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27話 『霧間行人という男』……どうしてそんなにお好きに?

「一鳴を賭けて、俺と勝負しろ!」という言葉を、教室のロッカーの上に座り込みながら聞いた秋土一鳴は仰天しすぎて思わず霊体化を解きかけた。


(……思い出した。あのヤンキークンどっかで見たことあるなと思ってたら!)


 癖になっていた深夜徘徊。彷徨う霊を除霊しながら、行く当てもなくただこの町を歩き回る夜に、高校生の集団に絡まれた。

 明らかにガラの悪い風貌。中にはバットなどの凶器になるものを握っている者が。


『よーうネーチャン。何してんの~?家出?』


『俺達とちょっと遊ぼうや。ちょっとね』


 ここまで露骨なものがあるのかという驚きと、彼らをあしらう面倒さが混じり、一鳴は適当な相槌を打っていた。


 辿りついていたのは、人気の無い倉庫の裏。だらだらと歩いているうちにいつの間にか来るところまで来てしまった。さっさと霊体化して去ろうとした瞬間──────バットが振り下ろされる。


 生憎それは秋土二葉の手によって一鳴の顔面ギリギリで止まる。見れば既にズボンを下ろしている者も何人かいた。

 相手は完全にこちらを『やる』気になっていたのだ。


『な、なんだぁ!?』


 バットを再び振りかぶろうとするが、動かない。見えざる巨大な手によって握られているからだ。


(う ふふ。あハは! び  く して、う)


『…………は?』


 秋土一鳴がその時怒りの頂点に達したのは、唐突に振るわれた暴力だけが原因ではない。もちろんそれも半分を占めているだろう。

 しかし、ギリギリまで焦らしてバットを止め、からかうように笑う異形と化した妹に、彼女は無性に苛立った。ムカついたのだ。


 つまるところ、当時隣町の高校生たちが正体不明の何かに血塗れになるまで蹂躙された事件は、秋土一鳴が彼らに反撃したのではなく。


 霊能力者と幽霊の姉妹喧嘩に巻き込まれてしまっただけだ。


『大体さぁ!お前稀代の天才とか言われてた癖に結局悪霊なってんじゃん!それを世話してやってんのに何か言われる筋合いねーんだよ!』


『なんだ…………なんなんだこれはぁ!誰か、助け…………』


(で も”  おね ぢゃん……じょ、れい へ  あく、そ!)


『あぁ”!?』


『うわああああ!!やめろ、やめっ……ああああああ!!』


(がれ しもい、ない!)


『あぁあ”!!??』


『なんだ……何が起こって───────ぶへぇあ』


 霧間行人の生命エネルギーに触れていない状態の、純粋な悪霊としてのフタバが暴れてしまえば、その図体によって周囲のものは悉く破壊される。その上、フタバを抑え込む役割の一鳴がその責務を全く行っていなかったため、倉庫は半壊状態。


『隣町の奴ら、女連れ込んだってよぉ!成敗してやらねえとなあ!』


 そして当時の中学生である句川康博達───────彼らも慈門遠也がいなくなった状態でも自分たちの縄張りを守るため、若干怯えながらも彼ら同士で鼓舞し合い、そこに駆け込んだ、が…………。


 そこで見たのは女一人を中心に、見えない何かが高校生達に暴虐の限りを尽くすという、なんとも奇怪な情景だった。


(い、だい。ひ  どぃ。いも う……とあいでに)


『分かったか?ぶりっ子ちゃんが!これに懲りたらもう二度とお姉ちゃんに逆らうなよ…………ん?』


 そして、彼女が彼らを見た瞬間。


『……よし。逃げるぞ!』


 何もかも分からない状況から、唯一『逃げなきゃ死ぬ』という事を悟った句川達は一目散に夜を逃げた。
















(へぇ~…………一目ぼれってやつかね!?全く、あたしも良い女になったもんだぜ)


 恍惚とした表情を浮かべ、ロッカーの上をゴロゴロと転がる一鳴に…………位置的に行人の座っている席の後ろに体育座りで佇んでいた二葉が冷たく呟いた。


(どこが?)


(あ?)


 行人から送られてきたメッセージに返信した後、一鳴は教室の窓から浮遊し、校門へと向かう。


(……いや、丁度いいかもしれない。今日の行人クンの下校タイムを守るのは二葉、お前に任せる)


 遅れて、今日は一緒に帰れないという旨を伝える。既読は付かない。


(屋上で何があったかは後で二葉から聞けばいい。あたしは引き続き…………やる事やんないとな)


 校門から離れた後、彼女は霊体化を解く。


 そして────────昨日から始めていた、『霧間行人の情報収集』を再開した。

























 ー ー ー ー ー ー ー


















 彼女が霧間行人という人間について探り始めたのは昨日の事。


(え?行人クンが怪しいかもしれないって……どういう事?)


