み──────その中に潜り込んだ。


「そうか……さっきの復帰技は陸上と自転車由来だからスタミナを消費しない。復帰技の後に水中に潜りこめるのか……!」


 そして反対方向の崖から、スタミナをちょうど使い切ったトライアスロンは帰ってくる。


「……決着をつけるぞ、霧間」


 互いの蓄積ダメージも溜まってきた。ここからは……一挙手一投足が死に繋がると同時に、勝利を呼ぶ。


「勝つのは俺だッ!」


 俺は陸上のスピードで一気に向かってきた奥院さんに、小ジャンプしながらリボンを放って迎撃。相手には無いリーチを押し付けて堅実にダメージを溜め、確実に飛ばせる機会を待つ。

 攻撃はガードされたが、牽制のためリボンを飛びながら振り回す。


 さぁ……そろそろか。


「ッ、やはり潜ってきた!」


 スタミナが回復する頃だ。トライアスロンは半身を埋めながら俺に接近する。警戒すべきなのは先ほどのドルフィンからの自転車のような『組み合わせた』技。元になった技を知っているからこそ、先入観にとらわれて対応が遅れかねない。


(なら俺は…………ここで勝負を決める)


 俺はそのボタンを押した瞬間──────ピクトグラムは発光する。


「『セイバーモード』……一定時間のみリボンを剣のように変形させ、戦闘スタイルを変更するッ!」


「絶対新体操じゃない!もう新体操じゃなくていいじゃん!」


「勝負に出たな、霧間ぁ!」


 新体操は剣と化したリボンを地面に突き立て、前方の地面からいくつもの剣を伸ばす。が、反射でトライアスロンにかわされる。


(ここだ。水中から出た後のモーション……!)


 俺はそれを見極めるためにガードボタンを撫でながら様子を窺う。


「ならば俺も覚悟を決める!『三位一体』だーーーッ!」


「!?」


 ───────目を疑った。まっすぐに飛び込んできた事は確かに意外だった。だが……俺はそのモーションに目を奪われたのだ。

 そのピクトグラムは『自転車のサドルに腹を乗せながら、腕をクロールの動きをさせ、その足で地面を駆けていた』。


「な、なんだその技はーーーッ!」


「きっっっっしょだっっっっさ!信じられねえ!トライアスロンに謝れよ!」


 俺は慌てて斬撃を前に飛ばす。…………が、ダメージは入るものの全く怯まない。


「フハハハハハァ!このスーパーアーマー!かわしても無駄だ、この三位一体はあらゆる方向に自由自在だッ!」


 うねうねと軌道をずらしながら進むトライアスロン。気色の悪い動きで『死』が着実に近づいている。間違いなくトライアスロン最大の技。


「うおおおおおおお!どう切り抜ける霧間行人ーーーッ!」


「いや、カウンター」


「え」


 まんまと突撃してきたトライアスロンを、新体操は反撃の構えを取り──────受けた攻撃を跳ね返した。


 紅い稲妻の演出と共に、トライアスロンは目にも止まらぬスピードで消えた。飛んで行った。


「…………」


「…………」


 新体操が優雅にリボンを回す、勝利演出が流れる。


「じゃ、俺の勝ちって事で…………」


「あぁ……いや、カウンターか……カウンターは……盲点……」


「…………」


「…………」


 世界一閉まらない終わりを迎えた俺達の戦いに、外野の遠也達が声を上げた。


「う、うおおおおおお!」


「あ、熱い試合だったよなぁ!」


「良い試合だったぜええ!そ、そうだよなぁ!?」


「おう!……多分」


 無理矢理な熱狂に包まれながら、俺と奥院さんは立ち上がった。


 突き出された右拳。俺もまた自らの拳を突き合わせる。


「新体操……奴も、慈門も俺との試合であのピクトグラムを使っていた」


「よく使ってたよ。あいつが当時好きだった子が新体操部だったから」


「そんな理由だったのか……」


 本来なら空手やらを使ってたが、急に新体操を使いだした時は不自然極まりなくて面白かった。


「ま……強さには色々ありますよね。アンタの強みはその身体。俺の強みはこの顔やら。…………だからこそ、俺はその二つの才能が関係ない戦いを選んだ」


「……そうだな。俺の『脳筋』もお前の『イケメン』もピクファイ4には干渉しなかった」


 大きく、ゴツゴツした手が俺の肩を叩いた。


「そしてお前に負けた!お前を認めた!お前の『熱』を確かに感じた。俺は従う……俺より強い奴にな!」


 奥院さんの口角が上がり、綺麗に並んだ白い歯が見えた。


「できれば、奥院さん。あなたには俺に従順な奴隷になってほしい訳じゃない」


「そうなのか?」


「志に賛同してくれる……そう、仲間みたいな?ものに……なってほしいんだ」


 自分がこの空気に間違ったことを言っていないか不安だった。恐る恐る奥院さんを見上げると─────彼は、いつもの野獣のような目つきとは異なり、温かい眼差しで俺を待っていた。


「前にも言いましたよね。…………どうしても、救いたい人がいるんだ────────」


 拙い言葉で、感情を乗せて、俺はありのままの物語を彼に綴り……継続のレ点を、彼の本に記した。

三話分もお付き合い頂きありがとうございました

皆様がブクマとか感想してくれるとどうなると思いますか?元気が出ます

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