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2話 えぇ、私です。『本』……です。よろしくお願いいたします

「主人公……争奪戦?」


『はい』


 白紙のページは流暢に語り始める。


『神は言いました。今の世界はつまらない、と。そのために開催されるのがこの主人公争奪戦です。十二人の主人公候補が殺し合い、最後に生き残った者が新たにこの世界の主人公になれるのです』


「こ、殺し合い!?」


 夢中になって聞き入っていたが、今の言葉で一気に目が覚めた。そして焦りだした。まず本が喋った段階で焦るべきだったが。


「殺し合いって……殺す?」


『殺します』


「あー……なるほど。それって……殺される?」


『殺さなければ殺されるでしょう』


「そうっすよね……」


 至極当たり前な質問をしたというのは分かってるけど、本当に頭が回っていない。


『というわけで、参加しますか?しませんか?』


「しませんしませんしません」


 俺は食い気味に回答し、焦げ茶色の本を拾う。


『え?しないの?』


「しません。死にたくないです。この世界の主人公になるってのもよく分からないし」


『……あなたなら、それは理解しているはずでは?』


 ──────身体中の血管の奥まで見透かされたような声に、思わず本を落としそうになる。


『この世界の主人公となる。即ち、あなた中心に世界が動いていくという事です。あなたの周りは常に劇的なイベントが起こり、個性豊かなキャラクターが取り巻き、ささやかで暖かい日常もあります。そして恐らく、あなたが死ぬ時にこの世界も最終回となるでしょう』


「……」


 こんな事をすぐ信じるほど馬鹿ではないが、前提として本が喋っている。

 ────────なら、この『主人公になる』という事についても本当なのではないか?


「……殺し合いって言ってたけど、それは何人が参加するんです?」


『おお、参加する気になってくれましたか』


「しませんよ。どういったものなのかを知りたい」


 例え主人公になれたとしても、罪は犯したくない。そんなことの為に人を殺すなんて以ての外だ。

 ……いや、主人公になれれば罪も帳消しになったりするのか?


『参加人数はあなたが参加すれば12人。主人公の定員は1人です』


「12、か」


 俺が辞退すれば11人。……10人が死ぬことになるのか?

 11人もその条件を飲んだ人物がいる事が理解できない。人を殺す事にそんなに躊躇いがないのか?


「……待って。俺含めて12人、どういう基準で選ばれたんです?」


『参加するのならお教えいたします』


「……じゃあ、いいです」


 そこまでして知りたいわけではない。

 というか、なんだか冷静になってきた。実はこれ、ドッキリとかそういう類の物なんじゃないか?了承した奴は全国放送で人を殺そうとしたみたいな感じで世間に知れ渡って人生終了みたいな?


「とにかく、俺は参加しません。人殺しなんてしたくない」


『ドッキリじゃないですよ』


「……」


『うーん……おかしいですね、あなたは主人公になりたいんじゃないですか?』


「別に。どうでもいいですよそんなの」


 もしかして、12人の選定基準は『主人公になりたい』と思っているから、とかか?そんな事考えてる奴なんてごまんといるし、第一俺は主人公になりたいわけでは────────


 ……主人公?


「……『今』の主人公って、いるのか?」


『──────うふふ』


 ページをめくる音がけたたましく響く。


『いますよ、います』


「誰?……ですか?」


『……』


 ページは一気に後ろの方へとめくられる。……そして、最後のページへ。


 そこに、書いてあったのは────────。


 現在の主人公

『朝空蓮』

 ・年齢 16歳

 ・身長 169cm

 ・体重 51kg

 ・誕生日 11月11日

 ・好きな食べ物 ちらし寿司

 ・嫌いな食べ物 おでん

 ・趣味 ゲーム

 ・特技 指をなめらかにぐにゃぐにゃさせる

 ・煉器 『煉世』

 ・マゼンタ所属 4班



「────────ッ」


(俺、写真写り悪いんだよねぇ……いいよな、行人は写真でもイケメンだよ)


 中学三年生の頃、初めて撮りに行く証明写真で二人でよく分からないままなんとかして撮った……蓮の顔写真。丁寧に、蓮の説明の横に貼られていた。


「このっ、特技は……蓮は俺にしか言ってないはずだ。皆に見せると変に注目されるからって……俺にしかっ──────」


『仲が良いのですね』


「黙れよ。……どこでこの情報を手に入れたんだ」


『私、神の遣いですので』


「……」


 一番下の情報は、恐らくマゼンタの者でないと知らないはずだ。機密中の機密情報。その上の煉器というものも何かは分からないが……恐らくマゼンタから仕入れたものだろう。


「なぁ、この主人公争奪戦で誰かが勝ち残って、それで─────『新たな主人公が決まった場合、現在の主人公である朝空蓮は死亡し、新たな世界が構築されます』


「……」


 恐れていた回答を、そっくりそのままこの本はくれた。


(こ、こんにちは。あ、あさぞられんです……よろしく)


(ぼくあんまりゲームとか、お母さんがゆるしてくれなくて……え?いいの?じゃあ今日行人くんち行っていい?)


