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29話 『三本勝負』……なのにまだ一試合しか終わってないって本当ですか?

各話にサブタイトル付ける事にしました

 夜の空気が素肌を撫でる。夏の近づきを感じさせない冷たさ。


 俺は夜の樹愁町の路地裏から、少し開けた場所に出る。


「いっつも喧嘩してたんだよ。ここで!」


 スプレーを用いた落書き……グラフィティアートと言った方が良いか?それがそこら中に書かれている。


「幸運な事に、今日は誰もたむろしていないようだな!……早速、戦いを始めようじゃないか」


 ギラついた目。獣のようだ。奥院さんはそう言いながら一歩ずつ俺と距離を取る。

 この空間に、貧弱な身体つきの俺と肉の鎧を纏った奥院さんが一対一で向かい合う。何とも奇怪で、不自然な状況だ。


「頑張れよー行人クン!どんな作戦で行くのか知らないけど、死ぬなよなー!」


 そしてそれを見守るこの女。結局、秋土はろくな作戦を提案してくれなかった。頭が悪いんだと思う。俺が聞いても提案してもお菓子を貪るだけのカスだ、こいつは。こうして当日に堂々と観戦しているのも如何なものか。


「さぁ、行くぞ!霧間行人……ッ!」


「あぁ─────!」


 そうして俺は────────


 その場所に座り込んだ。


「よいしょ」


「…………ん?」


 バッグを開き、持ち込んでおいた携帯ゲーム機……スイ●チを取り出す。


「ほら、座ってくださいよ」


「いや……え?」


「戦うんでしょ。早くやりましょうよ」


 格闘ゲーム…………『ピクトファイター4』を起動する。様々なピクトグラムのキャラクターを操作し、殴り合う対戦ゲーム。勝つ条件は『攻撃を繰り返し相手のダメージを蓄積させ、相手を画面外に吹っ飛ばす事』……つまり、ス●ブラのパクリゲーだ。しかし、このゲームの唯一性は、対戦中キャラクターの名前が表示されないにもかかわらず、ピクトグラムなため全てのキャラクターの見た目が同じである事だ。オンライン対戦や、通信対戦では対戦がはじまった瞬間相手のキャラクターが誰なのかを考察する必要があるという独特なゲームだ。


「行人クン…………流石にそれはないっしょ…………」


「なんとでも言え!馬鹿なのはあんただよ、奥院さん。なんのルール指定も条件も提示してこなかったあんただ!」


「そ、そういえばッ!」


 この人は本当に脳が筋肉で出来ているんだろう。『戦う』としか言っていなかったのだ。戦う事が条件ならばゲームで戦うのも入るだろ。

 まぁ、常識的に考えて『戦う』流れでまさか殴り合い以外はしないだろうという考えだったのかもしれないが。ただの屁理屈でもなんとでも言えば良い。俺はここを動かない。


「空気を読んで相手に配慮とかする暇はないんですよ。今俺達がやっているのは殺し合いだ。試合じゃない」


「…………」


「さぁ、俺とこのゲームで勝負だ、奥院さん。漢なら売られた喧嘩はスルーしないよな!?」


「…………やってやろうじゃないか」


 奥院さんは俺の前に胡坐をかいて座る。その姿は岩石のようで、とてもこれからゲームをする人間とは思えない。

 そして…………流石に怒ってるのだろうか。表情が怖い。


「奥院さん、同じ画面でやるんでコントローラーを──────」


「いや、その必要は無い」


「え?」


 奥院さんは本を取り出した時のように、シャツと肉体の間に手を滑り込ませる。彼の右手に収まっていたものは────────


「なっ──────それは、ニン●ンドースイ●チ!?」


「俺も…………やっているんだよ。霧間行人。『ス●ッチでゲームを』じゃない。『ピクトファイター4を』だ……!!」


 奥院さんがゲーム機を起動し、ピクトファイター4を開いた音が聞こえる。どうやら本当に経験者のようだ。一緒の画面を見る必要は無くなったため、俺は本体とコントローラーを接続する。


「いや、何この展開…………」


 秋土のつぶやきが聞こえたが────────問題ない。

 俺は奥院さんがピクトファイター4の経験者である事は知っていた。『その情報を仕入れていた』。まさか今ス●ッチを携帯しているとは思わなかったけど。彼がピクファイプレイヤーだからこそ、俺はこのゲームでの決闘を選んだ。既にやっているゲームでの戦いなら、勝敗の結果に奥院さんは納得するはずだ。


