23話 お互いの必殺技名の『センス』……え、タイトルのセンスを磨いてから言えって?
「き、貴様───────」
「ハッハァ、すげェだろ?不可視の剛腕が不可能を可能にするぜェ~ッ!」
「よくも余の家をぐっちゃぐちゃにしてくれたな!?どうやって直すのだこの有様を!!」
「それは確かに申し訳ないとして……喰らえよ吸血鬼ィ!」
霙がまず『拡張せよ、人の意』で投げつけたのは、4人は余裕で座れる大きさのソファ。一般男性が全力疾走した程度のスピードで向かうそのソファは、重さも相まってぶつかれば押しつぶされ、一溜まりもないものとなるだろう。
そんな事は殻町も霙も分かっている。
「壊式、『暴五』!」
両手を交差させ、腕を組むようなポーズをとる。そして、その鋭利な爪で両腕に赤い線を引き…………溢れ出た血を凍結させる。
盾だ。
「ふっ……!」
殻町はなんなくソファを両腕で防ぎ、しっかりと踏みしめた両足は一歩も引きさがらない。
────────が、霙の攻撃はソファだけではない。
4人も座れるソファとなると、その分サイズは大きい。その巨大な物体が勢いよく正面から激突してきたとなれば、例え無傷で防御できたとしてもどうしてもそのソファに注目が行ってしまう。
即ち、多方向から飛んできていたナイフに気付くのが遅れる。
「『拡張せよ、人の意』ッ!とくと味わいなッ!」
「……あぁ、そうさせてもらおう」
「!」
遅れはしたが、警戒は出来ていた。
盾を作る程度なら少量の血液で済む。殻町はわざわざ両手の腕から血を噴射させた。
まき散らした血と、盾になっていた血を合わせ────────壁を作る。
「ふははは!一族と余の本懐!壊式を舐めるなっ!」
周囲を赤い氷の壁で覆う。飛んできたナイフは無事、氷に突き刺さり静止。
それと同時進行で次の攻撃の準備をする。
「壊式……『虚穿九』」
凍らせた血の刃を2つ作成。1つを懐に隠し、壁の外へ飛び出る。
「人の家の家具を滅茶苦茶にしおって。死ね、クソガキ!」
「っ!」
まず一本を投擲。軽い動作で、並の人間には困難な速度の刃が飛んで行く。
…………が、その軌道をまるで分かっていたような機敏さで、霙は回避する。
「『潜在せし監視者』……隠れていても見えてるぜ」
「──────千里眼の類か!」
そして、自分への攻撃だったはずのその氷刃を、静止させる。霙はくるくると指先を回し、弄ぶように刃を連動させて浮遊させた。
「こーゆー飛び道具を撃っちゃうのはちょーっとばかし頭が悪いんじゃねえのかァ?」
「ぬかせ……!」
隠していた2本目を投擲。だが、2本作っていた事は『潜在せし監視者』で確認済みの霙。
落ち着いてその刃を自らの物にしようとする────────が。
「言っただろう、壊式を舐めるなと」
「……?」
「さぁ、絵に描いたように驚けっ!」
向かってきた氷は、溶けていた。
吸血鬼には血液を自在に操る能力がある。それによって殻町は投げた血の刃を氷から液体へ変化させ…………そして、その壊式の意図を実現させる。
一本の刃が、数十本に増加したのだ。
「ッ!!??」
『虚穿九』の氷の刃の正体は氷の容器。内部に凝縮した血液をため込み、外側を溶かすと同時に血液を解放し、それを無数の氷の刃に変化させる。
そしてそれは、2本ある。
「破壊しなかったことが仇となったなっ!」
浮遊させておいた、一本目の刃。それもまた溶解し、解放され、凍結し──────霙へと向かう。
二方向からの無数の攻撃。冷たい血の雨。深紅の氷柱が突き刺さる。
パチン。
────────その前に、刃はただの液体と化した。
「……何事にもよォ相性ってのはあるよなァ」
もはや蒸発した液体に囲まれながら、霙は指を鳴らした。
