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21話 『グチャグチャ』……になって参りました。関係性が

『学校終わった?』


『終わった』


『朝空クンと帰る感じ?』


『おけ』


『もしぼっちで帰ることになったら言えよー!』


 俺がただ授業を受けているだけの様子を見ているのは流石に飽きたようで、今は妹に見張らせているらしい。秋土二葉ちゃん、中々にこき使われてないか?


「待たせた行人っ」


「おー」


 まぁ、俺には蓮がいる。こいつに連絡を取って一人で惨めに帰るのを防ぐとかいうもっと惨めな行為はするわけが────────


「で待たせたところ悪いんだけど、今週はバイト直行らしいわ」


「…………へぇ」


「こ、校門までは一緒に行こうぜ。な……?」


「あぁ……」


 俺が露骨に悲しそうな顔をしてしまったからだろうか。蓮の笑みが引きつっている。


『ぼっちになった』


『笑笑笑』


『じゃあ校門で待ってる』


 wwwでも草でもなく笑笑を使うタイプの人種である秋土に無様に連絡を取る。ここで意地を張って一人で帰ると……いろんな女子が引っ付いてきて大変な事になりそうだからな。


「朝空蓮」


 ──────後ろから、女性の声。


「行くわよ。バイト」


「り、涼花さん!?」


「……!」


 そこにいたのは、何回か蓮と共に煉魔を倒していたマゼンタ隊員と思われる女性。上履きの色からして……そうか、二年生の先輩だったのか。


「まさか、わざわざ迎えに来たんですか!?」


「また遅刻されたら困るのよ。怒られるのは私なんだから──────」


 そう言いながら近づいてきた華邑涼花は、俺の顔を見ると一瞬硬直した。


「……?」


「……驚いた。本当に例の霧間君と仲が良かったのね」


「え、まだ信じてなかったんですかぁ!?」


「まぁ、霧間君って言ったら有名人だから。私達の学年でも、恐らく三年生でも知ってる人は多い超イケメン君」


「そうは言っても、ずっと一緒の俺の幼馴染で──────」


「……あんた」


 俺はほんの少しの勇気で俺自身を後押しし、その先の言葉を紡ぐ。


「……行人?」


「今の言葉、どういう意味で言ったんだ?なぜ蓮の言葉を信じない。そんなに俺は蓮の友達に相応しくないか?」


「ちょ、行人!どうしたんだよ……!」


 蓮に肩を掴まれるが、止まる訳にはいかない。

 遠也はもういない。蓮を守ってくれる強大な存在がいない。小学校、中学校にいた時とは違う。


 だから──────俺が遠也の代わりに、蓮を守らなきゃいけないんだ。


「蓮が俺の名前を利用するような奴だってか?そんな訳……ないだろ」


 なぁ、俺は今間違ったことを言っていないだろうか。蓮を守るためにしたこの行動は、正しいのか?

