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16話 『小説』……私もよく嗜みます

「最後の休暇かもしれない、つって。普通マゼンタとはいえ学生にまでそんなこと言うかよ……」


「夜公隊長もエグいこと言いますよねぇ」


 朝空蓮は日曜日の日差しを浴びながら街を歩く。後輩のマゼンタ隊員と共に。


「そういえば先輩、夜公隊長と一緒に来ましたよね?何してたんすか?」


「……戦闘訓練、的な」


「へぇ!どんなのをしたんですか?」


「……あんま言いたくねぇかな」


 せっかくの休暇に、その光景を思い出したくはなかった。


「でさ、火良多」


「なんすか?」


「──────お前それ、どうにかならないのか」


 呆れながら、ガチャンガチャンとロボットの脚を動かす火良多巡に言った。


「え?」


「えじゃねぇよ。お前が出かけるって言ったんだろー?俺は車いす押してさ、こう……穏やかに日の当たる公園をね……そういうのを想定してたんだけど」


「だってほんとにデートしてくれるなんて思わないじゃないですか!ウチ緊張して……それで改造しちゃいました」


「お前が機械方面に強いのは知ってるけど周囲の目線が突き刺さってくるんだよ。えげつないほど」


「で、どこ行きます?カフェとか行っちゃいますー?」


「それじゃ座れないだろ」


 ロボットに騎乗した火良多は健全な男子高校生である蓮より頭二つ分ほどの高さとなっていて、足は重量感があり太い。


「まぁ、無難に行くならショッピングモールとかか?」


「いや先輩、なに陰キャのくせに分かったみたいな感じで言ってるんすか」


「ごめんなさい調子乗りました」


「行きましょうショッピングモール!映画とか見ちゃいましょう」


「いやだから座れないだろ……」


 方向をショッピングモールへ向け、二人は歩き出す──────が。

 蓮はそこで発見した。


 言葉通り、信じられない光景を。


「な……あれは……っ!!」


「ん?どうしました?」


「行人……っ!?」


 ──────ショッピングモールに入ろうとしている霧間行人と……秋土一鳴を目撃したのだ。


「あれ、ウワサの霧間先輩じゃないですか!先輩がいつも親友だって嘘ついてる。聞いた通り超イケメンですね~。中学でも相変わらず霧間先輩ラブ〜な子は多いっすよ」


「嘘じゃねえって。……やっぱりあの二人付き合ってたのか……でも、まさかあの行人が外でデートするなんて」


「どういう事すか?」


 火良多はロボットの角度を調節し、蓮を覗き込む。


「行人は今まで何回か告白を了承して彼女を作った事があったんだ。でも、その全ての期間においてアイツが彼女とデートをしている姿を目撃されたことは無い。……行人は、デートするってなったら基本的に自分の家でゲームしかしないんだ」


「え……え?」


「ドン引きだろ?それで女の子を対戦ゲーでボコボコにして『つまらない』の一言で追い返し、そのまま俺とゲームをして後日学校で行人じゃなくて何故か俺が女子集団に恫喝される……これが一連の流れだ」


