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30話 『正々堂々』……ならグリッチはやめた方が良いのでは?

「いやクソゲーすぎんだろ!?」


 勝利の喜びに浸る俺に向かって秋土が言う。


「ス●ブラでいいじゃん!スマ●ラやれよ!」


「おまっ……ピクファイ馬鹿にすんじゃねえ!」


「攻撃の見分けが付かないとか一つの技でハメられたりするゲームとか明らかにクソだろ!そもそも聞いたことない変なパクリゲーを二人ともやり始めたのびっくりしたわ!」


 分かってない……分かってないよ、秋土は。相手のキャラの考察という、やり込んだゲームではなかなか感じられない、初心者の頃の暗闇の中で勝利を手繰り寄せる感覚をいつまでも味わえる神ゲーだぞ、これは。


「……やはり、慣れていないキャラは使う物では無いな。自分が好きであり、上手く扱えるものを使うのが一番だ」


 奥院さんはアーチェリーがチャージショットでないと自転車を止められないというキャラ固有の特徴を知らなかったせいで、俺の賭けを防げなかった。マイナーゲームは自分の力で開拓し、情報を集めなくてはいけない。…………一か八かだが、勝ちは勝ちだ。


「つっても、『脳筋』なのに大分頭が切れるじゃないですか。普段の自分のイメージを利用してそれに反したキャラを使ってくるなんて」


「ゲームに関しては俺は別だ。と言っても負けてしまったがな…………さぁ、速く二試合目をやるぞ」


 戻ってきたキャラクター選択画面。奥院さんは既に選んでいるようだ。


「奥院さん、先に言っておくけど」


「?」


「俺は、アンタがピクファイ経験者な事を知っていたんだ」


「……何?」


 一旦指を止め、互いに目を合わせた。


「アンタがここら辺で喧嘩しまくって、無双してた時……一人だけ、アンタに勝てた奴がいるだろ」


「……あぁ。いた。……そういえば、あの時も────────」


「そう、アンタは慈門遠也(・・・・)にこのゲーム……正確に言えば前作のピクファイ3で負けた」


 ここら一帯を縄張りとしていた遠也が、こんな化け物じみた人間を知らない訳が無い。その逆も然り、この町に住んでいる喧嘩好きの奥院さんが……遠也を知らない訳が無い。


 それに目を付けた俺は放課後の屋上で、句川にそれを話した。



『なんだ霧間。お前、あの奥院仙次とも知り合いなのか?』


『……まぁな。それで、あの人と戦わなくちゃいけなくなったんだ』


『は????いや、どう考えても負けるだろ……当時滅茶苦茶暴れまくってはいたけど、悪い奴ではないから降参して許してもらえよ。あ、一緒に頭下げに行ってくれって頼みか?』


『いや……どうしても、何をしてもあの人に勝たなきゃいけないんだ。秋土は無しで。俺一人で』


『……本気そうだな』


『本気も本気』


『なら、方法がある。でもこれは────唯一あの化け物に勝てた遠也くんの二番煎じだから。確実に上手く行くとは限らないけど…………』




「……慈門、か」


「そう見えないかもだけど、友達だ。一時期あいつが弱いくせにピクファイやりまくってたんだけど、アンタに勝つために練習してたんだよな、多分」


「妙な男だった。発想は良いだろう?喧嘩では無い土俵に持ち込むという発想は。だが普通なら自分の得意分野で戦うだろ。頭の悪い俺でも分かる」


「かなり下手でしたもんね。……アンタがあの時、ピクファイの勝負を申し込まれて0から必死に練習したのは遠也の友達に聞いた。でも、アンタの得意なキャラとかは聞いてない」


「……そうなのか?」


「フェアじゃないでしょ。……それを伝えておきたかったんです」


 俺はキャラクターを選択し、ステージをランダム選択する。会話の時間は終わりだ。互いの目線は液晶に戻り─────試合が始まる。


 真ん中に大きな穴が空いた、近未来チックなステージ。地続きだった先ほどのステージとは異なり、両端はしっかりと崖になっている。

 ……カウントダウンが始まる。


 1。

 2。

 3。


 ──────開始だ。


「ならば正々堂々、戦おうではないか!」


「あぁ……もちろん」


「目瞑ったら良いセリフだけど耳塞いだらただクソゲーしてるだけなんだよな」


 秋土のヤジなど右耳から左耳へと通り抜けていく。極限の集中力─────この試合に勝てば、俺の勝ちだ。


「こっちから攻める!」


 俺は先ほどの奥院さんのように距離を詰める。ここからは小手先の勝負じゃなく、実力で行く。


「まずは─────これだ」


「!」


 ダッシュをキャンセルし、またダッシュ。ステップのように繰り返し、最適な距離を測る。


 ────────今だ。仕掛ける。


「!?」


 俺のピクトグラムが奥院さんのピクトグラムに向かって腕を突き出す。普通のパンチやキック、共通のモーションにも見えるその攻撃だが…………少しだけ違う。


(もう一度だ、何度でも──────!)


 ガードや回避を織り交ぜ、ジャンプを多めにしながら避ける奥院さん。俺は動じず同じ攻撃を距離を掴みながら続けていく。


 そしてジャンプした奥院さんの角度を見て──────俺はボタンを押す。


「今だッ!」


「!?」


 俺のピクトグラムの……頭が、奥院さんに直撃する。


「その動作は、まさか……!」


「え、なになに?」


 秋土の顔が近づく。…………さて、ここからが一番重要だ。


「よく見てろ、これが頭突き始動コンボ─────!」


 頭突き。その直後打ち上げられた相手に隙を与えず、すぐさまジャンプして空中上攻撃。さらに上がった相手に空中頭突き。そしてわずかに移動し調整したこの位置!丁度真上に相手がいるこの位置こそが!