「なら、このゲームの醍醐味である……『相手の使うキャラクターが分からない』対戦が出来ますね。あ、俺部屋作ります」


「あぁ……その方が楽しい。熱があるゲームだ、これは。あ、申請送ったぞ」


 作成した対戦部屋にプレイヤー名『せんじ』が来る。さぁ……キャラクターを選ぶとするか。


「三回勝負にしましょう。先に二回勝った方が勝ちです」


「いいだろう……なら、ストックは1でいいか?」


「1ストすか!?」


「その方が燃えるだろ?」


「…………いいですよ、それで。やってやろうじゃないですか」


 このゲームの1試合は自分か相手の残機が全て無くなると終了する。攻撃を繰り返し、%で表示される相手のダメージ蓄積値を溜める。それが多いほど相手は攻撃を受けた時に吹っ飛びやすくなるからだ。

 1つしか残機がないのはスリルがあるし、もし崖に落ちて復帰しようとしてミスったりしてもそこでその試合は負けだから…………緊張感がある戦いになる。


 …………さて、どのキャラクターを選ぶとするか。一瞬迷うフリをするが、俺が選ぶのはもう決まっている。

 奥院さんも既にキャラクターを選んでいるようだ。……聞いた通り、ある程度使えるキャラが決まっているみたいだな。


 このゲームの三回勝負では一人のキャラを上手く扱えるようになるより、様々なキャラを練習していく方が勝ちやすい。何回も戦う、相手のキャラクターが分からないという条件であるため、使えるキャラは多い方が有利なのだ。


「じゃ、試合開始しますね」


「おう」


 ボタンを押し──────画面が切り替わる。今回選ばれたステージは偶然にも街中だった。地続きのステージなため、崖から落ちてしまうという負け筋が無いのが特徴のステージだ。


 アスファルトの上に、二人のピクトグラムが現れる。

 そして……カウントダウンが始まる。

 3。

 2。

 1。


 ────────試合開始だ。


「「…………」」


 お互い、少し移動を繰り返すだけで動かない。

 当然の事だ。派手な動き……そのキャラ固有のモーションをすれば、一瞬でバレてしまう。


「!」


 奥院さんのキャラが─────左方向、つまり俺の方へと歩み寄る。……そっちから動いてくるか。

 ──────少し詰めただけかと思ったが…………それは違った。


(まだ詰めてくるのか……!?)


 奥院さんの歩みは止まらない。ピクトグラムはどんどんと近づいてくる。


 これは、自分が近接戦闘を得意とするキャラだと言っているようなものだ。だが……それもしっくりくる。だってこの筋肉を持っている人だ。性格的にも、どうせ使うなら殴り合いをするキャラを選ぶだろう。


「……!」


 奥院さんのピクトグラムの腕が突き出される。小さいパンチなどのモーションは全キャラに共通してあるものだ。だが……ここから始まるコンボが多かったりするのはやはり近接キャラ。


(……なら、このまま後ろに下がるのは良くない)


 このゲームは画面端で攻撃を受けると吹っ飛びやすい。画面の向こうに行ってしまった瞬間に即死亡という訳ではなく、一定の勢いで吹っ飛ばされるともう戻れなくなり、撃墜となる。地続きのステージは画面端に追い込まれると%があまり溜まっていなくてもすぐに吹っ飛ばされてしまうから、ここはジャンプで濁すか……。


 俺はジャンプボタンを入力し、奥院さんを飛び越える────────


 が、俺のキャラクターは堅いアスファルトに落ちた。否…………落とされた。


「ッ!?」


 では、なぜ落ちてしまったのか?俺は確かにジャンプボタンを入力した。つまり奥院さんから攻撃を受けたのだ。

 俺のピクトグラムに刺さっていたのは、矢だった。


「『アーチェリー』……だとッ!?」


「フハハハ!思っていたな!?勘違いしていただろう!?俺は近接キャラを選ぶと!そう思っていたよなぁ霧間行人!!」


 奥院さんのピクトグラムが、他のピクトグラムと全く異なる形状となる。固有モーションを使う時のみ現れる武器──────奥院さんのキャラクターは、アーチェリー。遠距離攻撃を得意とするキャラで、2Pカラーの『弓道』は少しだけ弓の形状が変わる。


「くっ!」


 すぐさま起き上がる…………が、既に距離を取って離れていたアーチェリーから矢が飛んでくる。


(……ガードしかない)