 偵察を頼んでいた霊に伝えられた情報は、理解に苦しむ内容だった。


(あの金髪の店員がそう言ってたって?……それであたし達が仲間割れしちゃったら最悪でしょ。あいつの思うつぼだよ)


 そう言いつつ、彼女は教室を飛び出していた。

 仮に『霧間行人がイケメンである事以外の能力を持っている』としたら───────化かされているのは自分になってしまうからだ。行人を手玉に取り続けるはずが、いつの間にか自分が彼の手のひらに転がされているのかもしれない。


(二葉は行人クンのそばにいてね)


(いいの?寝取っちゃうよ?)


 行人の近くにいる事ではっきりとした姿を保った少女が、小悪魔っぽく微笑む。


(黙れブス)


(さっさとどっかいけバカ)


 もはや定型化した会話の流れだが、周囲の霊達はそれを心配したり咎めたりする言葉を放つ。(そんな汚い言葉を使っちゃダメ)だとか。(姉妹なんだから仲良くしなさい)だとか。


「あーもう、行人クンの近くだと皆がはっきりとした言葉喋るからうるさいよ!」


 悪態を吐きつつ───────彼女は心からそれを喜んでいた。行人の溢れ出る生命エネルギーを上手く自分に浸透させ、生前の姿を保つ事が出来る霊は今の所二葉しかいない。だが、彼女にはそれで十分だった。霊達が秋土家で暮らしていた頃、生きていた頃のように話しかけてくれる。


 自分が霊達を現世に縛ることで、行人の生命エネルギーに触れすぎたとしても消滅する事無く生前に近い姿でいられるという長所だけを利用する事は、身体の中で眠っている彼女の両親からはこっぴどく叱られるような禁忌中の禁忌だが、そもそも一鳴は霊を成仏させる事へ必要性を感じていない。


 共にいられるなら、例え死んでいようとその方が良いに決まっている、というスタンスを変えない。


「行人クンとは一緒に居たい。だからこそ──────行人クンはあたしの物にしなければいけない」


 メッセージアプリを再び開き…………旧友とのトーク画面を開く。


「ひとまずは、こんな時間帯からどうせサボってるだろうゴミ共に聞いてみよっか」









「お、秋土!マジで来た!」


「よーっす。山輪に三里!久しぶりー」


「久しぶりだなほんと!うわぁなっついなあ!」


 彼女の予想通り、ゲームセンターには一鳴の同級生だった男子生徒達がいた。同学年の二人と……どこかで見たことあるような、名前の知らない気まずそうな顔をした一人。


「いつぶりだっけ?」


「卒業して一回遊んでから。お前付き合い悪くなったよな、高校行ってないくせに」


「お前らは高校行ってるくせになんでここにいんだよ」


「ははは!その通りだわ」


「で、何の用?わざわざ会いに来るって事はなんかあるんだろ?」


「…………実はね」


 ほんの少しの恐怖心と、言ったらどうなるんだろうという好奇心がせめぎ合った。一鳴はまるで怖い話のオチかのように、貯めを作ってからそれを打ち明けた。


「え!?霧間君って……あの!?」


「うん」


「超イケメンの!?」


「そうそう。ほら、証拠の写真」


「マジじゃん!?お前がー!!??」


「そうそう、そうなんだよ!すごくねあたしぃ!」


「…………すご。あの霧間が付き合うなんて」


 三人の驚いた表情を見て満足した彼女は、さり気なく本題に入る。


「でさ?あたしって中学の頃恋愛とかの話題全然好きじゃなかったじゃん?だから色々分かんない事あってさあ」


「あー、なんかお前そうだったよな」


「そんでもって、行人クンの情報?っていうか……そういうのを教えてほしい訳。どんなものが好きだとか、なんでもいいからさ」


「おっけ!つっても俺話した事すら無いしなあ……」


 それもそうだ。彼らにとっては行人は一つ下の後輩であり、部活に入っていなかった行人との接点はあまりにも少ない。


「……あの、俺高一なんで、ちょっと知ってますよ」


「え、マジ!?そっか、キミ見た事ないと思ったら後輩だったんだね」


「あーそうそう。秋土に言うの忘れてたわ」


 気恥ずかしそうに、その後輩の男子は頭を掻いた。


「あんま仲良いわけじゃ無かったっすけど、噂とかそういうのなら。もしよければ知ってそうな奴とか紹介しますよ。多分女子とかの方が詳しいと思うんで──────」







 そこからは、ひたすらに霧間行人の情報を探った。好きな物。嫌いな物。印象に残っているエピソード。得意な教科。苦手な教科。かっこいいところ。ださいところ。将来の夢。

 そして最後に、彼女は必ずこう聞いた。


『じゃあ、行人クンの事はどう思ってる?』


 以下が、彼女がまとめた二日間の情報収集の成果だ。


『まぁとにかくイケメンだよな!羨ましいって思ってるよ。妬みとかじゃなくて、憧れに近い……みたいな?』


『イケメンだよなぁ。そんだけ。どう思うかって?ん……1回話した事あんだよ、委員会の時だっけか。仕事テキパキやってくれて要領良いし、俺は好きかな』


『まぁ、さっき言った通りあんま話した事ないっすけど、その少しの話した経験で分かるのは…………悪い奴じゃないと思いますよ、ハイ』


『イケメンですよねぇ!付き合えるなんて羨ましいですよ!うちらの学年だと霧間くんと付き合うのは大きな共通の目標みたいになってましたからね。…………あぁ、誤解されがちですけど、良い人なんですよ、霧間くん』


