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化想操術師の日常  作者: 茶野森かのこ


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化想操術師の日常47




「…なんだか混乱してるんだ。分からない、ずっとそういう生活だったから、どうするのが良いのか、分からなくて」


そう呟くたま子に、「俺だって分かんねぇよ」と颯は困ったように言いながら、それでも「ただ」と、顔を上げた。


「俺はもう戻りたくない、あんな生活。兄弟達と離れんのは、寂しいけどさ。でも、世界は広いんだよ」


「空はこんなに広かったんだな」と、(はやて)は清々しい表情を浮かべ、ブランコから飛び降りた。空を見上げる背中を見て、たま子もそれにつられて顔を上げる。青々と広がる空にたま子が思い浮かべるのは、中庭で野雪とシロと共に見た、細やかな星空だった。


「…だから、大丈夫だよ。もう、お前が盾にならなくていいんだよ」


背中を向けた颯の言葉に、たま子は空から颯へと視線を向けた。


「知ってる。憎みながら、憎ませないように、先生の仕事を率先して引き受けてた事。お前、長女だから、チビ達に嫌な役回りとか罰が向かないようにしてたろ?チビ達も、皆分かってた。分かってて、俺達は何も出来なかった」


颯はたま子を振り返った。眉を下げ、いつもは勝ち気な表情が、今は泣きそうに歪んでいる。


「もう頑張るなよ、もう犠牲になるなよ、先生の顔色気にする事もないし、ここに先生はいないんだ。俺達の未来に、あの人はいないんだよ」


颯は泣きそうになるのを堪えながら、どうにか笑顔を作った。一番側で、たま子の事を見てきた。たま子の気持ちが分かるとしたら、それは自分だけだと颯は思う。


「だから、もう大丈夫だよ。嘘とか我慢とか、もうしなくていいんだよ、俺達は自由なんだから」


その言葉に、たま子の中で鎖が千切れる音がした。知らず内に、心に何重にも鎖を巻きつけていた。逃げないように、苦しまないように、悲しまないように。自分さえ我慢すれば、兄弟は救われる、きっと大丈夫。その思いだけを胸に生きてきた。

本当に、もうその必要はないのだと、鎖がはらはらと零れ落ちていけば、その心の奥に、消そうとしても消すことが出来なかった望みが見え隠れする。


たま子は唇を噛みしめ、俯いた。


「…私、良いのかな」

「良いんスよ!たま子さん!」


突然聞こえた第三者の声に、たま子と颯はパチクリと目を瞬いてそちらに顔を向けた。


恐らく気持ちを抑えきれなくなったのだろう、少し離れた場所で聞き耳を立てていた俊弥(としや)が、ぼろぼろ涙を流しながら話に入ってきた。


「行きたい場所があるなら、言ってほしいッス!俺がどこへだって連れて行くッス!行き先は自分で決めて良いんスよ!誰もたま子さんを責めませんから!それに颯の事は、この俺に任せて下さいッス!それから、皆も待ってるッス、ずっと、待ってるッス!」


一人で大泣きしながら、たま子の肩に縋るようにしがみつく俊弥に、颯はたまらず大笑いをして、それから涙を拭い、たま子を見つめた。


「な?だから、俺は大丈夫だし、心配はいらないよ。それに、これでお別れじゃない。これからはどこに居ても会えるんだ、どこに居ても俺達は兄弟だからな!」


俊弥と颯の言葉に、たま子は耐えきれず、涙を零し、頷いた。

いつだって、皆の盾になってきた。それを恨む事はない。それが当たり前だった、それがたま子の生き方だった。だから、もう支配者はいなくてほっとしてる筈なのに、それでも長年染み付いた生き方を変えるのは、勇気がいる。そこに支配者はなく、自由な場所だと分かっているのに、それでも支配者の顔がちらつく。


だけど。

それと同時に頭に浮かぶのは、九頭見(くずみ)家の皆の顔で。しっかりと覗いた心の奥底に沈めた望みも、やはりその場所だった。


「…ありがとう、私、行ってくる」






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