「間違いない……こいつは『空手』ッ!」


 シンプルなモーションが多かったのはそれ自体が空手の固有モーションだから。気付いたところでもう遅い。『空手』の最大打点コンボは決まる。


「行け─────『サマーソルト金的(キンテキ)ック!』」


 ひっくり返った俺の空手が、奥院さんのピクトグラムの股間を思いっ切り蹴る。

 カキィーーーン……と派手な音がなり、蓄積された総ダメージは75%。


「いや反則ーー!空手は頭突きも金的も反則ーー!!」


「このまま一気に決めさせてもらう!」


 大きく打ち上げられたピクトグラム。このコンボで撃墜まではいけないが、ここまでダメージを与えてしまえばあとは簡単だ。『正拳突き』とかの技で吹っ飛ばす……!


「…………打ち上げた。75%溜めはしたが、打ち上げたんだ。霧間行人」


「……?」


「俺のピクトグラムをこの高さまで!上げてしまったんだお前はァ!フハハハハハ!!」


 豪快に笑う奥院さんの顔を見た俺は──────気付いた。『打ち上げた』……上にいる事で優位に立つことができる、癖の強いキャラクターがこのゲームにはいる…………!!


「まさか…………『トランポリン』!?」


「その通りだあぁ!!」


 急降下しながら降りてきたトランポリンのキックが俺に命中する。地に降りたはずのトランポリンだが……寸前の空中にいた時の高さより少し上の位置に、すぐに飛翔する。


「クソ……だからさっき、あんなにジャンプを多めにしていたのか……!」


 このキャラはジャンプを繰り返す事で自分から上へと上がることができ、その分ダメージも上がる。が……相手に打ち上げられれば、その工程をスキップして特大の火力を叩き込める。


「まずい……このキャラは使いづらくて俺も蓮も遠也もあまり使ってない……対策や仕様がよく分からない!」


「ハハハ!ひれ伏せ霧間!このトランポリンの前に!」


 上がっては下り、また上がって下りる。高速で繰り返されるその攻撃に、俺はまんまと翻弄されていた。


(……いつのまにか蓄積ダメージも並んできた。ここから俺が勝つ方法は……ガードからカウンター頭突きを狙うか、もしくは──────)


 このステージの特徴である、真ん中に空いた穴に誘う事。勢いあまって穴に入って撃墜されてしまう危険性は今トランポリンを使っている奥院さんの方が分かっていると思う。

 なら、その二つの勝ち筋を合わせる。


(穴に誘導しようとしているように見せかけて、穴から離れようとした降下タイミングでカウンターを狙う!)


 俺はトランポリンから逃げ、穴の近くで止まる。


「ほう……そう来たか。単純だが効果的だ」


 今回のルールは1ストック。一回でもミスして穴に落ちれば奥院さんの負けだ。


「だが俺はお前とは異なりこのキャラを使い込んでいる!崖際なんぞ、狙い撃ってやる!」


「なっ──────!?」


 迷いもせず、奥院さんは突っ込む。そしてその攻撃は……俺の空手に直撃した。


「上手すぎるだろ……!」


 スティックで位置調整をしているその技をあそこまで的確に操作するなんて……上手い。この人は上手い!


 そして俺は攻撃を避けながらまたもや崖際に辿り着く。


「言っただろう、狙い撃つと!!」


 そしてまた、トランポリンの急降下攻撃が俺の方向へ来る────────が。

 俺はそこでジャンプをした。


 かわすためじゃない。奥院さんの方向へ、だ。


「!?」


「待っていた、この時を!」


 スティックで位置調整をしているその技。ホーミングじゃない分、撃たれる側は直進なのにもかかわらず中々撃ってくる位置を推測しずらい。避けた先を読まれて当たったりもした。

 だが、崖際に真っ直ぐに撃ってきた。それを信じて、奥院さんが技のボタンを押す直前に俺はジャンプ。


 それなら間に合うんだ。カウンターが──────!


「これで終わりだ…………カウンター頭突き!」


 上方向のダメージとのけぞりを無効化出来る頭突きでトドメだ…………ッ!


「っつおおおお!!甘いッ!!」


「!?」


 しかし──────降下していたトランポリンは、そこで動きを止めたのだ。空中で。俺の頭突きが届かない位置で……留まった。


「な……ッ、その技は自分から中断できないはず……!?」


「言っただろう、使い込んでいると。急降下攻撃する直前に上方向にスティックを入力すれば途中で空中回避によってキャンセル出来る事くらい、発見している……ッ!!」


 ──────なん、だと?


「いやバグだろそれ」


「まずい……!!」


 頭突きは空振り。隙だらけの俺に─────再びトランポリンの両足が迫る。


「そのまま奈落に落ちろ!『メテオフォール』だ!!」


 そして──────俺が誘導しようとしていた真ん中の穴に、俺の空手は光の速度で落とされた。


「勝ったッ!!俺の勝ちだッ!!」


 さっきとは異なり、誰が見ても分かる勝利。誰が見ても分かる……俺の敗北。


「く……負けか」


「ハハハ!俺は最後まで諦めないぞ霧間!」


 調子よく笑う奥院さんの顔を見て…………ふと思う。楽しいと。彼にとっての喧嘩もゲームと同じで楽しいからやっているのだろう。共感できなくとも理解はできる。

 そして、俺達はピクトファイター4で『楽しい』を共有出来ている。


 きっと、奥院さんの言う『熱』は…………今この空間を包んでいるものだ。


「……もちろん、俺も諦めませんよ」


 ……さぁ、三試合目だ!

あともう一試合分ありますが許してください……

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