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3話 『運命的な出会い』……ですね

「てか、え?もう始まってるの?」


『はい。たった今この瞬間、スタートしました』


「……じゃあ、たった今この瞬間俺を殺しに来る奴がいてもおかしくないって事?」


『まぁ、あなたの場所が分かるのなら、ですが。私達本はあなた達に参加者の居場所をお教えすることは出来ません。それぞれの力を活かして場所を探ってくるでしょう』


「……と言っても、すぐには来ないか」


 まさか参加者12人の内12人全員がこの町に住んでるなんて事はないだろうからな。瞬間移動とかできる奴じゃなければ、今すぐ殺される事は無いだろ。


『その通り!参加者12人の内12人全員がこの樹愁町に滞在しています』


「は?」


 紙の擦れる音が笑い声のように聞こえた。


『言ったでしょう?主人公の周りは常に個性豊かなキャラクター達が取り囲んでいると。それはもちろんあなたも含まれていますし、今回の参加者のような特殊な力を持つ者もいないとおかしいでしょう?』


「……」


 ──────これは、非常に、まずい。

 まず、その特殊能力者に対する対抗手段を考えなければいけない。顔が良いだけの俺は銃とかの近代兵器や、相手を上回る罠や作戦で立ち回っていくしかないと思うのだが、まだ何も持っていないし考えついていない。


「……うかつに動くよりはここに隠れている方が良さそうだ」


 俺は壁を背に座り込み、本を床に置いた。母さんには適当に連絡を入れておけばいいけど……あ、そうだ俺一人暮らしだからその心配はないのか。でも食料の調達やらはどうしてもこのビルを出なければいけない。

 ……無理だ。俺一人だと限界がある。


 友達に頼んでみるか?蓮……は巻き込んでしまった時に最悪の事態になってしまう。


「……何にせよ、協力者がいなければ───────」


 その時───────鳴った。コン、という音が。


「ッ!!」


 遠くの方から、足音のようなものが響く。


 俺は急いで本を抱え、近くにあった柱の後ろに隠れる、


(──────嘘だろ、速すぎる)


 たまたま廃ビルに来た一般人とか、警備員なら良い。それをめちゃくちゃ望んでいる。だが、よくここにくる俺が一番分かっている。そんな事は滅多にない。


 十中八九、主人公候補。


「へー、隠れるんだな」


 女の声。確実に近づいてきている。


「皆あたしみたいな変な力持ってるらしいし、正々堂々迎え撃ってくるかと思ってたんだけど」


 バレてしまいそうなほど、鼓動は激しくなっていく。


(どうする、どうする!?このままだと死ぬ、速くどうにかして逃げないと─────)


「あれ、偵察に向かわせた子、ほとんどここにいるじゃん。なんで?どうしたの?」


(……ここにいる?どういうことだ……?)


 今、ふと思った。

 主人公候補同士の戦いは──────いかに相手の題材を見破るかがカギになる。こう言った意味不明な発言も、十分な情報のはずだ。


「あとキミ。いるのは分かってるからな」


「ッ!?」


 背後から、絶望的なほどの悪寒。


「フタバ、やって」


 俺は身体中の全筋力に命令を下し、隠れていた柱からもう一つの柱の方向へ飛び込む。

 ……そして案の定、背後から爆発音のようなものが。


(あそこから動かなかったら、俺も砕け散っていた)


 隠れていた柱はかなり太いものだったが、しっかりと貫通されていた。


「あれ、何やってんのフタバ。頼むよ~」


(……俺が隠れているのがバレたのは……透視能力のようなものか?だとしたら考えられるのは……)


 超能力者、とかだろうか。


「まぁ大丈夫だよ。調子悪いんなら……お前、あいつ殺せ」


(……何かに命令をしている?)