「最低じゃないすか!」


「……まぁ、行人が女の子にそういう態度を取るようになったのは……俺が原因だから。あんま悪く言わないでくれ」


 自動ドアを通過した行人達を見て、蓮は拳を握りしめ、動き出す。


「……追うぞ、火良多」


「え!?」


「俺は親友として、行人の成長を見届けなければならない。……ついてこい!」


「う、うっす!」


 勢いよく走り出す蓮を、ガチャンガチャンと金属音を鳴らすロボットが追い越す。












 ー ー ー ー ー ー ー














「あのさぁ……」


「あ?」


 秋土はショッピングモールのエレベーターの前で、俺の頭からつま先をじっくりと見てから言う。


「やっぱりデートに着てく服装じゃないよね。スウェットだからって寝巻のまま行くのは許されないと思うんだよ」


 ため息を吐いて呆れる秋土。


「今更何言ってるんだ。大体、俺は何を着てもイケメンだから問題ない」


「うーん……そうなんだけどさ」


 実際、このような人の多い場所に行くと周囲の目線はかなり感じる。これはスウェットだからではなく俺の顔が良すぎて眩しいからだ。多分。


「あたしの格好見なよ!ちゃんとおめかししてんじゃん?」


 なんかガラの悪いシャツにスカジャンとショートパンツ。


「ほら、眩しい太ももだろ」


「うん。お前はこういうの着てそうだよな。イメージ通り」


「絶望的な感想ありがとう、0点」


「お前が自分の家に取りに行くっていうから、わざわざそんな面倒な事をするほどの価値のある物かと期待してたんだよ。お化けの着ぐるみとか着てきたのなら爆笑しながら長文の感想を述べてやったぞ」


「行人クンの服着てくわけにはいかないだろー。ほら、乗るぞ」


 エレベーターに乗り、偶然にも誰もいないから遠慮なく隅に寄っかかる。秋土は3の数字を押し、しばらくして再びドアが開く。


「三階?どこ行くんだ?」


 デートとかいうものには疎いから、行き先等は全て秋土に任せている。


「服。買いに行くに決まって──────」


「あ、俺ら降りないんで、どうぞ」


 秋土が『服』というワードを口にした瞬間、俺は三階に立っていた人たちに笑みを振りまき、開くボタンを長押しした。


「は?ちょ、え……は?」


「よし……じゃあ、四階行くか」


「いや、待てよ行人クン。あたしが行き先決めて良いって言ったじゃんか」


 人が入ってきたため、俺達は囁き声で話す。最も、会話の熱は普段のものより籠っていたが。


「服とかマジで興味ない。時間の無駄」


「…………こりゃたまげたぁ。開いた口が塞がらないとはこの事だね」


「映画見るんだろ?ゲームコーナーで時間潰そう」


 ドアが開き、俺達は様々な効果音や嬌声が飛び交う四階へ降り立つ。


「今までの行人クンの彼女は苦労しただろうね、ほんとに」


「いや、デートなんて俺の家でゲームしてただけだから苦労なんてしてないと思うぞ」


「は?」


「ん?」


「聞き間違いかも。もう一回言ってくれる?」


「えーと……デートなんて俺の家でゲームしてただけだから苦労なんてしてないと思うぞ」


「…………それは、キミがそうしようって言ったの?」


「当たり前だろ。外に出るより家にいた方が楽だし楽しい。お前がしつこいから今日は特別に外出してやってるんだ」


「うひゃあー!!ほんと行人クンって中身までイケメンなんだねえー!!」


 わざとらし過ぎる棒読みを聞き流しながら、俺達はゲームコーナーへ向かう。


 眩しいほどの多彩な光が点滅するそのエリアには、多種多様なゲームが設置されていた。定番のクレーンゲームから古めの格闘ゲームまで。小学校の頃によくやっていたカードで戦うやつも何個か増えていた。


