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14話 いやぁ、この時は『激痛』……でしたねぇ

 盾に圧し掛かってきた『何か』をこのまま耐え続けるのはどう考えても無理だった。間違いなく腕が折れ、そしてそのまま体ごと潰されると彼女の本能が危険信号を発している。


「ぐ……っ!」


 受け流すように盾の角度を変え、薪は素早く横に跳ぶ。轟音と共に、薪が立っていた場所が破壊され、亀裂が周囲に進む。


「あーもう、刀は捨てろ!」


 握っていた拳をパッと開くと、霊体の手から刀が消える。一鳴はもう一度強く握りしめ、霊体と共に拳を作る。


「漢なら拳で勝負しろっ!!」


 そして思いっ切り前に振りぬく。行人を襲撃した時の二葉の何倍も強力なパンチが盾を構えた薪を直撃する。


「ぐぅう……っ!」


 少しでも集中を切らせば一瞬にして防御は崩され、致命傷を喰らう状況。


「立つ、立って……立ち続ける……!」


 光盾と霊体の握り拳は激しく衝突し続け、薪の足元は抉れながら後退していく。前に体重をかけ、絶対に引かないという意思を堅く維持する。

 ──────が、そのような直情的な思考に陥った時点で、彼女の優位性は崩れ去った。


「ばーか」


 背後から聞こえてきた声に振り向いた時にはもう手遅れだった。既に薪を攻撃していた巨大な腕は消失し、霊体と化した不可視状態の一鳴が薪の首元と盾を持っている左手を掴んでいた。


「な~にが目的でわざわざ未来からやってきてこんな戦いに参加してるか知らないけどさぁ」


 徐々に実体化していく一鳴を睨みながら、薪はただ聞く事しか出来なかった。


「未来で何をしでかすとかどうでもいいんだよ。行人クンがどんな犯罪したって霊体化すれば逃げられちゃうし……秋土家があたし以外死んだ今、それを咎める奴もいない」


「──────そうじゃない。そういうレベルじゃない」


「……?」


 流血しながらも尚、その意志は弱まることを知らなかった。


「被害の規模が違う。犯罪とかそういう問題じゃない。沢山の人が死ぬ……あなただってその一人だ」


「え?」


「……未来では、秋土一鳴は────────」




「っ、おい!秋土っ!」


「んー?」


 走ってくる行人を見る否や、「時間切れか」と呟きながら掴んでいた手を緩める。


「言っただろ、友達の妹だって!それに殺したら本の居場所が───────」


「…………もしもの事もあるので、伝えておきます」


「っ!」


 そう呟いた薪の体は──────緑色の球体のようなものに包まれる。危機を察知し手を離した一鳴は再び薪に触れようとするが、実体であっても霊体であってもその球体の中には入れなかった。


「なっ、これは……!?」


「あなたが考え直してくれるという可能性も無くはない。未来は変えられるので」


 唇の血を舐めながら、薪は二人と目を合わせることなく、独り言のように呟いた。

 言い終えた直後に、彼女はその場から姿を消す。



『主人公争奪戦終了の数年後、朝空蓮は死亡し、新たな主人公が決まってない状態の世界は──────終焉を迎えます』



 霧間行人が主人公争奪戦を無効にしたせいで。


























 ー ー ー ー ー ー ー


























 慈門家はもぬけの殻だった。薪ちゃんの父、母、そして『現在の』薪ちゃんも、誰もいなかった。少し前まで生活していた事が置いてある食品や家電の様子で分かったが、何処へ行ってしまったのかは見当もつかない。一応秋土が探しているようだが。


「どうする?これから」


「…………」


 協力を得ようとしていた『未来人』は俺に明確な敵意を持っている上に、この争奪戦を生き抜けるような力も持っていた。


 ……それが些細な事に感じるほど、もう一つの問題があまりにも巨大すぎた。


「……どういう事だよ。争奪戦が終わった後に蓮が…………死ぬ、なんて」


「他の人からすれば、たった一人を数年生かすために世界を終わらせた大罪人って事になるね、行人クンは」


 その覚悟がない訳じゃない。でも──────あと数年しか蓮が生きられないのは、話が違う。


「説明しろよ」


『よく分かりませんねぇ』


 取り出した本は相変わらずの神経を逆撫でるような声を出した。


「破るぞ……破れないんだっけ」


 じゃあいくら引っ張ってもいいよな。


『あだだだだだ!説明します説明します!!』


 俺が手を離すと、その高さのまま本は浮遊し、語り始める。


『争奪戦が終わってもあなた達参加者が物語の道筋から逸れた存在である事は変わりません。恐らく参加者の何者かによる影響で、朝空蓮は亡くなってしまったのでしょう。間違っても、神はこの戦いの結果を捻じ曲げたりはしませんよ』


