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ゆりみると名乗る女

作者: 永永

あ、どもども~。こんにちわはじめましてぇ。

百合塚みるくで~す。

え~?本名ですかぁ?

本名はぁ~、秘密ですぅ。

今回のオーディションに合格したら、教えてあげま~す。

年齢はぁ、永遠のぉ~18歳!で~す!ウフッ。

今回は、アニメのオーディションがSNSに載っていたのでぇ、応募しましたぁ~。アニメ声優になりたくてぇ~ネットとかスマホで毎日探してるんですけどぉ~、なーんか、無いんですよぉ。アニメのキャストオーディションって。

だからぁ~珍しいな~、って思いましてぇ。

今日の格好ですかぁ?え~、ゴスロリダメですかぁ?この服装はぁ、みるくのこだわりなんでぇ。今日だけ見逃してくださいな。

SNSも、もちろんアカウント持ってま~す!「ゆりみる」で検索してみて下さ~い。私ぃ、ファンも付いてるんでぇ~。

は~い。ではまず、台詞から~。

みるく、行きまーす。

自由課題やりまーす。

あ、この漫画ですかぁ?

課題用の台本ですよぉ。だ・い・ほ・ん!

そぉですぅ。「ツーピーちゅ」ですぅ。

ちょー有名ですよねぇ~。

私ぃ、この本に出て来る、「マミちゃん」が好きでぇ~。

なので、マミちゃんになりたいのでぇ、今からやりま~す。

「マンプルミンプルぅ~マムートポップン~。地球に変わって、おしおきよ!」

あ、そおそお。聞いて下さい~。少年も出来ますよぉ。

「山賊王に、オレはなる!」

あ、鬼の女の子も出来ますよぉ。

「ぬー。」

はぁはぁ。どおですか?

結構、似てませんかぁ?


え!合格ぅ?ひゃあああ!ほぉんとぉですかぁ~?やったぁ!嬉しいですぅ!私のファンにも報告しなきゃ~!

1番高いコースのオーディション料いちまんえん、払ったかいがありましたぁ!

それでそれでぇ、アフレコは、いつですかぁ?

…はぁ、レッスンとリハーサルが必要、ですか~?。もちろん、タダじゃないですよねぇ~。私、今まで養成所7ヶ所通ったから~、もう貯金、ぜーんぜん無くてぇ。

全部で、ろ、60万円?はわわ!

私~この前ライブのノルマでぇ、20万円、払ったばっかりなんですよぉ。親に勘当されちゃったから、自分でメイド喫茶のバイトして払うしかないしぃ。

え、分割払いOK、なんですかぁ?

月5万円からでも良いんですかぁ?

う~ん。そぉですか~。判りましたぁ。ちょっと前向きに考えま~す。

やっぱりぃ、アニメに出るのがぁ、小学生の頃からのぉ、夢、でしたから!


彼女は嬉しそうに帰って行った。


都内築50年以上の寂れた某区民センター。もう間もなく建て替えが始まりそうな古さだ。

その室料が1番安い地下の一部屋がオーディション会場だった。

「ゆりみる」と名乗る中年の女が帰った後、男性の審査員3人だけが室内に残っていた。

「来たな。アイツ。」

シナリオライターを名乗る、痩せて顔色の悪い、メガネを掛けた男は、黙っていられない様子だった。

「は~。ゆりみる、ねぇ?」

ディレクターを名乗る青いサングラスを掛けた、小太りの男が相づちを打つ。

「名前だけは、可愛いけどなあ。」

「噂通り、怖いわ~。」

「聞いたことあったけど、ホントに居たな。」

「都市伝説かと思ってた。」

「アイツ、実年齢48歳らしいよ。」

「マジか。」

「同じ養成所に通ってた知り合いが身分証明書見たことあるって。」

「オレの嫁も知ってたな。おでこと首に深い皺が何本も刻まれてて、法令線厚塗りで隠してるからアラフィフ間違いないって言ってた。」

「イヤイヤ、永遠の18歳だろ。」

「ますますコワイわ!」

「嫁、ゆりみるの本名も知ってた。」

「お前の嫁、プロだろ?ちゃんとギャラもらってる嫁でも知ってんのか。」

「かなり有名らしい。薄汚れたゴスロリ来てるおばさん、て言うと、ああ、あのババアねって云う扱いらしい。」

「本名かぁ。聞きたいような、そうでないような。」

「○木典子」

「本名は普通だな。検索すると何十人同じ名前の人が出て来そうな。」

その時。

「今日のオーディション、これで全員終わったな?」

それまで、撮影と称してゆりみると名乗る女のオーディション映像をずっと眺めていた男が初めて口を開いた。彼はオーディションの時、アニメ制作会社の社長と名乗っていた。

「まだ階段や玄関でたむろってるヤツいる?」

社長男はライター男に話し掛ける。

ライターと名乗る男がドアの外に出て、辺りを見回した。閉館時間直前で、外は既に夜だった。ライター男が戻って来て、2人に声を掛けた。

「皆帰った。」

「じゃ、バラしますか!」

「おっとその前に。閉館まで後30分ある。」

社長が時計を見ながら何かを思い出した。

「今日の売上出してくれる?」

「そうだったわ~。」

「いつもの、行きますか!」

ディレクター男が、手持ちのリュックから金庫と電卓を取り出した。

「今週の売上、行きまーす!」

ライター男もノリノリだ。

「今日はワタクシ、田中が行きまーす!」

「はい拍手。パチパチパチパチ~。」

社長も低いテンションで合いの手を打つ。ディレクター男が電卓を叩きながら、数字を読み上げる。

「オーディション参加人数計113人。3000円松コース、78人。5000円竹コース、25人。いちまんえん梅コース、10人。本日合計、45万9千円。」

「会場レンタル代マイナス5千円」

ライター男がすかさず突っ込む。

「では純利益45万4千円ナリ。」

ディレクター男が切り返す。

「まーこんなもんか。今週もそこそこ稼いだね。」

社長と名乗る男もまんざらでもない、と云う表情だ。

「今週と云うより、今日1日しか働いてないけどな!」

ライター男も嬉しそうだ。

「ゆりみる、ちゃんと払うかね?」

「多分払うんじゃね?」

「あいつババアだからもう体売れないだろ。」

「熟女モノに出るんじゃね?」

「今AV女優狙いの女増えてるから、それも難しいかもな」

「今月東京のオーディション多かったな。場所変えるか。次どこでやる?」

社長には既に次の構想があるようだ。

「大阪か名古屋でやろうぜ。」

「ああ。名古屋良いな。オーディション自体少なそうだし。いいカモ沢山取れそうだ。」

「さ、撤収撤収~!」

3人は机や機材を片付けると、急いで会場を後にし、いつもの様に、最寄りの駅裏で売上を3等分して解散した。


半年掛かって、ゆりみるが60万円のレッスン代とリハーサル代を払い終えた頃、通っていたレッスン場がある日突然空き部屋になっていた。急いで問い合わせたが、レッスンを教えていた講師や事務所とも一切連絡が取れなくなっていた。サイトも閉鎖されていた。


結局、ゆりみるは今回も憧れのTVアニメに出られなかった。

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