「できれば使いたくはなかったんだが、使っちまった。なぜか?お前が強いからだ。つまり……不公平かもしれねェが、どうか喜んで受け取ってくれって事だァ!!」
「……なるほど、超能力者だものな。『物を燃やす』程度出来てもおかしくはない」
絨毯は燃える。血液の匂いが充満したその部屋は、熱気も相まって一気に過酷な環境となる。
「パイロキネシスじゃあねえぜ。『炎神の戯れ』って呼んでくれェッ!」
パチンッ!と霙の右指が鳴る。同時に──────殻町の目の前にX字の炎が出現する。
「ええい!」
部屋中にばらまかれた血液を結集し、躱しながら消火する。
「なぜX字なのだ!!」
「カッケーからだァ!!」
パチン──────床にX字の炎が出現し、徐々に燃え広がる。
「ああ!なぜ指を鳴らすのだ!!」
「カッケーからだァ!!!」
『炎神の戯れ』だけのみならず、ナイフや皿、そこら中の家具が凶器となって殻町を襲う。それらを防御しながら、血液を使い消火していくが────────限界は来る。
部屋中を飛び回る殻町は、急に着地すると、真顔で立ち止まったまま立ち尽くす。
「んォお?」
様子の変化に気付き、霙もまた指を止める。
もし相手が戦意を喪失してしまったのなら、それを復活させなければいけないからだ。相手が消耗してきたのなら、手加減しなければいけないからだ。出来るだけ長く戦いを楽しむために。
「はぁ…………」
それは息切れではなく…………ため息。とても大きな、ため息だった。
「クソガキ。貴様、だるい戦い方しかせんのか?」
「んゥ?」
「流石に余も──────限界なのだ」
冷酷かつ、燃え盛るような怒りを持った目。それが霙を貫く。
「我慢のな」
その一言の後、人差し指を弾いて血液を飛ばす。
「まーた氷の刃になる系か?溶かすぜェびっちゃびちゃによォ!」
もちろん、そうはならないことは分かっていた。何か、一癖二癖ある『何か』を警戒する。油断せず、落ち着いて霙はその血の粒を浮遊させる…………。
「!」
『拡張せよ、人の意』と彼女の血を操る能力がぶつかり合っている。それをすぐに察知した霙は、ソファと棚を操作し、血液を押しつぶす。
「吸血鬼には血液型によって、血の性質が大きく変わる」
殻町は依然として、血を放った人差し指を下ろさない。
「例えば『冷血』……血を凍らせる事が得意だ。こんな感じでいくつか種類があり、生まれつきの血液型の戦い方を吸血鬼は極めていく」
「ほうほう」
最大限の警戒をしながら、霙は耳を傾ける。その先の言葉を、誰よりも楽しみにしている少年の心を忘れずに。
「見て分かる通り、余は冷血────────」
「うんうん」
「──────を含め、全ての種類の血を自由自在に操ることができる」
「はいはい…………はい?」
そして気付く。
…………血液を押しつぶしていたソファと棚が──────独りでにメラメラと燃え始めた。
(オレは『炎神の戯れ』を使用していないぞ……?)
「冷血があるなら──────『熱血』もあるだろう」
少女は大量の血を右手に結集させ───────あるものを形どる。
「壊式…………『八威刃』」
徐々に血は棒状の物へ。その棒はどんどんと鋭さを携え─────剣となる。
しかしその刀身は、彼女がさっきまで使っていた氷のそれとは異なる。
「そして熱血があるのならっ!『鉄血』もあるだろう!?」
剣先から柄頭まで赤黒く染まったその物体は、もはや液体だったとは考えられないほどの輝きを持っていた。暗い部屋に、炎に照らされる鉄の剣が一振り。
少女は刀身にさらに深紅の液体を垂らし───────発火させた。
燃え盛る鋼鉄の刃がそこに顕現する。
「さぁ死ね!超能力者っ!!」
「『人知を超越せし者』だっつってんだろォ!!」