「…………なるほど」


 本を強引に閉じ、しまう。

 筋は通っていた。俺達参加者は人を殺す戦いだと知って参加した人間。……主人公になるという目的が達成できないと分かっても、全員がそのまま納得して終わるとは思えない。

 この参加者の内の誰かが、蓮を殺す。ヤケクソになって、世界を終わらせる。


「……はぁ」


「やる気なくしちゃった?」


 俯きながら歩き始めると、秋土が視界に出現する。


「そりゃあ……」


「…………」


「無くすわけないだろ、馬鹿が!!!」


「うわうるさぁっ!!!」


 叫んだ俺に驚いた秋土の声に少し驚く。


「なんて言うか、元々無茶な戦いだったんだよ。それに死ぬ覚悟で挑んだ。そりゃとんとん拍子に上手く行ってたからショックは受けてるけど……薪ちゃんも言ってただろ、『未来は変えられる』って」


 薪ちゃんが俺にこう言ったのは、心の中では俺や蓮に死んでほしくないからだったんじゃないか…………というのは、流石に俺の願望か。


「蓮を救うためなら未来人だろうが吸血鬼だろうが化け物だろうが、何とだって戦ってやる。それに『未来』っていう敵が加わっただけだ」


「実際に戦うのはあたしだろ」


「お前は俺の味方だから実質俺が戦ってるのと同じだ」


「は?今日もあたしがいなかったら撃たれてたくせによく言うよ」


「当たり前だ、お前は俺を助けるのが役割なんだから」


「大体さ、行人クンって潜在的に『女は自分に逆らえない』って思ってそうだよね。だから会ったばかりのあたしを家に入れるし未来人ちゃんへの警戒も薄いし」


「こじつけも大概にしろ!家族に戦ってもらってるくせに」


「あいつらをコントロール出来るのはあたしだけなんですけど~??」


 自分で言っておきながらしょうもない会話だと思ってるのは多分、秋土も同じだろうな……と、歩きながら考えた。こんな殺し合いに参加してるってのに、暢気な話だけど…………こういう風に年が近い女と話すのは、久しぶりだった。

 蓮が俺にマゼンタである事を話さないのは、俺との関係性、日常という安寧を失いたくなかったんじゃないかと考えていた。やっぱりそれは正しいんじゃないだろうか。殺伐とした争いの中にいるからこそ……人は癒しを求める。

 …………こいつが癒しとは思いたくないけど。


 でも、熾烈な戦いに充実を感じてしまう事。それはとても……危険だ。


























 ー ー ー ー ー ー ー


























 とある一室。


「はぁ、はぁ──────」


 治療ポッドの扉を開け、薪はその薬品のような匂いを吸う。


 そのポッドの隣には、彼女の父と、母と、この時代の彼女自身が眠っていた。薪のように傷ついたからではなく、ただ単に安全な場所で眠らせるために。


「待ってて。必ずこの戦いに勝って、皆を救うから──────」


 その言葉を口から出した瞬間…………脳裏によぎる。


(……あの時)


 ポッドの中に入り、扉が閉まる。


(あの時──────)



『被害の規模が違う。犯罪とかそういう問題じゃない。沢山の人が死ぬ……あなただってその一人だ』


『え?』


『……未来では、秋土一鳴は────────』


 慈門薪の行動理念は『救いたい』という欲求から生まれたもの。そのため、排除すべき対象だろうと救える命ならば救う……その甘い考えが抜けきっていなかった。

 それから出てしまった言葉。


『秋土一鳴は、霧間行人に殺される。そのような記録があります』


 言ってから気付いた。自分の発言は行人と一鳴の関係に亀裂を生むものであり、行人を殺しやすくする友好的な手段だったと。結果的にプラスの行動だった、そう考えた瞬間──────。


『……へぇ』


 血で霞む視界に映ったのは、笑顔。


『それはそれは…………くふふ』


 新しい悪戯を思いついた子供のような、無邪気な笑顔だった。


とても都合が良い(・・・・・・・・)……ね』


 心の底から嬉しそうなその表情が、薪はこの上なく恐ろしく感じた。理解への道のりが遠すぎる光景、得体のしれない思惑。


(……行人君、あの女は……危ないかもしれない……)


 段々と薄れゆく意識の中、殺すべき相手の安全を願ってしまうほどの……行人を慕っていた頃の感情が混ざるほどのまどろみ。

 霊能力者の表情が脳裏に焼き付いたまま、彼女は傷が治るまでの眠りについた。

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