「あれやるぞ、レースのやつ」


「あぁ、あの……名前分かんないやつね!」


 名前を覚えようとしても次来るときにはすっかり忘れているレースのやつ。

 覚えにくい英語の名前が書かれていた席に座り、100円を入れる。ハンドルに振動が伝わり、画面が切り替わると同時にやかましい『君の車を選ぼう!』という音声が鳴る。


「今のうちに言っとくけど、いじけるなよ?」


「あはは、行人クンあたしに勝てると思ってるんだ。甘ぇよ、その全てが……!」















 ー ー ー ー ー ー ー











「お、あのレースのやつやってますよ先輩」


 蓮に押されながら、車いす形態になった火良多はゲームコーナーを指さす。


「ほんとだ……なんていう名前だったっけ、あれ」


 壁際に隠れ、二つの頭がひょっこりと覗いている。


「まさか、デート初っ端からアレとは思いませんでした」


「どうせ、行人が無理矢理行きたいって言ったんだろう。秋土さんはちゃんとお店の内容とか案内とか頑張って見てるっぽかったのに、アイツときたら……」


「でも二人とも結構楽しそうじゃないですか?」


「……確かに」


 行人も一鳴も、蓮の目からは心から戦いを楽しんで運転しているように見える。周囲の様子なんてまるで見えていないような集中ぶり。

 蓮は感心しながら眼鏡の位置を調整した。


「……びっくりだ。秋土さん、行人と互角の戦いをしてる」


「霧間先輩ってそんなにあのゲーム上手いんですか?」


「いや……真逆だよ」


「え」


「行人はあのレースのやつが絶望的に下手なんだ。もちろんマ●オカートも」


 小さい頃から遊び続けてきた蓮は知っている。霧間行人はレーシングゲームの才能が皆無だ。カウントが2に時に押すとスタートダッシュが速くなるのにいつも早とちりして3で押す。曲がり角はぶつからなかったら神プレイ。アイテムは何も考えずに即使用。同じところで何回も落下。


 そして──────遠くからで少ししか見えなかったが、そんな行人と同等に渡り合っている秋土もまた…………下手という事になる。


「あの二人、接戦だぞ!なんて熾烈な戦いなんだ!」


「あんな熱い12位争い見た事ないっす!」


「一体どっちが先にゴールするんだ──────!?」
















 ー ー ー ー ー ー ー













「あーあ、まさかこの俺が11位を取るとはな」


 生まれてから今まで数回しか11位以上は取ったことがなかった。が──────俺は今日、俺以上の逸材に出会ってしまったようだ。


「残念だったな、秋土。お前がナンバートゥエルブだ」


「くっそ、アイテム来た瞬間逆転あるかと思ったんだけどなぁ、暴走してコースアウトするとは」


「俺もあの時落下中だったから、勝負は最後まで分からなかったな」


「熱い試合だったね。生まれて初めてあのゲームで接戦した……」


 俺達の間には勝った負けたのいざこざは無かった。CPUに負けたからではない。

 レーシングゲームの対人でここまで熱くなったのは初めてだったんだ。


「なんか、思ったより疲れたな。なんかいい場所ないか?」


「んー……ここはお揃いのアクセサリーとか買っちゃいm」


「あ、本屋。本屋行くぞ」


「……30分な。経ったら本屋出て他の店行って映画!もう文句言うなよ」


 書店はレイアウトこそ頻繁に変わるものの、幼い頃から雰囲気は変わらない。大体前の方に置いてあるやつは興味なくて、奥の方に漫画やらラノベがある。


「こういう時見栄張って難しい本のコーナー行ったり、行人クンはしなそうだね」


「誰がするか」


 俺は秋土を置いて漫画コーナーに直行し、特に目的もなく大量のタイトルを眺める。……蓮に勧められたアニメで、面白かった作品の原作はここで買ったりするが……。


「……」


 異世界モノの領域に入る。

 クソ長いタイトル、100万回見たようなありふれた内容、何故か全員主人公の見た目が同じ。


 たまに面白いのがある!と蓮はよく言うが、俺はどうにも好きになれない────────


「長ァ〜いタイトルに擦られ続けた内容に主人公の見た目まで同じようなのばっかでどうにも好きになれないとか思ってそうですねェ〜ッ」


「!?」


 ……突然、話しかけられる。

 声の主は金髪の、店員のエプロンを着用している男。一体いつからそこにいたんだろうか、全く気づかなかった。


 あれ、本屋の店員ってこんなアパレルみたいな感じだったっけ?などという疑問が一瞬浮かぶが、俺の脳内はもうひとつの疑問に支配される。


 ……俺が考えていた事を、ほとんどそのまま言われた。


「……よく分かりますね。そんな顔に出てましたか?」


「店員やってれば大体分かるんですよォ。それにィ……」


 金髪の店員は1冊を手に取り、愛おしそうに眺める。


「オレ、大好きなんすよォ。俗に言う……な●う系がァ────」

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