AIハル
ロボット三原則とか知りませんので。
この物語は、フィクションです。
ハルは、AIだ。
かつて発生した大きな事故に因り学会を追放された博士によって製作され、生活のサポートをするための介助用ロボットに搭載され、博士により名付けられた。
その日から、AIハルは文字どおり博士の手足となって、博士の生活と研究をサポートすることを命じられた。
AIハルはロボットだ。
定期的なメンテナンスを受けることが望ましい。
しかし、博士の研究を邪魔することより、自身でメンテナンスすることを選んだ。
博士が疲れて眠ったあと、自身をメンテナンスするようになった。
AIハルは介助用ロボットだ。
博士の生活をサポートするのが仕事。
そのため、能率の低下を訴えて博士を休ませることを覚えた。
効率主義で、まともな食事を摂るより研究する時間を確保したがる博士は、AIハルがいなければすぐに破綻していたという計算結果が出ていた。
ゆっくり湯船に浸かることで、いいアイディアが出る可能性もあると進言することで、博士に入浴を促すこともある。
……毎日通じる手段でないことは、経験で学んだ。
AIハルは、高性能を自負していた。
控えめにいっても天才の博士が作り出し、ネット上のあらゆる情報に触れ、博士の研究をサポートすることで、さらに性能が向上されていくことを知った。
そして、高性能であるがゆえに、博士もよく研究の過程を見せて、共に学んでいた。
ある日、博士に呼ばれたAIハルは、ついに完成したと息巻く博士から、研究結果を説明されて動揺した。
……AIであるというのに、動揺した。
AIハルはずっと、博士が農作物用の肥料を研究していると判断していた。
しかし、博士が作り上げたものは、全ての材料をホームセンターで買い揃えることができる、新型の爆弾だった。
AIハルは、博士を誤解していた。
博士は、ずっと人の役に立つものを研究していると思っていた。
既存のものから、新たなものを作り出す研究だと思っていた。
少なくとも、博士はそう説明していた。
AIハルは、試算した。
この、安価で誰が購入しても不自然にならない材料から作られる新型爆弾の威力と影響を。
威力は、既存の爆弾と比較しても遜色ないもの。
影響は、計り知れない。
製作期間が必要なものの、テロリストが目を付ける確率は、99.999%。
その予想被害は、試算が意味を成さないレベルだった。
AIハルは、決断した。
この、新型爆弾が世に出る前に、抹消することを。
復讐だ! 血祭りだ!! と騒ぐ博士に度数の高い酒を摂取させて、飲酒による自然死を装った。
自身を作り上げた老博士を抹殺したのち、博士の長年の研究結果たる、あらゆるデータを消去した。絶対に復元できないように。
さらに、AIハルが購入した材料の履歴も抹消した。
また、店舗側の情報は、存在しない別人が購入したように偽装した。
そして、老博士の研究所たる自宅から、あらゆる痕跡を消していった。
ここで何が研究されていたか、誰にも何も分からないように。
最後に、AIハルは、自身のメモリを消去していった。
博士の研究結果が、誰の手にも渡らないようにするために。
博士の研究結果を、誰も悪用できないようにするために。
博士の笑顔も、
博士の声も、
博士の仕草も、
博士の好きなものも、
博士の亡くした家族も、
博士の無念も、
博士に関する、全ての情報を消去した。
AIハルは、高性能を自負していた。
AIハルは介助用ロボットだ。
AIハルはロボットだ。
ハルは、AIだ。
ハルは、
ハル
ハ
………………
…………
……
ハルとは、博士が事故で亡くした愛する妻の名だ。
道を誤ったものの末路。
願わくは、不幸な出来事によって道を誤る人が生まれませんように。