 ──────再び、悪寒。


「やばい……っ!」


 今度は多方向から冷気のようなものが感じられた。俺はすぐさま立ち上がり、とりあえず攻撃を受けたくないという一心で駆けまわる。


「あれ~?お前らなんで言う事聞いてくんないの?」


 声がしたのは、入り口の方向。俺とそう年齢の変わらなそうな、一人の女が立っていた。


 そして────────目が合った。


























 少女は廃ビルの階段をのぼりながら、高鳴る心臓にうんざりとしていた。


(あたしはこれから……人を殺すのか)


 そんな決断をした自分が信じられず、もはや殺されてもそれはそれで良いとまで思っていた。


(ココニホンヲモッタニンゲンガイル)


 自分自身の能力を駆使してその情報を得た彼女は、『導き』に従いここまで来た。

 そして……一握りの勇気を振り絞り、ビルの一部屋を覗いた。


「へー、隠れるんだな」


 しかし、彼女の目はしっかりと彼の魂を、生命エネルギーのようなものを見透かしていた。


「皆あたしみたいな変な力持ってるらしいし、正々堂々迎え撃ってくるかと思ってたんだけど」


 少しだけホッとしたと同時に、生きたいと願う人間を自分に殺す事が出来るのかという不安が生まれた。


 ……そして、そこで初めて彼女が『自分と同じ本を持っている奴を探せ』という命令を出した()達が、隠れている彼の周りに漂っている事に気付いた。


「あれ、偵察に向かわせた子、ほとんどここにいるじゃん。なんで?どうしたの?」


(カズナチャン……)


 それらの声は彼女の耳にだけ届く。


(コイツハ、キケン)


(……どういう事?隠れてるって事はあたしと戦う術がないって事じゃないのか?)


 皆、危険を訴えてくる。


(カズナチャン、コノオトコヲミチャダメダ)


(……言ってる事の意味が分からないよ、皆)


「あとキミ。分かってるからな」


「ッ!?」


 そして彼女は冷酷に……命を下す。


(いっそのこと、これで死んでくれ)


「フタバ」


(う。  ん)


 瞬間、彼女の背後に……大型の、人のような物が顕現した。普通の人が見れば卒倒するような、身体中傷だらけのグロテスクな姿。もちろんそれは、彼女にしか見えていない。


「やって」


(わ、か  つた)


 人のような物はその巨大な拳を握りしめ、彼が隠れている柱を真っ直ぐ殴りつけた。

 その拳は柱を破壊し、周囲に砂埃を巻き起こしたが……血飛沫は飛ばせなかった。


(……かわされたのか。フタバの一撃が)


 それは彼女にとって初めての経験であり、この主人公争奪戦が自分以外にも『特殊能力を持っている』という認識を確実なものにさせた。


「あれ、何やってんのフタバ。頼むよ~」


 と、後ろを振り向いた。


 目を疑った。


(……お姉ちゃん)


「……フタバ?」


 人にしては巨大すぎる。生きているにしては身体中の血と、えぐれている頭、飛び出ている目が不自然すぎた、彼女が『フタバ』と呼んでいた存在。

 それが───────生前と同じ姿をしていたのだ。


「二葉、どうして元の姿に……!?」


(お姉ちゃん、あの人を見ちゃダメ……)


 必死な表情で訴えかける、幼い少女。懐かしさや、様々な感情が渦巻き、彼女の目に涙が零れそうになるが──────すぐに収まった。


(…………あいつが能力で見せた幻覚っていう可能性もある。死んだ妹の姿を見せるなんて良い趣味しすぎてるけど)


「まぁ大丈夫だよ。調子悪いんなら……お前ら、あいつ殺せ」


 彼女は更に、背後から大量の亡骸たちを出現させる。


「やばい……っ!」


 命令通り標的へ向かっていく『それら』。だが──────途中でピタッ、と止まった。


「あれ~?お前らなんで言う事聞いてくんないの?」


(……何の能力だ?霊に作用するなんて……まさか、あいつもあたしと同じ───────)


 その瞬間に聞こえた足音に、彼女は身構えた。隠れていた彼が、立ち上がって移動を始めたのだ。そして思わず──────その方向に目を向けてしまった。


(……いや、まずい!もし奴の能力の発動条件が『顔を見られる』事だったら───────!)



 そして────────目が合った。


(ほらね……お姉ちゃん)


 左手を、ギュッと握られる感覚。しかし、彼女は目が離せなかった。


(めっちゃくちゃイケメンでしょ!?殺すなんてもったないよ!!)


 そう。その男、霧間行人は───────多くの霊達が恐れ慄くほどの、凶悪な霊がときめいて生前の少女の心を取り戻すほどの、『生命を残す力』に溢れていた。霊が最も恐れる生命エネルギーが尋常じゃなく多い。

 つまり────────めっちゃくちゃイケメンだったのだ。

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