 アイツの真似をしてみた。でも……唇が上手く動かない。身体が強張る。


 小学一年生も、中学一年生も、三人だから乗り越えられた。新しい環境でも皆がいれば大丈夫だった。

 今は────────怖い。


「……気を悪くさせてしまったのなら……いえ、悪くさせたのは確実ね。ごめんなさい」


「!」


「涼花さん……?」


 華邑涼花は……流れるような動作で、その頭を下げた。


「……なんていうか、その」


「えぇ」


「信じてやって……ほしいです。蓮はそういう奴じゃない。バイト仲間ならそれくらい……分かるはずでしょう」


「……分かる。朝空君はそういう人だと私も思ってるわ」


「……え、えぇ?どういう事……?」


「おら、行くぞ。バイトあるんだろ」


 ポケットに手を突っ込み、俺は階段へと向かって行く。


「ちょ、おい!行人!なんていうか、その……俺の為に言ってくれたのなら嬉しいけどさ!……らしくなかったぞ」


 追いかけてきた蓮が、俺を振り返らせるように強く肩を掴んだ。


「まぁ、そうだよな」


「あれじゃまるで……まるで──────あぁ、そっか」


「?」


「……いや、ありがとう。この一言で十分だ」


 俺を追いこして、蓮は階段を下って行った。























 ー ー ー ー ー ー ー


















「ふー!ここが高校っすかぁ、憧れちゃうなぁ~!」


 車いすに乗った少女は、校門から出る生徒たちの好奇の目にさらされながらも、それを一切気にしない様子で校舎を眺めていた。


「火良多巡、はやく卒業して高校生になりたいものです。そして憧れの高校生ライフを朝空先輩と──────」


 発見したのは、その瞬間。

 見覚えのある人物が、自分と同じように校門の前に佇んでいた。誰かを待つように。


「憧れるよねー、こういう青春って」


「っ!?」


 そしてその人物が自分に近づいてきているではありませんか。


「キミ!朝空先輩って今言ったよね。朝空蓮クンを待ってるのかな?」


「え、あ、はい!そ、そうですけど……」


「あたしはあの子のことをよく知らないけど、こんな可愛い後輩ちゃんがいたんだね。中学生くらいかな?」


「は、はい。先輩とはその、バイト仲間っていうか……」


「……中学生で?」


「あっ……!」


 その人物を見た時の焦りのせいで、思わず口を滑らせてしまう。


「事情は分からないけど、『ある』ってのは分かる。大丈夫だよ」


「あ、ありがとうございます……!」


 彼女が聞かないという選択をしたのはありがたい事だったが、逆に彼女に聞きたい事があった火良多はそれを言いだしづらくなってしまった。

 が、会話を途切れさせないために意を決してそれを口に出した。


「あの、つかぬ事を聞いちゃうんすけど、もしかして霧間先輩の彼女さんですかね……?」


 結論から言えば、違う。休日で楽しそうにショッピングモールでデートをしている様子は彼氏彼女の関係性にしか見えなかった火良多と蓮である。その勘違いは仕方ない。


「うん。そうだよ!あれ、もうバレちゃったのか」


 しかしこの女!秋土一鳴は平気で嘘を吐いた!思考時間は0秒。考える間もなく、むしろ自分が霧間行人の彼女であると勘違いしているかのような速度で、当たり前のような表情で彼女は回答した。


「ぐ、偶然!先輩たちが一緒にお出かけしてるのを見かけちゃって!ほら、霧間先輩ってここら辺じゃちょっとした有名人ですし……」


「あはは、ちょっと恥ずかしいなー」


 しかし、嘘を吐いている事に対しての恥じは一切ない。


「そ、その……もう一個聞いちゃっても良いっすかね?」


「なになに?」


 人差し指をぶつけ合いながら、少女は言った。


「そそその……ほら、霧間先輩って中々彼女を作らないって有名じゃないですか」


「うんうん」


「どうやって落としたのかなって……恋愛の先輩として!教えてほしいっす!!」


「ッ!!!」


 その瞬間、秋土一鳴に電流が走る。


(今、『確信』した。この子は朝空クンに惚の字だ。行人クンに怒られそうな勝手なイメージだと朝空クンなんてちょっと誘惑しちゃえばすんなりいけそうな感じするけど……いや、それはいい)


 彼女が注目した点は別だ。


(このあたしがッ!恋愛の先輩ッ!こんなに呼ばれて嬉しい肩書は無い!)


「も、もちろん。教えちゃうよ!あたしでよければね!」


「本当っすか!?ありがとうございます!」


「ふはは。どうってことないっての」


「あ、ウチ、火良多巡って言います!よろしくお願いします、秋土先輩!」


「せ、せんぱい……!あたしは秋土一鳴。任せな。巡ちゃん、キミを朝空クンをイチコロ出来るまで導いてやんよ!」


 完全に浮かれ、先輩風という先輩風を○○号と呼ばれるほどの嵐が如く吹かせていた。


「ふふふ、早速だけどね、巡ちゃん。校門から行人クンが出てきたらその首筋を見てごらん」


「く、首筋っすか?」


「うん」


「首筋、首筋って言うと…………はっ!まさか……っ!?」


「そう、そのまさかさ……あ。来たぜ」


 周囲の女子の目線が一気にそこに集中し、静けさと喧騒が融合する。

 霧間行人が姿を現した。隣に二人連れがいたが、彼女らには行人しか見えていない。


 そしてその彼の首にあったのは────────


「き、キスマ──────ん?あ、間違えちゃったっす……」


「正解っ!そう、キスマークってやつ!」


「え?あ、そっ……すか!あれ、でも包帯……マークっていうか怪我な気が……見間違いかな……?」


「ん?」


「あ、いや、そのキスマークっていうとちょっとイメージと違ったといいますか……」


「んー……ちょっと激しくしすぎちゃったかも?」


「なるほどっす!!」


 思考を放棄した火良多は満面の笑みを浮かべ、三人に手を振った。


「おーい!せんぱーーい!」
















 ー ー ー ー ー ー ー











 絶句という体験をしたことはあるか?