(はい雑魚~!あれ行人さん、散々イキっといて負けちゃうんですか~!?いやぁ小1の時から行人ん家に通い続けてようやく勝てたわ!あ、ちょっとまってそのキャラ使うのはずるいって)


『数年で人格変わりすぎじゃないですか?』


(いや!お前絶対この特技他の人に言うなよ。もしバレたらクラスの陽キャ共に『朝空くんあれやってよあのキモイやつ。うわえぐ!うわ朝空くんえぐいって!!』されるから……!)


(今日の給食おでん?詰んでて草)


(仲良くしてくれる女子がやっと……!って思ったらお前に近づく事目当てだった……。これで何人目だよ)


(なぁ、あの娘クラスで一番デカくね……?え、あれパッドなの?あっ、ふーん……いや何で知ってんだよ)


「蓮が……死ぬ?」


『回想途中から酷すぎませんか?』


 他人の思い出に浸る時間に割り込んでくる無粋な本は置いておいて、俺にとって蓮は全てだ。学校生活でもそれ以外にも蓮がいた。俺は、アイツと一緒に生きてきたんだ……。


「……知ってるんだろ?止める方法。だからお前は俺の元へ来た。参加すれば、蓮が死ぬのを回避できるんだろ」


『ええ、もちろん』


 俺の手のひらの上で、本は小刻みに震える。


『ここに』


 蓮の情報が書いてあるページの、一番下に──────文字と一つの四角が追加された。



 継続□



『参加者全てに私のような本が配られています。あなたはこのペンで、全12冊分、ここにチェックをしてください』


 気付けば、となりのページに万年筆のような絵が描かれていた。


『手で触れてみてください』


「……うおっ!」


 触ってみると、確かに感触がある。堅く、冷たく、紙とは違う材質。

 思い切って引っ張ってみると、紙に描かれた万年筆の絵は消え、代わりに俺の手に握られていた。


「……俺の勝利条件は、参加者全員の本にチェックを入れる事」


 万年筆を握り、その先端を四角の中に触れさせる。


「敗北条件は、参加者の内11人が死ぬこと。いや、本が破壊されることもか……?」


『私たち本はよっぽどの事がない限り破壊されませんので、安心してください。──────ですが、もう一つ』


 チェックを入れようとした俺を嘲笑うかのように、本は震えだした。


『参加者となった者は、この世界(物語)の筋書きから外れた存在となります。なので……普通ならば死なないようなタイミングで主人公を殺害する事だって出来てしまうのです』


「!?」


 ……決まっている最終回を迎える前に、強制的に最終回を……打ち切りをすることができる。それが主人公争奪戦の参加者なら出来てしまうのか。


『そうなれば世界は強制的に崩壊。新たな主人公はまだ決まっていないので、この世界は滅亡を迎えます。……なので、世界を終わらせたい者は朝空蓮を殺しに来るかもしれませんね』


「……まさか。これに参加するのは、全員主人公という座を狙ってるんだろ?」


 もう一度、万年筆を握る。


「──────俺以外は」



 継続☑



『───────参加者12人。これより主人公争奪戦を開始いたします』


 本はぱたんと閉じ、俺の手を離れて宙を浮いた。


『……あ、そうだ。12人の選定基準ですが』


「ん?あぁ」


 俺は違うから、主人公になりたがっている事が条件じゃないもんな。


『───────全員、常人ではあり得ない特殊能力(・・・・)を持っている事です』


「…………え?」


 特殊……能力?


「いやいや、そんな訳ないだろ。だって俺一般人で……」


『そしてここに、その能力名といいますか、あなたが主人公になった物語の題材を記します』


 それは本の表紙の上部。普通の本ならタイトルが書いてある場所。そこには────────。


『イケメン』


 とだけ、書かれていた。


『ですので、これからあなたが戦う参加者達はまさしく朝空蓮君のような能力を持っているでしょう。超能力を使えたり?物凄い怪力だったり?魔法が使えたり?そもそも人間じゃなかったり?』


 つまり俺は、『顔が良い』という個性だけで超常的なえげつない力を持った人外たちと殺し合いをしなければならない……という事か?


「……これは、もしかして」


 霧間行人16歳。この世に生を受けてから一番の無理難題。

 ……やっぱり、イケメンなだけで人生勝ち組にはなれないようだ。

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