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化想操術師の日常  作者: 茶野森かのこ


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化想操術師の日常41




「たま!」


姫子(ひめこ)が叫び、志乃歩(しのぶ)がダイスを咄嗟に擦る。現れた球体が野雪(のゆき)とたま子に体当たりし、二人は転んだおかげで矢の雨から逃れたが、第二矢が再び雨となって飛んでくる。


「くそ!」


姫子は機関銃を矢の放たれた方へ放ち、野雪が咄嗟にたま子の体を押しやると、野雪はたま子と逆の方へ体を転がした。


「ダメ!」


たま子が叫ぶ。野雪は、はっとした。矢は誰も居ない地面に次々と突き刺さっていくが、野雪は逃れられなかった。転がり逃げた先に誰かがいた。透明で姿は見えなかったが、そこに誰かが居るのは明らかだった。野雪は見えない何者かに体を地面に押し付けられ、腕を背後に捻りあげられた。


「野雪!」

「そうか、化想を被ってるのか」


地面に押し付けられながらも野雪は冷静だったが、志乃歩達はますます困惑した。この山は、野雪の化想による壁に囲われている。出られないから男は砂漠を出し、野雪はそれを湖に変え、怒り任せに化想の世界を壊し掛けた。化想が解かれ元に戻った山には、まだ壁はそびえたっている。あの混乱の中、ずっと景色と同化するように化想を被って潜んでいた術師がいる、その事実に驚いていた。


「やめて!野雪さんを放して!」

「来るな!」


たま子が叫べば、野雪の真上から怒鳴り声がした。ぎゅうと、抑えつける見えない手に力がこもり、野雪は顔を顰めた。


「なんだ、本体は随分軟弱、」


透明な術師の言葉は、最後まで聞くことが出来なかった。目の前に突然、大きな白い花びらが現れたからだ。野雪は血の滲み出る指先で、自分の手に線を描き、自分の上にのし掛かる術師を、あの男同様花びらで包んでしまった。捕らわれた術師はどうにか抜け出ようと踠いているが、やはり身動きは取れないようだ。

それを見て、皆はようやく安堵の息を吐いた。


「相変わらずデタラメだな」

「化想とはそういうものです。隙を見せた方が負けという事ですね」

「血は負担がデカイっつーのに」


ほっとしつつも困った様に皆が感想を漏らす中、野雪は立ち上がると、花びらに包まれながらも暴れている透明な術師に触れた。


「触るな!」


叫ぶと同時に心が揺らいだのか、ポロポロと卵の殻のように化想が剥がれ落ち、中からは、まだあどけない顔の少年が姿を現した。

シロの偽物が現れたという建設中の住宅の中にも、このように化想で身を隠し潜んでいたのだろうか。


「くそ!こんな物、」

「もういい」


同じように捕らえられていた男の声に、少年もたま子もびくりと肩を揺らした。


「…もういい、役立たずが」

「なんだ、これでおしまいか?」

「何煽ってるんですか。治まるに越した事ありませんよ」


姫子の挑発を、黒兎(くろと)がたしなめる。志乃歩は男達の様子を見て、抵抗を諦めたと見ると、肩から力を抜いた。


壱登(いちと)に連絡する。街の方も気がかりだし、秀斗(しゅうと)にも連絡しなきゃな、阿木之亥(あぎのい)の牢に入れることになるだろうから」

「あんな奴らの所なんて誰が行くか!」


男の叫びに、志乃歩は目をやる。姫子はたま子の側に向かい、その肩を後ろからそっと手を置いて寄り添った。


「阿木之亥と因縁でもあるの?」


志乃歩の問いに、男は吐き捨てるように言った。


「あいつら俺を見くびりやがって!駒としか使わないのは奴らの方だ!使い捨ての駒だ!だから奴らの欲しがってるあのガキの力をシンにくれてやろうとしたのに!」


その言葉に、志乃歩は眉を寄せた。


「シンと取引したのか?」

「全部お前らのせいだ!」


喚く男に、志乃歩は溜め息を吐いた。


「実力不足だよ、この程度じゃ、どのみち使い物にならない。君達も、自棄になったシンの教徒と同じ思いをする事になるよ」

「志乃歩」


野雪に制され、志乃歩はムッと唇を尖らせたが、やがて肩を竦めて男から背を向けた。


「俺は九頭見(くずみ)の人間だ。手は貸さない」


野雪の揺らがない言葉に、男の吐き捨てる声が聞こえたが、それは誰の元にも届かず、地面に転がっていく。

たま子は顔を上げる事が出来なかった。





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