「行人クーーーーーン!!『可愛い』彼女が迎えに来たぜえええええええ!!」


「────」


 俺は今、したところだ……。


「あら、霧間君。随分お熱い方がいるのね」


「彼女じゃ、ないんです……」


「不審者なら追い払うけど」


「あぁその、不審者では……いや不審者ではありますけど。ありがとうございます。でも大丈夫です。連れなんで」


 華邑涼花は大分ソフトな反応を示しているが、秋土様には周囲の女子達を挑発するような発言は控えていただきたい。噂は一瞬で広まるものだ。明日学校に来たらクラス中から問い詰められる……またギリギリ登校だな、これは。


「おい、秋土!無職のゴミでも流石に常識は勉強してると思ったんだがな」


「あは!見てこれ、ツンデレってやつwwww」


「どう見てもマジギレにしか見えないけど、勉強になるっす!」


「…………」


 今すぐにでも掴みかかろうというキレ具合だったが、俺のその感情を鎮めたのは、車いすの少女。よく見てみればこの子は蓮と一緒にいた……マゼンタ隊員だ。

 まだ中学生の、しかも車いすに乗っている女の子まで戦闘に駆り出すマゼンタという組織。蓮の勤務状況が心配になる。


(というか、そこの繋がりあったのか)


「待ってる間仲良くなっちゃったんだ。朝空クンの後輩だって」


「あぁ……」


 心を読まれたかのような秋土の言葉に狼狽えてしまう。俺ってそんなに顔に出てるか?


「まぁいい。とりあえず蓮はバイトだろ?」


「そ。みっちり働いてくるよ」


「それじゃまた。華邑先輩も──────」


「……」


「……先輩?」


 気味が悪いほどの、動きが無くなり、強ばった表情。顔の筋肉という筋肉が凍り付いていた。

 それも、唐突にだ。


「り、涼花さん?どうかしました……?」


「少し、驚いただけ」


 その眼差しは──────真っ直ぐと秋土を捕捉していた。


「……あはは、あたしも。流石に驚いたな」


「え……?」


 ──────そこも繋がりがあったのか?


「久しぶりね、一鳴」


「うん、涼花ちゃん」














 その場では、二人の関係性を深く探ることなく蓮達と別れた。


「聞いていいよな?」


「べ~つに、喧嘩したとか面白い関係じゃないよ?」


 しかし、久しぶりに会った友達との気まずさにしては、空気が凍てついていた。


「本来は仲良くなるタイプじゃなかったけど、席が近かったりして仲良くなったみたいな。それがあたし達のスタートで……普通に良い友達だよ」


「あぁ、俺もそういう奴いるよ」


 句川がまさにその位置の人物だ。


「一年とちょっと前くらいかな」


 落ちていた石を、秋土が蹴とばす。


「────涼花ちゃんが一番仲良くしてた、もう付き合う寸前ってくらいの男子がねー、煉獄で亡くなったの」















 ー ー ー ー ー ー ー












「へえ、恋愛の先輩」


「そうっす!」


「結局彼女じゃねえか!俺はもう真実が分かんねぇよ」


 頭をくしゃくしゃにする蓮を少しだけ見て、涼花はまた地面に視線を戻す。


「…………あの子が、恋愛」


「なんか言いました?」


「……何でもないわ」


 次、踏み出した足が着地する位置に小石があった。彼女はそれを……避けることなく土踏まずで踏み、何事も無かったように歩んでいく。


『恋とかはあたしはいいや。よく分からないし、難しいよ。友達がいてくれればそれで十分かな』


『涼花ちゃんはどうなんだよ!進展した?とぼけんなって〜』


『家族にも……悪いかなって。思っちゃうんだ。あたしだけ幸せになるなんて──────』


(……一鳴が幸せなら、良い。きっと吹っ切れるような事があったはず)


 華邑涼花にとっての『吹っ切れるような事』は何か?自問し、自答するまでの時間はあまりにも短い。

 彼女の頭の中には、心の底には、常に『それ』が張り付いている。


(──────『復讐』を。私も早く……過去を断ち切る。そして、未来を生きたい)
















「あれは……っ!?」


 校舎の中に、彼はまだ残っていた。空がオレンジになり始めた景色を眺めようと窓を覗く。

 そこで目撃した。


「……なんで」


 彼の腕に抱き着く、その女性を。


「なんで秋土が……霧間と……!?」


 一瞬の葛藤の末。

 その光景を前にした句川康博は拳を握りしめ、決意を固めた。

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