 俺はガードボタンを押し続け、その攻撃を防ぐ。が────────


 ガードの耐久値も限界が来たわけでもなく、それが解除されてしまった。


「何!?」


 そう、俺のピクトグラムの状態は─────『掴まれていた』のだ。


「まさか……ワイヤーショット!?」


「フハハハ、焦って見逃していたな?今はなった矢の一本についていたワイヤーを!」


 このゲームはピクトグラムなため、アーチェリーの矢も勿論のことピクトグラムだ。アーチェリーの技の一つであるワイヤーショットは矢に紐を付けて放ち、当たった敵にガード貫通攻撃……つまり、掴むことが出来る。

 そしてそのワイヤーすらもピクトグラムで表されるのだが、それがもの凄く細い。集中していないと本当に見えない細さなのだ。早くアプデして修正入れろ。


 掴み状態に以降したのを良いことに、続々とダメージを稼がれる。締めとして『投げ』をされた後には……もう既に60%を超えていた。


「くっ…………まずい」


「フッ……このゲームをある程度やっているのなら知っているよな?アーチェリーならば……俺がどの位置からでも、お前がどの位置にいても、60%を超えているのなら撃墜出来る技がある事をッ!」


『チャージショット』……一定時間弦を引き絞った後、極太の一矢を放つ技。予備動作と隙は多いが、それでも一部のコンボから繋げられたり距離を取れば一方的に打てたりと、ロマンだけではなく真面目にアーチェリーの撃墜択の一つとなっている。


「────なら」


 その距離を。チャージされる前に──────詰めてやろうじゃないか。


「ぶっ飛ばす!」


 俺は離れているアーチェリーに向かって……必殺技ボタンを押しながら、ダッシュをする。

 とてつもないスピードで。


「なっ、それは──────」


「このまま嬲り殺されるくらいなら…………賭ける。一か八かを狙うッ!」


 そして俺のピクトグラム、『自転車』は爆速でアーチェリーへと突き進む。シルエットの二輪を高速で回転させながら。


「まさか、まさか霧間行人!『あれ』を狙っているのか!?」


「このステージがランダムで選ばれた時!運命を感じたッ!」


 ほとんどのステージが崖に覆われている中、地続きのステージはそのまま画面外へと歩くことができる。つまり────『相手を巻き込んで進む』事が出来る自転車なら、道連れ戦法が可能になるのだ。


「クソ……止まらない!?」


「やっぱりアンタ、アーチェリーに慣れていないな?そいつの弱点……それは、チャージショット以外で自転車のこの技を中断出来る技が無い事だッ!」


「くっ、しまった─────!」


 さっき奥院さんは俺が自転車で突っ込みはじめた瞬間に、チャージショットの溜めをやめた。ギリギリ間に合わない時間だと判断したのだろう。そして今奥院さんは俺に攻撃をしているが─────それでは自転車は止まらない。焦った奥院さんはガードすれば相手の耐久値が切れるまで削り続けるこの技をかわそうとしたのだろう、アーチェリーがジャンプをした瞬間に……前輪は捕らえた。


「……まずい!抜け出せないっ!?」


 必死にコントローラーをレバガチャする奥院さん。自転車の『チェーンドライブ』を抜け出すのは至難の業であり、マイナーゲームであるせいで全くアップデートがされないこのゲームからしてゲームバランスがおかしいのかもしれない。


「俺が死ぬかアンタが死ぬか!それは最後の瞬間まで分からない──────!」


 道連れ技と言っても、残機が1しか無い以上どちらかが勝利し、どちらかが敗北する。本当に同時に撃墜された場合はダメージが100%溜まった状態の残機1でもう一度戦い、それで勝敗を決める。

 だがこのチェーンドライブは最後までどちらかが死ぬか分からない。恐らく相手を巻き込んだ時の位置などで決まるのだが、マイナーゲームなせいで誰も検証していない。


「いっけぇえええええええええ!」


「耐えろぉおおおおおおおおお!」


 そして二体のピクトグラムは画面から消えても進み続け──────やがて撃墜音が鳴る。

 ゲームセットの文字が流れるがス●ブラとは異なり、この瞬間ではまだどちらかが負けたかは判断できない。

 …………流れるようにリザルト画面が迫る。


「「…………!」」


 息を呑んで結果が表示される瞬間を見守る。


 表示されたのは────────


 ピクトグラムが、自転車に乗ってかっこよくドリフトを決める勝利モーションだった。


「っしゃあああああああ!!」


 一試合目──────まずは俺の勝ちだ。

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