『酷いフラれ方しましたよ。えぇ。泣きまくりましたよ、えぇ。でも今となって思えば勝手に呼び出して勝手に友達も呼んで勝手に怒って泣いて。ああいう態度なのも、朝空を傷つけないためですし。それにしても酷いフリ方でしたからもしもの時は気を付けてくださいね!?』


『いやいや、私なんて目の前でチョコ捨てられたんで!あはは!まぁでも、憎めないっすよねーなんか。私達も朝空の事からかいすぎてたし、反省反省。霧間って不器用なやつだから大事な事は口に出してもらう、とかが長続きの秘訣っぽくないすか?』


『うーん……霧間くんの友達の、滅茶苦茶に喧嘩つえー奴がいて。そいつとよくつるんでたからさ、たまに話を聞くんだけど……1周回ってお前みたいな女だから付き合ってくれたのかもな。ん?あー……悪い噂とかはたまに聞いたけど、良い噂の数の方が多いよ。多分マジで良い奴だ』


『あぁ、その……イケメンですよね。僕なんか到底及ばないって言うか、羨ましすぎるっていうか……。え?あぁ、えーっと……オタク趣味っていうか、アニメとか漫画とかゲームとかそういう類のものを霧間は馬鹿にしないし自分も楽しんでたから良い人だと思いますね、はい。ジョ●ョ好きに悪い人はいないっていいますし(早口)あ、あとソシャゲの周回編成の話とか今でも話したり(ここから先は覚えていないため略)』


『顔はもちろんの事、運動も結構出来て勉強も結構出来て完璧人間かと思ってたんですよ。一度話したらそうじゃないって分かりました。でも…………話し方とか考え方とかを知って、霧間の事もっと好きになっちゃったんです。結局告白できなかったんですけど、先輩みたいな人が好みならどのみち私には無理だったかなぁ…………』


『委員会で一緒になって、仕事とかしたんですよ。もうめっちゃくちゃイケメンを近くで見れて幸せだし、トラブルが起きてあたしは悪いことしてないのに先生怒られた時に霧間が庇ってくれたんですよ!もうキュンキュンしちゃって!翌日告白したら普通にフラれました』


『あぁ……物わかりが良かったよね。塾通ってる意味あんのかなって思ったけど、多分家でゲームばっかしてたんだろうなぁ。教えがいのある良い生徒だったと思うかなあ』


『あ、行人から聞きました?あの話ほんとですよ。デート行こうって言っても全然了承してくれないし、家ならいいよなんて言うからビビッて下着とかもキメてきて!なのにやるのはゲームだけ…………今思えばめちゃくちゃ面白いエピソードですけどね!あの時はドン引きしましたねぇ……。中学校に入学してすぐの時だったから、付き合うって事がどういうものか知りたかったんじゃないですかね?でも、なんていうか……朝空の事好きすぎだろ!って思います。思いません?あいつには勝てん!』


『当時付き合ってた彼女が……今でも信じられないですよ。やっぱり私霧間先輩が好きだからーとか言って。ふざけんなって思いましたよ!あんなイケメンいなけりゃいいのにって何度も思ったんすけど……俺、このまま終わるのが悔しくて。勇気を出して霧間先輩に、あいつはヤな女だから告白を了承しちゃダメだーって言ったんすよ。そしたら先輩なんて言ったと思いますか!?「安心しろ、最悪のフリ方をしてやるつもりだ」って!くーっ、かっけええ!え?かっこよくない?その時の霧間先輩の学年?えっと、中二でしたけど……』


『バレンタインの日、あまりにもチョコが多すぎるからって何個か貰いました。美味かったっす!』


『────────』


『────────』


『────────』


 同じようなものが、延々と続いた。



「…………」


 二日かけた聞き込みの結果は以上の通り。

 まとめたものに目を通し終え──────改めて、彼女はその結果が信じられなかった。


「……これ、バイアスとかの問題?」


 ──────霧間行人に対して否定的な意見を持っている者と、一人も会えなかったのだ。彼の同級生とはほぼ全員話した。関係性を持っていると聞いた人にも会いに行った。わざわざ家まで訪問しに来て、彼氏の情報を聞く彼女というのはあまりにも不自然かつ不審に感じるだろう。しかし──────全ての人が、快く質問を聞いてくれた。…………霧間行人の人徳によるものだろうか?


 もちろん、『彼女』という存在に対して『彼氏』の悪口は言いづらいだろう。しかし、一鳴は自分でも自信を持っている通りかなりフランクに、親しみやすいように接した。「付き合ってばかりでよく知らないから欠点とかむしろどんどん教えちゃって!」を忘れずに話した。もちろん、いくらかの欠点は聞く事が出来たが……彼を『嫌う』者は、一人もいなかった。


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